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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第四の部 学園生活満喫中のお話
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第三十三話 合理的判断だそうです──むしろ混沌だと思います

「これまで行われたあなたの決闘は全部見ていた。役立たずとされていた防御魔法を、あれほど巧みに使いこなす技量には驚いた」

「そうだろそうだろ」


 俺は腕を組んでウンウンと頷く。入学してから面と向かって防御魔法を褒められたのは初めてだ。認められるというのは気持ちがいいな。


「けど、何度見ても分からない点がいくつかあった」


 ミュリエルが俺の眼前にまで歩を進めた。


「……つまりは、その『分からない点』を直接聞きにきたってわけか」

「あなたの防御魔法はとても興味深い。だからこそ詳しく知りたい」


 感情の薄い瞳が、まっすぐに俺を見据えている。


「でも、今日会ったばかりの私に教えてくれるとは思っていない」


 だから──と彼女は一呼吸を入れて。



「私と付き合ってほしい」



 …………………………………………。


「……それは、明日の放課後辺りに一緒に出かけようってお誘い?」

「違う。男女的な付き合いという意味」


 そうかぁ、男女的な意味でかぁ。


 ……人生初の──しかも女子からの告白が、こんな情緒ムードのヘったくれもない感じになるとは思いもしなかったよ。


 悩む俺を余所に、ミュリエルは俺の両肩に手を置く。


「──ってちょっと何やってんのおまえさん!」


 なんか顔が接近してるんですけど!?


「恋人同士になったら、やることは一つ」


 さも当然のように答えるミュリエル。 


 え、ちょっとこれって俺の初チッス(死語)が奪われる流れ!? 


 大胆の一言で済まされないよ!?


 闘っている相手ならともかく、そうでない初対面の女子を強引に振り払うのも躊躇われてしまい、頭も混乱で一杯だ。


 その間にもミュリエルの顔が……彼女の形よい唇が、俺のそれに近づいていき──。


 ガシッ!


「でぇぇぇいっっっ!!」


 ラトスがミュリエルの背後からその後頭部を掴むと、ペイッと放り投げた。


 ミュリエルは意外な体裁きで上手に受け身を取り、地面に手を突きながらラトスを見上げる。無表情に小さくだが不機嫌が混ざっていた。


「……いきなり何をする」

「それはこっちの台詞だ!」


 俺の台詞でもある。


 ちょびっとだけ残念な気もしたが、ラトスのファインプレイに感謝した。


「一体何をするつもりだったんだ君は!?」

「見ての通り、彼と接吻をしようと」

「せ、接吻って……」


 ラトスの顔が一気に赤くなった。外見は男子でも、中身は純情巨乳乙女だからな。話の勢いに付いていけないのは俺も同じだ。


「……そもそも、どうしていきなり恋人だなんて言い出したんだ?」

「合理的に判断した結果」

「今の行為に合理性の欠片も見出せないんだけどね、僕には」


 俺もだ。


 ミュリエルは制服に付いた土を手ではたき落としながら立ち上がる。


「おそらく、ハニカム構造は広まっても問題無いから広めた。他の秘密は、他人に容易く教えるはずがない」


 ハニカム式防壁シールドの仕組みは広まりつつあるが、もちろん種を空かしていない手札もまだ結構ある。いずれは情報を解禁するにしても、まだ伏せておきたいのが本音だ。ミュリエルの予想は正しい。


「でも親密な仲の相手には教えてくれるかも知れない。そして、親密な仲の最たるものが──」

「──恋人って関係か?」

「是」

「いや『是』って……」


 一文字で肯定するなよ。


「私は彼に告白した。そして、恋人同士としての証を立てるには接吻が一番だと思った」


 順序が逆だ。合理的を通り越して迷走している。


「それに事前に調べた情報では、リース・ローヴィスは胸の大きな子が好みだと聞いた。この通り、容姿には少し自信がある」


 ぐっと、ミュリエルは大きく胸を張った。大鉄球モーニングスターな乳がこれでもかと自己主張している。顔も可愛らしいし、艶やかな髪も魅力的だ。


「くっ……確かに。あの胸は彼の好みそのものだ」


 ラトスが戦慄の声を発しながら己の胸に手を添えた。


 ……おまえさんの収納された破城槌おっぱい大鉄球あれと同じくらい凄いから──と言ってやりたい。そしてどうしておまえが戦慄しているのかも意味不明だ。


「……むぅ、胸を強調しているのに、いまいち反応が薄い」


 不満げな呟きをミュリエルが漏らした。


 確かに素晴らしいお胸さま。


 だが、恥じらいどころか感情すら乏しい無表情のせいで台無しになってる。色気が全く感じられない。


 ──残念美人とはこのことを指すのか?


「もしかして、胸が大きな子が好きという情報は嘘?」

「それは事実だ」

「即答しちゃうの!?」

 

 ミュリエルの疑問に俺が答え、ラトスがつっこんだ。

 

 俺がオッパイ大好き人間なのは間違いない。

 

 だからといって、恋愛関係を結べるかはまた別問題。


「容姿は間違いなく好みだけど、さすがに会ってすぐの人間と恋人ってのは違うだろ、いろいろと」


 文字通りおおきな・・・・要素なのは否定できないが、全てではない。


「悪いけど、期待に添えそうにない」

「……やはり、先に既成事実を作っておくべきだったか」


 無表情で恐ろしい台詞を呟くねこの人。


「でも、あなたのその反応は想定内。余計な邪魔は予想外だったけれど、そもそもたかが接吻一つで恋人関係が結べるとは思っていない」

「いやいや、女の子が接吻を〝たかが〟ですませちゃいかんだろ」


 おかしい。俺がつっこみ役になってる。普段は俺がつっこまれる立場なのに。


 新鮮だが嬉しくない。


「ゆえに、まずはお友達から始めたいと思う」


 こちらのつっこみを全く気にせず、ミュリエルがグッと気合いを入れるように握り拳を作った──無表情で。やる気が全然感じられない。


「恋人関係になるには相互の理解が必要不可欠。会ったばかりの私とあなたではそれが致命的に不足していた。だから友達から始めて、徐々に恋人として必要な友好関係を築き上げていきたい所存である」

「諦めるって選択肢は?」

「無い」


 キッパリと断言されてしまった。


「と、いうわけで今日の所は失礼する。また明日に」


 ミュリエルは俺の返事も待たずに「では」と手を振ると小走りに去っていった。胸部の特盛り装甲を盛大に揺らしている割には、軽快な足取りだった。


 ミュリエルがいなくなり、残された俺たちは脱力感に苛まれたのであった。


「なんだったんだろうね、彼女」

「俺が知りたいわ」


 こうして俺たちとミュリエルの出会いは一旦幕を閉じた。


 だが、それが再び幕を開けるのは、彼女の宣言通り翌日から。


 けれども、精神的に疲れ果てた俺たちはそのことに気づかなかったのである。



 

新キャラ、ミュリエルちゃんは不思議ちゃん系な子です。

こういったクールな超マイペースキャラって、よく考えたら初めて書くかもしれない。

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大賢者pop
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