47.もぐもぐするまで、どれくらいあれば(後編)
『牛はいつになさいますか?』
イナサにいるジョーからの連絡に、とんでもない追伸が付いていたらしい。
「うし?」
首をひねるトール。
「何でまた牛?」
「お前のせいだろうが。ランはやる気だぞ」
火属性と風属性、さらに水属性の魔術を片手でまとめて行使しながら、フェンはこともなげに喋っている。
最近、トールにもようやく分かってきた。
フェンやセレストが当たり前にこなしているアレコレの魔法は、トールが思っていた以上に高等技術であったらしい、と。
今日は田んぼ近くの空き地に来てもらった。
吊るしている稲を乾燥させるため、魔術を使って水分を追い出しつつ、温風を当ててもらっている。
フェンは三属性の魔術を詠唱無しで制御し、さらに口では全く別のことを話すという四つのことを同時にやっている。
勇者の仲間に選ばれるくらいで、腕利きの魔法使いなのは当たり前と言えば当たり前だが。
「エレイシャさんの〈伝書〉か?」
「ああ」
マーシェに改めて常識を叩き込まれたこと。それに加えて、イナサに居る三人の神官や魔術師エレイシャに会ったことがきっかけで、トールも認識を改めることになった。
ーーエレイシャは、新しくイナサにやってきた女性魔術師だ。
マーシェとジョーの事務連絡を〈伝書〉で仲介するのが主な仕事である。
挨拶を兼ねてトールの屋敷を訪れたエレイシャは、自身ができること、できないことを正確に切り分けて話を進めていった。そこでトールも彼女の魔法的能力を知ることになったのだが、フェンやセレストとは大きな差があることも判明したのだ。
『いえ。私は並み以下の魔法使いです。普通の基準を下回っておりますよ』
本人はさばさばと、己れをそう評していた。
以前のイヴと同じ初級魔術師だがーー色々と事情があったらしいイヴとは異なり、階級登録そのものは正しい。
実際、エレイシャの魔力は一般人よりは遥かに多いものの魔法使いとしては少ない方で、魔術への適性も薄いらしい。
しかし、
『できないことを数えていても、銅貨一枚の得にもなりませんので。ネコちゃんの抜けたヒゲでも集める方がまだ建設的です』
と、非常にドライでビジネスライクな考え方をする女性であった。
……後半のネコのくだりは置いておくとして。
仕事相手としては信頼できると言えよう。
〈伝書〉の送受を担うフェンとセレストも同意見だ。
フェンは魔術師団で顔を合わせたことがあったらしく、若干渋い顔をしてはいたが。
(師団でも暴れてたっぽいもんな、フェンは。武勇伝が多そう。でも焦がされたくないから黙っとこう)
何となく察したものの、トールも多少は空気を読んだのである。
ーーともかくエレイシャのおかげで、イナサとの連絡が格段に楽になった。
それでジョーも、追伸を加える余裕ができたのかもしれない。
「確かに牛飼ってアイス作るって言ってたけど、こんなすぐだと思ってなかったな」
「ほいほい出したお前が悪い」
「しょうがないだろー。暑かったんだ」
トールはフェンに乾燥させてもらった稲を、空間収納で回収していく。
「でも、アイスって何でこっちに無かったのかな?」
「理由は色々考えられるが、主に魔法と魔力管理の限界だろうよ」
氷属性の魔法があるのだから、アイスというか氷菓があってもおかしくない。
だが、ラクサの魔法や魔術は長年、魔物に対抗する戦闘技術として発展してきた。だから一瞬で強力な氷弾や氷の矢を作る発想へ行きがちだ。
魔法使いではない一般人でも、初級の魔法は使える。が、それは一定の型のようなものを利用していて、決まった効果しか出せない。
トールとランが最初、アイス作りに失敗してカチコチの氷にしてしまったのがコレだ。
魔法にアレンジを加えられるのは、多少なりとも才能がある人間に限られる。
「冷やす魔法は加熱よりも難易度が上がる。制御を細かく変えるとなるとエレイシャぐらいでギリギリだろうな、初級魔術師くらいの力量は要る。だが、初級レベルだと魔力量がそう多くない」
