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71.放っておけない、諦め切れない浪漫が多過ぎる(二)


 それはコルトとカッソがやってきて、わずか数日後に起こった。

 発見したのは、朝の農作業に出かけようとしたトールである。

 てくてくと畦道を歩いていたところ、前方の道端に不審な荷物が転がっていたのだ。


「んん?」


 近づいて見てみれば、布製の背嚢であった。

 数日前に来た時は無かった。トールや仲間達の持ち物でもなさそうだ。コルトやカッソの落とし物だろうか?

 それにしては何も言っていなかったが――


「おーい、誰かいるのか?」


 呼ばわると、下から野太い声がした。


「こ、ここだぁ……助けてくれぇー」


「……田んぼに落っこちたのかな」


 トールはがさがさと草をかき分けて水田を見下ろす。


 きらきらと光を弾く水面と、緑の細葉を揺らす稲。

 その端っこを思い切り薙ぎ倒す形で、見知らぬ中年の男が泥だらけになって半ば埋まっていた。


「お客さん来るなんて聞いてないけど?」


 渋い顔をするトール。

 男は仰向けで田面に倒れ込んでおり、背中の下敷きになった稲は恐らく収穫不可能である。あまりいい気はしない。


「すすす、すまん! おれぁ忍び込むつもりなんてなかったんだ! この向こうにあるお屋敷に行く途中だったんだがよぉ、道に迷って疲れて歩けなくなって、ちっとだけ休憩で座ったつもりが寝こけちまって転げ落ちたの! んで必死で脱出しようとしてンだけど、ドロドロでちっとも動けンの!」


