第三十話 聖女の条件
「貴女達には、わたし達と一緒にローディス帝国という国に向かってもらうわ」
錬生術師と名乗る目の前の女が、そう告げた。
荒野のダンジョンから出たはずなのに、なんか見覚えある部屋だった。
どうなってるの、この部屋は。
「前に話したわよね。貴女達は本来ならそのローディス帝国で召喚予定だったって」
頭が湧いてるのかな、この女。なんでここにいるのか説明がないし。
たしか結局バスで事故に遭って、あたし、聖奈、七菜子、信吾にモブ男達が召喚されるんだっけ。話しは聖奈からも聞いた。
でも帝国?
なんでそんな国に行くのか、それもまったくわからないよ。
(大方わしらに説明して、話した気でいるのだな)
{うむ。こやつは仲間に自分の考えがすぐに伝わるせいで、みんながそうだと勘違いしておるわい}
[ふむ、ゴブリンでも分かる読み書きから教えぬとわからぬだろう]
ん、最後のヘンじいだけあたしをディスらなかった?
「まあいいわ。簡単に言うと、帝国には四人の皇子と一人の皇女が器として育てられ用意されていたのよ」
「それって数が合わなくない?」
「そうよ。乗り移るのが男か女かはともかくとして、器は五つ。あぶれたものは、召喚による強化を得られないままやってくる事になるから大した力を持てないわけ」
あたしは聖奈と顔を合わせる。
「気がついた? そうよ、咲夜があぶれる予定だったの。異界から呼ばれた強者や勇者って、突然の力に酔いしれ制御出来ない」
モブ男達がそんな事言っていたっけ。すごく傲慢になったりハーレムを築きたがるって。
「実際そこまで好き放題出来る力を持つのは、貴女達の世界でも有名な人物とかよ。庶民が力を得るより、何かを成し遂げたような人物の方が優れているに決まっているもの」
ただ制御が困難になるらしい。
(リビューアはそうして生まれた国じゃった記憶があるが、さて)
他にも成功だけど失敗して滅んだ国は、結構あったそうだ。
「それで、咲夜と私が帝国にいたらどうなったと思うの?」
聞かなくてもわかる。あの状態で呼ばれたのなら、間違いなくあたしはいじめを受けた。
聖奈もそう思っていたようで、うなだれる。
七菜子はわからないけど、信吾あたりを中心に酷い目に合わされていたはずだよ。
「現実はもっと残酷よ。おそらく、最後の戦場に駆り出されて、貴女達は魔王様や魔女さんの部隊に討たれただろうから」
あたしの両親を慕う、家族のような人達があたしにいて、ローディス帝国と戦っている――――――――
――――――――実際は見ず知らずのあたしを守るために。
攻め込む彼らをただ絶望させ、嫌がらせをするためだけに、あたし達は戦わされ殺される予定だった。
ただそれを嘲笑うために。
「そんなの、酷すぎるわ」
「そういうやつが貴女達の敵なのよ。現に成功しかけて、ギスギスしてたでしょう」
ぐぅ。そうなっていたから何とも言い返せない。
「まあ、そうさせないために、魔女さんが動いて、わたしにこんな真似させたのよ。理不尽よね」
この女も被害者だったのか。少しもそう見えないけれど。
「それはわかったけど、私の身体どうなってるのよ」
聖奈の身体が無駄に高性能な理由はあたしも知りたい。
「あぁそれは、後で信吾とやらに見せつけるためよ」
意味がわからない。
「会えばわかるわよ。眼鏡男子君もそうだったのよね。あいつら、自分の性癖が歪めて伝わるの嫌がるのよ」
だから意味がわからないって。
(嫌がらせには嫌がらせを返せと言うことだ。傲慢なやつには効くぞ)
さすがエラじい。いつもエラそうだからわかるのね。
(わしはもっと品があるわ)
すぐ怒る。でもそれで信吾にダメージになるなら、覚えておかないとね。
「魔力制限は、解除しておくわよ」
聖奈の身体からあたしにもわかるくらいの魔力が、溢れ出した。
「それで自分の身体を浄化の光で包みなさいな」
穢された聖女。苦しみを知った今だからこそ、宿る光もあるようだ。
「いい、絶対に貴女達を貶め力づくで来るはずだから、その聖剣を見せつけてこの〇〇野郎とでも言ってやるのよ」
この女と話していると、どっちが悪いのかたまにわからなくなる。
あたしと聖奈は、ロブルタ王国という国の偉い人達の乗り物に同乗して、ローディス帝国を目指すことになった。
浮揚式陸戦車型という乗り物はあたし達の世界より進化していて、馬車として馬にも引かせる事もあるのに、車輪がない。
技術に色々優れているのに、ちぐはぐな気もした。
[魔法文明は超期的進歩を約束する反面、魔力なしでは一気に衰退するのだな]
{不便さもあえて残しておるのじゃよ}
珍しくヘンじいとクサじいの役割が入れ替わる。
便利が一番とは限らないのはわかる気がするよ。
――――――――こうしてあたしと聖奈はロブルタ王国の人達と少しずつ会話しながらローディス帝国領へと入った。
あたし達をこんな目に合わせた元凶を叩くために。
絶対にこの手で悪意あるものをぶっ飛ばしてやる、あたしはそう心に誓ったのだった。
――――――――そしていざ、信吾が乗り移ったというセティウス皇子という男と対峙したとき、目に涙をためこちらを見る少女の姿をみつけた。




