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第36話-2 洒落頭(しゃれこうべ)との接触(後編)

少年は姿を消す。すると瞬には少年の声だけが聞こえた。



「じゃあこんなのはどうかな?」



瞬は辺りを見回すが森の中には瞬だけになっていた。次の瞬間、みぞおちに衝撃がくる。



「ぐあっ!」



防御が間に合わず直撃する。続けて右頰に衝撃がくる。そのまま左の方へ身体が流れる。すぐに体勢を戻すと瞬は両腕のガードをあげた。見えない敵が次々と攻撃してくる。このままでは一方的に攻撃されてしまう。そう考えていると今度は左脇腹にミドルキックがくる。



瞬は脇腹の痛みに耐えて、無効化を使う。左から何か来る気配がした。瞬はガードをあげ腕を顔に近づける。無効化では近くの気配と直前に手や足が見えたのだ。しかし見えるのが直前すぎてガードしきれない。瞬は攻撃を受けるほうが多かったのだ。瞬は何度も見えない敵から攻撃を受けてだんだんと全身に痛みを感じ始めた。



そして攻撃を受け続けた疲労もあり膝がかくっとしてバランスを崩すが、なんとか踏ん張り倒れるのを避けた。しかし瞬の足は疲労で震え始めていた。見えない敵からの攻撃が止んだ。瞬は顔を上げると少年の姿が見えた。

少年がまた瞬の目の前にやって来る。そこで瞬は少年を睨みつける。少年はそれを見てまたゾクッと身震いした。



「瞬、そんな目で見ないで。僕興奮しちゃう。」



少年は自分の両腕を抱いた後、腕を解き警戒もせず腕を組みながらくるくると瞬の周りを歩いている。



「楽しいなー。瞬が僕を見てくれる。ずっと僕を見ていてほしいなぁ⋯⋯」



そう言う少年の声音は弾んでいる。少年は何か考えているようだった。何かを思いついたのかピタリと歩みを止めて少年はこう言いながら瞬に尋ねた。



「そうだ!これはどうかな?」



少年が瞬の方へ身体を向けたまま立っていると、森の奥から誰かが歩いてくる。瞬はただ立ちながらその姿を見ていたが、その姿がはっきりしてくると瞬は目を見開いて全身に力が入った。瞬はその姿がから目を離せなかった。すると瞬の口からこぼれた。



「⋯⋯じいちゃん!」



瞬の目には悲しみと驚きと嬉しさが混ざっているようだった。少年はそれを見て顔を輝かせた。



「あはっ!これかぁ。見た目しかそうじゃないんだけど、人形でも勘弁してくれるかな?」



少年は興奮したように頬を赤らめて嬉しそうに声を上げた。じいちゃんは走り出すと瞬に攻撃を始めた。瞬は一瞬悲しそうな顔をした。幻術だとわかっていても身体が反応してしまう。少年は前のめりになって瞬を見ている。そして楽しそうに大声でこうねだる。



「瞬、もっといろんな顔を見せて!」



瞬はストレートパンチを繰り出そうとした。しかし直前で止まってしまう。本物ではないと頭では分かっていても身体がじいちゃんを傷つけることを拒んでくる。するとじいちゃんの人形から瞬の顔にパンチが来る。瞬はガードをするしかなかった。じいちゃんからミドルキック、ボディーブロー、ハイキック⋯⋯。



瞬は両腕でガードして耐える。何度も来る攻撃をガードするしかないので、しばらくするとその前の攻撃の疲労もあり瞬は膝をついた。体の疲れだけではない。どうしてもじいちゃんの姿をしているので身体に変な力が入ってしまう。心身の疲労に瞬は肩を震わせはじめた。その様子を少年は近くの木の上から見ていた。そして少年は興奮で身体を震わせている。



少年はうっとりと瞬を見た後、下を向いて興奮を抑えようとしている。しかし次第に息が荒くなってくる。そして少年は顔を上げた。少年の頬は興奮しているためか少し赤らんでおり焦点の合わない目を瞬の方へ向けてこうこぼした。



「瞬、僕もう我慢できないよ。」



すると瞬を見下ろして少年の右腕はどんどん大きくなる。腕はどんどん細くなる。その後、肉がなくなり白い骨が見える。大きくなった手はどんどん肉がなくなり骨と化す。その骨だけになった手は指先が尖っている。そして少年は骨だけになった指を揃える。大きな骸骨の手だ。少年は木からストっと降りると瞬を正面に捉えた。少年は大きな骸骨になった右腕を後ろにゆっくり引き右手の指を揃える。



「君の心臓を鷲掴みさせて!」





霜月は移動していると強い幻術の力を感じた。霜月は辺りを見回して幻術の在処を探した。黄龍の里長・黄龍を凌ぐ幻術使い。僕より強いかもしれない。霜月は幻術の力を感じてから随分探したのだ。そして霜月は幻術を跳ね返す力を手から放つ。手応えがない。こんなに強い力なのにまだ近くにいないようだ。



「どれだけ強いんだ。」



思わず言葉をこぼした。先ほどよりも全身に圧倒されるような大きな力を感じる。霜月はピクッと反応する。



「近い!」



霜月は両手を広げて力を込めた。遠くに誰かの影が見える。霜月は目を細めてその影を捉える。



「骸骨の手の⋯⋯少年?」



骸骨の手をした少年が右手を引いて構えている。そして向かいにいる者は膝を地面についていた。あれは一体誰だ?



「あっ!!」



霜月は瞬と分かると何か考えるよりも先に身体が勝手に動いた。



少年は右腕を引き切るとと待ち切れない顔で言った。



「君の心臓を鷲掴みさせて!」



少年が引き切った手をまっすぐ瞬の胸へ目がけてのばす。



「瞬、待っててね。すぐに僕が連れて行ってあげる。」



少年は引き上げた右手を勢いよく前へと押し出した。



ズチャッ!!! 少年の骸骨の手は肉を切り貫通して背中側から中指の骨が少し見えている。瞬は目を見開いていた。



なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ?



瞬は唇を震わせた。

目の前の人物に言葉を投げかける。



白狼はくろうなんで⋯⋯?」



少年の骸骨の手は瞬の前に飛び出した霜月の腹を貫通した。



「ごほっ」



霜月の口から血が溢れた。少年は骸骨の手を勢いよく引き抜く。霜月は糸の切れた操り人形のように力なくその場に崩れ落ちた。

読んでくださりありがとうございます!

次回: 第37話 霜月の秘密は1/5(日)お昼ごろ掲載予定です(日付が間違えていてすみません)。

次回は私が書きたかったエピソードです!ようやく霜月が瞬にずっと隠してきた秘密について話します。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「⋯⋯それを秋実先生は朝起きるとお早うと言い、温かい飯を出してくれて、明日も早いぞと言って隣で寝てくれた。訓練もつけてくれた。俺を強くしてくれた。自分の足で立てるようにしてくれた。そのことが俺にとってどんなに温かく心が嬉しさで苦しいくらい満たされていると思ったことは無い。」

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