第二十二話 はぐれもののキモゴブ
なんだかこの所、上等な服を着た喋るキモゴブに付きまとわれてる。
すでに二度ほど仕留めたのに、現れるたびにニタァッて笑って気持ち悪いのよ。
「私よ、聖奈だよ」
······って。まるでお父さんに聞いた事のある、オレオレ詐欺の女の人バージョンみたい。
{いや、本人なんじゃと思うがのぅ}
クサじいともあろうお方、知恵者のおじじが何を言ってるんだろう。
あたしを突き落として高笑いしていた娘が、こんな所にいるわけないじゃない。
また、あたしを騙してからかうつもりなんでしょ。頭は悪いけど、あたしも少しは学習するの。
逃げた冒険者達はあれから姿を現さないし、相変わらずキモゴブ達と狼は襲ってくるし最悪よ。
(ややこしい事になっとるが、問題はなかろう)
殺しても死なない不死者っていうのもいるらしい。要はゾンビね。
岩で固めた檻を作ってとじこめたら、流石にしばらく現れなくなった。
でもしつこい上等キモゴブは、ハンマーを、引き摺るように持っていた。
岩を自力で破壊して、脱出してきた。
もの凄く血走った目で見て来るから怖い。
仕方ないので落とし穴を掘って、落ちた所を岩で塞いだ。
穴を掘って登ろうとすれば、岩が崩れて潰れるはずだ。
あっ、駄目じゃん。死ぬと何故かピンピンになって戻ってくる。
ゾンビって、吹っ飛ばしても元に戻るんだっけ。
壊せないくらいの固さに、魔法の弾で固めればいいかな。
{岩より固めるならば、大地の魔法の弾を使うのじゃ。その上から風の弾で衝撃を吸収させてみるとよいぞい}
クサじいのアドバイスで、穴を掘ったあと、魔銃の弾丸で加工してみた。
(強い魔物を倒すにも役に立つぞ。覚えておくが良い)
エラじいが何もしてないのにエラそうだ。エラじいだからいいけどさ。
魔法で固めた穴は、上等キモゴブには壊せなかった。
なんか言われてみると聖奈に似ている。なんであんな重たいハンマーを武器にしてるんだろ。
再び穴に落とされ、必死に壊そうと重たいハンマーをガツン! と打つ。
でも魔法で固いし、ハンマーだとクッションを殴るようなもので壊せないんだよね。
これで追って来ることはなくなるかな。
[ふむ。安らかなる眠りよりも、孤独と衰弱による眠りはより精神を摩耗させることになるな]
ヘンじいが嫌な事を言い出した。餓死するのは確かだけどそう言われると、あたしも気になるじゃん。
なんか惨めに涙と鼻水垂らしながら、持ち上げるのもやっとなハンマーを振るう姿が見てられない。
なんでこのキモゴブはあたしについて来るんだろう。
(身なりの良さから、使役していた主を失ったはぐれゴブリンかもしれん)
{うぅむ、あのハンマーは主の形見という事かのぅ。仕える主を求めてさまよう憐れなゴブリンじゃわい}
そうなの。でも、死なないし、キモいし聖奈に似てて嫌なのよね。
でも······あんな必死な恥をさらした聖奈は見たことがない。
もしかして聖奈もうっさいおじじ達をあの頭のおかしい女に押し付けられたのかな。
おじじ達がギャアギャアうるさい。音量オフ機能壊れてるよ。
ひとまずあたしは聖奈に似た上等キモゴブの話しを聞いてみようと思った。




