『商業都市レスドア』
「採れたて新鮮♪ 甘くて美味しい果実~♪ おいし~♪ おいし~♪ みんなで食べたらもっとおいし~♪」
森林を抜けて舗装された砂利道を歩いていると、意味不明な歌を奏でながらアメルが付いてくる。
「君はいつまで付いてくるの? あれから30分くらい経つけど」
「歩く方向からして、カレンは商業都市に行くんだよね? 目的地が同じなら付いてきても問題ないよね? それと、またさっきみたいに悪い人に襲われたら怖いし……もしかして、私に付いてこられると迷惑な感じ?」
アメルは立ち止まると、悲しそうな表情で見つめてくる。
泣くのは反則だろう。
昔から私は泣き落としに弱いんだ。
このまま泣かれてしまうと困るので、私は諦めて話題を変えることにした。
「迷惑ってわけじゃないけど……そういえば、君はどうしてゴルソンたちに襲われていたの? なんかやらかした?」
「やらかしてないよ!! 多分だけど、金品目当てじゃないかな? ほら、リュックに荷物をたくさん詰め込んでるじゃん? 着替えと寝袋とちょっとした路銀しか入ってないのにね。あと、私は君じゃなくてアメルだよ」
アメルは不満そうな表情を浮かべると、限界近くまで荷物の詰め込まれたリュックを背負い直した。
軽く跳ねたことにより首から下げている不思議な紋章の刻まれたペンダントがちゃりんと音を鳴らす。
そんなに大量の荷物を持って、どんな目的で商業都市に行くのだろうか。
「君はどうして商業都市に行くの?」
「アメルだよ」
「……アメルはどうして商業都市に行くの?」
「気になる?」
「少しだけ気になる。嫌なら言わなくてもいいよ」
「まったく嫌じゃないよ。親友だから教えてあげる。私は冒険者になりたくて、商業都市にある冒険者協会を目指しているの」
両手を頭の後ろで組みながら、上機嫌そうに白い歯を見せるアメル。
その瞬間、私はアメルの両肩をガシリと掴む。
「冒険者だって!? 商業都市に行けば、誰でも冒険者になれるの!?」
「う、うん……適正試験に合格できたらね? もしかして、カレンは冒険者になりたいの?」
「私は冒険者になって、最高の人生を送りたいんだ!!」
瞳を輝かせる私を見て、アメルが閃いたような表情でポンと手を叩いた。
「それじゃあ、私とチームを組まない?」
「チーム?」
「うん、チームを組めば依頼を効率的に遂行できるし、冒険するなら1人より2人のほうが楽しいでしょ?」
アメルの言うとおり、1人で冒険するよりも仲間と冒険したほうが楽しい。
それに加え、私は人間界の常識を知らない。
無知故に変なことをして、厄介事に巻き込まれるかもしれない。
今はアメルの誘いに乗っておくべきだろう。
「いいよ、私とチーム組もう」
「やった!! そうと決まれば早く行こう!! 楽しみすぎて待ちきれないよ!!」
私も待ちきれない。長年の夢だった冒険者になれるのだから。
アメルに手を引かれ、私は商業都市に続く砂利道を駆けるのだった。
◇
――『商業都市レスドア』
アルファード王国の南西に位置する商業都市。
近くに森があるため、周囲には害獣の侵入を防ぐために市壁で覆われている。
商業都市というだけあって通行人が多く、大通りにはたくさんの露店が建ち並んでおり凄く賑わっている。
都市の北側に冒険者協会があるせいか冒険者らしき人間を多く見かけ、1時間くらいで商業都市に辿り着いた。
兵士による身分証明は無く、商業都市に訪れた目的を告げるだけで門を潜らせてくれた。
人間たちには正体がバレないように、天輪と白翼は消滅させておく。
天輪と白翼を消滅させてしまえば熾天使は魔力の半分以上を制限されてしまうが、人間界で過ごすのには問題ないだろう。
