第二百話 表彰式
本話を執筆するにあたり、第百九十六話及びに百九十七話の一部に修正を加えました
ご了承ください
校内戦決勝戦の決着宣言が耳に届いた次の瞬間、気がつけば俺は自室のベッドで横になっていた。聞いた話では俺は校内戦の日から更に翌日を跨いだ二日間、ずっと寝ていたらしい。
完成したばかりで慣れない新魔法『進化』で限界以上に身体を酷使したせいで、体が休息状態に入ってしまったのだろう。以前、超化の限界稼働を試した際にも似たような事が起こった。
ちなみにアルフィも似たような状況だったらしい。俺と同じで二日間寝込んでいたとか。別に親友だからってこの辺りまで合わせなくてもいいだろうに……とは思うものの、あちらも似たような感想を抱いている事だろう。
順当な流れであれば校内戦の全ての試合が消化された後に、表彰式が行われる予定なのだが、優勝者と準優勝差が揃って欠席ともなれば流石に格好が悪すぎるという事で、後日に回されることとなった。
で、少し余談──と言ったら怒られそうだが。
俺もアルフィも、決勝戦が始まる前に、準決勝の試合における敗者同士の戦い──つまりは三位決定戦があった事をすっかり忘れていた。救護室で学校長がちらっとそんな事を言ったような気がしていたが、完全にアルフィとの会話で頭から抜け落ちていた。
当然、対戦カードはカディナとラピスだ。
本来であれば是非とも観戦したい組み合わせであったが、あの時は俺もアルフィも己の事で精一杯であり、それ以前にコンディションが最悪。彼女たちの試合時間も含めて貴重な回復時間であったのだ。
そんなわけで目が覚めた翌日、改めて校内戦における表彰式が開催された。
「──時間が空いたってのに、随分と物好きが多いな、この学校」
表彰台の上に立つ俺は辺りを見渡してしみじみと呟く。会場は校内戦のメインステージ。俺とアルフィが決勝を行った決闘場だ。
観客席は決勝戦の時と同じく満員御礼。強制参加ではなく、全員が自由意志によるものだ。なのにこの入りように俺は少しばかり驚いていた。
「閑古鳥が鳴くよりかはよっぽどいいだろ……」
俺のちょっと下の、二位の位置に立つアルフィが呟く。決勝戦の時よりかはずっと顔色が良くなっていたが、言葉に力が入っておらずまだ本調子に戻っていないようだ。とはいえ、それは俺も同じだ。制服の下には薬を染み込ませた湿布が至る所に貼ってあり、筋肉も関節もまだギシギシと悲鳴を上げている。
完全に回復するまでまだ少し時間が掛かるだろう。その間に受ける授業を考えるとちょっとばかり憂鬱だ。意識が無かった間については特別に出席扱いにしてくれたのは感謝である。
「まぁそれはいいんだけど」
と、俺はアルフィとは逆側に眼を向ける。
「ねぇ、やっぱりそこは変わってくれないかな」
「先ほどジャンケンで決めたでしょうに。いい加減に諦めなさいな」
先ほどから小声でやいのやいのと言い合っているのは、三位となったラピスとカディナだ。
驚くことに、なんと三位決定戦での決着は両者場外負けによる引き分けだったのである。つまりは三位が二名いることになり、こうして表彰台の三位の空間に二人分が乗っている始末である。
「くそ、どんな試合だったのか是非とも拝みたかったぜ」
「ミュリエルが魔法具で録画してたってさ。後で頼んでみろ」
「マジでか!? 今度美味い菓子を奢ってやろう」
頭の中に菓子の候補をいくつか浮かべている間にも、三位の台からはまだ小声で会話を続けているラピスとカディナ。
(ちょっと、少しリースに近いんじゃないかな? ほら、もっと離れて離れて)
(そ、そんなことは決してあり得るはずもございませんことよ? ただ、ラピスさんのお尻と胸が大きすぎるの、表彰台から落ちないように配慮して上げてるだけでして)
(大きさについては君に言われたく無いんだけど!? ……僕としては、あれだけリースのことを嫌っていたから、彼と近づくのも嫌で仕方がないって僕なりの気遣いを)
(……別に嫌っていたわけではありませんよ。リースはあくまでも同級生であり競い合う相手というだけで──)
(いつの間にか『リース』って呼ぶようになってるよね。それに、妙に顔が赤いし)
(こ、こここここれは別に他意などなくて真剣勝負の末に親交がほんの僅かばかりに深まったというかなんというか)
ふと、聞き取れない会話の最中でふと俺の方にカディナが向くと、バッチリ目が合ってしまう。数秒間、何やら呆けた表情を浮かべるが、
「──────ッッッ!!」
はっと我に帰った瞬間に顔を真っ赤にし、大慌てで眼をそらした。この一連の流れ、実は表彰台に登る前に顔を合わせてから何度も起こっているのであるが。
(……おいリース。いつの間にカディナのフラグをブチ立てたんだよ)
(俺の勘違いって線は?)
(心底腹立つし今すぐお前の顔を殴ってやりたいと思うけど、残念ながら無いな)
(今の前置き必要ねぇだろ)
カディナの反応が、ラピスやミュリエルたちが時折に見せる乙女な反応にそっくりであった。純粋に嬉しいという気持ちと、きっかけがまるでわからない戸惑いが混ざり合って同伴のすればいいか分からない。
(嫉妬が魔力に変わるなら、俺は無限の魔力を手に入れていたに違いない)
(悟ったセリフで何言ってくれちゃってんの。普通に怖いんだが)
イケメン親友の漏らす闇の気配にドン引きしていると、学校長が表彰台に近づいてくる。ヒソヒソ話をしていた俺たちも口を止めると、背筋を伸ばした。




