第七十四話「小柄な男」
いきなりだが、ギルドを作る前提条件は覚えているだろうか?
ギルドを申請するプレイヤーが土地の所有者であること。
この条件がなかなか周知されることがなかったせいで初期のギルドは少なく、俺の所属するギルド“オッドボール”を入れた五つのギルドは初期ギルドと呼ばれている。
今では攻略サイトなどにもギルド“イワン生産職連合”が情報提供を済ませたようだ。
そもそも、ギルドの条件を広めなかったのは“イワン生産職連合”が大通りにある商売向けの土地を独占するためだったからな。
おかげでイワンの町の大通りは、色んな店が顔を出す賑やかなものになったわけだ。
で、どうして俺がこんな話をしているのかというと、路地にひっそりとあるオッドボールという店の真向かいに原因がある。
今まではアパートのようなものが建っていたはずなんだが、俺の目がおかしいのだろうか事務所のようなものが見えるんだよな。
ギルド“アウィン親衛隊”。
これが、“アウィン”という名の宝石好きプレイヤーが何の意味もなく語呂だけで“親衛隊”と名付けたのなら問題はなかった。
だが、案の定、そう簡単にはいかない。
この新設ギルドは、闘技大会でアウィンのことを暴露した、そのデメリットの賜物なのだから。
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話はエリーに会いに行く、少し前まで遡る。
ラピスとトパーズの言葉が分かるようになって今までのことを色々話していた時だ。
『なんともブルーハワイですね』
「そうですよね!」
『ラピス姐は時々鋭いよな』
「なるほど、ブルーハワイ。言い得て妙だな……。ん? 何か下が騒がしくないか」
「ク……! テイク!」
突然、ドアが物凄い勢いでノックされる。てか、もうこれ殴ってんだろ。
この声は繭か? 鍛治師は意外とATK高いんだから思いっきり叩かないで欲しいんだが。
「はいはい、今開けますよ。なに、どした?」
「いいから……! 来てっ!」
「どこにって、うぉぉ!?」
待て、引っ張るな!
お前に対抗できるATKはねえんだよ!
あっぶねえ、ドアに顔面ぶつけるとこだったぞ。
小さな女の子に力で負けた哀れな俺はなす術もなく繭の目的地へと連れてこられた。
ここって談話室じゃねえか。こんなとこに一体何の用があるってんだ。
てか、なんだこれ、うるせえ! 外でたくさんの人が叫んでやがる!
騒がしいと思ったら、原因はこれか!?
「何だよ繭! 何事だよ、これは!」
「ここからなら、お店の、正面が、見える。お店の中も、凄い人」
窓から下を覗き込めば、なるほど大量のプレイヤーがオッドボールへと入ろうと押しあっているのが見えた。
よくもまあ、この狭い路地にこんなに人が集まってくるもんだな。
プレイヤーを示すアイコンで視界がほぼ埋め尽くされてんぞ。
「みんな、アウィンに、会いに来てる」
「アウィンに?」
「へ、え、ええ!? わ、わたしですかっ!?」
ラピスとトパーズを連れて、俺達を追ってきていたアウィンが驚きの声を上げる。
いや、驚いてんのはこっちだ。
「アウィン、お前、何したらこんなに人が集まってくんだよ」
「し、知りません! わたし、特に何もしてないですもん!」
「聞いた感じ、みんな、アウィンに、会いたい、って」
「ふえ!? 何で、何でですか!?」
『アウィンの容姿が問題なのでは』
『なるほど、こいつの顔は悪くねえしな。胸は、まあ、これからに期待ってとこだが』
「むぅ! トパーズさんのいじわる! 見ててください! その内わたしも、癒香お姉さんみたいになってお兄ちゃんを悩殺しちゃうんですからっ!」
「悩殺云々は置いといて、容姿のせいってのはあるかもな。NPCと遜色ないテイムモンスターはアウィンが初だ」
アウィンは俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでいた。
俺がそう呼ばせていると考えたプレイヤーが、テイムモンスターなら何でもさせられると思っても不思議じゃない。
つまり、アウィンは顔がいいからと、不埒な輩が邪な考えを持って集まって来たって訳だ。
「ふむ、よし、結論は出た。コイツら吹っ飛ばそう」
「テイク……!? どうしたら、そんな、結論に……!」
「コイツらは害にしかならない。吹き飛ばした方が社会のためだ」