 男はもがもがと身体をよじっているが。

 トールが土づくりに苦心した水田は、柔軟性と保水性に富んだトロトロの泥でできている。

 一度嵌まり込むと、特に水田に慣れていない者はまず脱出できない。

 力を入れても手足が際限なく沈んでいくのだ。

 まさに泥沼である。


「頼む〜あんちゃん助けてくれえ。おれぁこんなとこで死にたくねーよぉ。酒の池だったら溺れても本望だけど、泥はいやだぁあ」


「ふーん。こんなところの世話をするために俺は頑張ってるんだけどね?」


 男も悪気はなく、水田のことをよく知らないで言ったのだろうけれども、珍しくトールの機嫌は良くなかった。

 心の広さに定評のある勇者であるが、丹精した田んぼや畑を荒らされて怒らない農家なんて存在しないのだ。


「まあ暴れられると稲が倒れるし、おっさん埋めても肥料にならなそうだし……」


 ぶちぶち言いながらトールは田んぼへ降り、男を引っ張り出してやる。


「うう、すまん! 年甲斐もなく無理するもんじゃないなァ……ぶぇっくしょい!」


 男は茶色の泥水をぼたぼた滴らせ、盛大にくしゃみを放った。

 夜の間ずっと田んぼに浸かっていたらしいので無理もない。

 まだ暑い季節で幸いであった。


「泥汚れって清浄魔法だけじゃ落ちにくいんだよな。屋敷へ案内するから着替えた方がいいよ」


 清浄魔法は衣類の汚れも綺麗にできるものの、こうも泥まみれだと取り切れまい。水や湯に漬けてから清浄魔法を掛け、乾かすというラクサ的には手の込んだ洗濯が必要になる。

 トールは仕方なく男を連れて、来た道を引き返した。


「おっさん、なんの用で来たんだ?」


 男は筋肉質な身体つきをしている一方、武器らしい物も持っておらず、よたよた歩くのを見ても武術の心得はない。


「ああー、おれぁ酒造職人のヴァンスって言う。勇者様のお屋敷に呼ばれてンのよ。なんか新しい酒を造ってくれ、ってな!」


「あったな、そんな話。でも、なんで一人で? 危険じゃないか。明日あたりにイナサから食料とか運ぶ馬車が出る予定だったろ、一緒に来ればよかったんじゃ?」


「そりゃあアレよ。一刻も早く新しい酒造りがしたかったンよぉ」


「自殺行為だな……酔っ払って判断力落ちてる?」


 イナサと勇者屋敷は、馬で三日の距離。

 歩けばもっと掛かる。


「失礼なぁ! おれぁこの話が来た瞬間から、一滴も呑んでないぞぉ。満足のいく酒が出来上がるまでは呑まんよ――味見以外ではな!」


「いや呑んでるじゃん」


 どうもヴァンスは酒造りへの情熱が暴走して、荒野を突っ切ってきたようだ。

 だが途中で力尽きて、田んぼにインしたと。

 行動の濃さにトールは呆れ顔になった。


「ただのアル中じゃないだろうな……大丈夫か、このおっさん」


 何やら駄目なおっさん臭がする。


「むむっ、礼儀を知らン若造だなァ! 酒造職人のヴァンス様と言やぁ、その道じゃ有名なんだぞぉ。そういうあんちゃんは何もんだよ」


「んー、俺か……」


 引きこもり気質な職人達は、有名人であるはずの勇者の顔を案外知らなかったりする。

 それに今のトールは勇者の装備を身につけていない。汚れてもいい農作業着で、取り立てて勇者らしい威厳もない。

 絵姿などに描かれる輝かしいイメージとは、雲泥の差がある。余計に分かりにくいのだろう。

 ――それで構わないのだ。

 そこいらの農家に見えるなら、その方が嬉しい。

 にこ、とトールは笑った。


「俺はトール、この辺の農地を管理してる。よろしくな、ヴァンス」


「………………げえっ?」


 他方、石化したように固まるヴァンス。

 自分が誰と話していたのか、ようやく理解したのである。

 だが、その時にはもうトールとヴァンスは屋敷の門をくぐっていた。


「トール様、どうなさったのですか? そちらの男性は……?」


 収穫した野菜の籠を手にしたセレストがやってくる。


「シャダルム達が呼んだ酒造職人のヴァンスって人。来る途中で田んぼに落っこちたんだってさ」


「まあ! びしょ濡れですね、風邪を引いては大変です。こちらへどうぞ」


 優しくセレストが手招きをする――しかしヴァンスは断頭台(ギロチン)の刃を見たように、ぎくしゃくと首を動かして彼女とトールを見比べた。


「あああ、あのですよ。聖女様、と。勇者……様?」


「そのように呼ぶ方もいますが、気になさらず」


「うん。今さらだよな」


「ぎゃあああ! 気にします! めちゃくちゃ気にしますがな!! あんちゃんがまさかの勇者様?! 言ってくださいよぉ?!!!」


「や、事実上引退して農家だし」


「うおおおい?! そーかも知れンが、そうじゃないんですよ!! こっちの身にもなってくれやー!」


 情けない絶叫と共に、職人が一人増えた。



✳︎✳︎✳︎



 魔道具職人のコルトとカッソ。

 酒造職人のヴァンス。


 ここまでは予定通りだ。

 熱意のあまり先走ったヴァンスも、元をたどればシャダルムが実家の伝手を使って招聘した職人である。

 ところが。


「え、紙漉き職人?」


「はい。シファーと申します」


 ヴァンスが居着いて、さらに数日後。

 呼んでもいない人が来た。

 応接間に通された女性はシファーと名乗り、ぴしりと背筋を伸ばしている。


「私は魔術師団に出入りする製紙工房の一員でした。魔術師の方々はよく書き付けをなさいますし、魔術陣を描く際に特殊な用紙を使うことも多くありますので、専門の工房がいくつかあるのです」


「なるほど。マイカさんとか、いつもノートを持ち歩いてたな」


「はい。そのマイカ・ハウスト様がお持ちの、大変素晴らしい紙でできた芸術品を拝見しまして、私は脳天を殴られるような衝撃を受けました。それで居ても立ってもいられず、この地へ参りました」