魔力を簡単に回復する手段がない。
この異世界において、魔法の最大の弱点がこれだった。
時間経過での自然回復と、回復を早める飲み薬が頼りで、即時に全回復とは行かない。
魔法使いにとって魔力が枯渇して何もできない、というのは最悪の事態だ。
日本と違って魔物の脅威もある。堅固な城壁に囲まれた都市部なら危険は少ないが、辺境では人魔の距離が近いため、いつ襲われるか分からない。
そういう時に魔法使いが最も必要とされる。魔力の無駄遣いをせずに備えるのが基本なのだ。
「今更だけど、色々フェンやセレストに頼んでるのって大丈夫か……?」
現在進行形で稲を乾燥してもらっているが、他にも魔法使い二人は何かと手伝ってくれている。
「本気で今更なことを言いやがる。オレはこの程度、使ったうちに入らねえ。どれくらいまで許容範囲か、判断するのも含めてオレの仕事だ」
フェンは王国との連絡役であると同時に、魔族領と接するこの地の魔法的な防衛を担っており、トールに次ぐ戦力として辺境伯領に居る。
今のようにトールの農業を手伝ったり、セレストの開拓に協力したり、というのも余力ーー本来の任務に支障がない範疇で行っているという。
「セレストもだ。あいつの方が魔力管理は厳しいと思え。神官が脱落した時点で、パーティーはほぼ全滅が確定する」
「そうだな。悪い、信用してない訳じゃないんだ」
トールは素直に謝った。
フェンとセレストは魔力が多く、精密な制御も難なくこなすので「余力」と言っても結構ゆとりがある。さほど負担ではないようだ。
「でもなあ。魔力の節約っていう割に、みんな何でも魔法でやっちゃうのがよく分かんない」
魔力の無駄遣いを嫌う反面、料理や農業のように、魔法でなくても良さそうなことまで魔法でやってしまうのがラクサ王国だ。
「そいつは古代文明の名残らしいからな。ラグリスは詳細が残ってないと言うか、ごく一部の記録だけ有るって感じなんだとよ」
豊かで平和で高度な魔術の文明が栄えていたというラグリスと、それが崩壊した後の長い戦乱の時代。
その歴史的な積み重ねで、矛盾が生まれてしまったようだ。
「案外ラグリスではトールが言うように、色んな魔法の使い方をしてたかもしれねぇな。うまいもん食うとか娯楽にするとか……終わったぜ」
一面にあった稲の乾燥がようやく完了し、トールの異空間へ全て収納された。
「ありがとな。じゃあ今日はここまでで、明日は脱穀!」
野菜と違って、稲は収穫してから食べられるようにするまで工程が多い。
「手間が掛かるな、食い物の分際で」
「米は八十八の手間が掛かるんだぞ! って、じいちゃんが言ってた」
「随分キリの悪い数字だな」
「たくさん手間が掛かるってたとえだよ」
「何で百とか、せめて八十か九十にしねえんだ」
「んー、八は縁起の良い数字だからかな? 八十八だとダブルで縁起良いだろ」
「その感覚が分からん」
フェンには理解しにくいようだ。
異世界コミュニケーションは、かくも難しいのである。
✳︎✳︎✳︎
「やっぱり難しいですぅ……」
屋敷に帰ってくると、ランがしょんぼりしているところだった。
アイス作りが難航しているようだ。
「お塩を使えばできますけど、もったいないですし、たくさん作れないから……」
ラクサ王国において塩は、砂糖ほど高級品ではない。
が、そこそこ値が張る。
そこでランはラクサ人らしく、魔法で何とかしようとしたけれど、失敗続きで元気がない。
(エレイシャさんくらいの腕は必要らしいからな……)
悩める少女の横顔を見ながら、トールは考える。
エレイシャは自称「何ちゃって魔法使い」であるが、やはり一般人と魔法使いとの間には、越えられない壁がある。
(冷やす魔法って、温めるより難しいって言うし)
地球でも、アイスクリームの類いが庶民にも広がったのは、近代化以降だったはずだ。
