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断片の使徒 extra  作者: 草野 瀬津璃
web拍手掲載済ss
29/35

番外編 修太がちびっこになる話 後編



 なんだかんだと、狼の親が子どもを世話するみたいに、グレイは修太の傍にいたが、また緊急クエストがかかって、ダンジョンに出かけることになった。

「今日は夏日だから、気を付けておけよ」

「分かってるから、早く行きなさいよ。こっちは医療にたずさわってるんだから、体調管理は専門分野だって言ってるでしょ」

 小さくなった修太が気にかかるようで、グレイは居残りを希望したが、あいにくと誰もがおいそれと救出に行ける階層ではなく、人手が足りずにリックもメンバーに加わった。

 それでもグレイは渋っていたが、修太がキラキラと憧れを込めてこう言ったことで解決した。

「オバケ退治するんだろ? がんばってね、おとーさん!」

「ほーら、シューター君。お父さんに応援のハグをしてあげなさいね」

「はーい。ぎゅーっ」

 ヘレナにそそのかされ、素直な修太はグレイの足に抱き着いた。

「なにこれ、天使?」

 思わずリックはつぶやいた。

「やばいよなあ。魔王と知らずに傍にいる天使だと思うと、全力で保護したくなる」

 珍しく救出部隊に加わったダコンがぼそりと呟き、リックは笑いそうになるのを我慢した。

 グレイは修太に、「一人で出歩くな」とか「知らない人が食べ物をくれると言ってもついていくな」とか、いつも通りの注意をしてから、しかたなさそうにクエストに出る。

「お前ら、足手まといになったら埋めるぞ」

 だがダンジョンに入った途端、グレイが冷ややかな空気を放ったので、リックとダコン、治療師の三人は顔をひきつらせた。



 まさか七十階まで行って救出して帰還という行程を、たった一日で終わらせるはめになるとは思わなかった。

 普通なら五十階のダンジョン・シティーで一晩泊まって、翌日にそこからスタートするのだが、グレイは三時間の休憩しか許さなかったのだ。

「まれに見るしんどい仕事だったぜ」

 リックはうなだれがちに待合室へと踏み込む。

 重症の仲間を抱えながら、安全部屋でなんとかしのいでいた冒険者一行も、やっと助かったのに、今度はグレイに殺されるかと思ったみたいだ。

 ダコンを含めて、どよーんとした空気を漂わせて帰ってきたせいで、周りには死人が出たと勘違いされた。

 そのグレイはというと、開口一番に修太の名前を出して、受付に問う。

「シューターはどうなった?」

「まだ元に戻られてませんよ。今日は医務室にいらっしゃいます」

「そうか」

 グレイはすたすたと医務室に向かう。

「あいつ、元気だなあ」

「黒狼族ってずるいよな。マスター、俺も友達の様子を見てくるぜ」

「おう。今日はもう帰っていいぞ。グレイにも言っておいてくれ。次の出勤は、明後日な」

 ダコンに声をかけ、リックもグレイの後に続く。

 緊急クエストあけは一日の休みをとるルールなので、今日はそのまま家に帰れる。報告書も、休み明けに提出すればいい。

 ダコンも雑事を片付けたら、早々に帰宅するだろう。

 医務室に踏み込んだリックは、

「失礼しまーす?」

 室内の冷ややかな空気に、思わず足を止めた。

「任せておけと言っておいて、どういうことだ、これは」

「あ、あのね、救急があいついでしまってね」

「それで熱中症患者を医務室内で出していたら、意味がねえだろうが。ふざけんな」

 治療師が慌てて治療魔法を使っているのは、まさかの修太だった。これにはリックも驚く。

「えっ、何があったんだ?」

「えーと、シューター君、のどがかわいているのをじっと我慢してたみたいで。寝てるかと思ったら」

「は? 実は机に倒れてたってことか? それは駄目じゃんか、ヘレナさん」

 グレイが怒るのも当然だ。

 一通り治療して、修太が目を覚ますと、グレイは修太にも注意する。

「そういう時は、ちゃんと言え」

「だ、だって、お母さんが、お仕事の邪魔したらだめって。いい子にしてなさいって」

 グレイに叱られ、修太が泣き出す。

「お父さんとお母さんが帰ってこないの、シュウが悪い子だからでしょ」

「お、おい、そんなことは誰も言ってないだろ」

 さしものグレイも動揺を見せるが、それはリックやヘレナ達も同じだ。大人しいからと勝手に安心していたが、今の修太は六歳だ。子どもなりに考えて、理由をつけてしまったんだろう。

