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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第四章 ドワーフ国に迫る脅威
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05 テクニシャンッス!

「ディセルさん……大丈夫ですか?」

 僕は、冷たくなった彼女の手をソッと握る。

 もしかしたら、また兄達と刃を交える事になるのかもしれないのだから、気が(ふさ)いでしまうのも無理はないだろう。

 だから僕は、ディセルさんを元気付けるために、思いの(たけ)を込めて告げる!


「ボクは、いつだってディセルさんの味方です!だから、どんな些細な不安でも、話してくださいね!」

 まっすぐに彼女の目を見つめながら言う僕の姿が、ディセルさんのキラキラした瞳に映っている。

「ありがとう、アムール……」

 ようやく微笑んでくれたディセルさんが、僕の手を握り返してきた。

「君が味方でいてくれるなら、私も本気で兄上達を斬る事ができそうだよ……」

 え……そ、そこまで覚悟が決まってしまうのは、ちょっと予想外なんですけど……。


 いや、でもディセルさんだって獣人国の姫……つまりは王族なんだ。

 そういった、身内での骨肉の争いをする覚悟は、心構えとしてあるのかもしれないな。

 とはいえ、実際にそんな事になれば彼女の負う心の傷は大きいだろう。

 なんとか丸く収まるといいんだけど……いざとなったら、僕が彼女の代わりに……。


「大丈夫よぉ、ディセルちゃん!私も協力するからね!」

「ウ、ウチも微力ながら、力になるッス!」

 僕だけじゃなく、お姉ちゃんやロロッサさんもディセルさんを包むように励ましの声をかける。

 ふと見れば、ターミヤさんも少し離れた所で、うんうんと頷いていた。

 皆の暖かさに触れ、ディセルさんから陰が晴れたような気がする。

「ありがとう、みんな……おかげで、私も腹が決まったよ」

 ええっ!?

 やっぱり、兄達を斬るのっ!?

 

 ちょっとドキドキしながら尋ねてみると、それもあるけど……と前置きした後、時期が来たら話すよなんて、なんだかはぐらかされてしまった。

 ううん、少しモヤモヤふるけど、僕の力が必要になったら、いつでも言ってくださいね!

 フンス!と気合いを入れる僕に、ディセルさんはありがとうと微笑みながら、頭を撫でてくれた。

 うふふ……。


「……相変わらず、仲がいいようだね」

 子犬みたいに撫でられている僕を見て、エルビオさんも会話に入ってきた。

「だけど、それは本当のアムールためになるのかな?」

「おやおや……勇者殿は、まだ(私達の仲を)疑っているんですか?」

 表面上は笑顔を浮かべながらも、どこか言葉に刺のような物があるような……。

 そんな二人の間には、闘気にも似た淡い火花が散っているようにすら感じた。

 仲が悪い訳じゃなさそうだけど、妙な緊張感があるなぁ。


 それにしても……。

 『本当の僕』とか、『疑ってる』とか、なにやら不穏な単語が飛び交っているな……。

 もしかして、エルビオさんは僕の正体について、何か探っているのだろうか!?

 そういえば、以前にエルビオさんに半裸状態で ぶつかった事があったし、その時になにか不審を持たれたんじゃ……。

 悪い予感が胸中で渦巻いていると、エルビオさんの仲間達がドワーフ達をかき分けてやって来た。


「エルビオさん、騒ぎの原因は……って、あら!?」

「アムールにディセルじゃん!」

「それにロロッサ達と……誰だ?」

 狩人の村での一件の時にはいなかったお姉ちゃん(マーシェリー)に興味を示しつつ、勇者パーティの皆さんは突然の再会に驚きの表情をしていた。

 そして、ポン!と手を打つ。


「……そうか、今の状況じゃディセルがトラブルに巻き込まれる訳よね」

「それに、ターミヤさんも外見的には……」

 トラブルの原因を悟ったヴァイエルさんやルキスさんも、僕達の潔白をドワーフ達に説いてくれた。

 やっぱり、いい人達だよなぁ。


 前の依頼で行動を共にした時、アムルズ()を追放した裏の事情を聞いて、正直なところ感激したりもした。

 それに、アムール(ボク)を誘ってくれたのも、光栄だと思う。

 それでも、今の僕には居るべき場所があるからとお断りしたけど……あっ。


 その時。

 以前エルビオさん達一行との別れ際で、ディセルさんから熱烈なキスをされ、醜態を晒してしまった記憶が急に甦ってきた!


 あ、あわわわ……。

 あの時の僕は、トロトロに蕩けて、情けないほどダブルピースをかましていたはず……。

 はっきり言って、ディセルさん以外にあんな姿を見られてしまったのは、恥ずかしすぎる!

 羞恥心から熱くなっていく顔を隠しながら、僕はこちらを見つめるエルビオさんから視線をそらした。

 すると、いきなりエルビオさん達は円陣を組み、ヒソヒソとなにやら話し出した!


           ◆◆◆


(なぁ……あのアムールの反応、どう思う?)

(あきらかに、エルビオさんを意識してますね……)

(初い反応ね……まるで恋する乙女だわ)

(つ、つまり僕にも脈はあるって事か?)

 エルビオの期待のこもった声に、一同はコクリと頷く。


(ここで再会したのも、チャンスかもしれません……ぜひ、アムールさんには私達のパーティに加わってほしいです!)

(うちは魔法使いがいないから、遠距離の火力が乏しいからな……)

(それに、アムールが加われば、エルビオのヤル気がすごいことになりそうだしね)

(それは、まぁ……うん……)

(ならば、エルビオさんとアムールさんを、邪魔の入らぬ二人きりにする必要がありますね!)

