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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第七章 魔界進行作戦
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07 異界抜刀術奥義

            ◆


 音もなく虚空を斬り裂く剣閃が走り、鬼人王の首を両断するわずかな手応えを私は感じた!

 だが!


「……ククク、やるねぇ」

 余裕の笑みを浮かべたままのラグロンドの頭部は、地面に落ちることなく、いまだ首の上に鎮座している。

 間違いなく、奴の首を斬った感触はあったというのに、これはいったい……。


「並みの剣撃なら弾き返す、俺の鋼鉄の皮膚を容易く斬り裂くお前の技量は大したものだ。だが、切れ味が良すぎるというのも、考えものだなぁ」

「そうか、鬼人族(オーガ)の再生能力……」

「その通り!」

 私の呟きに、ラグロンドは大きく頷いてみせた!


 奴の種族、鬼人族は巨体から生まれる優れた身体能力に加え、並大抵の外傷なら即座に回復してしまうような、自己再生能力を有している。

 そして、それらの王を冠するラグロンドは、おそらく再生能力においてもずば抜けた物を持っているのだろう。

 それによって、私が斬ったそばから、再生していったという事か。


「大魔王様の助言通り、剣速と切れ味を命とするお前の戦闘方法は、俺の不死身の肉体とは相性が悪いらしいな。斬られた傷は鋭すぎて、再生も容易だったぞ!」

 ちいっ!

 あのセコい大魔王が、余計な助言をっ!

 しかし、自分の身で私の剣を受けたとはいえ、即座に対処法を出してくる辺り、やはり腐っても大魔王……油断はできない奴だ!

 それだけ、対処法としてお出しされたの前の鬼人王は、私にとって面倒な相手だった。


「百回でも千回でも、斬りつけてくるがいい!体力が尽きた時が、お前の最後だ!」

 そう吼えながら、ラグロンドは自身の得物である、私の身の丈ほどの大剣を振るう!

 力任せなその攻撃をかわし、私は再び剣閃を(きら)めかせた!

 しかし、やはり切断した手応えはあれど、瞬く間に回復した奴の肉体は、何事も無かったかのように攻撃を続ける!

「フハハハ、無駄無駄ぁ!」

 くっ……普通に斬っただけでは、焼け石に水か!

 ならばっ!


 私は一旦、ラグロンドから間合いを取ると、抜刀術の技を繰り出した!


「異界抜刀術・五月雨(さみだれ)!」


 独特の重心移動で、あえて切っ先をぶれさせた刃が、降り注ぐ雨粒のごとく鬼人王を襲う!

「ぬっ!」

 先程は一瞬で回復していた奴の肉体だったが、私の技を受けて初めて血飛沫が舞い上がった!


「くうっ!」

 それなりにダメージを受けたのか、ラグロンドはわずかによろめいて、後ろに数歩下がっていく!

 これはチャンス!

 私は追い討ちをかけるべく、一気に踏み込んで間合いを詰めた!

 だがっ!


 ラグロンドが、チラリとみせた表情……そこに浮かんでいた感情を察した瞬間、私の背筋に冷たい物が走る!

 それと同時に、横に身を(ひるがえ)した私の側を、振り下ろされた死の風が通りすぎていった!


「ちっ……うまく誘い込めたと思ったんだがな」

 舌打ちしながら、ラグロンドが私のつけた傷口を撫でると、すぐさま出血は止まり、何事も無かったかのように皮膚は元通りになっていく。


 まったく……あきれた回復力だ。

 これでは、ギストルナーダのように真っ二つにしても、平然と復活しそうで恐ろしい。

 さすが、魔王四天王の肩書きは、伊達ではないという事か……。


「……ちまちました削り合いでは、分が悪そうだな」

 こうなれば、全精力を持って最大の奥義でケリをつける!

 そのために、私は身に付けていた魔道具を発動させようとした。


「んん?どうやら、本気になったらしいが……完全獣人化する気になったか?」

 私の本気になった気配を感じて、ラグロンドは嘲るように口の端を歪める。

「結構、結構。貴様ら獣人族は、元々は邪神様の眷族だ。その醜い獣の本性を剥き出しにして、かかってくるがいい」

 ……奴の言う通り、私達獣人族は、元はといえば邪神によって生み出された種族だ。

 しかし、長い歴史の中で人と交わり、自由な意思を得た事で邪神の元を離れて独立した経緯を持つ。

 そして、完全獣人化はその邪神配下だった頃への先祖返りのような物であり、確かにその姿を嫌う者達も少なくはない。

 生き残るために変身していたとはいえ、私もその一人だったしね。

 だけど、今は違う!


