2.初登校は、お約束!?
今日は四月一日、高校の入学式の日。
朝食を食べ終えた二人は、仲良く登校する。
(はぁ~、やっぱり、いつもにも増して見られてるよな)
色々と心当たりが有り過ぎて少々滅入りながらも、ポーカーフェイスを崩さない兄・凍夜。
(やはり皆様こちら見てますわっ!! お兄様が国立に入られたのですもの、それも無理からぬことです!!!)
こちらは視線の意味をかなり見当違いに解釈し、いつもなら一人で登校しなければならない通学路も、今日からは愛する兄と一緒に居られるとあって、傍目から見てもウキウキとした表情で登校する妹・小夜。
二人の登校シーンは、どこからどうみても兄妹のそれには相応しくないものだった。
凍夜の左に小夜が並び、凍夜の左腕を取り、小夜がその腕を抱きかかえるようにして絡めて、凍夜の左肩に頭を寄せて歩く様は恋人同士にしか見えない。
しかも、敢えて言うのなら、こんな白昼堂々往来の真っただ中を行くのだから、バカップルと言っても差し支えないだろう。
しかし、始めはただ呆気に取られていた面々も、次にその二人の顔を見比べて、驚きや懐疑的な視線に変わっていく。
始めに見るのは、やはり人間は美しいものが目に付きやすいのだろう、妹の小夜へとその視線を集中させる。
小夜に目を向けては皆見惚れてしまう。
健康的な印象を失わないのにとても白い肌、小顔で綺麗にバランスのとれた顔、その顔立ちに良く似合い、見た目で染めたものではないと分かる少し赤みがかった茶色の長い髪。
思わず同姓であっても、見惚れてしまうその容姿は紛う方無く『美少女』と表現できるものだった。
そして、その美少女がこれほどにまで歓喜の表情を露わさせる相手はどれほどのものか? と隣をみれば、背丈は180程度あり、体格は華奢ではなく、ガッリシともいえないまでも少女を傍らに寄せて歩いても違和感がないほどにはいい、だが、顔の方はと言えば、正直に『悪くわない』っという程度だ。
彼単品で見るならそれほど悪いという印象は受けないほどには整っている。
彼のかける眼鏡が明らかに特殊レンズで目は外からは見えないようになっている点から、少々暗い印象はあるかも知れないが、それでも、顔の善し悪しの表現するなら、下は『中の中』から上は『上の下』というくらいの表現をしていいだろう。
だが、隣に並ぶ相手が誰もが認める美少女たる小夜であるがために、彼の印象はいつも冴えないや地味というものになり、小夜への関心が強いものからは、ブ男っという扱いまで受けてしまうのだった。
(慣れているとはいっても、この視線はな……なんか、いつもよりキツイ気がするし、校舎も近くなって来たから)
ポーカーフェイスはそのままに、内心では視線に冷や汗をかきつつ思考し、
『学校が近くなって来たから、そろそろ離しなさい』
そう声を出そうと横の小夜に視線を向ける。
だが、そこには歩き始めた頃よりも、更に嬉々とした表情を浮かべた小夜がおり、何も言えなくなってしまった。
結局、突き刺す――ような、というにはあまりにも厳しい――視線に耐える凍夜であった。
色々な状況の所為でそう言った視線に鈍感になってしまった小夜は、兄の内心も知らず、『お兄様と一緒の登校』を満喫した。