「えっ?!」


 勇者仕様の顔で聞いていたトールの表情がやや引きつった。


「私もあのような紙を漉いてみたい……その一念です!」


 シファーは強い瞳で言い切る。


「トール……ふわふわ頭に何やりやがった」


 同席していたフェンが睨む。シファーに聞こえないよう声をひそめているが。

 トールも小声で言い返す。


「ただの紙飛行機だよ!」


 そう、心当たりはそれしかない。

 飛行魔術の開発のきっかけになった紙飛行機。

 日本から持ってきたノートの白紙を切って作った。

 その後マイカに頼まれて、なんの気なしに譲ったのである。

 ――そういえば、あれはネイ、ランと一緒に菜園の世話をしていた時で、周囲に他の仲間達がいなかった。

 いま思えばマイカは邪魔が入らない隙を狙ったのであろう。

 引っかかったトールが迂闊だったのだ。


「不用意に餌をくれてやるんじゃねえって言ったろうが、馬鹿勇者め。チッ、全く」


 フェンが舌打ちしても既に手遅れだ。

 シファーは真面目そうな女性で、梃子(テコ)でも動きそうにない。


「聞けば勇者様は職人を集めていらっしゃるとか。私もそこに加えていただけませんか?」


「たまたま集まっちゃったけど、意図して集めた訳じゃ……」


「資金的な援助なぞは必要ありません! 一角に住まわせていただければそれで!!」


 必死に食い下がるシファーを見て、ずっと黙っていたシャダルムが口を開いた。


「……シファー殿。察するに、元の工房は辞めてこられたのではないか?」


「は、はい。ですが、円満退職です! 支度金も頂いたくらいで! これまでの蓄えもありますゆえ、しばらく無給でも平気です!」


「むぅ……」


 シャダルムは唸り、トールをじろりと見る。


「……トール。シファー殿をここで見捨てると恐らく路頭に迷うぞ」


「うっ」


 反論できないトール。

 シファーもずいぶん無茶をしたものだ。

 一応お招きは受けていたヴァンス以上に後先を考えない行動であり、仕事を辞して来たからと言って受け入れる義理もないのだが……追い返すのも後味が悪くなりそうである。


「条件を詰めた上で移住を認めるが、良いな?」


「分かった」


「それから。気前が良いのはトールの美点だが、ほどほどにするのだぞ」


「ごめ……いや、了解。気を付ける」


 シャダルムがてきぱきと話をまとめていく。

 シファーは職人の一人として迎えられ、新しい高品質紙の開発に取り組むことになった。

 意図してはいなかったが、完成させることができれば一大産業になり得るからだ。


「――ほへー、お仲間さんが増えるッスか。別に良いっすよ」


 コルトにも相談すると、全く拒絶しなかった。


「まあ気持ちは分かるんで、ねえ。勇者様達のおかげで、魔族との戦が終わったっしょ? もちろん、すっげえ良いことなんスけど、それで仕事にあぶれるっつーか……くすぶった感じになっちゃってるヤツ、職人には結構いるんスよね」


 コルトが言うには――


 職人は徒弟制であり、六、七歳の子供の頃から親方に弟子入りして技術を学ぶ。

 そして、ある程度の年齢……分野にもよるが、だいたい三十歳前後まで修業して知識と経験を身につけたのち、親方の後を継ぐか――工房の一員として雇われるか、あるいは独り立ちして自分の工房を構えるか、どれかを選ぶのが普通、なのだが。


「戦争中はそれどころじゃなかったんで、独立が遅れちまった人がね……俺の周りでも、そっちこっちで話を聞くッス。何を隠そうカッソ兄もその一人で」


 独立するのも、そう簡単ではない。

 古巣と競合しないよう、いくらか距離を取るものだ。

 例えばカッソなら、ダンツ工房のある王都を離れて、どこか地方都市へ行くのが通例となる。

 が、戦時下は城壁の外へ出るなど大変危険だ。

 それに魔道具工房は軍需もあって忙しさを極めていた。

 カッソはダンツを師匠として尊敬していたこともあり、通常なら独立してしかるべき中堅どころにも関わらず、居残って工房を支えてくれていたのだという。

 現在、彼は三十三歳。ちなみにコルトは十九歳だ。


「そんで戦が終わって、さてどーしようかってなってる職人が多いんですよ。ウチの工房でも、勇者様からの依頼は渡りに船だったッス。俺はついでに見聞を広めてこいって言われてて、いつかは王都へ帰って親父の後を継ぎたいッスけど、カッソ兄は骨を埋める気でいると思うっすよ」


