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【過去編 白狼の記憶】第14話目 秋実の告白(後編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

 白狼は溺れていたかのような慌てて息を吸い込んだ。

 上体を勢いよく上げると部屋は明るかった。



「くそっ、またか!」



 昨日白龍と会った部屋へ急いで走る。部屋の戸が開いていたのでそのまま勢い入った。



「またお茶に何か入れましたね! やめてください!」



 白龍は白狼を見ている。



「今日は元気だな。お前さんが一人で寝るまでは茶を飲んでもらう。どうせ飲まないと自力で寝れないんだ。仕方あるまい。」

「⋯⋯分かりました。」



 食事が終わると部屋に戻った。また外を眺めて座っていた。

 夕方になると沈んでゆく太陽とその代わりに覗いてくる闇と共に白狼の心に悲しみが襲ってくる。思わず唇を噛もうとした。



 ”唇を噛むのはやめろ。傷口を作ることは自分の弱点を作るようなものだ。”



 急に秋実の言葉を思い出す。

 夕餉ではまた目が腫れた顔で白狼がやって来た。食事を食べ終わると白狼は白龍に聞いた。



「白龍殿、悲しみを無くす方法はあるのでしょうか?」

「ない。もしあるとすれば悲しみを悲しみと思わないようにするか忘れたフリをするかしかない。悲しみは消えることはない。ただ捉え方は変えることが出来る。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「⋯⋯聞かぬのか?」

「その方法は自分で見つけるしかなさそうなので聞きません。」



 白狼は白龍に強い目を返した。白龍は白狼の目を見ると満足そうな顔をした。

 そして白狼はお茶の湯のみを持つと勢いよく飲んだ。




 次の日、白狼は起きると飛び上がって白龍に会いに行った。部屋へ入ると白狼は白龍を見た。



「白龍殿、影なしの里へ帰らせていただけませんか? 道は知っておりますので一人で帰れます。」

「ならぬ。秋実はお前さんを1週間後に迎えに来ると言った。約束は守れ。」



 白狼は口を尖らせて不満そうな顔をしている。そのまま白狼は座り直すと顔を上げた。



「白龍の里は毒で有名だと聞きます。私が覚えて良い知識はございますか?」



 白龍は白狼を少し見ると口角を上げた。



「帰れないと分かると今度は持ち帰れるのものを探すのか。ふむ白狼、お前さんには特別に教えてやる。秋実と春樹以外の者に口外するなよ。たつみ、後で時間のある時に教えてやれ。それから数日ほど俺は任務に出掛ける。約束の日までには帰ってくる。夜は居ないが勝手に帰るなよ。」

「はい、秋実先生との約束ですから。」



 白狼は口をへの字にさせた。

 たつみは肩を震わせて咳払いした。





 約束の日の明け方、白龍が任務を終えると白龍の里に向かった。白龍の里が見える山の中腹で立ち止まった。白龍は木に向かって声をかける。



「まだ夜も開けてないんだが、ちと早くないか?」



 秋実はスッと木の影から姿を見せた。その奥に春樹もいる。それを聞いて秋実は口を尖らせている。



「白狼に会いたいんだ。」

「白龍殿は任務でしたか。」

「そうだ。⋯⋯白狼は頑張っているぞ。芯は強いな。」



 白龍は口を緩めた。するとだんだんと夜が白んでくる。太陽が空にのぞかせ始めた。



「秋実、一緒に行くか?」

「おう!」



 白龍の家に入っていつもの部屋へ三人は向かった。秋実は普段食事をとっている部屋を覗いたが誰もいなかった。



「なんだ、まだ寝てるのかな?」

「⋯⋯先生?」

「白狼!」



 その声を聞くと声の主を確認するように秋実は勢いよく振り返った。白狼は食器を乗せた盆を両手で持って目を丸くしていた。白狼の持った盆は傾き始めた。それを見て春樹は慌てて白狼の盆を掴んだ。



「おっと落とすなよ。俺が持ってやる。」



 白狼は盆から手を離すと一目散に秋実に近づいて、秋実を見て嬉しそうな顔を向けている。すると秋実は屈んで白狼の顔に近づけいた。秋実は白狼に笑顔を向けた。



「良かった。元気そうだ。」

「先生に心配かけたくないから⋯⋯。」



 皆は朝餉を食べることにした。

 食べ終わり食器を片付けると白狼は秋実の目の前に正座した。それを見て秋実は白狼を見て頷いた。しかし白狼は下を向いた。そしてぽつぼつと言葉をこぼし始める。



「秋実先生⋯⋯僕はまだ心の整理はついていません。」



 拳を力強く握る。そして白狼は顔を上げた。



「それでも先生と最後の日までずっといたいんです。少しずつ整理するので先生といたらだめですか?」



 白狼は言い切ると口をぎゅっと閉じて秋実を見ている。秋実はその白狼の姿をじっと見ながら感情を心から直接出すように口を開いた。



「良いに決まってる! 俺だってお篠のことを完全に割り切ったわけじゃない。もう20年以上前のことだぞ? それに駆のことだって⋯⋯整理出来てないことばっかりだ。白狼にとっての答えは今伝えてくれたことだ。それでいい。」



 その言葉を聞いて、白狼は目を潤ませながら秋実の手をぎゅっと握った。

 朝餉を終えて片付けると白狼は白龍の正面に姿勢を出して座った。白狼は白龍の目をまっすぐ見た後、頭を深々と下げた。



「1週間、ありがとうございました。また大変お世話になりました。」

「おう、白狼、よく頑張ったな。お前さんは秋実のようには出来ないと思うが言わないで後悔するようなことだけはするなよ。その時はもう二度と帰ってこない。⋯⋯これは俺の経験談だ。秋実は何でも聞いてくれると思う。」



 そう言いながら白龍は優しい目で白狼を見つめた。もう一度、白狼は真っ直ぐした目を向けると深く頷いた。秋実は白龍を見て感謝した。



「本当に世話になった、心から感謝する。龍堂も言いたいことがあるなら俺に言っていけよ。」

「いくら言っても言い足りないから、また来い。」



 白龍は優しげな目を秋実に向ける。

 それを聞いた秋実は白龍に笑顔を向けた。

とうとうこの回がやってきてしましました。心がずんと重たくなりますが白狼はどうしていくのでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「毎日がこんなに楽しいものだと思わなかった。お前は俺に会って救われたって思ってるかもしれないが、救われたのは俺の方なんだ。」

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