『殺戮天使VS絶対零度の悪魔』
サレヴィアが姿を見せた瞬間、森林内の気温が急激に低下した。
晴天だった空は曇天と化し、大粒の雪が降り始めた。天気が変わったのは、サレヴィアの魔力による影響である。
「雪が降ってきた……?」
天候の変化を目の当たりにして、アメルたちが驚愕した表情で空を見上げている。
「シルバーウルフなんて、天界にしか存在しないはずよね。どうしてかしら。どうして人間界に存在しているのかしら」
水色の髪を人差し指に巻き付けながら、ムンちゃんに近づいていくサレヴィア。
ムンちゃんは天界の神獣。獣の本能でサレヴィアの危険性を察知したのか、ゆっくりと1歩ずつ後退する。
「お姉さんだれ……?」
「眉間に月形の傷があるけれど……白銀の体毛。紅色の瞳。金色の爪。うん、シルバーウルフで間違いないわね」
アメルに話しかけられるが、サレヴィアは反応しない。
サレヴィアの態度に腹が立ったのか、運転手が納得できない様子でサレヴィアに向かっていく。
「おまえ、無視するんじゃねえよ。桜髪の嬢ちゃんが話しかけてんだろうが。どこのお嬢様だか知らねえけど――」
「邪魔よ」
運転手に向かって――
表情も変えずにサレヴィアが放った手刀を、私は無言で受け止める。
「「え?」」
その瞬間、運転手とサレヴィアの声が重なる。サレヴィアの手刀は、私が受け止めたことで運転手の首を切り裂く寸前で動きを止めていた。
「ふう、あと少し止めるのが遅かったら運転手の首が吹き飛んじゃうところだったよ」
「ア、アンタ……!!」
今のやりとりで私のことを只者ではないと感じたのか、サレヴィアは手を振り払い、後方に跳躍する。
「あはは、ごめんね。アメルに首無し死体を見せるわけにもいかないし、さすがに止めさせてもらったよ」
「アンタ何者よ……!?」
笑みを浮かべる私を、サレヴィアが鋭い目で睨みつけてくる。
「冒険者だよ」
「そうじゃなくて、人間のアンタがどうして……!?」
「教えてほしかったら、とっておきの『魔氷』で私を凍らせてごらんよ」
私が手招きした瞬間、サレヴィアの魔力が膨れ上がる。
森林内の気温が、軽く零度を下回っている。私の発言を聞いて、どうやらサレヴィアは本気になったらしい。当然だろう、魔界を代表する最上位悪魔の魔法を、普通の人間が知っているわけがないのだから――
「正直に答えなさい。どうして、アンタが『魔氷』を知っているのよ」
「私を戦闘不能にして、無理矢理にでも吐かせてみれば?」
「それが、アンタの答えなのね」
サレヴィアは冷たい声で呟くと、魔力を込めた右手で地面に触れた。
魔界の最上位悪魔を相手にして、1人ならともかく3人を守りながら戦うのは厳しい。
「ムンちゃん!!」
サレヴィアが戦闘態勢に入ると同時、私は大声で呼びかけた。すると、ムンちゃんは小さく頷いて、サツキと運転手を背中に乗せる。
「「――『氷魔ノ牢獄』」
ムンちゃんが走り出すと同時、サレヴィアの魔法が発動した。
森林全体を覆っていた氷が動き出し、私を包み込もうとする。氷は厚く、閉じ込められてしまえば物理攻撃で壊すのは難しいだろう。
「これに捕まったら、生命力を吸い尽くされて干物になっちゃうんだよね? まったく、やることがえげつないよね」
挑発混じりの笑みを浮かべ――
サレヴィアを視界内に入れたまま氷の包囲網から抜け出したとき、魔力の増加を感じた。
「魔法の効果も知っているなんて、生かしてはおけないわね」
「いいよ、殺してみなよ」
私に向けられた、強者からの殺意。
最高だよ。楽しくなってきたよ。命を懸けた殺し合いなんて久しぶりだよ。
――「『魂貫氷弓』」
私が挑発すると同時、サレヴィアが氷の弓を作成した。
魔氷の矢に貫かれると、魂を凍らされて蘇生できなくなってしまう。3界戦争では、天界と竜界に多くの死傷者を出していた。
「魔氷の弓か」
「魂を貫いてあげるわ」
魔氷で矢を作り出すと――
サレヴィアは弓を構え、音も無く撃ち出した。
「速度は申し分ないね」
「天使と竜すらも貫いた、アタシの弓を躱した……?」
足捌きだけで躱された影響か、サレヴィアの顔に動揺が見える。
「撃ち出されることが分かっていれば、躱すことなんて造作ないよ。それは不意打ちで使うからこそ――」
やれやれと肩を竦めたとき、サレヴィアが右腕を伸ばしていることに気づく。サレヴィアの行動に違和感を抱いていると、私の背後から魔力反応を感じた。
――「『氷面鏡』」
私に躱されて――
森の奥に通り過ぎていったはずの魔氷の矢が、私の髪を貫いた。
「あぶなっ……」
反応が遅れていたら、頭を貫かれていた。
森林の奥を見ると、鏡のような物体が見える。なるほど、魔氷の鏡で矢を跳ね返したわけか。油断大敵とは、よく言ったものである。
「魔法なしでアタシに勝てると思っているわけ? いいかげん、アンタの魔法を見せなさいよ。戦ってみて分かったわ。アンタ人間じゃないでしょう」
「うん、人間じゃないよ。さてさて、ムンちゃんの気配も感じられなくなったし、時間稼ぎはこれくらいにしようか」
微笑を浮かべた私が4割くらいの魔力を解放した瞬間、サレヴィアの表情が変わる。
魔力感知で、私の異常性に気づいたのだろう。サレヴィアは漆黒の翼を広げて天高く舞い上がると、両手を掲げて魔法を発動させた。
――『凍星無限』
雲が吹き飛び、無限の氷塊が落ちてくる。
天空から降り注ぐ氷の隕石。薬草売りが目の当たりにしたという光景はこれだろう。そこにあるだけで地面が割れるほどの魔力圧。無力な人間では為す術なく消し飛ばされる。
――しかし。
それが魔法であるかぎり、私の前では無力である。私は『銀ノ焔』を起動させると、天空から降り注ぐ氷の隕石に向かって右手を伸ばす。
「身の程を知れよ。私を殺したいのなら魔界総出で掛かってこい」
最上位悪魔にとって、銀色の焔は忘れようにも忘れられないものである。銀色の焔が視界に入った瞬間、サレヴィアは確信したのだろう。
「なるほど、そういうことね。まったく、人間界で殺戮天使と出会うなんて、アタシは運が悪いわね」
サレヴィアが苦笑したとき――
1発だけで国家を崩壊させるほどの威力を秘めた氷の隕石が、私の撃ち出した『銀ノ焔』によって消滅した。
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