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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第二章 邪神教団の罠
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06 我が名はターミヤ

 ──翌朝。

 村で聞いた、森の奥に現れるアンデッドと、その背後にいるであろう死霊魔術師の調査をするために、僕達は朝食がてら行動予定の打ち合わせをしていた。

 しかし、昨日の温泉での事や風呂上がりの件で、正直なところ僕の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた……。


 まず、ヴァイエルさんからの勇者パーティへの誘い。

 どうやら、あれは本気だったらしい。

 先ほど顔を合わせた際に、「この一件が終わった時に、昨日の答えを聞かせてほしい」と、囁かれたからだ。

 それはなんとも名誉な事なんだろうけど、追放された僕が別人の女の子として出戻る……それはアリなんだろうか?

 余計に混乱を招きかねない気がして、まったく気が進まない。

 それよりも、この話が出た時のディセルさんの反応が微妙におかしかった事の方が、少し気になるんだよね……。


 そして、もうひとつの懸念。

 昨日、エルビオさんにぶつかった際に、僕の裸を見られた事について。

 結論から言えば、幸いにも僕が男だとはバレていないと思われる。

 ただ、顔を合わせてからずっと、慈愛に満ちた目で僕を見ているのが、なんだか怖い……。

 なんでそんな見守る感じなのか、真意を確認したいようなしたくないような……そんなモヤモヤとしたものを抱えつつ、いよいよ僕達は行動を開始することにした。


 村人からの話では、アンデッドが目撃されたポイントが何ヵ所かあるらしい。

 そこで、勇者一行と僕達『レギーナ・レグルス』の二手に分かれて、目撃情報のあったいくつかの場所を調べる事になった。

 大群がうろついているならともかく、数体程度ならばどちらのチームにとっても脅威には価しない。

 なら、より多く調べられる布陣の方がいいだろう……という判断からである。


「集めた情報を精査して、背後にいる死霊魔術師の住み家が特定できれば、全員で乗り込む!それまで、気を付けて行動してくれ」

 そうまとめたエルビオさんに、皆が頷いた。

 ……それにしても、なんだか勇者一行も変わったなぁ。

 僕が追放される前は、力押しでガンガンいこうぜ!って感じだったのに、こんなに慎重な動きもできるようになっていたなんて。

 やっぱり、この半年で色々な経験を積んで、変化してきたんだろうな。

 そんな事を思い、少し複雑な気分になっていた所に、エルビオさんが僕の肩をポンと叩いてきた。


「アムール、君ほどの魔法使いなら心配はないと思うけれど、くれぐれも気を付けて」

「は、はい。ありがとうございます」

 ……やっぱり、なんか怖い!

 なんで今も、キラキラした目で僕を見つめているんだろう?

 そんなにボク(アムール)は彼のパーティに加わる事を期待されているんだろうか?

 うう……でも、危険だからと心を鬼にして追放した(アムルズ)が、女装ハンター稼業にドハマリして素知らぬ顔で手戻りピース!なんて事がバレたら……。

 か、考えるだけで、胃が痛い!

 やはりこの依頼が終了したら、穏便にお断りしよう。

 そんな事を思いながら、僕は曖昧な笑みをエルビオさんに返していた。


            ◆


 森に入ってからというものの、僕とディセルさんはほとんど会話をしていなかった。

 やはり、今日の彼女の様子は変だ。

 いつもだったら二人きりになった途端に、手を繋いできたり、腕を組んできたり、僕をお姫様抱っこしようとしたりしてくるのに……。

 今のディセルさんは、鋭い目付きで周囲に気を払いつつ、匂いを嗅いで辺りを警戒をしている。


 ……いや、これが普通なんだ。

 つい、普段の彼女の様子と比べるから違和感があるだけで、戦場に近い状況にあるんだから緊張感があって当たり前じゃないか。

 それに、今のキリッとしたディセルさんも凛々しくて素敵だし……って、いけない!

 言ったそばから、僕がそんな風に弛んでてどうする!

