第108話 殿下、これが生きている家畜です
サトウキビを楽しんだ後、我々第二王子一行は第二層へ向かうのだった。
当然のように、第一層では何も起こっていない。
第二層だって何も起こらないだろう。
「安全が完全に確保されているんですよ」
「ほう……! いや、私も教師から聞いたことはあったが、遺跡の中がこれほど安全に保たれているとは思わなかった。労働者たちも、仕事に専念できるのだな」
「そういうことです。お陰で僕らは、美味しい食べ物を口にすることができるわけで」
「ああ。私も暖かい食事があれほど美味しいとは思わなかった。今は日々楽しい。例え暗殺される危険が上がるとしても、あれを知ってしまった以上は冷たい食事には戻れない……」
「ええ、本当にその通りです!」
「温かい食事は大変な手間ひまが掛かってたのねえ。感謝だわ!」
奥方とお嬢さんもそうだそうだと言っております。
「……よくぞこの人たちと仲良くなったもんだねえ……」
ツインが大変感心している。
そこはそれ、僕の手腕というやつだ。
飯で釣ったからね。
第一層から第二層への移動をエレベーターで行う。
家畜がわんさか乗り込める大きなエレベーターだ。
動く地面に動揺して、第二王子一家があわあわしていた。
ゆっくりと下っていくが、眼の前の地面がどんどん上に上がっていき、岩盤になり、そしてずっと下って第二層になるわけだからね。
この視界は慣れないと確かに驚く。
そう、エレベーターには扉が無いのだ。
事故に注意。
ちょっと待ったら到着だ。
「ともだちのにおい!」
第二層に着くや否や、コゲタがピューッと飛び出していった。
僕が畑仕事をしている間、コゲタは家畜のお世話をしたりしていたからな。
ここで暮らす動物たちとは顔見知りなのだ。
あちこちから、獣の鳴き声が聞こえる。
コゲタの帰還を感じ取ったらしい。
「うっ、こ、ここは臭いわ!」
お嬢さんが鼻をつまんだ。
そう、家畜とは臭うものです。
「だんだん慣れていってください。ここで、僕らが食べている肉やチーズなどが作られているんですよ。皆さん、牛乳飲んだりしないでしょう。外に出るのは、さんざん熱して加工用になったものばかりだし」
牛乳なんかはすぐ悪くなってしまうから、殺菌して密閉する技術などが未発達なこの世界ではあまり多く飲まれていない。
熱して飲んだりはできるんだが、日持ちさせるように加工する技術がな……。
「牛乳? それってチーズのもとになるものでしょ?」
「そうです。チーズは美味いでしょ」
「確かに美味しいわ。あれは冷めても美味しいし、むしろ冷えてると美味しいわ!」
美味しさを語るほどに目がキラキラしてくるお嬢さん。
美食を愛する素質がある。
「そのチーズのもとになったものですよ……」
「絶対に美味しいわ!! 飲みたい!」
「よし、牛乳飲みに行きましょう!」
「行くわ!」
そういうことになった。
お嬢さんの勢いは第二王子を上回るな。
これが若さか……。
第一層の視察で割と満足しているっぽい第二王子と奥方だが、愛娘がどんどん先に行くならばついていく必要がある。
顔を見合わせて笑いながら、後ろを歩いてくるのだ。
彼らのこんなにこやかな表情、城の人々は見たことがないかも知れないな。
やって来たのは、牛がたくさんいるところだ。
搾乳の時間に合わせてやって来たので、ここはぜひとも第二王子一家に牛の乳搾りを体験してもらおうではないか。
「あひー」
お嬢さんがなんとも言えぬ悲鳴を上げながら乳搾りをした。
ミルクが下の桶にビューっと出る。
「うひゃーっ」
「はしたないですよ!」
奥方に注意されている。
いやあ、初めてならその悲鳴は出ちゃうと思うなあ。
「あなた、見本を見せてやってください」
「えっ、私が!?」
デュオス殿下は助けを求めるように、僕とツインを見た。
その後、なんか顔を引き締めた。
おっ、再会した息子にいいところ見せるつもりだな?
その息子はもう独り立ちし、ゴールド級として地位を確立したすごいヤツなのだ。
彼はどういう能力を使うんだろうな。
神殿で育てられたらしいから、神官戦士みたいな感じなのではないか。
そんな事を考えているうちに、殿下が搾乳ポジションに入っていた。
農夫の人に教えてもらいながら、真剣な顔で牛の乳に挑む──!!
「いざ!!」
「あっ殿下、力はいりませんので優しく優しく」
「あ、うん分かった」
緊張しながら、教えられた通りに乳搾りするデュオス殿下。
おお、ミルクがぴゅーっと桶の中に入った。
「やるわねえお父様……!」
「あなた、素敵よ!」
ツインもこの光景を、ちょっと口元を隠しながら眺めている。
ニヤニヤしてしまうのを必死に隠しているな?
離れていても家族の愛みたいなのはあるんだなあ。
ということで!
みんなで搾りたてのミルクをいただくことになった。
とは言っても、一度熱して消毒はするけどね。
それに熱くしたほうが甘みが出る。
「じゃあみんなでいただきましょうか!」
「うむ。どれ……」
真っ先に口をつけるのは殿下だ。
もう僕の言うことならなんでも信用してくれるところまで来ているな……。
だが、今回は間違いない。
暖かいうちが美味いんだから。
生まれて初めてホットミルクを口にした殿下は、目を丸くする。
「これほど濃厚で……そして優しい甘さのある飲み物は初めてだ……。だが、どこか馴染みがある……」
「わ、私も飲むわ!」
「わ、わ、わたくしも!」
お嬢さんと奥方が続いた!
そしてみんな、笑顔になる。
僕も会心の笑顔になった。
「……殿下。このミルクの美味さを街のみんなにも味わわせてやりたくないですか」
「うむ! 確かに! これを流通できる方法があれば、私は幾らでも金を出そう!」
いいぞいいぞ!
持つべきものは物わかりの良いパトロンなのだ!
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