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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第4章「ローツ攻略編」
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第百話「再戦」

ついに、百話です!

いつも、皆さんありがとうございますっ!


これからもまだまだ「極振り好き」は続きます。

応援、よろしくお願い致しますっ!

 第二の町ローツ。

 その北東部では二人のプレイヤーが再会を果たしていた。


 だが、それは決して感動できるようなものではない。

 辺りには一触即発の殺伐とした雰囲気が漂っていた。


「よお、久しぶりだな、クレーマー。元気してたか?」

「ああ? 誰だてめぇ。……いや、雑魚二匹を連れたテイマーか。そういや、どっかで斬ったような気もするな」


 あー、くっそ、マジでウザい、コイツ。

 一度ならず二度までも、ラピス達を雑魚っつったぞ!?


 だが、ここで頭に血が上れば前の二の舞になるだけだ。

 ラピス達が強いのは、俺が知っている。

 今はまだ、それでいい。


 とにかく今は、俺の後ろにいるハーピーを守らなければ……!


「《リコール》」

「お兄ちゃんっ! 早かったですね! あ、鳥さんです! ってことは、もう着いたんですか?」

「違う。構えとけ」

「え? あ、あの人は……」


 アウィンを《リコール》で呼ぶ。

 また一瞬暴走しかけたが、クレーマーを見て気を引き締めてくれたようだ。


 アウィンも、前にコイツと戦って負けたことを覚えていたな。

 そりゃ、忘れられないか。

 アウィンは何も出来ずにやられてしまっていた。その分、きっと悔しい思いも大きかっただろう。


「……アイク、なぜ、貴方がここに?」

「んだよ、ギルマスも狙ってたのか? そこのモブを狩ろうとしただけだ。そいつ、他のモブとは何か(ちげ)ぇだろ」

「やらせねぇ」

「黙ってろ、雑魚が」


 やはり、コイツはこのハーピーを狙ってここに来たってことか。

 確かに、ハーピーは敵モブ。アイコンだってそうなってる。

 プレイヤーが敵モブを倒そうとするのは何も間違っていない。


 きっと、おかしいのは俺なんだろう。

 俺は、このハーピー(敵モブ)を守ろうとしているんだから。


「さっさとどけ。そいつはずっと俺がマークしてた。倒す権利は俺のもんだ」

「ちょっとちょっと! このハーピー達は私たちに向かって飛んできたんだよ! それに、このハーピーとはタケルンが知り合いだって言ってたし、一度話を聞いても」

「何だこのチビ。失せろ。邪魔だ」

「むっかー! エル、この人倒しちゃっていいよね!? PvPやっていいよね!?」


 ユリ姫様や。

 お偉いさんなら、もうちょっと煽り耐性つけときなさいな。すぐ暴力にものを言わせるのって何か怖いぞ。

 前回、煽られてすぐ乗った俺が言えることじゃないけどな。


 だが、残念ながら、ユリにPvPをされてもらっちゃ困るんだよな。


「ユリ、やめた方がいいですわ。貴女では勝ち目がありませんもの」

「うっそだー! 私、こんなやつに負けないよ!」

(わたくし)とメリーでも、この方に勝つことは難しいんですのよ」

「それこそ嘘だよ!」

「紛うことなき事実ですわ。この方がギルド“青薔薇”で最も強いプレイヤーですの」


 そう。コイツは強い。

 反応速度、身体能力、状況判断。

 どれを取っても、俺が勝てる道理はない。


 それでも、やっぱりさ。

 負けたままってのは悔しいもんで。


「ん? あ? おい雑魚テイマー、何のつもりだ?」

「送られてんだろ? 見たまんまだ」

「はっ、バカじゃねえの? 暇潰しにもならねえ雑魚処理を俺がやると思ってんのかよ」


 俺が送ったのはPvP申請。

 前回のリベンジマッチだ。


 そして、俺の後ろにいるハーピー防衛戦でもある。

 負けられない。


「こんなもん、受ける理由がねえな」

「理由ならある。プレイヤー間のダメージが無効となるこの場所で、俺がハーピーを守ろうとすれば、お前にはどうしようもないからな」

「んなもん、てめぇを吹き飛ばせば済む話だろが」

「お前だって知ってんだろ。スライムに物理が効かないことぐらい。吹き飛ばそうったって衝撃を吸収してしまえば、動かすことすらできねえんだよ」

「そんなら」

「だが、俺はPvPをしてやるっつってんだ。PvPで負ければ、一度死んで同じ場所にHPが一の状態でリスポーンされる。すぐに動くことなんざできねえよ」


 アイクにPvPを受けさせるために受けるメリットを並べ立てる。


 だが、これは嘘だ。

 ラピスで衝撃を吸収すると言ったって小さすぎる。

 全てをさばき切れるはずもない。

 コイツに突っ込んで来られると、どうしようもないのだ。


 ハーピーを守るためには、コイツに勝ち、動けなくなっている間に移動するしかない。


 何とか、PvPを受けた方が楽だと考えてくれさえすればいい。

 PvPが始まれば、勝ちは見えてくる。

 PvPに乗らないのなら、ハーピーを守る手段はない……!


