第百話「再戦」
ついに、百話です!
いつも、皆さんありがとうございますっ!
これからもまだまだ「極振り好き」は続きます。
応援、よろしくお願い致しますっ!
第二の町ローツ。
その北東部では二人のプレイヤーが再会を果たしていた。
だが、それは決して感動できるようなものではない。
辺りには一触即発の殺伐とした雰囲気が漂っていた。
「よお、久しぶりだな、クレーマー。元気してたか?」
「ああ? 誰だてめぇ。……いや、雑魚二匹を連れたテイマーか。そういや、どっかで斬ったような気もするな」
あー、くっそ、マジでウザい、コイツ。
一度ならず二度までも、ラピス達を雑魚っつったぞ!?
だが、ここで頭に血が上れば前の二の舞になるだけだ。
ラピス達が強いのは、俺が知っている。
今はまだ、それでいい。
とにかく今は、俺の後ろにいるハーピーを守らなければ……!
「《リコール》」
「お兄ちゃんっ! 早かったですね! あ、鳥さんです! ってことは、もう着いたんですか?」
「違う。構えとけ」
「え? あ、あの人は……」
アウィンを《リコール》で呼ぶ。
また一瞬暴走しかけたが、クレーマーを見て気を引き締めてくれたようだ。
アウィンも、前にコイツと戦って負けたことを覚えていたな。
そりゃ、忘れられないか。
アウィンは何も出来ずにやられてしまっていた。その分、きっと悔しい思いも大きかっただろう。
「……アイク、なぜ、貴方がここに?」
「んだよ、ギルマスも狙ってたのか? そこのモブを狩ろうとしただけだ。そいつ、他のモブとは何か違ぇだろ」
「やらせねぇ」
「黙ってろ、雑魚が」
やはり、コイツはこのハーピーを狙ってここに来たってことか。
確かに、ハーピーは敵モブ。アイコンだってそうなってる。
プレイヤーが敵モブを倒そうとするのは何も間違っていない。
きっと、おかしいのは俺なんだろう。
俺は、このハーピーを守ろうとしているんだから。
「さっさとどけ。そいつはずっと俺がマークしてた。倒す権利は俺のもんだ」
「ちょっとちょっと! このハーピー達は私たちに向かって飛んできたんだよ! それに、このハーピーとはタケルンが知り合いだって言ってたし、一度話を聞いても」
「何だこのチビ。失せろ。邪魔だ」
「むっかー! エル、この人倒しちゃっていいよね!? PvPやっていいよね!?」
ユリ姫様や。
お偉いさんなら、もうちょっと煽り耐性つけときなさいな。すぐ暴力にものを言わせるのって何か怖いぞ。
前回、煽られてすぐ乗った俺が言えることじゃないけどな。
だが、残念ながら、ユリにPvPをされてもらっちゃ困るんだよな。
「ユリ、やめた方がいいですわ。貴女では勝ち目がありませんもの」
「うっそだー! 私、こんなやつに負けないよ!」
「私とメリーでも、この方に勝つことは難しいんですのよ」
「それこそ嘘だよ!」
「紛うことなき事実ですわ。この方がギルド“青薔薇”で最も強いプレイヤーですの」
そう。コイツは強い。
反応速度、身体能力、状況判断。
どれを取っても、俺が勝てる道理はない。
それでも、やっぱりさ。
負けたままってのは悔しいもんで。
「ん? あ? おい雑魚テイマー、何のつもりだ?」
「送られてんだろ? 見たまんまだ」
「はっ、バカじゃねえの? 暇潰しにもならねえ雑魚処理を俺がやると思ってんのかよ」
俺が送ったのはPvP申請。
前回のリベンジマッチだ。
そして、俺の後ろにいるハーピー防衛戦でもある。
負けられない。
「こんなもん、受ける理由がねえな」
「理由ならある。プレイヤー間のダメージが無効となるこの場所で、俺がハーピーを守ろうとすれば、お前にはどうしようもないからな」
「んなもん、てめぇを吹き飛ばせば済む話だろが」
「お前だって知ってんだろ。スライムに物理が効かないことぐらい。吹き飛ばそうったって衝撃を吸収してしまえば、動かすことすらできねえんだよ」
「そんなら」
「だが、俺はPvPをしてやるっつってんだ。PvPで負ければ、一度死んで同じ場所にHPが一の状態でリスポーンされる。すぐに動くことなんざできねえよ」
アイクにPvPを受けさせるために受けるメリットを並べ立てる。
だが、これは嘘だ。
ラピスで衝撃を吸収すると言ったって小さすぎる。
全てをさばき切れるはずもない。
コイツに突っ込んで来られると、どうしようもないのだ。
ハーピーを守るためには、コイツに勝ち、動けなくなっている間に移動するしかない。
何とか、PvPを受けた方が楽だと考えてくれさえすればいい。
PvPが始まれば、勝ちは見えてくる。
PvPに乗らないのなら、ハーピーを守る手段はない……!