「早まってる、テイク、絶対、早まってる……! 落ち着いて。そもそも、どうして、いきなり、容姿がどうって」
ん? それはさっき、ラピスが言ってたじゃねえか。
って、ああ、なるほど。スキルリングの効果は装備者にしか効かないんだな。
「なんか、ラピス達と話せるようになってな。アウィンの容姿が原因だってラピスが言ってたんだよ」
「……え」
「おっしゃ、とりあえず吹っ飛ばすぞ、トパーズ」
『よく分からねえけど、吹っ飛ばすのは任せとけ!』
「あ、待って……! テイク、さっきのは、どういう。っていうか、何を、するつもり……!?」
「トパーズで浮きあげて、俺の魔法で吹き飛ばす。MP回復薬はすぐそこの部屋に備蓄してんだ、コイツらをアウィンに近付かせちゃいけねえ……!」
とにかくまずはトパーズを路地へ降ろそう。
そこから、上へかち上げていったところを俺が《風種》で吹き飛ばせば。
「あーれれ、繭ちゃん待ちきれずに来ちゃったんだけど……。これはどういう状況なーのかなっ?」
後ろから聞き慣れない声が聞こえた。
振り返れば、爆撃準備中の俺、一度店に戻ろうとしていた繭、自分が騒動の中心にいることに気付きアワアワとしているアウィンに囲まれた場所に小柄な男が立っていた。
なんだ、コイツ。
いつの間に、こんなとこに。
「やほやほー」
「あ、ウィリアム。今、呼びに行こうと、してた」
「そなの? それじゃ、グッドタイミーングってやつかな。俺ちゃん分かってるぅー」
「おい、繭! 誰だこのどっかムカつく奴は!」
「ちょーいちょい。そりゃないよー。俺ちゃんはただのムカつく奴じゃないよん?」
「気色悪いんだよ! それに今、お前に構ってる暇なんてねえ! 繭!」
「一言で、言えば、この騒動の、中心人物」
「いぇい」
「出てけっ!」
繭に何の目的があったか知らねえが、もうなんかコイツを倒せば全てが丸く収まるってことでいいか!? いいよな!?
何より、無性に腹立つ!
「トパーズ!」
『おし、要はこの野郎を叩き出しゃいいんだな、旦那!』
トパーズがいつもの様に一瞬で相手の近くまで《跳躍》する。
その小さな身体が自分の真横にいるなんて思いもよらないだろう。そこから、もっと規格外の蹴りが飛び出すことなんて予想もできない。
『オルラァ! 吹っ飛べ!』
「おっとっとー。うっわー、こわわー」
「……は?」
気付いた時、男は俺の隣にいた。
コイツ、速すぎんだろ……!
しかも、それをプレイヤーなのに制御してるだと!?
「お兄ちゃんから離れてくださいっ!」
「待て、アウィン! お前はダメだ!」
「え!?」
「お、おお、うおおぉぉっ! マイエンジェル、アウィンたんが俺ちゃんの元へーっ!」
「へぷっ!?」
咄嗟に男から距離を取ったことが仇となった。
コイツは外でアウィンに会いたいと叫んでいる奴らの親玉。
となると、狙いはアウィン!
「たぁっ! あ、あれ?」
「わ、アウィンたんいい香りー」
「きゃっ!? 後ろですか!?」
「アウィン、こっち来い!」
「あぁ、やっぱりアウィンたんは可愛いねぇっ! お人形さんみたい! とってもキュート!」
「ひぃっ」
「てめぇ、今すぐその鬱陶しい口を閉じろ!」
マジで何だってんだ!?
あの素早いアウィンの攻撃を避けて、しかも後ろに回り込みやがったぞ!?
この男、マジで何者だよ!? というか、このままじゃ対処のしようがない!
色々と危険だ!
ここはもう、なりふり構っていられない。
《闇球》ならギルドを破壊することもないだろ!
五千のMPをつぎ込んだ《闇球》を一刻も早く! コイツにっ!
「ウィリアム、あなた、何しに、来たの」
「ん? あ、ああー。そうだった。そうだったんだよ。繭ちゃんありがとねー! 鉄の規律を俺ちゃん自身で破っちゃうとこだったぁ! あっぶないあぶない!」
「うぇぇ、お兄ちゃぁん。どうしましょう。腰が抜けて立てなくなっちゃいました! 助けてください……っ!」
「お、おう。相変わらずだな、お前は」
アウィンを支えてやりながら考える。
どういうことだ? 繭が何か奴に話し掛けた途端大人しくなり、そのままクルッと向きを変え談話室の椅子に座った。
本当にコイツの目的が分からん。
何なんだ。何しにここへ来たんだ……!
またまたキャラの濃い人が登場です!
え、これ以上、キャラクターを増やすなって?
……これでも必要最低限なんです。どうか、ご容赦を……。
運用は頑張って参りますので……っ!