「あー! タケルン、ずるい! 私がボコろうと思ってたのに!」

「すまん、ユリ。コイツは譲ってくれ」

「後悔してももう遅いからな」

「っ! こっちのセリフだ、クレーマー野郎」


 周囲にPvPフィールドが展開される。

 エリーやユリ、ハーピーもそのフィールドの外へと転移させられた。

 (そば)にいるのは、ラピス、トパーズ、アウィンだけ。


 電子的な数字が俺とアイクの中心に浮かび上がり、カウントダウンを始める。


「むぅ、仕方ないからタケルンに譲ってあげる! でも、負けたら承知しないからねっ!」

(わたくし)に勝てなかったテイクさんが、アイクに勝てるとは思えませんわ」

「もー、エルもタケルン応援してあげてよ!」

「アイクは(わたくし)のギルメンですわよ」

「ぐぬぬ、タケルンに千G(ガランド)!」

「アイクに同額ですわ」


 外野がうるさい。

 てか、賭けが始まってんぞ、おい。

 お姫様、賭博にまで手を出しちまったのか。


 もういい。今は目の前の敵だ。

 アウィンを呼んでからラピス達には作戦を伝えてある。

 前のような、お試しPvPじゃない。

 純粋に、勝つための作戦だ。


「あ、わたしもお兄ちゃんに千G(ガランド)を!」

「おい、アウィン何やってんだ」

「お兄ちゃん、これで勝てば千五百G(ガランド)ですよ! お金が増えますっ!」

「んなこと言ってる場合か! 始まるぞ!」

「大丈夫です! なんたって、お兄ちゃん達がついてますから!」


 アウィンの金への執着も相当根深いもんだな。

 町盗賊であることの影響だろうか。


 カウントダウンの数字はどんどんと減っていく。

 アイクもさっさと終わらせるつもりだろうか、今にも走り出しそうだ。

 視線は時折ハーピーへ向いている。

 この間に逃げ出されたら面倒だろうしな。


 正直、それは俺としても面倒なことだ。

 どっかに行かれてまた探し出すのは御免こうむりたい。


 ってことで、図らずも双方、早期決着を狙うってことで一致したようだな。


 勝負はきっとすぐにつく。

 それはつまり、一瞬のミスが命取りになるということ。


 そして、今。

 カウントがゼロとなる。


「速攻で」

「てやあっ!」

「なっ、はあ!?」

「《土種》!」


 カウントが無くなり、試合が開始されたと同時に動き出した両者。

 だが、そのスピードは明らかに違う。


 一瞬で距離を詰めていく盗賊。

 速さ重視で、そういったスキルを取っているプレイヤーには敵わないかもしれないが、アイクはむしろ攻撃を避けるより受けるタイプだ。

 アウィンの方が速い!


 だが、やはりコイツの反応速度はおかしい。

 体勢も走り出そうとしている不安定な状態、意識的にも不意をつき、しかもアウィンの速度で振るわれたナイフをいとも簡単に受け、逸らす。

 しかも、既に迎撃まで仕掛けている!


「ほっ、やっ、とぅあ!」

「《土種》! 《闇種》! 《火種》!」

「こんの、うぜえなぁ! ゴラァ!」


 しかし、その剣はアウィンに届かない。

 アウィンだって、何もしていなかった訳じゃない。

 ウィルのところで、ナイフの使い方をひたすら練習していたのだ。


 まだまだ(つたな)い箇所はあるのだろうが、防御に徹すればある程度の時間は稼げるはず。

 それに、俺も便利魔法でサポートしている。短い時間ではあるが、確実に耐えられる!

 アウィンの反応速度は負けていない。


『アウィン、そろそろ行くぜ! 旦那、合わせろよぉ!』

「くぅ、えい! やぁ! はい!」

「《土種》! 《火種》!」


 そして、トパーズ達と意思疎通ができるようになったのも大きい。

 行動する前にタイミングを合わせられる!


