第160話 当然のように好評
約束された勝利のお揚げ。
差し出された品々を見て、ごくりとつばを飲む殿下。
これはもう勝利確定だよ。
シェフたちもずらりと並んで、殿下が食べる光景をじっと見つめている。
彼らにとって最高のエンタメなのだ。
「では、いただくとしよう……。どーれ……?」
まずは油揚げ。
フォークを刺したところ、ふんわりと柔らかな感触に殿下が驚く。
「おお……これは……!!」
「殿下、用意しましたタレを付けてお召し上がりください」
「うむ……!!」
まずは切り分けないまま、フォークに刺した殿下。
これをタレにちょちょっと付けてかぶりつく。
お行儀が悪いのだが、これこそがこの料理の一番美味い食べ方だということを彼はこの一年近くに渡る美食生活で感じ取ったのであろう。
正解……!!
「うほう、じゅわっと来た!! なんだこれは!! 柔らかい! だが、タレを吸って味わいが深くなっている! これは本当にトーフと同じものなのか!? それを油で揚げただけで? こんな風味に変わるのか!? なんとぉーっ」
大仰に驚く殿下と、ニコニコしながら油揚げを食べる奥方。
「美味しいわ。その……お酒と合いそうね?」
「奥方様、ここにお酒を用意してございます。ワインです」
「あらまあ!!」
「ほほう!!」
大人二人が興味を示したな。
対して、お嬢さんはつまらなそうだ。
「確かに美味しいけどー。こんなのお腹に溜まらなそうでー。なんていうかさー」
「お嬢さん、こちらに油揚げを焼いた肉と合わせたものをですね、パンに載せまして」
「それよそれ!! あるところにはあるんじゃなーい!! ガッツリ来るのが食べたかったのよねえー!!」
テンションぶち上がりである。
やっぱり若者はこってりだよね。
そして……。
肉と一緒に炒められた油揚げは肉汁とタレをたっぷりと吸っているのである!
「うんまあー!! これたまんないー!!」
「これ、はしたないですよ!」
「まあまあ。たまにはいいではないか」
この場に限って、お嬢さんのちょっと品がない感じはOKということになったようだ。
なお、肉汁を吸った油揚げはご夫妻も興味があるらしいので、パンに載せたこれをカットしておく。
大人組はちょっとでいいからね……。
「おおっ、これは確かに美味い!!」
「あら、美味しい! ……でも太りそう……」
お分かりいただけただろうか。
カロリーモンスターである。
「あっ、でもワインが合う……」
「あら本当。ワインと合わせるとぺろっといけそう……」
いかん!
ワインと合わせる事は計算していなかった!
これ以上は第二王子夫妻の健康が危ない!
お代わり要求をはねのけ、厚揚げタイムに突入した。
これは豆腐のサイズをそのまま使えるので、登場した時のボリュームにご夫妻が驚く。
「大きい……」
「大きいわ!」
これを切り分けると、きつね色のボディの中から白い本体が姿を表す。
美しい対比をご覧あれ!
「これは食べごたえがありそう……」
お嬢さん、あなたは暴食の大罪でも抱え込んでいるのかね。
結果から言うと、厚揚げは大変好評だった。
しかも……。
「なにっ、豆腐にちょっと油を足したくらいの……ナザルよ、そなたが言うカロリーとやら言うものなのか? ではカルボナーラほど動かなくてもいいな……」
安心感~。
そして、お酒と厚揚げを楽しみ始めるご一家。
無論、お嬢さんはまだお酒には早い年齢なので果汁を絞ったものを……。
ジュースと厚揚げ合うの?
いや、美味しそうに召し上がっておられるから合うんだろう……。
ほどよく腹が膨れたところで、キーウリをお出ししたのだった。
ビネガーで酸っぱくして口をさっぱりしてもらってもいいし、そのままみずみずしさを楽しんで頂いてもよい。
「味のない果実か! いや、凄い水気だな……! なるほど、これは肉料理の締めにもいい」
「あら、私この果物好きよ? 甘すぎないのがいいわね。つまり……後からシロップをかけて甘くできるということよね?」
奥方、キーウリにシロップとは……!?
この世界、いよいよあらゆるものを甘味にして楽しみ始めたな……!!
お嬢さんは豪快にそのまま塩を振ってもりもり食べた。
「これ、野菜だわ!!」
そこに気付かれるとは、さすが……。
彼女は逸材かも知れない。
そのうち誰かと結婚されて、自由に動き回れるようになったらグルメ仲間に加えてもいいかも知れない。
そんな事を考えていたら、第二王子ご一家への献上は終わったのだった。
大好評。
「これからすぐにでもメニューに加えてくれ! 何より、冷めていても美味いというのがいい。これは父上や兄上にも食べさせられる」
なるほど、それは確かに。
僕がデュオス殿下に伝えてきたメニューは、大半ができたてをホクホクいただくものだった。
だが、油揚げに厚揚げは毒見後で冷めてしまっても美味しい。
安心して王室が楽しめるメニューになるというわけだ。
殿下、陛下や第一王子のことも考えておられたのだなあ。
優しい人である。
そして……僕はガッツリとまた報酬をいただき、懐が暖かくなった。
いやあ、人に喜ばれてお金までいただけて、やめられませんわ……!
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