日本には平安時代から、かき氷的なものがあった……と思うが、あれは確か、貴族が天然の氷を取っておいて夏に食べるという話だった。
地球人類も自然の力を借りずに氷を作り出すには、相応の科学力が必要だったと言える。
異世界においても熱する方が簡単で、魔法の種類も多彩である。
例えばラクサ王国にも煮込み料理は色々な種類があり、魔法で調理されている。
弱火で煮込むための火魔法はあるのだが、似たようなことを氷属性でやろうとすると難易度は上がってしまうらしい。
ランは、魔法に関しては普通からやや苦手、というレベルだという。
初級魔法を標準的に行使することはできる。農業魔法も簡単なものなら使える。だが応用は厳しい。
魔法使い以外の一般人には、割とこういう人もいるのだ。
兄のネイは、庶民の中では魔力が多いうちに入っている。
ランの魔力を仮に十とすればネイは五十、エレイシャが百前後、と考えると分かりやすい。
ネイは努力すれば魔法を伸ばせる見込みがある。フェンとセレストが二人して言うのだから、疑う余地はない。
なお同じ基準で表すと、この両名の魔力は千に近いというから図抜けている。
ランも人一倍以上の努力をすれば、今よりは伸ばせるだろう。
が、そこまでする必要があるのかという問題になってくる。
たかがアイス、されどアイス。
「うーん」
トールはチラッとフェンを見た。
「……アイスとやらを教えたのはお前だろうが? 責任取れ」
小声と共に頭を小突かれた。
フェンやセレストに言えば簡単だがーー。
ランは自分でやりたいようだし、使用人としての遠慮がある。この世界の身分差というものはトールが思う以上に厳格であり、ランが自分から魔法使い二人に頼み事をするなど、ほぼ有り得ないことなのだ。
(初級魔法で何とかするのは難しいのか……?)
ランの失敗作を見てみると、カチコチに完全氷結している部分と、ちっとも凍っていない液状の部分が混在している。冷却むらがあるということだ。
「んー。いっぺんに全部きれいに冷やそうとするからかな?」
「ほえ……」
少し涙目になっていたランが顔を上げた。
「入れ物だけ冷やしてみるか、後は……」
トールは故郷で食べた、あるものを思い出していた。
(新幹線に乗った時、あったよなぁ)
スプーンが刺さらないことで有名だった、室温に戻してから食べるしかないアレーー凄く硬度が高いアイス。
「最初は完全に凍らせてから、ちょっと溶かして柔らかくして混ぜたら? 弱火であっためる魔法はあるだろ? 直火じゃなくて、お湯に鍋を漬けるんでもいいし」
「……!」
ランがぱっと表情を明るくした。
「やってみますぅ!」
ぱたぱたと跳ねるようにランは動き回って、アイス作りを再開する。
これなら良いだろう、とフェンを振り返ると。
魔術師は思いの外、真面目な目つきでこちらを眺めていた。
「フェン?」
「何だ」
「なんか難しい顔してるけど、今のどっかマズかった?」
「いや、問題はねえ。気にすんな」
フェンは腕組みをして、ぽつりと言う。
「お前の国だと、ああいう方法で作ってる訳か? アイスとかいうやつ」
「や、ちょっと違う。ものを凍らせて保存しとく道具があったよ」
「魔法もないのに、どうやってんだ」
「俺も理屈まで詳しくないんだよなぁ……悪い」
「肝心のところで役に立たねえな」
「無茶言うなよ?! そりゃ、冷凍庫ってこっちには無いみたいだけど」
「だから、凍らせるのは魔力を食うんだよ。分かってねえな。初級魔術師レベルのことを、ランみたいなやつにもできるようにするって意味が」
「あるもので何とかするのが農家の基本だぞ」
「農家でも勇者でも、こんな妙なことやるのはお前ぐらいだ。ったく」
ニヤっとフェンは笑った。
「歴史の転換点になるかもしれねえんだぞ? きっかけが食い物か。トールらしい」
「えー、また大袈裟にする……俺はアイス食べたいだけなのにさぁ」
「ほう? まあランは意欲的だがな」
トールとフェンは、一生懸命に働くランを見た。