「あー! タケルン、ずるい! 私がボコろうと思ってたのに!」
「すまん、ユリ。コイツは譲ってくれ」
「後悔してももう遅いからな」
「っ! こっちのセリフだ、クレーマー野郎」
周囲にPvPフィールドが展開される。
エリーやユリ、ハーピーもそのフィールドの外へと転移させられた。
側にいるのは、ラピス、トパーズ、アウィンだけ。
電子的な数字が俺とアイクの中心に浮かび上がり、カウントダウンを始める。
「むぅ、仕方ないからタケルンに譲ってあげる! でも、負けたら承知しないからねっ!」
「私に勝てなかったテイクさんが、アイクに勝てるとは思えませんわ」
「もー、エルもタケルン応援してあげてよ!」
「アイクは私のギルメンですわよ」
「ぐぬぬ、タケルンに千G!」
「アイクに同額ですわ」
外野がうるさい。
てか、賭けが始まってんぞ、おい。
お姫様、賭博にまで手を出しちまったのか。
もういい。今は目の前の敵だ。
アウィンを呼んでからラピス達には作戦を伝えてある。
前のような、お試しPvPじゃない。
純粋に、勝つための作戦だ。
「あ、わたしもお兄ちゃんに千Gを!」
「おい、アウィン何やってんだ」
「お兄ちゃん、これで勝てば千五百Gですよ! お金が増えますっ!」
「んなこと言ってる場合か! 始まるぞ!」
「大丈夫です! なんたって、お兄ちゃん達がついてますから!」
アウィンの金への執着も相当根深いもんだな。
町盗賊であることの影響だろうか。
カウントダウンの数字はどんどんと減っていく。
アイクもさっさと終わらせるつもりだろうか、今にも走り出しそうだ。
視線は時折ハーピーへ向いている。
この間に逃げ出されたら面倒だろうしな。
正直、それは俺としても面倒なことだ。
どっかに行かれてまた探し出すのは御免こうむりたい。
ってことで、図らずも双方、早期決着を狙うってことで一致したようだな。
勝負はきっとすぐにつく。
それはつまり、一瞬のミスが命取りになるということ。
そして、今。
カウントがゼロとなる。
「速攻で」
「てやあっ!」
「なっ、はあ!?」
「《土種》!」
カウントが無くなり、試合が開始されたと同時に動き出した両者。
だが、そのスピードは明らかに違う。
一瞬で距離を詰めていく盗賊。
速さ重視で、そういったスキルを取っているプレイヤーには敵わないかもしれないが、アイクはむしろ攻撃を避けるより受けるタイプだ。
アウィンの方が速い!
だが、やはりコイツの反応速度はおかしい。
体勢も走り出そうとしている不安定な状態、意識的にも不意をつき、しかもアウィンの速度で振るわれたナイフをいとも簡単に受け、逸らす。
しかも、既に迎撃まで仕掛けている!
「ほっ、やっ、とぅあ!」
「《土種》! 《闇種》! 《火種》!」
「こんの、うぜえなぁ! ゴラァ!」
しかし、その剣はアウィンに届かない。
アウィンだって、何もしていなかった訳じゃない。
ウィルのところで、ナイフの使い方をひたすら練習していたのだ。
まだまだ拙い箇所はあるのだろうが、防御に徹すればある程度の時間は稼げるはず。
それに、俺も便利魔法でサポートしている。短い時間ではあるが、確実に耐えられる!
アウィンの反応速度は負けていない。
『アウィン、そろそろ行くぜ! 旦那、合わせろよぉ!』
「くぅ、えい! やぁ! はい!」
「《土種》! 《火種》!」
そして、トパーズ達と意思疎通ができるようになったのも大きい。
行動する前にタイミングを合わせられる!
