1-7 王国の魔女
「母上……。まさか母上自らこの城にお越しいただけるとは思いもしませんでした」
ジークベルトは恭しく頭を下げた。
「何を言ってるの? 可愛い孫娘の為ならいつ、いかなる時でも足を運ぶわよ?」
ユリアナは微笑んだ。
久しぶりに会ったユリアナはたっぷりとした金の髪を結い上げ、細身のドレスに身を包んでいる。
現在47歳のユリアナ。孫娘がいるとは思えぬほどの若々しさを保っていた。
「母上は相変わらず美しく、聡明であらせられて私は嬉しく思います」
「ふふ……相変わらず貴方は口が上手いわね」
「母上、早速で大変恐縮ではありますがレイリアを視ていただけませんか?」
「勿論よ。その為にこの城にやってきたのですから。ご苦労様、ヨハネス。もう下がって大丈夫よ」
ユリアナはそれまで無言で立っていたヨハネスに声をかけた。
「は、承知致しました」
ヨハネスは頭を下げると片目でジークベルトに挨拶をし、その場を去っていった。
何故隠居した身とはいえ、ここまで国王のジークベルトが恭しく接するのか。
それには理由があった。
ユリアナは代々続く『マーヴェラス王国』の王族の中でも類まれなる魔力保持者だったからである。ジークベルトは母、ユリアナの足元にも及ばない。
「本来なら我等だけで解決したかったのですが、私の不徳の致すところで、ふがいない思いで一杯です」
ジークベルトはレイリアの部屋へ案内しながら謝罪の言葉を述べた。
「何があったかのかは全て分かっているわ。あの魔術師……『サバトス』が蘇ったのね。我等に復讐する為に」
「サバトス? あの魔術師はサバトスという名前だったのですか?」
「ええ、サバトスは悪魔と契約を結び、邪悪な力を手に入れたと言われているの。でもその名前は悪魔に魂を売って新しく付けられた名前。誰も真名を知らないわ。サバトスは今レイリアに魔力の殆どを奪われたから人の形を保てなくなってしまったけれど、いずれはまた力が戻り、この国を襲って来ると思うわ」
「母上、何故そこまでご存じなのですか? まさか我らの戦いを見ていたのですか?」
ジークベルトはユリアナの情報力に驚いていた。
「ええ。水鏡を使って全て視ていたわ。『マーヴェラス王国の魔女』の異名は伊達では無くてよ?」
「やはり母上には敵いませんね」
苦笑するジークベルト。
話ながら歩いているうちに二人はレイリアの部屋の前にたどり着いた。
扉越しからも禍々しい空気が漏れ出してきているのが分かる。
「ジーク、貴方はここにいなさい。ここから先は私一人で入るわ」
「はい。どうかレイリアをよろしくお願い致します」
ユリアナは頷き、ノックすると扉を開けた――