「死ね! 雑魚が!」

「トパーズさん!」

『ラピス姐、頼んだぜ!』

『ええ。任せなさい』


 アイクが剣を横薙ぎにする。

 だが、アウィンはそれを受けようともしない。

 その代わりに飛び込んできたのは、一匹の小さなウサギ。


 身体を目一杯に伸ばして、アウィンを守るように盾になる!

 そして、剣はトパーズの腹を捉えた。


 が、そこには青い物体。


『ふおー、スリルあんなぁ、おい!』

『さあ、次はアナタの番ですよ、トパーズ』

「行きますよ、トパーズさん!」

「ちっ、またこのスライムか! それに、ハウリングのホーンラビット……!」


 弾かれた剣とトパーズ。

 しかし、トパーズは弾かれることが無かった。

 後ろには既に片手で受け止めているアウィン。

 そして、そのままアイクの持つ剣へと押し出すように投げつける!


 そして、このタイミングで!


「《闇球》!」

「ハウリングか!?」

『吹き飛びやがれぇっ!』

「ぐ、うお!?」


 トパーズの蹴りが剣にぶち当たる。

 その剣は真横へと吹き飛び、トパーズはその反対へと跳んでいく。


 ハウリングの印象が強すぎたか?

 元々の狙いはその剣だ。

 剣でガードしてくれるとはありがたいことだな。

 トパーズの身体能力だって、目を見張るものがある。


 そして、トパーズがいなくなったと同時に着弾する《闇球》。

 消費MP六百の威力四倍だ。

 直撃したな。これで、どうだ!?


「あああ、鬱陶しいっ! たたっ斬ってやらぁっ!」

「そうかい、ただ、その獲物はどうすんだ?」

「はぁっ!?」


 トパーズが吹き飛ばした金属製の剣。

 だが、その落下音は聞こえていない。


 それもそのはず。


「えっへへー。盗っちゃいました」


 アウィンはトパーズを剣へと押し出したままの勢いで走り出していた。

 後は、飛んできた剣をキャッチすればいい。


 落ちたのを拾ってくれればよかったんだが、恐るべきはDEX(器用さ)極振り。

 空中で掴むとかよくできるな……。


 アウィンの《盗む》スキルはレベル五。

 レベル五になってからはプレイヤーの装備を盗むことができるようになった。

 プレイヤーの手から離れた武器は成功確率が上がるのだろうか?

 《盗む》が成功したようで何よりだ。


「ああああぁぁっ! ウゼぇ! メンドい! お前ら雑魚だろうが! 死ねよ!」

「そうイライラすんなって、カルシウムとか野菜、食ってる? ご飯、食べてきたら?」

「黙れ、雑魚がっ!」


 アイクのHPは一割しか削れていない。

 魔法攻撃でこのダメージか。きっとMIN(精神力)よりもVIT(生命力)が育っているだろうに、やっぱレベル差を感じるな。


「テイマーのお前を倒せば終わりだ! 死ね、雑魚!」

「っ! 《光種》! 《土種》! 《水種》!」

「うぜぇ、うぜぇ、うざってぇっ!」


 うーわ、何振り構わず突進して来やがった。

 こうなれば、もう便利魔法は通用しないな。


 右手を構えて引き付ける。

 至近距離で、魔法をぶち当ててやる。


『残り七メートル』

『視線、右手側』

『獲物、短刀。右手持ちです』

「…………」


 耳元から聞こえる複数の声に集中する。

 ラピスの《分裂》は前よりも多くの数に分かれることができる。

 そして、それは、目が増えるということでもある。


『残り五メートル』

『視線、変わらず右手側』

『獲物、刃渡り二十センチメートル』

「…………」


 目が増える。そして、思考する脳も増える。

 状況判断は、ウチのラピス以上にできるやつなんていない。


『残り三メートル』

『重心、左足』

『体幹、右へずれました』

『右足の踏み込み、左足側へ傾いています』

『視線、変わらず右手側』

「……っ! 《火球》!」

「ざんねぇん」


 気付いた時にはアイクが左側にいた。

 俺の撃った火球は右斜め前へ。


 アイクの持つ短刀は既に横へと引いていて、俺の腹へつき立とうと迫ってくる。


 そして、俺の耳へ声が届く。


『誘導完了。計算通りです』

「《闇球》」

すみません!

本日(5月5日)の更新はリアルの事情により難しそうです。

楽しみにして頂いていた方、申し訳ありませんっ!

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