第184話 再びツーテイカーへ
フレンチトーストを山程ごちそうになり、お土産でチーズとバターをもらった。
バター、かなり食べたからそろそろ出せるぞ……!!
かなりの再現度だと思う。
「おいしかったねー!」
「ぶるるー」
コゲタがポーターに話しかけている。
フレンチトーストの事を言っているんだと思うが、ポーターは牧草の話をしていると思うぞ。
まあ、二人とも農園の滞在に大満足してるようだからいいか。
コボルドと荷馬で話が通じたりするんだなあ。
こうしてまたしばらく旅をする。
チーズがあり、バターを召喚できるようになったので旅の食事に広がりが出たぞ。
狩りはシズマが大変得意で、獲物を沈めたら窒息死するので、綺麗なままゲットできるのだ。
これを僕とコゲタを入れた三人で、わいわいと解体する。
肉や臓物を、様々な油で炒めていただくのだ。
うまいうまいうまい。
ワンダバーで本場のにんにくをもらってきたから、これと一緒に炒めても実にうまい。
食が豊かなら、旅は楽しくなるのだ。
「ゆうごはんたのしみねー」
コゲタがニコニコしながら横を歩いているのだ。
うんうん、夕食はあの肉料理をそのへんの山菜と一緒に煮込んでスープにしようかと思ってるからな!
こうしてみるみる旅程は消化され、空が薄ぼんやりと曇っている地域に到着した。
ツーテイカーである。
「ぶるるー」
「なんだポーター、故郷に帰ってきたのが分かるのか。そうか、ポーターにとっては、この曇った空の下が懐かしい光景なんだなあ」
わしわしと撫でると、ポーターが顔を寄せてきた。
僕の胸板をすりすりしてくる。
この荷馬は大変人懐っこい。
ツーテイカーでさぞ大事にされていたんだろう……。
こうして到着すると、ちょっと懐かしくなってきたスラムが見えてくる。
おお、前に来たときと構造が全然違う。
日々有機的に形を変えているんだな、このスラムは……。
この辺りで一番治安が悪いのがスラムなので、気を付けて進むのである。
「その荷物をよこせぇーっ!!」
「油だ」
「沈め沈め」
「ウグワーッ!!」
襲ってきた不届き者がいたので、油ですべらせてから半身沈めてやった。
いやあ、本当に治安が悪い。
もしコゲタに怪我でもさせたら、お前ら全員油で窒息か沈んで窒息だからな。
周囲に睨みを効かせつつ、先を急ぐのだ。
やっとツーテイカーの都市部への入口だと思ったら……。
既にベンクマンが待ち構えていた。
数名の護衛を引き連れていて、これは多分本物ではないだろうか。
「よく戻ってきたな!」
「僕らが到着したのなんで分かったんですか」
「俺の手駒はこの国のあちこちに潜んでいる。お前たちを発見した一人が俺に情報を伝達したというわけだ」
「なるほど……」
「で、どうなんだ? その顔は……手に入れたようだな」
「ええ、その通りです。こちらです」
僕が荷台から冷凍の魔導書を取り出すと、ベンクマンが凄みのある笑みを浮かべた。
「よしよしよし……!! これでツーテイカーは世界に対して大いなる力を手に入れたことになる。冷凍して食物を運ぶ技術を独占できれば、莫大な儲けになるぞ……!!」
「ところがベンクマンさん、冷凍の魔法はワンダバーでは特に価値のないありふれた魔法で」
「な、なにっ!?」
驚愕するベンクマン。
貴重な魔法を手に入れて、よし、これからこの魔法で荒稼ぎだぞと思った矢先のことである。
まさか、冷凍の魔法なんていう高度っぽく感じるものが、ワンダバーではごく初歩的な、しかも使い道のない魔法扱いされてるとは思うまい。
「だからワンダバーに気づかれると、一気に権益がパーに」
「ああ~」
なんて情けない声を漏らすんだ。
「なので僕からの提案なんですが、ちょっと大人しめに、比較的良心的に商売をしましょう……! 冷凍の魔法を覚えた魔法使いを養成し、ビールの輸出に使う。キンキンに冷えたビールを飲ませて虜にさせ、冷えたビールはツーテイカーから運ばれてくるものが一番美味い、というイメージを持たせるんです。せいぜい、外国は井戸水で冷やしたビールまでしか飲めない」
「なるほど、なるほど……。つまり、わざわざ他の国まで行って冷えたビールを売る……。体験を売るわけか! そのための冷凍魔法。なるほどな……!」
「後は傭兵として活躍している魔法使いが冷凍魔法をマスターしたら、彼らが各国の商人の生鮮食品運搬に欠かせなくなるでしょう」
「おっ、なるほど、なるほど……!!」
「世界がちょっとよくなりつつ、ツーテイカーが一番得をする……。その上で誰からも恨まれない……」
ベンクマンが僕をじっと見た。
「お前……うちの幹部にならないか? 謀略の素質がある」
「あっあっ、やめてください。僕は何にも縛られず楽しく愉快に過ごすつもりなんで……」
「そうか、残念だ……」
今の言葉は本音みたいに聞こえたぞ。
「まあいい。ナザル、シズマ。それとコボルド。コゲタと言ったか? 宴を用意してやる。毒は入っていないぞ、安心しろ。お前らと付き合いを持てば、また俺に大きな利益をもたらしてくれそうだからな。なに、俺からのほんの礼というやつだ」
ベンクマンは怖い笑みを見せると、都市の奥へと去って行ってしまった。
その背中と、僕の顔を交互に見るシズマ。
「お前、本当に口が上手いなあ……!!」
「長年会社の中で、潤滑油やりながら生きてきたからね……!」
「前世の経験って本当に生きるんだな! なるほど、そういう意味でも油使いだ! おっしゃ、行こうぜ。ごちそうが俺等を待ってる!」
「ごちそう!」
コゲタがピョンピョン跳ねた。
よーし、たらふく食べちゃうぞ。
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