「ただでさえ脱水症状なのに、泣いたら悪化しちゃうわ」

「お水、飲んで。ね、シューター君」

 ヘレナや女性治療師が必死にあやすが、修太は首を振る。

「おうちに帰りたい」

 小さい子どもの言葉に、大人の数名は同情して涙ぐむ。

 状況を持て余したグレイが、突然、修太の脇を抱えて持ち上げた。高くかかげられ、修太がびっくりして泣き止む。

「お前の父親と母親は悪い奴だな。子どもを放っておいて、戻ってこねえ」

「ち、違うもん! お父さんとお母さんは悪くないもん!」

「それならどうして、お前が悪いってことになる。数日で戻ると言ってるだろ」

 グレイが問うと、修太はふくれ面で返す。

「だって、電話もくれないじゃんか」

「デンワ?」

 グレイだけでなく、リックらも首を傾げる。修太は目をまん丸にする。

「電話だよ。あのね、えーとね、このくらいの機械でね、遠くにいる人とお話できるんだよ」

「なんのことだか知らんが、ここにはそんな道具はないな」

「ないの!?」

 修太はびっくりしたようだ。

「それじゃあ、ないから電話してこないの?」

「そうだな」

「なんだあ、そっかあ」

 リックには意味不明だが、修太はそれで納得したようで、落ち着きを見せた。

「あと六回朝が来たら、帰ってくるんだよね」

「そうだ」

 堂々と嘘をつくグレイに、リックははらはらする。それまでに修太が元に戻らなかったらどうするつもりなんだろうか。

「ここが嫌なら、俺の家に帰るか?」

「行く!」

 グレイが修太を下ろすと、途中で修太はグレイの首に飛びついた。

「グレー、高いねえ。すごいねえ」

「高い所が好きか」

「好き!」

 グレイが肩車をしてやると、修太ははしゃいだ声を上げた。

 今泣いたカラスがもう笑う、の見本のようだ。

「ヘレナさん、帰しちゃって大丈夫なんですか?」

「あれはしかたないでしょ。実のご両親を持ち出されたら、どうしようもないし」

 治療師の確認に、ヘレナは肩をすくめて返す。ヘレナはシングルマザーだ。親を恋しがる子どもには弱いのかもしれない。

「とりあえず、お水を飲ませましょ。ふう。シューター君のおかげで、寿命が延びたわ」

 危うくグレイが激怒からのピンチを乗り越えたので、ヘレナは遠い目をした。

「乳母を雇うべきね。私達の身の安全のためにも」

 ヘレナの言葉に、医務室の全員が頷いた。



     *****


 ※グレイ視点



 食事をテイクアウトして、グレイは修太と帰宅した。

 今日は家政婦のニミエが来る日だったようで、居間で出くわして驚かれた。

「まあああ、坊ちゃんがそんな姿に。かわいらしいですわ!」

「このことは内密に」

「ええ。自慢できないのは残念ですけど。うふふ、お父さんが大好きなんですね。かわいいですわぁ」

 修太がグレイの着ているコートをつまんで隠れているので、ニミエは楽しげに言った。

「こんにちは!」

「ええ、こんにちは。元気にごあいさつできてえらいですね」

 ニミエがにっこりすると、修太はまたグレイの後ろに隠れた。

「あらまあ、お小さい時は恥ずかしがり屋さんだったんでしょうかね。それにしても、昔から大人しくてらっしゃるのね」

 それはグレイも同意見だ。

 子どもというのはもっと騒がしくて、無謀なことをして怪我をこしらえてくる生き物だと思っている。

「お前はいつも何をして遊んでいるんだ?」

「いつも? おうちでケイとゲームしたり、お庭や公園で遊んだりするよ。あと幼稚園に行ってー、テレビ見てー」

 修太が育った異世界には、相変わらずわけの分からないものがあるらしい。

「ヨウチエンってなんだ?」

「友達がたくさんいる所! お遊戯したり、運動したり、お勉強したり……お昼寝もするよ。あとねー、ごはん食べてねー、おやつも出るんだよ。月に一回、お誕生日会もあって~」

