第七話 泣いてもいいよね、女子高生だもん
魔法の本の中とは思えないくらい、この空間の中には部屋があった。
最初に入った時に使った更衣室の隣には、脱衣所とお風呂場があった。
その狭い脱衣所に入るとおじじ達の声が消えた。
えっ? なんで聞こえないの?
(言ったであろう。一応は女子、あの娘とて配慮する所はさせたのだな)
脱衣所を一度出てみると、エラじいが勝ち誇って教えてくれた。
{トイレも見えんし、聞こえんから安心せい。まあ、あのおかしい娘ではなく、配慮させた双炎に感謝するのじゃぞ}
あれ? あの部屋に、あの女以外に誰かいたの?
あたしとしては、トイレも覗かれないで済むのはホッとした。
三人も変態おじじを抱えて、生きていくなんてありえないし。
双炎とかいう別の女の人がいて、あの非常識な女に注意してくれたみたいだ。
[スイッチで切り替えることで、召喚の役目を果たすのだな。今はオフのようだ]
ヘンじいが、またワケのわからないことを言ってる。
お風呂とトイレは明かりのスイッチとは別に、おじじ達をボタンひとつで出し入れ出来るみたい。
(嫌な言い方をするでないわい)
エラじいが偉そうに文句を言った。本当のことなんだから仕方ないじゃん。
{個別の部屋にもあるようじゃが、ホレ、そこに魔晶石置き場があるじゃろう}
クサじいが、今更思い出したように言う。
廊下になるのかな。壁にデパートにあるような硬いガラスケースの扉があった。
[ふむ、魔力循環を二重にする事で、利便性と効率化を図っているのか]
だからヘンじいの説明はわからないのよ。物理の先生みたい。
{魔銃などの能力で回収した魔晶石の欠片が、勝手にここに集まるようじゃな}
仕組みはよくわからないけど電池みたいなものかな。それならあたしでもわかるよ。
[ふむ。魔力の効率集積化を魔本で代用しているのだな]
自分だけわかる小難しいことを、一方的に喋るヘンじい。
小声でも、わからない話しって耳障りでうるさいのよ。
(分かるように言うと、どの部屋にもそこから魔力供給が行われておる)
{うむ。例えば風呂しか使わないなら、大元は消して、個別の魔力装置で動かせるわけじゃな}
う〜ん。なんか、やっぱりあたしの世界の電気みたいだね。
お風呂場の魔法の石を置くケースで試してみた。
近くのスイッチを押す······と、お風呂場の中のボタンが光りだした。
おじじ達が色々うるさかったけれど、こちとら現役女子高生だよ?
元の世界と使い方が近いものなら、なんとなくわかるよ。
さっそく入ろ。お風呂場のスイッチの一つを押すと、壁から石板のようなものが出てきた。
お好みの熱さや、水量とか決められるみたい。
他にもなんかサウナやミストやシャワーとか、機能が沢山あるみたいだね。
あたしはなんとなく、勘で操作してお湯を張るスイッチを動かす。
お風呂場からお湯の出る音がした。
魔法で一瞬じゃないんだぁ、そう思ったけれど、いい香りがしてきた。
湯船にお湯を満たしながら、温泉の素を混ぜていたのかもしれない。
どこかにセットするのかな。
この世界は、キモゴブと戦わされたり狼に襲われたりする。
でもさ、持ち歩けるホテルのようなものとか、あたしのいた世界より凄くない?
妙にお風呂やトイレだけは、こだわりが強いし。
さっき使った時は、ヒャッ?! って思わず叫んじゃったよ。
脱衣所で服を脱ぐ。洗濯籠のようなものに制服を置いた瞬間、吸い込まれるように消えた。
更衣室に着替えはあるけどさ、制服ないと困る。
あたしを証明出来るのって、制服しかないんだもん。
鞄にスマホとかお財布とか入ってたからね。
おじじ達がいると、あ〜だこ〜だうるさいので、お風呂場は静かでいい。
お湯が温かく柔らかくて気持ちいい。微かにリラックス出来る薬湯成分が入ってるみたい。
あっ、身体を洗わず入っちゃった。お父さんやお母さんがいたら怒られたね。
······安らぐけど、孤独なのが寂しい。
悲しくてあたしはようやく一人静かに泣けた。
慰めてほしいんじゃないんだ。
何でこんな事になったのか、自分でもわからなくて泣きたかっただけだから。
お風呂でお湯に浸かりながら、泣いて弱音を吐き出したらスッキリした。
あたしはバカだから、また泣くと思う。
でも、いいんだ。泣きたい時に泣けば。
我慢した結果がこれだもの。うるさいけど、おじじ達がいてくれるから、まだマシだと思えて来たよ。
――――本当にうるさいけどね。




