第198話 キノコがこっちまで来た
かなり肌寒くなってきて、いよいよ冬だなあと思う頃合いになってきた。
アーランは普通に雪が降る。
街が真っ白に染まると、かなり綺麗なんだよね。
で、コゲタが喜ぶ。
いいことだ!
そして初冬と言える頃合いのアーランに、新たな食べ物がやって来た。
キノコである……!!
瓶詰めになったキノコ、乾物になったキノコ、様々なキノコが来た。
瓶詰めキノコは中の時間を止めてあるような状態なので、まあまあ美味いキノコが食べられる。
乾物は戻す過程で凄まじい量の旨味を吐き出すので、色々な料理に使えるだろう。
僕がいた時には乾物キノコの話は出てなかったと思うから、これは恐らく後から発見したのだろうな。
間違いない輸出品だ。
瓶詰めキノコはそのままスープの具材として流行り、あるいは僕がざく切りにしたものをかき揚げにしたメニューを巷に流したので、サクサクほくほくのキノコ天ぷらが大流行した。
いいことだ。
そしてそんな事をしていると、お呼びが掛かるのである。
今僕は、第二王子殿下の家に来ている……!
「キノコのかき揚げ、美味いね!」「殿下もべた褒めだったよ!」「だが殿下は、ナザルならではの工夫が食べてみたいと仰ってるんだ」「無茶振りだと思うが……やれる?」
シェフたちが心配してくる。
「ははは、任せてくれ。かき揚げは何と合うと思う? 麺類だよ……!!」
僕は蕎麦切りを茹でて、醤油だしを作った。
そしてキノコのかき揚げを別皿で用意する。
「別皿で……!? いや、確かに載せたらふやけてしまうが」「何を企んでいるんだ……」
「これは、そのまま食べてよし、載せてふやかしてよし、蕎麦と一緒に頬張ってよしという組み合わせで……」
「なるほどー!!」
シェフたちにはご納得いただけたようだ。
無論、デュオス殿下も大いに気に入って下さった。
「塩味と旨味のあるスープが、油を帯びてなんとも言えぬ美味さになっている! そして蕎麦切りとキノコのかき揚げの組み合わせがまた堪らん……! サクサクで食べてもいいし、ふやかしてつゆを吸わせても美味い! キノコそのものの滋味も深い……。これはいいな。体が温まる……」
にっこり殿下。
良かった良かった。
奥方も大いに気に入ってくださったのだった。
なお、育ち盛りのお嬢さんは別メニューで、フレンチトーストにベーコンとチーズをたっぷり挟んだやつを出した。
むちゃくちゃ喜んでくれた。
「普段食べているパンがこんなに美味しくなるの!? あーん、これスキスキ! 私ずっとこれだけ食べる~!!」
パンとバターと卵とチーズ、ベーコン。
既にこの屋敷で使われている食材を、普段とは違う組み合わせにすることで生まれるメニューだ。
こってり大好きな若者には最高でしょうねえ……。
こうして、僕はまた第二王子の信頼を得て、出資を受けることができるのだった。
殿下たちの部屋から出てきた僕を、シェフが迎えてくれる。
「やったな!」「常勝じゃないか……」「割と今あるメニューの組み合わせの違いで作れるものばかりだから助かる」「毎日食べるものが違うなんて、本当に凄い時代になったもんだ」
うんうん、アーランは一昨年までは食にそこまで興味がなかったから、ずっと同じものばかり食ってたんだよな。
パンと野菜のスープと、ゆで卵とかチーズとか。
乳製品はそこまで一般的ではなかったから、本当に食生活が貧しかった。
あ、ちょこちょこ魚は出たな。
干し魚だが。
あの灰色の食生活がまるで遠い昔のようだ。
入口近くに設けられた部屋では、シャザクがコゲタとお喋りしていた。
いつも世話を任せてしまってすまんね。
「いや、気にするな。しかし話す度にコゲタは賢くなっていくな。ナザルの知識を吸収していっているようだ。そろそろコボルドとしても成人なのだろう?」
「多分。背もちょっと伸びてるし。なーコゲタ」
「コゲタ、ちょびっとおおきくなった!」
「いいものだなあ。私もコボルドを飼うかなあ……。こう、ともに生きて成長を喜びたい」
「シャザクは普通に結婚して子どもを持ったらどうだ……?」
「うーむ……! 親族から勧められて見合いはしているのだが……」
していたのか!
ちなみに、シャザクとコゲタがいた部屋は、実はコゲタのために設けられた待合室なのである。
玄関の一角だったところに壁を作り、絨毯を敷いて椅子と明かりを取り付けてある。
うーん、僕の特別扱いが分かる!
王族の屋敷にコボルド待機室を作らせてしまうとは。
「ナザル、今度アドバイスをしてくれ。私は男爵ではあるのだが、領地を持たない文官貴族だ。結婚によって己の立場を強めていく形になるのだが……」
「ふむふむ」
「とある有力な商人の娘との見合いに望むことになっている」
「ほうほう」
「今、商人たちの間で名を挙げている君の友として、名を貸して欲しい」
「僕の友人ということで箔をつけてお見合いを有利に進めるんだな? いいぞいいぞ。幾らでも名前を貸そう。そしてアドバイスとは」
「女性はどういう話題で盛り上がるのだろうな」
「それは僕に聞くな」
全く分からん。
だが、今度シャザクの見合いについていくことになったのだった。
成り行きで話がどんどん転がっていくな……。
まあ、彼はコボルドを飼うよりは家庭を持つほうが良かろう……!
そして我が子の成長を楽しむのだ。




