2-9 初めての街 3
10分後――
店主は何枚もの少女向けの洋服を抱えてくると、カウンターにズラリと並べた。
白いフリルのついたペチコート付きの赤いワンピース、白いブラウスにピンクのエプロンドレス、胸元の黒いリボンが特徴のパフスリーブ袖のフリルワンピース等々。
どれをとっても、可愛らしい洋服ばかりである。
ユリアナはレイリアに試着させてみると、どれもぴったりなサイズばかりであった。
「それじゃ、この洋服全て頂くわ。お金はこれで足りるかしら?」
ユリアナは店主に金貨を1枚渡した。
「はい! これで十分です! 今後もどうぞご贔屓によろしくお願いいたします!」
深々と頭を下げる店主を後に、2人はそれぞれ買い物袋を持って店を出た。
「ふん。あの店主、中々私を見る目があったみたいね」
馬車に乗るとレイリアは腕組みした。
「そのようですね。どれも貴女に良く似合っている洋服ばかりでしたね。でも普段はこちらの洋服を着るようにするのですよ」
ユリアナはレイリアに持たせた紙袋を指さす。
ユリアナは先程購入した洋服以外に普段畑仕事やら薪割の時に着る作業用の服も何着か買ったのである。この服はどれも大きなエプロン付きのシンプルなワンピースであった。
「そんなの言われなくたって、ちゃんと分かってるわよ。失礼しちゃうわね!」
頬を膨らませながらレイリアは抗議したが、内心はユリアナに洋服を買って貰った事で、胸を躍らせていた。
次に向かったのは靴屋だった。ここでは畑仕事用の皮で出来た長靴に、木の靴。
それとは別に外出用にと皮の編み上げブーツを2足と、革製の靴を買った。
これ等の買い物は銀貨3枚で購入する事が出来た。
最後に2人が向かったのは屋外のマーケットである。
そこでは肉だけを専門に売っている店や、魚、野菜、果物……様々な屋台が立ち並んでいた。中にはキャンディーやチョコレート。クッキーを売っている店もあり、どの屋台もレイリアにとっては初めて目にするものばかりで、すっかり興奮してしまった。
(すごいわ! こんなに色々なお店が一つの場所に集まっているなんて……! 街ってこんなに楽しい場所だったのね)
レイリアは目を輝かせながら、ユリアナに手を引かれて市場を歩いた。
やがてユリアナは果物を売っている屋台の前で立ち止まるとリンゴを5個買った。
その時に支払ったのは銅貨2枚であった。
(つまり金貨が一番高価で次に銀貨、最後に銅貨って言う事になるのね。うん、何となく分かってきた気がするわ)
納得して頷いているとユリアナに手を引かれた。
「どうしたのですかレイリア。そろそろ家に帰りますよ」
「え!? もう帰るって言うの? 折角初めて街まで出てきたのに!」
「早く帰らないと夕食作りが遅くなりますよ。これからパンも焼かないとならないのですから」
「う……そ、そうね。確かにパンは必要かもね」
昨日パン作りを初めて習った時。
不慣れな為か時間もかかり、パンも上手に膨らませる事が出来なかった。
「見てなさい! 今夜のパンは絶対に成功させてみせるから!」
レイリアはユリアナに自分の意気込みを見せたのだった――
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今夜のパンも上手に焼けたとはあまり言い難い代物になってしまった。
「う~ん……どうして私は失敗してしまうのよ!」
レイリアは少し硬めのパンをちぎりながら悔しさをにじませる。
「そうね。こねる時間と発酵時間があまり上手くいかなかったのが恐らく原因でしょうね。でもパン作りも全て慣れですから、その内美味しいパンが焼けるようになります。それに、このパンも中々噛み応えがあって良いと思いますよ」
「うう……それ、嫌みで言ってるのかしら?」
「いいえ、賛辞よ」
ユリアナはにっこりとほほ笑むのだった――
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そしてさらに1週間後――
ユリアナの言う通り、レイリアは上手にパンを焼く事が出来るようになっていたのである。
それを見てユリアナは思った。
この調子なら、近いうちに魔力と剣術の鍛錬を開始しても良いのではないかと――