「到着だよ!!」
商業都市に入ると、アメルが上機嫌そうに走り出した。
「アメル、走ると危ないよ」
「大丈夫だよ!! ぶつかりそうになったらきちんと避けるから――ぎゃふん!!」
言った矢先に、赤い鎧を着た冒険者の男とぶつかった。
筋骨隆々な体型で棘付きの混紡を担いでいる。
装備の整い具合からして、人間の中では相当な手練れなのだろう。
鋭い眼光でアメルを睨んでおり、今にも混紡を振り下ろしそうな雰囲気である。
念のためにいつでもアメルを助けられるようにしておいたが、どうやら必要は無かったらしい。
「こら!! 走ると危ないだろ!!」
「ごめんなさい……」
赤い鎧の冒険者に注意され、アメルが頭を下げる。
顔は怖いが、性格は良かったらしい。
「まったく、気を付けろよ? 今回はぶつかった相手が俺だったから良かったけど、全員が俺みたいに優しいわけじゃないからな?」
「気を付けます……」
「おう、素直に謝れるなんて偉いじゃないか。じゃあな、嬢ちゃん」
赤い鎧の冒険者はアメルの頭を撫でると、手を振りながら立ち去っていった。
強面に似合わず良い奴じゃないか。
◇
少し歩くと、冒険者協会に到着した。
冒険者協会を名乗るだけあって、立派な建物である。
建物の中から漂ってくる嗅いだことのない美味しそうな料理の匂いが胃袋を誘惑してくる。
おそらく酒場と合体しているのだろう。
適正試験を受ける前に腹ごしらえをしておいても良いかもしれない。
「アメル――」
「カレン!! 適正試験を受ける前に軽くごはん食べてかない? ずっと歩いてたからさ、お腹空いちゃった!!」
私が言おうとしていたことを、アメルが先に言ってきた。
どうやら考えることは同じだったらしい。
「いいよ、私もお腹空いてたから」
「むふふ、気が合うねえ……それじゃあ、早く行こうよ!!」
アメルに手を引かれて歩き出した瞬間、私は大事なことを思い出す。
ローブのポケットに手を入れてみると、天界で使われている金貨しか入っていなかった。
人間界の通貨を持っていないのである。
「ごめん、少し待って」
「ん?」
私に引き留められ、アメルが首を傾げる。
「アメルと出会う前にどこかで財布を落としちゃって、お金持ってないんだよね」
「あらら……そういえば、カレン空から落ちてきたもんね。じゃあ、私が奢るよ。悪い人から助けてもらった恩もあるし」
「ありがとうアメル」
「お礼を言わなきゃいけないのは私だよ。なんたって命を助けられたんだからね」
「それじゃあ、これで貸し借り無しということで」
「いやいや、どう考えても命とごはんじゃ釣り合わないよね。これからもっと恩返しするから覚悟してよね」
「そんなこと気にしなくていいのに……」
「気にするよ!!」
怒られてしまった。
◇
「いらっしゃいませ!! 冒険者協会にようこそ!! クエストを受注されるのであればカウンターにて承ります!! 食事であれば空いている席にお座りください!!」
建物に入ると、女性店員が出迎えてくれた。
建物の中には装備を纏った強面の冒険者が多く存在しているが、新参者である私とアメルにちょっかいを出してくる素振りは無い。
「この席でいいよね?」
「うん」
アメルの提案で、建物の右奥にある席に決定された。
私とアメルは席に着くと、テーブルに設置されている献立表を手に取る。
「いろんな料理があるね。カレンはどれにする?」
「私は人気ナンバーワンの唐揚げ定食にしようかな。値段も手頃だし」
「私もそれにする!!」
「それじゃあ、注文するね。店員さん、唐揚げ定食を2つお願いします」
「は―い!!」
私の注文を受けた女性店員は元気よく返事すると、厨房に走っていくのだった。