 修太は指折り数えて教えるが、グレイには理解できず、ニミエのほうを見た。

「分かるか?」

「聖堂の児童会に似てますわね。格安で子どもを短時間だけ預かって、世話をする場所があるんですよ。親が病気でしかたなくとかになると、孤児院のほうで数日預かることも」

「セーセレティーの聖堂は、そんなこともしてんのか」

「ええ、慈善事業は手広いですよ。他の都市は知りませんが、サランジュリエは裕福なほうですからね」

 長年平和な国だけはあると、グレイはセーセレティー精霊国を少し見直した。

「そういう所に行くか、ケイと遊んでたわけか、なるほどな」

 そこへ、コウが「フオオン」と眠たげに鳴きながら、とぼとぼとやって来た。寂しかったとでも言いたげに、修太にすり寄って、「クゥゥン」とあわれっぽく鳴く。

 屋敷を留守にしている間、コウのことを忘れていた。

「わあ、ワンワンだ」

「オンッ」

 修太が恐る恐る手を出すと、コウは自分から頭を押し付けて撫でられる。クンクンと修太をかいで、コウは不思議そうに鳴く。

「クゥン?」

「いろいろとあって、子どもになったんだよ」

「アオゥン?」

 何それ、とでも言ったのだろうか。初めて聞く変な鳴き声をして、コウは修太をかぎ回る。

「ワンッ」

 異常なし! と言ったような気がする。

 コウと過ごすまで、犬が何を考えているかなんて思ったこともないが、コウは感情が分かりやすい。

「そいつはコウだ。ペットの犬」

「コウっていうの? かわいいねえ」

「オンッ」

 コウは胸を張る。そうだと肯定したのが分かりやすい。

「遊び相手を見つけたみたいですわね」

「そうだな」

 コウがいるなら、グレイが手を離せない時の時間かせぎはできそうだ。まさか犬に子守りを頼む日が来るとは。



 十二歳くらいの時ですら、大人顔負けの落ち着きぶりを見せていた修太だが、六歳の子どもでも驚くほど落ち着いている。

「好きに走り回っててもいいぞ」

 静かなのはありがたいが、子どもがこんな調子でいいんだろうか。

 グレイが声をかけると、長椅子に座って本を読んでいた修太は首を振った。

「よその家では静かにしてなさいって、お母さんが」

「……そうか」

 よその家、ねえ。ここが自宅だと知ったら、どんな反応を示すのだろうか。

 大泣きしそうだから、言う気はないが。

 とりあえず一服しようと茶を淹れてテーブルにつくと、修太はわざわざ隣に来て、椅子をよじ登った。

 夏日に、隣に来たがる理由が分からない。

「暑くないか」

「ううん」

「何か用があるのか」

「無いよ」

「……?」

 子どもの考えることは、グレイには謎すぎた。

「ここ、広くてなんかがらんとしてるから、おとなりのほうがいい」

「さびしいって意味か?」

「わかんない」

 修太にも分からないなら、グレイにはもっと理解できない。

「お前、俺が怖くないのか?」

「こわくないよ。かっこよくてキラキラ!」

「そうか」

 とりあえずそう返したが、金髪でも銀髪でもないのに、どこがキラキラなんだろう。

 まったく意味不明だが、グレイは口端に薄く笑みを浮かべた。

「まったく、お前は変わらんなあ」

 ポンと頭に手を置いたら、修太はにこっと笑った。

 それを目撃したニミエが、「なんて微笑ましい親子かしら」と胸をときめかせているとは、さしものグレイも気づかなかった。



 その日もすんなり終わると思っていたが、夜中に枕を抱えた修太が、居間へと階段を降りてきた。

 ろうそくの明かりだけつけて、グレイは酒を飲んでいた。てっきりトイレにでも行きたくなったのかと思ったが、修太はスンスンと鼻を鳴らして泣いている。足元でコウがおろおろしていた。

