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55.悪鬼新参

 世界に名高き夢見人の第三者アスラは、800年という長き人生に置いて数多くの著書を残している。

 その中でも最も有名な作品『三幻世界録レセルエースェッシア』にまつわるはめいは現在の世でも様々なところで活躍の場を見る。

 三幻世界とは、悪魔が住まう世界『ロクサレア』、天使の住まう世界『ルーミリクス』、神の住まう世界『バーレロー』を指し、この三つの世界は『この世界オーベ・レセル』と隣接する世界でこの世界とは異なった『概念序列ジドリックレコード』により成り立ち、その世界『ルクタフ・レセル』に住まう悪魔・天使・神ら幻士が、この世界に渡り来て引き起こす数々のエピソードを描いた作品がこの『三幻世界録』という作品だ。

 500年以上にも渡り書き続けられたこの作品は、『“人”の写本』とも言われる程にありとあらゆる人の姿を如実に写し出しているという。

 それ故に、そうあって欲しいと名を付けることもあれば、その人物の人となりから二つ名として幻士の名を受けるということもときにはあることで、ある集団を三幻世界録に借りて呼ぶことや名乗ることもまたあることだった。


※※※※


 仄暗い地下のパブで五人は、いつも最後に来る男を待っていた。

 約束の時間を二十分程過ぎた頃に、店の扉に備え付けてあるベルからカラカラと響きを失った音がなった。

「いやー、今日も全員お揃いですね。って、ヒューガがまだ来てねーじゃん!!珍しいこともあるもんだな」

 ニッドは、そのまま遅れたことを詫びることもいい訳することなく、ツァクアとその対面にファナが座っているテーブルについた。

「ヒューガはまだ来ない。あいつの集合時間はあと50分後だからな」

 隣に座ったニッドにツァクアがビンを滑らせて渡す。

 一仕事終えたばかりのニッドは渡されたビンを一気にあおった。

「ってことは、これは内輪の話ってことか」

 ニッドはここに来て初めて集まりの中身を知る。いつも集合の場所と時間の連絡が来るだけで、その内容は実際に集まるまで誰にも知らされない。

 だが、基本的には現在の状態から話題はある程度絞られるので、いつもなら確信に近い推測を持ってこの場に挑むのが常のことだ。しかし、今回のは全く持ってその推測が立たない。

 何せこの間集まったばかりだ。それからほんの数日、幾ら何でも状況が変化するには早すぎる。だが――

「ああ。さて、我らヒュストレムが“全員揃った”ということで、まずは紹介しておこう」

 その瞬間、四人が『やはりそう来るか』と若干ながら引き気味に思った。

「アルフェーノだ。実力は俺が保証しよう、“動機”も十二分。能力その他諸々は本人から聞いてくれ」

 壁に寄りかかっていた仮面の男……否、男かどうかも定かではない、全身をローブで包まれていて性別の判断も出来ない状態だからだ。これ程までに如何にもな格好はかなり目立つ。彼らが、このパブに入り店内を見回した瞬間に、壁に寄りかかるこの怪しげなやからが目にとまらぬわけがない。

 そして、その輩が自身の知り合いの付近にいるというのだから、なんらかの関わり合いがあるかも知れないという推測は立つ。

 そして、今回のヒューガを除く『ヒュストレム』のメンバーのみを先んじての招集だ。店に入ってから、もしかしたら……という予測はあった…………だが、これ程までに如何にもな格好の人間を知人に迎えるというのは些かの抵抗があるというのが正直なところだ。

 その如何にも怪しげな輩が壁から背を離し、格好とは別に実に普通の挨拶をする。

「みなさん、初めまして。この度はアルフェーノを勤めさせて頂くことに成りました。若輩者ですが、宜しくお願いします」

 流暢りゅうちょうな共国語で応えたところを見ると、出身は大国のいずれかという可能性が高い。そして、もしそうだとするなら姿を隠している理由が霊障を隠すためというのは格段に低くなる。

 となれば、この格好は益々持って怪しいことこの上ない。

 青年の声だ。声からは大分若い印象を受ける。

 声などいくらでも変えようがあるが、わざわざここまで若さを出す必要はない。どちらかと言えば、こういった場合は大人びて見せるのが普通だ。

 なら、自然とそれが肉声である筈なので、恐らく声の通り若いのだろう。

「随分と若い様だな」

 この中では二番目の年長者であるデフォイドが、思ったままを口にする。

 根本的な体力の低下なのどは避けようがないが、魔法士として生きる者ならば年を取ればその分魔法の技量が増していくのは道理だ。となれば、肉体の衰退を補って余りある技量を身につけているというのが自然だ。

 更に魔導器官れいたい自体に加齢による衰退はない(魔導器官の機能低下は、魔粒子による弊害なので加齢とは無関係であるので例外)。

 それため一般的には年齢と技量が比例関係にあるという認識にもなっている。

 勿論、限度はある。どうあっても脳の衰退は否めない。“魔法士としての究極の衰退は思考の低下”。つまり、脳の衰退だ。

 魔法を維持し続ければ一定レベル――現在の日本に置ける魔法師の平均寿命は百歳を超える――までは問題ないが、老齢になるとある日突然精細を欠くようになり、本来の肉体の限界に直面して死に至る。まるで、電池の様な一生の終え方をするのが今の魔法師の一番多い生き様だ。

 デフォイドは実年齢は四十の半ばなのでまだまだ現役、年齢だけで考えれば人によっては若僧とさえ言えるくらいだ。よって年長者と言っても、彼の言葉に含みはない。

 含みはないが、驚嘆きょうたんの思いはある。

 

