第八十五話 案内が終わりました──従者がいるようです
放課後になってからも、引き続きテリアの案内だ。昼休みの時点で通らなかった場所を中心に回っていく。とは言っても、俺もまだこの学校の全てを知っているわけではないので、授業で使ったりしている場所に限られるが、初日の案内としては十分だろう。
アルフィとカディナは居ない。カディナは他の女子生徒からお茶会の誘いを受けたようで、アルフィは教師からの呼び出しだ。
カディナも有力貴族のお嬢様だからな。将来に繋がる人脈を広げるのもお勤めなのだろう。お茶会にいく旨を伝える表情には『仕方が無い』といった気持ちがありありと伝わってくるも、それでも誘いをしっかり受ける辺りが真面目な彼女らしい。
アルフィの奴はスカウトで入学したのでその辺りに関係した話があるそうだ。今年の新入生の中で学費免除で通っているので何かと手続きがあるそうだ。それ関連の話が今日だっただけの話。
と、言うわけで俺、テリアと一緒に居るのが。
「わたしだったりする」
「どうしてそこでご立派な胸を張るよ」
「特に意味は無い」
我らが大鉄球おっぱいの持ち主であるミュリエル。特別に何か理由があったわけでも無く、俺以外で暇だったのが彼女だけだったという話だ。
案内の間に雑談を交えていると、テリアが俺の事に関して踏み込んできた。
「リース君が無属性防御魔法しか使えないというのは本当なのか?」
「アレを単なる『防御魔法』と区切って良いのかは……些か不安が残るけど、事実」
「お前が答えるんかい」
テリアの質問にミュリエルが若干失礼な答え方をする。俺は軽くミュリエルを睨むが彼女はどこ吹く風と行った様子。
「あ、別に馬鹿にしているとかそんなつもりで聞いたわけじゃ無い。そこは間違えないで欲しい」
訂正を加えてからテリアは照れたように頬を掻いた。
「……ただ、どちらかと言えば俺も防御に特化した魔法を使うから、少し親近感が湧いてたんだ」
入れ替え戦で見せた、あの水流牢の派生魔法か。
「攻撃魔法での速攻が今の主流だから、珍しい類いではあるよな」
「……珍妙の極みにいる人に言われたくは無いのでは?」
「人のことを言えた口か。珍妙度でいえばお前も負けず劣らずだろこら」
「いらいいらい……」
失礼なことをのたまうミュリエルの頬を摑んで横に引っ張ってやると、涙目になりながら緩い悲鳴を上げる。
「言うとおり、今時にしてみれば珍しい魔法の使い方だからな。正直に言うと、編入してから奇異の目で見られる覚悟はしていた。なのに入ってみればスンナリと受け入れられて逆に驚いたよ」
なにせ、学年の主席がその珍しいタイプの魔法使いなのだ。受け入れられる土壌は出来上がっていたのだろう。
──ただ、同じ防御に特化した魔法使いだが、趣旨はかなり異なっている。
俺の防壁は相手の攻撃を正面から受け止めるタイプの防御であるのに対し、テリアの水流牢は、攻撃を受け流すことに特化していた。
「入れ替え戦で見せた水流牢は、あなたが考えたの?」
「あれは水流牢の魔法陣に、俺なりの改良を加えた水城塞だ。威力のほどは入れ替え戦で実際に見てもらったと思う」
「確かに、中々に興味深かった。水流牢の中に使い手が呼吸できる空間を確保した上で、水流の表面に制御を行き渡らせていたのは見事」
ミュリエルの口調は、普段のしゃべり方よりも力が籠もっていた。興味をそそられたのは間違いないのだろう。
魔法使いにとって、他者の魔法は格好の研究材料だ。適性属性の魔法でなくとも、その効果や発想を独自に解釈し己が使う魔法の糧とする。それが魔法使いのあるべき姿。
大賢者が良く口にしていた薫陶の一つだが、ミュリエルの魔法への貪欲な姿勢がまさにコレ。自分が扱えない属性であっても深く知ろうとする探究心は実に見習いたいところだ。
──それから大まかな場所を案内し、ちょうど学校の正面門近くを通りかかった時だ。
「すまないが今日はこれで失礼させてもらうよ」
「なんだ、もういいのか?」
「ああ。あと自分で人に聞くなり調べるなりするさ。それよりも人を待たせているんでね」
そう言ったテリアが指を指し示すと、その先にあるこちらから見た正面門の向こう側に一人の男が立っていた。
堅苦しそうな紳士服をきっちりと着こなしている、見た感じでは俺たちよりも一回り歳上だろう男性だ。彼はこちらの──テリアの姿を確認すると恭しく一礼した。
テリアは労うように片手を挙げるとその男の元へ向かう。オレはミュリエルと一度顔を見合わせたあと、テリアのあとに続いた。
「すまない。待たせたか?」
「いえ、お気遣いは無用です」
男は恭しくテリアに頭をさげると、こちらに目を向けた。
「そちらの方たちは?」
「俺と同じノーブルクラスの同級生だ。今まで学校内を案内してもらっていた」
「そうですか。自分はキムス。ウォルアクト家に仕える者です。以後、お見知りおきを」
物腰柔らかい丁寧な口調での挨拶だ。まさに従者といった風だな。
「父上の指示でね、キムスには俺の送迎を任せてる」
「送迎って……学内には従者とか入れねぇぞ?」
「ああ、言ってなかったか。俺は学生寮じゃなくて都の宿に居を構えてるんだ」
俺はミュリエルに目を向けると、彼女はこくりと頷いた。
「規則的にはさほど問題は無い。けど、都の宿はここほど警備が万全では無いし、そちらのグレードを求めると必然的に高い宿に泊まる必要がある。都で宿を取るよりも学生寮に入ったほう様々な面ではるかに安上がりだし、下手な宿よりも遥かに設備が充実してる」
「と、学内の事情通が言ってますけど」
「その辺りに関しては深く突っ込まないでくれると助かる」
説明が終わったあとに再びテリアの方を向くと、少し困ったような顔になる。事情はありそうだが、今日知り合ったばかりの級友に踏み込むのも悪いだろう。俺たちは黙って頷いた。
「では、俺はこれで失礼するよ。また明日、よろしく頼む」
テリアは手を振ってから俺たちに背を向け、キムスはこちらに一礼をしてから主人のあとに続いた。
彼らの後ろ姿を見送る最中、ミュリエルがポツリと呟く。
「……警戒されてた?」
「さぁ、どうだろうな」
彼女の声に俺は曖昧な答えを返した。
あのキムスという男。俺たちに挨拶する際の物腰は丁寧で口調も柔らかかったが、視線だけは刃物のような鋭さを帯びていた。単なる従者にしてはいささか切れ味が良すぎる。
警戒されていたかどうかは判断つかないが、気には止めておいたほうがいいだろう。今後、テリアと付き合いができるならあの男と接触する機会も増えるのだから。
「さ、俺たちも帰ろうぜ」
「了解」
テリアたちの姿が見えなくなったところで、俺たちも学生寮への帰路へと着いたのであった。
学園モノって難しぃなぁ! とよく思う今日この頃。
学園モノって流行ったけど、よく皆さんあんなにかけたな。マジで尊敬するわ。
当作品を読んでくださった方、もし気に入っていただけたのならブックマーク登録をよろしくお願いします。
「それだけでは応援し足り無い!」という方は小説下部の『評価点』もいただけると作者としての今後の励みになります。
あと、この作品は書籍化します。
続報は許可が下り次第にあとがきや活動報告に載せますので楽しみにお待ちください。