 彼女を見習って任務に集中すべく、僕は自分の頬をペチンと叩いた。


 ──それから、しばらく警戒しながら進んだ僕達は、日が暮れ始めた森の中で少し開けた場所を見つけ、そこで夜営をする事にした。

 枝を集めて火を起こし、バッグから携帯食を取り出すと、モソモソとした食感のそれを噛じる。


「……今日は、手がかりを得られませんでしたね」

「そうだね……」

「あ、でも相手はアンデッドなんだから、夜の方が遭遇しやすいんでしょうか?」

「そうだね……」

「……」

「……」

 か、会話が続かない!

 やっぱり、任務とか抜きにして、変だよディセルさん!?


 いったいどうしたんだろう……ひょっとして僕は、無意識のうちに彼女を怒らせてしまったんだろうか?

 でも、心当たりなんて……あ!

 もしかして、温泉でヴァイエルさんに背中を流してもらった際、胸を押し付けられた時に、僕はだらしない顔にでもなってたんだろうか?

 それで、彼女が怒ってるんだとしたら……。


「ディセルさ……」

「しっ!」

 僕がディセルさんに呼び掛けようとしたその時、鋭い表情を見せながら彼女は言葉を遮った!

 そうして目線の先にある、焚き火の明かりが届かない闇をジッと見据える。

 すると、その闇の向こう側から、こちらにむかって歩いてくる、足音が聞こえてきた。


 やがて、明かりの届く範囲に、ぼんやりと浮かぶ人影。

 それを見た瞬間、僕達は言葉を失った!


 あちこちがボロボロになった、見たこともないゆったりとした服装を纏い、ベルトの代わりか、腰に巻かれた帯にはサーベルに近い細身の剣が差してある。

 長めの髪をポニーテールのように纏め、悠然とした足取りでそれ(・・)は姿を現した。

『おやおや……こんなところで夜営してるようなんで、様子を見に来たら……』

 顎に当てた指先が、カチャリとした音を立てる。

 それも当然か……。

 僕達の目の前にいるのは、皮も肉もない、動く白骨死体なのだから!


「こいつが……例のアンデッドなのか?」

 堂々と登場してきた眼前の白骨に、ディセルさんが戸惑いを見せる。

 だけど、それは僕も一緒だった。

 なぜなら、さっきのセリフといい、まさか自意識を保っているアンデッドだとでもいうのだろうか?

 でも、そんなのは闇の秘術を使って、自らをアンデッド化した邪術師くらいしかいないはずだ。

 こちらを値踏みするような態度を見せる目の前のスケルトンは、剣士としての雰囲気は持っているものの、そんな術師とは縁遠いように思える。

 だからこそ、その矛盾を孕んだ存在に焦ってしまうのだ。


『ふむ……女子供とはいえ、獣人族の戦士がいて、ただの迷子って事もあるまい』

 油断なく僕達を見据え、コリコリと顎を撫でながら、スケルトンは独り言のように呟きを漏らす。

『だとすれば、奴等の刺客(・・・・・)……か?』

 奴等?

 それは、狩人の村の人達の事だろうなのか?


『まぁ……なんにせよ、お嬢(・・)を狙う奴等は斬るのみだがな!』

 ぶわっ!と、スケルトンから殺気が膨れ上がる!

 そして次の瞬間、何が光った気がした。

 だが、それと同時にディセルさんに押し倒された僕は、彼女と共に地面に転がる!


「ディ、ディセルさん!?」

 突然、どうしたのかと聞こうとした時、僕達が立っていた場所の後方に位置する、大きな樹が音を立てて倒れていく!

 な、なんだこれは!?

 もしかして、さっきの光は……剣の軌道だったのか!?

 僕よりも状況をわかっていたらしいディセルさんに、詳しく話を聞こうとすると……彼女は冷や汗を流しながら、小刻みに震えていた。


「い、今の剣閃……そしてあの、独特の形状をした剣は……まさか、『ニホントウ』?」

 震える声に、恐怖と敬意を含んだ瞳で、ディセルさんはスケルトンの剣士を見上げる。

「……名前を、聞かせてもらいたい」

『いいとも』

 そう訴えた彼女に、スケルトンは快く承諾した。


『我が名はターミヤ。生前は『剣聖』などとも呼ばれていたが、今はしがない用心棒だ』

 自嘲しながら答えた、そのターミヤと名乗るスケルトンは、器用にも白骨の顔にニヤリとした笑みを浮かべて、僕達を見下ろしていた。

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