第136話 大豆ではない?
大きな豆であった。
仕事の後眠り、目覚めてから再度、もらった豆を眺めてみるのだ。
「……大豆じゃないよな、これ。いや……でかい大豆にも見える……。枝豆? 超デカい枝豆……?」
枝豆は確か大豆だったはず。
違ったっけ?
豆の収まっている殻が白くなって、カラカラになっている。
熟しきっているのだろう。
「料理に使ってみねばわからないな。だが問題は……。僕が大豆の調理の仕方を知らないことだ」
本日一日はこのヒュージビーンズの調理方法を教わる日とし、帰還は明日だ。
すまないな、コゲタ……!
ちょっとだけ待っててくれ!
「ということで、このビーンズの食べ方を聞きたいんですが」
「へえ、外国の人でこの豆に興味を持つなんて珍しいねえ。そう言えば、豆を輸出できることになったとか国の偉い人が言ってたけど、それってつまり……」
僕が原因ですな!
そろそろ第二王子も新しいメニューをご所望なのだ。
ここで一つ、ヒュージビーンズを使ったお料理を学んでおきたい。
今回の先生となるのはおばさんだ。
横にまん丸い人で、この世界でぽちゃっとできる人は才能がある。
あとは美味しいものに恵まれている場合が多い。
期待できる人材だ。
「基本的な料理は煮豆なんだけどね。若い豆をそのまま茹でて塩を振って食べるのも美味しいよ」
「なるほど……。この熟した状態だと?」
「それは、煮豆以外だと水をたっぷり吸わせてから念入りにすり潰してだね、お湯で煮込んだら濾して、それを温めながら塩を使うと固まるんだけど……」
「豆腐じゃないか!!」
「トウフ……? あたしらはビーンズケーキって呼んでるけど、あと、塩はファイブショーナンから仕入れたやつじゃないといけないよ」
「にがりじゃん!」
僕は感動していた。
この世界にも豆腐がある!
そして何より、この大きい豆は大きい大豆だということが明らかになったからだ。
これから何でもできるぞ!
その後、今日の分の豆腐を作るというので、昨晩から水に浸されていた大豆を料理させてもらうことにした。
ほうほうほう。
ふんふんふん。
これはこれは……。
「ナザル、仕事よりもよっぽどやる気に満ち満ちているねえ……」
「こちらが僕のやりたいことだからね……」
リップルが昼頃に起きてきて、村の名物である野菜サンドを食べている。
燻製肉を挟んで食べるもので、大変美味しい。
調味料が少ないこの世界で、燻製の独特の味と香りは貴重だよね。
「そうそう。あんたなかなか手つきがいいよ。うちの宿六に見習わせたいもんだね」
「ははは、料理はこの一年みっちりやってるんですよ。任せてください」
おばさんに褒められつつ、僕は大豆をすり潰し、ぐつぐつに煮込み、これを濾してから温めつつにがりを足したりなどする。
生前はネットで豆腐の料理方法を見ていたけれど、自分でやるのは初めてだ。
この工程が豆腐に続くのだと考えると、実に希望に満ちているではないか。
「このまま食べても、豆の美味しさが詰まってていいんだけど……。ちょっと置いておいて水分を抜いていくとビーンズケーキになるのさ」
「なるほどー」
なんと豊かな時間であろうか。
素晴らしい豆の香りが周囲を包んでいる。
食後のお茶をお代わりしながら飲んでいたリップルが、鼻をくんくんさせた。
「独特のにおいがするね。なんだいこれは?」
「豆腐というものだよリップル……。いや、この国風に言うならビーンズケーキだ」
「豆のケーキ!? 甘くして食べるのかい!? 豆を!?」
そうそう、この世界は豆を甘くして食べない。
豆は塩辛くして食べるものなのだ。
だから、豆なのにケーキという言葉が出てくると、リップルみたいに仰天することになるのだ。
「いや、しょっぱいソースなんかを掛けて食べるんだ。淡白だけど味わい深いぞ」
「ふうん、興味が湧くねえ……」
おばさんが目を丸くする。
「あんた、食べたことがないんじゃなかったのかい!? どうしてビーンズケーキの味が分かるんだい」
「あ、いや、似たものを故郷で食べたことだけがありまして」
「なーるほど、食べる専門だったんだねえ。うちの宿六と一緒だ」
水分が抜けるまでの間、お茶をすることにする。
なお、豆腐のもとである豆乳を絞ったあとのかすは、家畜のエサにするから無駄がないらしい。
かすをそのまま使って、本当にケーキみたいな焼き菓子にもするんだとか。
あとでレシピを教えて下さい!!
「フォーゼフ、本当に和解できて良かった。こんな素晴らしい国だったとは……。いや、どの国にも可能性が眠っているんだよな。ただ、それぞれ独立したもの同士が出会うことでシナジーが起きる。僕はそれを求めて生きているんだなあ」
「何か言ってる。あ、このクッキー美味しいね」
「それだよ。それはね、ヒュージビーンズの絞りかすと粉を混ぜて作ったクッキーでね」
「あんまり甘くないからおかずクッキーだね」
「甘味は高いからねえ」
リップルとおばさんがガールズトークをしているじゃないか……。
「砂糖はアーランで山程とれるから、フォーゼフはそれを輸入したらいいんじゃないかな」
「本当かい!? 甘いものは本当に貴重でねえ……。でも、いつでも食べられるようになるなら、戦争をやめて大正解だったねえ……!」
おばさんはにっこにこになるのだった。
僕ももうすぐ完成する豆腐を前に、にっこにこだよ。
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