「なるほどな。ヴァンスのおっさんも?」


「ヴァンスは独立する金が足りなくて、あっちこっちの工房で修業を兼ねて助っ人しながら貯金してたみたいッス。そういう奴もよくいます」


 シファーは退職する時に(はなむけ)として支度金を贈られたが、その辺りは工房の懐事情による。

 ヴァンスは自分で独立資金を貯める必要があったが、思うように稼げず苦労していた模様だ。


「最近は半分くらい諦めちまって、酒浸りだったらしいですけどね。ちゃんと酒精を抜いとけば悪くなさそうっす」


 分野は違えど職人同士。きちんと修業を重ねてきたかどうかは、見れば分かるとコルトは言う。


「シファーさんはどう? あの人も三十歳くらいに見えるけど……」


「さすがに年齢(とし)まで訊けねーっすが、真面目に腕を磨いてきた人だと思うっす。しっかし、いくら勇者様がスゲーからって、普通はあんな後先考えねーことしませんよね。よっぽど惚れられたっすね」


「俺じゃなくて紙にだからな?!」


「ははっ! 冗談っすよ〜。んー、ですから、まあその」


 コルトはぽりぽりと頭をかき、不穏なことを言い出した。


「ひょっとすると、しばらく続くかもしれないッス。こういう噂が回るのって早いんスよ」


「噂?」


「勇者様は独立を選ぶって、どういう職人だと思います?」


「うーん、やりたいことがある人……かな? あんまり自信ないけど」


「いや、正解っす。付け加えると、自分のやり方で作りたいものがある奴ッスね」


 工房の頂点は親方であり、親方と同じ物を同じように作るのが傘下の職人達の役割である。

 だが、親方とは違う物を作りたくなったり、または作り方を変えたりしたくなった時、職人は独立を考えるのだという。


「もちろん田舎から出てきて、技術が身についたら生まれ故郷に帰っていく奴も多いっすが……カッソ兄は王都の出なんで。親父や俺達と仲も良いし魔道具も大好きで不満はないけど、なんか新しいことやりたかったらしいッス」


「ラクサで鉄道作るとか、割と無謀だからな。付き合ってくれる職人がいるかなって思ってたよ」


「ンなこたぁねえッス! 浪漫にあふれてるッス! 職人として最高の生き方の一つッスよ!!」


 眉を上げて力説するコルト。


「ですから、浪漫を追いたくなる奴ほど勇者様んとこが何か面白そーだってなってですね。噂程度でも聞き齧った連中がわらわら寄って来ちまうってことッスよ!」


 新しい仕事を受けて勇者領へ行く。

 やる気も能力もあるのに、色んな事情で親方の元にとどまっていた職人にとって……それがどれほど魅力的に見えることか。


「なーんで、肝心の勇者様が一番分かってないんスか?!」


「あー、ごめ……じゃなくて。詳しくないから、教えてくれ」


「そりゃ仰せとあれば、俺が知ってることはお教えするっすけど」


 コルトが溜息をついて話題を元に戻す。


「とりあえずあの姐さんの面倒はコッチで良いッス。あと、これから来る奴も俺に振ってもらえたら何とかするんで」


「そうか、助かるよ。でも仕事のし過ぎにならないか?」


「職人はそんなひ弱じゃないッスよ、俺も勉強になるんで全然任せてくださいって」


 コルトは工房の跡取り息子。いずれ、ダンツのように多くの職人をまとめていかなければならない。

 わざの研鑽のみならず、人を采配する経験もさせてもらえるのなら文句はないという。


「だてに一癖も二癖もある職人衆に揉まれて育ってきた訳じゃないッス!」


 コルトは手先も人付き合いも器用そうだ。

 見るからに気難しいカッソの通訳ができるのも道理である。

 もっとも他の職人に対しては「魔道具職人だから」という理由もあるとか。


「俺ら、他の職人が使う魔道具も手がけてるッスから。どんな分野の職人だって、魔道具屋の機嫌を損ねると商売上がったりになるんスよ。そんでも弁えられねえ馬鹿は追い出せばいいですし問題無いッス〜。へへっ」