「どうした。腹が空いたか」

 適当に当たりをつけてみたが、修太は違うと言う。

「広くて暗くて怖いよう。オバケが出そう」

 出ても前の屋敷の持ち主である、爺さんの霊くらいだとグレイはからかおうとしてやめた。冗談が通じなくて大泣きする未来しか見えなかった。

「一緒に寝ていい?」

 グレイは数秒迷った。人間のように何時間も寝ないのだと話したところで、幼子に通じるとは思えない。

 酒とグラスは明日片付けることにして、長椅子を立つ。

「しかたねえな。トイレに行っておけよ」

「はーい」

 修太は返事をしたものの、暗い廊下の前でしり込みする。

 霊など信じていないグレイには、そのおびえようが不思議だが、トイレまでついていかないといけないことは理解した。

「前で待っててやる」

「やったー」

 修太はちゃんとグレイがついてくるか、ちらちらと後ろを確認しながら、一階のトイレに行く。用を終えると洗面所で手を洗って、またちらちらと見ながら部屋へ戻る。

 おかげで階段を上るのが遅いので、グレイは腕に抱えて運んでやった。



 グレイは眠くないので隣に座り、修太は横になったが眠れないようだ。

「何かお話して」

「話だぁ?」

 また面倒くさいことを。

 グレイは眉を寄せたが、このままでは寝ないだろうから、話題を考える。

(仕事のことは駄目だな。子どもには血なまぐさいか)

 黒狼族の子どもだったら、戦闘のことは大興奮で聞くだろうが、人間はおびえるだけだろう。

 自然と思い出すのは、故郷のことだ。

「俺の故郷は、ここからずっと東にある。砂漠の真ん中にある、マエサ=マナという場所でな」

「うんうん」

「そこには俺と同じように、黒い尾をした仲間達が暮らしている」

「へー。ねえ、砂漠ってどんな所なの? あのね、アニメで見たことあるんだけど、砂がいっぱいって不思議だなあ」

 アニメがなんだか分からないが、質問されたので考える。

「砂漠といっても、砂礫だ。砂と岩石が多いんだ。赤い砂でできているから、赤砂荒野という。赤い砂の大地が、視界いっぱいにどこまでも続いている。空には双子月が光ってる」

「なんにもないの? 飽きない?」

「毎日、移り変わる。風で砂が動いて、砂紋ができてな。それが波のようだと、母親が言っていた。ガキの頃は波がなんのことだかわからなかったが、初めて海を見た時に、そういうことかと理解した」

 大して話すこともないと思っていたが、思い出すと懐かしい。

「風が強い日は、赤い砂が舞うせいで、空が赤くかすんで見える。そんな日は月も赤い。風がまったく無いと、静かなのに、どこかからサラサラと砂が流れる音がするんだ。めったとないが、雨が降ると、その日はやけに星がくっきり見えた」

 遠くを舞う岩塩鳥の姿。甲高い鳴き声。モンスターが闊歩する足音もあれば、何も無い日もある。

 淡々と話していると、隣が静かになっていた。

「もう寝たのか。早いな」

 相変わらず、静かに眠る子どもだ。

 グレイも座ったままで寝ることにした。夜中に泣かれては困る。



     *****



 赤い砂が空を舞い、静かな日にはサラサラと音を立てる。

 修太はそんな夢を見て、なんだか懐かしい気持ちで目を覚ました。

(そういえばマエサ=マナのほうにはしばらく行ってないな)

 どうしてこんな夢を見たのだろうか。

 今日は秋日だろうか、ひんやりした空気は寝心地が良く、二度寝を誘う。

 寝返りを打った修太は、隣に座っているグレイを見つけて驚いた。

「おわっ、グレイ!? あれ? ここ、俺の部屋だよな。……ん? なんで冒険者ギルドに行ったはずなのに、俺は部屋に」

「戻ったのか。これでお役御免だな」

「ん? どういうこと?」

「夜泣きされると困るから、傍にいただけだ」

 グレイはそれだけ言って、ベッドを降りて入口に向かう。

「…………はい?」

 もっと訳がわからない。

「お前が元に戻ったから、あいつは命拾いをしたな」

「命拾い? なんの話? ちょっと待って、どういうことだよ、父さん!」

 グレイはさっさと部屋を出て行き、修太は頭を抱えた。

 誰か教えて!?