 なんとかリーダーの恋を成就させ、さらにパーティの戦力アップを図るメンバー達は、小さく気合いの声を掛け合っていた。


           ◆◆◆


 円陣を組んだまま、何事かを密談してる勇者一行。

 うう……いったい、何を相談しているんだろうか。

 隣を見れば、ディセルさんが険しい顔をしながら、エルビオさん達の背中を睨むように見つめている。

 彼女の耳がピクピク動いている辺り、ひょっとしたら彼等の会話が聞こえているのかも……。


 盗み聞きはよくないけど、こちらの命運がかかっているかもしれない事柄だけに、気にせずにはいられない。

 チラリと会話の内容を尋ねてみると、ディセルは難しい顔をしながら、「アムールは知らない方がいい……」とだけ告げてきた。

 や、やっぱり、相当あぶない話をしてるに違いないっ!


「あー、そのなんだ……まぁ、とりあえずは勇者様一行のお墨付きなら、スパイってことは無さそうだから、入国を認めよう」

 好き勝手なペースのこちらに付き合っていられなくなったのか、ドワーフの戦士長がため息混じりに入国の許可を出してくれた。

 だけど、すぐに「ただし……」と、言葉が続く。


「そこのスケルトンを、グアナック様の所に案内するのはいいが、獣人の娘にも同行してもらおう」

「なっ!?」

 ドワーフ達からの提案に、ディセルさんも驚きの声をあげる。

「入国を許可したとはいえ、うちの情勢は聞いていただろう?兵士の付き添いも無しに、獣人が街中をウロウロしていては、余計なトラブルを招きかねんのだ」

 む……戦士長が言うことも、もっともだ。

 それに、一番付き添いが必要がなのは、ターミヤさんかもしれないしなぁ。


「じゃ、じゃあ、僕達も一緒に……」

「悪いが、グアナック様は大勢で押し掛けられるのを極端に嫌う。関係者以外は、別に待機していてもらおう」

 僕達は、街中を自由に散策していいと言われたけれど、近くにエルビオさん達がいるこの状況がまずいのに……!


 もちろん、それはディセルさんもわかっているようだけど、そもそもドワーフの国を訪れた理由がターミヤさんのためだったから、激しく葛藤しているようだ。


「ふっふっふっ、あーちゃんの事は、私達にまかせなさぁい」


 その時。

 横から頼もしい事を口にしたのは、お姉ちゃんとロロッサさんだった!


「あーちゃんには、私達が付いてるからぁ、ディセルちゃんとターミヤくんは、安心してその名工さんのところへいってらっしゃい」

「お、お、お、大船に乗ったつもりで、安心してほしいッス!」

 若干、テンパっているロロッサさんが不安を煽る。

 けど、どん!と胸を張る二人を前に、少し迷った様子を見せた後で、ディセルさんが小さく頷いた。


「……くれぐれも、アムールとエルビオ殿を二人きりにしないよう、よろしくお願いします」

「まっかせてぇ!」

「了解ッス!」

 力強い返事を聞いて、ディセルさんも安心……いや、ちょっと不安そうだけど、ひとまず納得したみたいだ。


「では、行こうか」

 そうして、先導するドワーフの戦士長達に案内され、ディセルさんとターミヤさんは、『ニホントウ』の名工らしい人の元へと向かった。


 後に残された、僕達とエルビオさん達。

 とにかく、ディセルさんからの言葉通り、僕が一人で絡まれないようにしなきゃな!

 とにかく、勇者一行から離れるか、もしくは敢えて一緒に行動するか……そんな事を考えたいると、勇者パーティの重戦士グリウスさんが、お姉ちゃんの元に近づいていく。


「はじめまして、美しいお嬢さん。アムール達の新しいメンバーですか?」

「あらやだ、美しいだなんて……アムールの姉のマーシェリーといいますぅ」

「そういえば、どことなく似ている美人姉妹ですね……よろしければ、お茶にでも付き合っていただけないでしょうか?」

「あら~、勇者様のパーティメンバーにお誘いいただけるなんて、光栄ですわぁ」

 ちょっとおだてられただけで、誘いに乗るなんて、いくらなんでもチョロすぎる!

 それに、実年齢を考えてよ、お姉ちゃん(お祖母ちゃん)


 一方、ロロッサさんの方にもヴァイエルさんとルキスさんの魔の手が迫っていた!

「ロロッサさん!私も創造神様に仕えるものとして、冥界神様の加護をもつ貴女と、じっくりお話しさせていただきたいのですが!」

「え?そ、それは構わないッスけど……」

「アタシとしては、このでっかいおっぱいの加護を授けてほしいもんだけどね」

「ハァン♥テ、テクニシャンッス!」

 むにむにとルキスに胸を揉まれながら、脱力したロロッサさんはヴァイエルさん達に引きづられて行ってしまった。


 …………え?

 あっという間に、エルビオさんと二人きりの状況に放り出されてしまった!?

 ま、まずい!

 よりによって、僕を疑っていそうなエルビオさんと二人になってしまうなんて……。


 何を話せば良いものかと、内心であわあわしていると、エルビオさんの方から声をかけてきた。

「と、とりあえず……皆が戻ってくるまで、お茶でもどうだろう?」

 どことなく緊張した空気が漂う中、にっこりと笑いながら、エルビオさんが誘ってくる。

 だけど、僕には彼の爽やかな笑顔に、なにか裏がある気がして、それとない恐怖感を覚えていた……。

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