 コルトはニヤッと笑う。

 ――年齢(とし)も近くて、何だか仲良くなれそうだなとトールは思った。


 ラクサの貴族らしくはないかもしれないが、トールは身の回りの人達と、対等に付き合っていきたいのである。



✳︎✳︎✳︎



 勇者の直感はもちろん正確で――


「よっしゃー! これでどうっすか!」


「……コルト、待て。まだだ」


「カッソ兄〜念の入れ過ぎっす。あとは走らせてみたらいいっしょ! まだ小っせえ模型だし! もし暴走しても勇者様が止めてくれるッス」


「えー、勇者づかいが荒いな? まあ良いけど」


「失礼だろう……」


大丈夫(でーじょーぶ)ッス! 俺と勇者様の仲ッスよ」


「……いつの間に……」


 実物の前に、およそ十分の一サイズのミニ魔鉄道を作って走らせてみたり――



「――何やってんだ、トール。農家から職人に鞍替えか?」


「あ、フェン。シファーさんが良さげな紙を作ったから、みんなで紙飛行機を折って飛ばしてみようかなって」


「皆様を巻き込んで申し訳ありません!」


「シファー姐は真面目ッスね。楽しけりゃ良いっしょ。それに紙飛行機を作れる上質紙ってのが目標っすからね、研究のうちですって。ほい、できた」


「職人はさすが、器用だなー」


「勇者様のお褒めにあずかり光栄っすね〜、へへっ」


「む、難しいですぅ……」


「意外と綺麗に折れないです……すみません」


「……なんでネイとランまで引っ張り出しやがった」


「俺の国だと、折り紙は子供の遊びの定番だったんだ。フェンもやる?」


「オレまでガキ扱いか? いい度胸じゃねえか」


 通りがかったフェンが巻き込まれた結果……


「うっは……何すかアレ」


「空中に紙が浮いて、ひとりでに折り畳まれて紙飛行機が出来上がっていくように見えます……! め、目がおかしくなったんでしょうか……!」


「うわあ……魔力操作で折ってるみたいですね」


「お兄ちゃん分かるの?」


「うん……でも魔力が動いてるのがどうにか見えるだけで、具体的には全然わかんないや。凄すぎて……」


「フェンって時々、空気読まないことするよな」


「うるせーぞ、馬鹿勇者。細かくて面倒だろうが。いちいち手でやってられるか」


「あーあ。魔術師って、ほんとに魔術師! 手で折る方が面倒くさいとか、極端だよな」


「……俺に言わせてもらうと、勇者様のその感想もマジ勇者ッス」


「魔術師を魔術以外で使うなっつってんだよ。空気読めねえのはどっちだと思ってやがる」


「やっぱり常人とは隔絶した方々ですね……!」


「シファーさん大袈裟。そうだフェン、ついでに紙飛行機を飛ばす時さ、適度に風を出してくれたら助かる」


「――チッ。懲りねえ馬鹿を地の果てまでブッ飛ばす魔術の方が先かもな?」


「え? 試し撃ちか? 一日で帰って来れる距離にしといてくれ。田んぼの世話があるからさ」


「ひぃい、ジョークが高度過ぎます……! お二人とも、どこまで本気か分かりません……!」


「あー、勇者様も魔術師様も、その辺でやめていただいて良いッスか。魔力ビリビリでシファー姐が怯えてるんで。俺もちょっとちびりそうッス……」


 ――少しばかり紙飛行機であそ……実験してみようとしたはずが、フェンの飛び入りで予想外の方向へ行きかかったりする。


「ふい〜、とんでもねーところに来ちまったっすね。楽しいッスけど!」


「コルト……一番、適応している癖に……」


「毎日、肝が冷えるよなァ! 呑まなきゃやってられンわ!」


「わ、私は紙漉きに命を賭けておりますゆえ、問題はありません……! はわわ……!」

 

 笑顔と、少々の冷や汗を交えつつ。

 この地に集った職人達は、異色の辺境伯家に馴染んでいくのであった。


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