「うっしさん、うっしさん! 牛乳のあいすっ」
少女は鼻歌を歌いながらアイスをこしらえている。
「見ろ。牛が近付いて来てるぜ」
「俺、牛の飼い方は知らないなぁ……」
スーパー農家であった龍造も、畜産はやっていなかった。
「問題はそこか? というか、お前まで本気か」
「フェンは牛乳で作ったほんとのアイスを知らないから、そんなことが言えるんだ」
トールが最初にアイスと言ってしまったのがいけないのだが、ランが作っている食べ物を正確に表現するならシャーベットだと思う。
牛乳や生クリームで作る本格的なアイスクリームへの道のりは厳しい。が、やってみるのは悪くない。
何事も挑戦だ。
「畜生、馬鹿の馬鹿が治らねえどころか酷くなってやがる……」
フェンもアイスの試食をしているものの、甘いものが好きではないせいか反応が薄い。
面白い食べ物だとは思っているらしいが。
作り方に興味が行くのは職業柄だろうか。
他の仲間達の話をすれば、マーシェは甘味もイケるけれど酒の方がなお良し、という両刀のうわばみである。
セレストはランと同じく、分かりやすい甘党だ。アイスも笑顔で味わっていた。
ネイは慎ましい性格で態度に出さないが、結構甘いもの好きだろうとトールは思っている。アイス試食の時も最初は遠慮していたが、勧められて口にしたら一瞬だが幸せそうにしたからだ。
今は王都にいるであろうシャダルムは……貴族出身ながら、ただでさえ無口な男。どんな料理でも文句をつけずに平らげるため、好みは不明だ。体格が良い分、大食漢なので腹に溜まれば何でも良いタイプのような気がする。
トール自身は、甘いものも好きな方だ。
日本にいた時からである。
ただしラクサ王国の菓子は、どうも駄目なのが本音だ。
トールは勇者という特権階級だから、菓子を食べる機会もあったのだが。
(口から砂糖が出そうになるんだよな……)
歯にくっついて粘りそうに甘いのが、こちらの高級な菓子であった。
地球でも外国の菓子はやたら甘ったるいものがあったが、あれに少し似ている。
(文化や好みが違うんだろうけど)
甘味に限らず、トールも本当は食べたいものがたくさんある。
が、異世界ならではの事情があり過ぎて前途多難である。
最大の懸念だった、米を手に入れる目処がついた今。
もう少し範囲を広げて、おかずやデザートを考えてみてもいいよな、と思うのだった。
✳︎✳︎✳︎
一つ忘れそうになっていたことがあった。
「醤油どうなったんだろ?」
さまざまな出来事があったトールの領地。
農業と開拓、マーシェやシャダルムの訪問、代官ユージェと魔術師イヴ達の押し掛け騒動、ジョーやフロウの手伝い、魔族との遭遇、そして規模の大き過ぎる害虫退治こと「白の女王群」掃討戦。
おまけに帰ってきたら終わらない収穫に悩まされ、伝説上の精霊まで出現しーー。
まだ一年も経っていないのに、イベントに事欠かなかった。
そのせいで、うっかり記憶を飛ばしかけるところだったが。
トールはスピノエスにいる醸造家の父子、レンネとディーリに醤油の試作を頼んでいたのだ。
レンネ工房は、チーズやヨーグルトなどの製造・販売を手掛けている。
発酵食品とは言え、チーズと醤油は別物であることくらいは分かっている。
しかし、ど素人のトールよりは見込みがありそうだったのと、工房主のレンネが醤油に興味を持って「やりましょう」と言ってくれたのもあって、お任せしていた。
結局トール達ーー当時はセレストとフェンしかいなかったがーーのスピノエス滞在中には、はっきりした前進がなかった。
レンネ達も全く未知のものを相手にするのだから、当然ではある。
(確か魚醤は存在するらしいから、取り寄せてみるとか言ってたような)
セレストがスピノエス神殿経由で連絡を取れるようにしていたはずだが、もともと発酵食品を造るには、時間がかかるものだ。すぐに成果が出なくても仕方ない。
(でも、こっちだと醸造も魔法でやってるから……時間を短縮する裏技があるんだったよな)