「お前の言う通り、私も完全獣人化した(この)姿は嫌いだったよ……だけど、あの子は……アムールはそんな私も受け入れて、好きだと言ってくれた!」


 ──僕は、そんなディセルさんの姿も綺麗だと思いますよ。


 はにかんだ笑顔でそう言ってくれた、アムールの事を思い出すだけで、胸の中が暖かな感情で満たされ、笑みがこぼれそうになる。

 好きな人が肯定してくれる一言は、百の嫌悪や千の侮蔑に優る事を実感したいま、ラグロンドの挑発など簡単にスルーできるほどの、心の余裕ができていた!


「フハハハ!女装好きで獣に興奮するような変態小僧に、随分と入れ込んだものだな!」

「なん……だと……」

「ククク、事実を言ったまでだろう?」

 奴の言うそれが、安い挑発だということは理解している。

 そして、そんなものに乗りはしないと、自制していたが……前言撤回だ!

 たかが魔王の分際で、私のアムールを侮辱するとは、万死に価するぞっ!


「オォォォッ!」

 溢れ出る怒りの感情と咆哮を交え、完全獣人化した私は深く腰を落とすと全身に力を込める!

 そんな、一切の回避を捨てた私の構えを見て、ラグロンドは勝利を確信したかのように、大剣を振り上げて突っ込んできた!


 そう、例え相討ちになろうと、驚異的な回復能力を持つラグロンドの方が圧倒的に有利だ。

 それを見越して、私が攻撃一辺倒になるように挑発したのだろう。

 だけどそれは、相討ちにまで持ち込め(・・・・・・・・・・)たらの話だ(・・・・・)


「受けてみろ!異界抜刀術奥義・小鳥遊(たかなし)!」


 抜き放たれた刃が、突進してくる鬼人王を斬り裂き、その足を止める!

 だが、それだけでは終わらない!

 刹那の間も置かずに、何度も何度も私の刃はラグロンドの体を捉えた!


 神速の抜刀と納刀を繰り返す、止む事のない連続斬撃!

 衝撃波をも生み出すほど絶え間ない鍔鳴りの音が、まるで戯れる小鳥の囀りように響き渡る!

 これこそが、この技名の由来!


「お……あっ……っ!」

 反撃する事を許さぬ、無呼吸連打の剣撃を受け、ラグロンドは声にならぬ悲鳴をあげる!

 それでも私は手を抜く事なく、全力をもって刃を振るった!


 ──やがて、悲鳴が聞こえなくなり、限界近くまで振り続けた刃が最後の鍔鳴りと共に鞘に納められた時。

 大剣を握る右手の先だけを残して、ラグロンドの肉体は跡形もなく消滅していた!


「……ふぅぅぅぅ!」

 深く吐き出した、私の呼気に煽られたような一陣の風が、ラグロンドの残骸を巻き込んで散っていく。

 無敵の肉体を誇った鬼人王ではあったが、連続して打ち込まれる万を越えた斬撃の前には、成す術もなかったようだ。

 まぁ、当然の結果ではあるけどね。


「……つうっ!」

 しかし、緊張が解けた瞬間、体に走る痛みに私は思わず顔をしかめる!

 身体能力が大幅にアップする完全獣人化だけど、それでもなお体にかかる奥義の反動は桁違いだった。

 ビキビキと全身の筋肉が悲鳴をあげ、グラリと姿勢が崩れる。


「くっ……」

 片膝をついて苦痛に耐えていると……ほんの少し心細くなった胸中に、恋人の姿が浮かぶ。

「アムール……」

 ああ……アムールに会いたい。

 彼を抱き締め、そして彼からも抱き締められて、その温もりと存在を堪能したい!

 そのまま、あわよくば……くふふ♥

 そんな、ささやかな欲望が沸いてきただけなのに、なんだか痛みが引いてきたような気がしてきたぞ!


「よしっ!」

 わずかに力が戻った体に鞭打ち、私は愛しいアムールを求めて、その匂いを頼りに先へと進んでいった。

 待っててね、アムール……いま私が行くから!

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