 修太には綺麗さっぱり記憶がなかったが、休みなのに修太の様子見に来たリックから、事情を全部教えてもらい驚愕した。

「はあ? 六歳の子どもになってたって? ええっ、俺、何か粗相をしなかったかな」

「大丈夫だよ。いやあ、お前って昔から大人しかったのな。しかも恥ずかしがり屋で、かわいかったぞ。みんな、ほのぼのしてたよ」

「何それ! そんな話を聞かされるほうが恥ずかしいわ!」

 赤面して叫ぶ修太に、他の職員や冒険者も話に加わる。

「『キレイな人がいっぱいではずかしい』って隠れていたわよ」

「賊狩りの足に抱き着いてたぞ」

「親御さんに会いたがって、大泣きもしてたなあ」

 修太は頭を抱える。

「黒歴史としか思えない!」

「いやいや、お前はいいって。グレイが甲斐甲斐しく子どもの世話をしてたほうが、俺達には怖かったから」

 リックは手をひらひらさせる。

「微笑ましい光景なのに、本当に背筋が凍りましたよねえ」

「本当よ。君が熱中症で倒れた時なんて、死人が出るかと思ったわ」

「そういえば犯人は無事なのか?」

 彼らが話すのを聞くうちに、修太も犯人の安否が気になった。

「そうだよ、その人は? 今のところ俺は大丈夫みたいだし、法律でさばいてくれな」

「ああ、それなら、グレイが一発殴ってから、騎士団に引き渡したところだぞ」

 ダコンがひょこっとカウンターの後ろから顔を出した。

「殴ったの!?」

 修太は驚いたが、ダコンは顎をなでてしげしげと言う。

「だが、最初は森に埋めようとしてたから、だいぶマシなとこに落ち着いたぞ」

「そんなに怒ってたのか」

 攻撃されたら、即報復。そんな人なので、修太は怒り度合いを想像して、ゾッとした。

「えっと、でも、グレイが本気で殴っても即死じゃないか?」

「手加減してたが、歯が一本折れたみたいだな。ちょうど虫歯だったみたいだし、いいんじゃないか、手荒い治療だと思えば」

「えええ、そんな感じでいいの?」

 ダコンのフォローが雑すぎる。そこへグレイが顔を出した。

「シューターも殴るか? お前には権利がある」

「俺はいいよ。覚えてないし」

「弱い力でも強い威力を出すなら、物を握り込んでいるといい。それから、親指は握るなよ。骨が折れるからな」

「上手な殴り方講座はいいよ! 大丈夫だから、ありがとう!」

「もしもの時に使えるから、覚えておけ。小石がいいんじゃねえか」

「そ、そうですか」

 物騒なアドバイスに、修太は引きつり笑いを返す。

「なんて的確で、懇切丁寧なアドバイスだ。こういうのも、黒狼族流の親子愛なのかねえ」

 ダコンは首を傾げて、意味の分からないことを呟いている。

 それよりも修太は、グレイに世話をされていたということを気にした。

「父さん、ごめんな!」

「悪いのは犯人で、お前じゃねえだろ」

「いや、面倒見てたっていうから」

「普段と大して変わらなかったが」

「いや、変わると思うよ!?」

 思わず大声で返してしまった。

 幼子とは手間が変わるだろう。というか、そうでないとプライドに差し障る。

「親を恋しがって大泣きしていたのと、我慢しすぎて熱中症に……。そういや医務室の連中、あの件、誤魔化しやがったな」

 グレイの目つきがあからさまに鋭くなったので、修太はまずい事態だと察知した。

「とりあえずなんとかなったんだな! よかった! 父さん、ありがとう!」

 無理やり締めくくると、グレイはやや不満げながら頷く。

「ああ」

 リックが感慨深げに言う。

「お前、あんなに小さくてもグレイになつくんだから、びっくりしたよ」

「そうそう、シューター。お前、お化けを怖がってたぞ」

 グレイがからかうので、修太は頭を抱える。

「やっぱり黒歴史だー!」

 修太の叫びに、冒険者ギルドには笑い声が湧いた。

 若返るというおかしな事件は、中途半端に無効化した弊害ではないかと片もつき、一件落着で落ち着いたのだった。



 ……おわり。




 休みをぶちこんで書いてしまいました(笑)

 楽しかったです。

 拍手に回そうと思いましたが、一気読みのほうが面白いと思うので番外編のほうにしました。


 見直ししてませんので、修正は後日しますー。勢いで書きました!

 修太が「おかえりー」と足に抱き着くところと、グレイが故郷の話をするところが、個人的にお気に入り。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 修太がめちゃくちゃ可愛いー!!! 良い子!! 記憶喪失系とか幼児化とか大好きなので、今回の話はニヤニヤしながら読みました(笑) ちび修太は最初から最後まで可愛すぎでしたが、特にグレイが尻…
[一言] 可愛すぎて悶ました
[良い点] かわ…可愛くて…泣きそうです… グレイの子供慣れしている様子もギルドのお姉さんたち同様、ギャップ萌えです。わかってましたけどね!!グレイが同胞や、子供、正しいものに優しい男だと言うことは!…
感想一覧
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