スピノエスを訪れたのは、田植えを終えた直後だった。あれから半年近く経っている。
そろそろ一度は話を聞いた方が良さそうだ。
トールは、セレストとマーシェに相談しに行った。
✳︎✳︎✳︎
「ーー直近の連絡はもう三カ月ほど前だったと思います。トレヴォン南部にいるディーリさんの知り合いと連絡がついた、というところだったかと。ですが……」
セレストはちゃんと、ディーリと連絡を取り合っていた。
しかし、途中から口ごもる。
「あ、トレヴォン連合王国か……あの後、大丈夫だったのかな?」
魚醤があるという地は、トレヴォン連合王国の南部。そこにレンネやディーリの知り合いの知り合いのさらに知り合い……のような人がお嫁に行っているという話であった。
もはや他人という気もするが、伝手を辿って魚醤を手に入れ、醤油造りの参考にしたいとディーリは言っていた。
ところがトレヴォン連合王国は最近、大災害に見舞われている。
他ならぬ「白の女王群」だ。
トレヴォンの中央部に広がる大湿原で発生したのが、ことの始まりであった。
ラクサ王国へあふれ出した部分はトール達や、聖騎士団を率いた王女リディアが討伐したが、震源であるトレヴォンは北部王国、南部王国ともに甚大な被害を受け、復興の最中と聞いている。
気軽なお取り寄せができるような状態ではないかもしれない。
「そこは、あたしがやっといたよ」
マーシェが言った。
「え? マーシェが?」
「肝心のトールに言い忘れたかもね、ごめんよ。その『ぎょしょう』……トレヴォンじゃ『ゾルソー』って言ってるんだけど、あたしの故郷だと一部で使われてるのさ」
「そっか、国境近くだって言ってたな」
「そうそう。ミアドはトレヴォン出身の人間が多いんでね。でもゾルソーって匂いが凄く独特で、あんまり大っぴらには出回らないねえ。身内だけで消費しちまう類いの珍品さ。ちっこい村の特産なんだけど、ハマると癖になるらしいね」
「うん、何となく分かる」
「わざわざトレヴォンから持ってくるのは大変だからね、あたしの実家に頼んでスピノエスへ送っといたのさ。女王群騒ぎのちょい前だったと思う」
マーシェの好判断であった。
「じゃあ、進み具合を訊くぐらいは良いよな?」
当然トールのやる気も増す。
「ゾルソーがショーユに似ているのかも含めて確認が必要ですね」
「だな。俺が思ってるやつと違ったら大変だもんな」
「連絡を入れておきましょう」
「あたしも顔を合わせておきたいねえ。補佐官殿にも言っとくよ。イナサに来てもらうのが一番、手間がない」
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数日後。
「それじゃ、行ってくるよ」
トールはマーシェと共に、イナサへ出掛けようとしていた。
「お気を付けて」
セレストは屋敷に残る。
ディーリからはすぐに、こちらも進捗を話し合いたいという返事があった。
当初、ディーリと打ち合わせを進めていたのはセレストだが、マーシェとトールに任せて問題ないと判断した。
土地の回復が進んできている今、魔物が出る可能性も高くなっている。セレストまで屋敷を離れてしまうと、不測の事態に対応できるのがフェン一人になってしまうーーそれらを考えた結果だった。
「我等もおるゆえ、案ずるな」
「うむ。変事あらば夜中でも、遠慮なく叩き起こしてやろうぞ」
トールとの連絡役、兼、予備戦力としてイクスカリバーとイージィスも留守を守る。
「数日で帰ってくるさ。じゃあね」
「留守番よろしくな」
トール達は気軽に手を振って出発した。
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勇者はのちに、こう振り返ることになる。
ーーいつからフラグが立っていたんだろう、と。
米の名は…「モグモグあおば」
暖地での栽培に向く飼料・サイレージ専用品種。長稈だが耐倒伏性は高い。