「死ね! 雑魚が!」
「トパーズさん!」
『ラピス姐、頼んだぜ!』
『ええ。任せなさい』
アイクが剣を横薙ぎにする。
だが、アウィンはそれを受けようともしない。
その代わりに飛び込んできたのは、一匹の小さなウサギ。
身体を目一杯に伸ばして、アウィンを守るように盾になる!
そして、剣はトパーズの腹を捉えた。
が、そこには青い物体。
『ふおー、スリルあんなぁ、おい!』
『さあ、次はアナタの番ですよ、トパーズ』
「行きますよ、トパーズさん!」
「ちっ、またこのスライムか! それに、ハウリングのホーンラビット……!」
弾かれた剣とトパーズ。
しかし、トパーズは弾かれることが無かった。
後ろには既に片手で受け止めているアウィン。
そして、そのままアイクの持つ剣へと押し出すように投げつける!
そして、このタイミングで!
「《闇球》!」
「ハウリングか!?」
『吹き飛びやがれぇっ!』
「ぐ、うお!?」
トパーズの蹴りが剣にぶち当たる。
その剣は真横へと吹き飛び、トパーズはその反対へと跳んでいく。
ハウリングの印象が強すぎたか?
元々の狙いはその剣だ。
剣でガードしてくれるとはありがたいことだな。
トパーズの身体能力だって、目を見張るものがある。
そして、トパーズがいなくなったと同時に着弾する《闇球》。
消費MP六百の威力四倍だ。
直撃したな。これで、どうだ!?
「あああ、鬱陶しいっ! たたっ斬ってやらぁっ!」
「そうかい、ただ、その獲物はどうすんだ?」
「はぁっ!?」
トパーズが吹き飛ばした金属製の剣。
だが、その落下音は聞こえていない。
それもそのはず。
「えっへへー。盗っちゃいました」
アウィンはトパーズを剣へと押し出したままの勢いで走り出していた。
後は、飛んできた剣をキャッチすればいい。
落ちたのを拾ってくれればよかったんだが、恐るべきはDEX極振り。
空中で掴むとかよくできるな……。
アウィンの《盗む》スキルはレベル五。
レベル五になってからはプレイヤーの装備を盗むことができるようになった。
プレイヤーの手から離れた武器は成功確率が上がるのだろうか?
《盗む》が成功したようで何よりだ。
「ああああぁぁっ! ウゼぇ! メンドい! お前ら雑魚だろうが! 死ねよ!」
「そうイライラすんなって、カルシウムとか野菜、食ってる? ご飯、食べてきたら?」
「黙れ、雑魚がっ!」
アイクのHPは一割しか削れていない。
魔法攻撃でこのダメージか。きっとMINよりもVITが育っているだろうに、やっぱレベル差を感じるな。
「テイマーのお前を倒せば終わりだ! 死ね、雑魚!」
「っ! 《光種》! 《土種》! 《水種》!」
「うぜぇ、うぜぇ、うざってぇっ!」
うーわ、何振り構わず突進して来やがった。
こうなれば、もう便利魔法は通用しないな。
右手を構えて引き付ける。
至近距離で、魔法をぶち当ててやる。
『残り七メートル』
『視線、右手側』
『獲物、短刀。右手持ちです』
「…………」
耳元から聞こえる複数の声に集中する。
ラピスの《分裂》は前よりも多くの数に分かれることができる。
そして、それは、目が増えるということでもある。
『残り五メートル』
『視線、変わらず右手側』
『獲物、刃渡り二十センチメートル』
「…………」
目が増える。そして、思考する脳も増える。
状況判断は、ウチのラピス以上にできるやつなんていない。
『残り三メートル』
『重心、左足』
『体幹、右へずれました』
『右足の踏み込み、左足側へ傾いています』
『視線、変わらず右手側』
「……っ! 《火球》!」
「ざんねぇん」
気付いた時にはアイクが左側にいた。
俺の撃った火球は右斜め前へ。
アイクの持つ短刀は既に横へと引いていて、俺の腹へつき立とうと迫ってくる。
そして、俺の耳へ声が届く。
『誘導完了。計算通りです』
「《闇球》」
すみません!
本日(5月5日)の更新はリアルの事情により難しそうです。
楽しみにして頂いていた方、申し訳ありませんっ!