 この目の前の仮面の輩は、メンバー一人一人が一国を左右する実力者揃いのヒュストレムに、その若さで入ったというのだ。何らかの関心はあって当然だろう。

「ああ“相当に若いぞ”。まあ、ヒューガが来たら色々わかるさ」

 っと、この輩の事情を知るツァクアが含みを持って笑いながら応えた。


※※※※


 ヒューガが重い扉を開くと酒を酌み交わし賑わう店内で、沈んだ一角を見つけるのに時間は掛からなかった。

「遅れたか? 時間通りだと思ったんだがな」

 既に来ていたニッドを見ての発言だが、ニッドがそれを気にした様子はない。

「いや、時間通りだ」

 ツァクアがそれに応えて、飲むか? っと訊くように持っているビンを傾けた。

 ヒューガはそれを手で制して拒否の意を表し、席に着いた。

「それじゃ、ヒューガも来たことだし、リューダがコウモリから得た情報を元に今後の方針について協議といこうか。っと、言いたいところだが、その前に先ずヒューガに紹介しておこう。

 俺たちに新しいメンバーが加わった。“お前が殺した前任のアルフェーノ交代要員だ”」

 すると隣のテーブルに座っていたアルフェーノが席を立ちヒューガの前に歩み寄る。

「アルフェーノだ。君の噂はかねがね、会えるのを楽しみにしていたよヒューガ」


「これは、何かの冗談か?」

 ヒューガはアルフェーノではなく、ツァクアを不透過の眼鏡越しに鋭く睨む。

 一瞬の出来事だ。瞬き一つを終えた目の前には、普段袱紗に仕舞い込んである刀まで抜刀してツァクアの首に宛がうヒューガが写し出された。

 兼蔵かねくら未綴みつづり紫士焔ししえん陽向ようこう』:兼蔵陽向、名刀の中の名刀たる最上大業物の一振り。この刀は神具しんぐ級の法具であり、本来日本のある一族に宝刀として代々受け継がれてきた一振りだ。

 ヒューガがこれを遊び半分で抜刀することなど有り得ない程に物騒且つ心強い代物だ。勿論前者は相手にとって、後者は自分にとってである。

「何の冗談でもないさ」

 それに応えたのは、問われているツァクアではなくアルフェーノだった。

「気に入らないな。その声、そのしゃべり方。俺の知り合いに酷似し過ぎてる」

 刀を下げぬままに首を反対側に向けてアルフェーノと対峙する。

「そりゃそうさ。お前のその知り合いというのは俺の同胞きょうだいなんだからな」

「キョウダイだと?」

「ああ。もっとも、彼は俺見たいな失敗作なんて知らなかっただろうけどな。奴は唯一の成功体、俺は“唯一の失敗体”って訳だ」

「成る程、冗談じゃないのは本当の様だな」

 話が一段落したかと思いツァクアは少々気を抜いた。

 ツァクアは例えヒューガがほんの少し力を入れれば首が飛ぶ程の状況だとしても、それを打破出来る自信はある。だが、間近に少なくない危険が迫っている状況に変わりはなく、自然とそして万が一のためにも神経を研ぎ澄ませていた。

 だが、ヒューガがアルフェーノの存在に納得した様に見えたので、気を抜いてしまった。

「だが、それがどうしてここにいる」

 ヒューガの話は終わってはいなかった。

 話はまたツァクアに振られて、刃は肌に触れるまで近づけらた。

「俺が引き込んだのさ。ある伝からこいつのことを知ってな」

 しかし、この程度のことで動揺する程脆弱な神経はしていない。

 刃が肌に当たる冷たい感触を漢字ながらも平然と応える。

「なんのために?」

「理由……? 理由を問うか、俺たちに? ッフ、ハッハッ八――」

 ツァクアは大きく笑う。ヒューガを馬鹿にする笑いではない。心底可笑しいから笑うそんな豪快な笑いだ。

「俺たち『ヒュストレム』にある目的なんてものは決まっているだろう。それ以外に俺たちの存在する意味も価値もない。

 そう、俺たちの目的は“世界の救済”。それ以外には何の執着もない。俺たちにある全ての意味は全てそこへ回帰する」


※※※※


 凍夜の使うジャイルも三幻世界録の中の悪魔の名称を借りたものだ。

 音を使い人をかどわかす悪戯好きの最低級の悪魔。作中での扱いは極々小さいもので、一度読んだ程度でこの名を憶えている様な者は先ずいないだろう。


 ヒュストレムというのも、ロクサレアの住人だ。

 ロクサレアに存在する最高位級悪魔:琲悪魔はいあくまの一人ヴェクリフォーデが筆頭に立つロクサレア最大の魔群、その中の次高位級悪魔:君珠悪魔きんしゅあくまの十四将の一人がヒュストレムだ。

 ヒュストレムは、“裏切りの悪魔”として鮮烈的に印象に残る悪魔で、一度読んだだけでもその名を覚えている者は多くいる。

 日勤だったり、夜勤だったりで体が馴染めず、更新が滞っておりますが、必ず完結までこじつけます

 いつになるかわかりませんが、気を長くして待って頂ければ幸いです


 因みに、今更なのですがこの作品、作品の傾向としましてはラブコメのつもりはありません

 恋愛は押すところですが、コメディではないつもりです

 その時点で、コメディだと言われる可能性はありますが、まあ、全ては最終段階までいけば分かるかと思いますので、最後までお付き合い願えることを切に願います

 

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