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誓い ◆◆

お立ち寄り下さりありがとうございます。

最終話です。

そして、今回も殿下の核心部分に触れています。

最期まで本当に申し訳ございません。

 日は沈み、空には月が美しい姿を見せ、夜の訪れを告げていた。

 しかし、城内は、いや、城内だけではなくクロシア国中が、まだ賑やかな気配の中にあり、夜の訪れを忘れている。

 今日、王太子殿下が長年の思いを実らせ、婚姻の儀を上げたのだ。

 国を挙げての祝いの祭りは、収まる気配を見せなかった。


 けれども――、

 城内の王太子夫妻の寝室は外界とは異なり、静寂に満ちていた。

 明かりも僅かなものに抑えられ、静寂を一層深めている。


 寝台には微かに衣擦れの音がしていた。

 その微かな音を、寝台に横たわるリズの耳が拾うことはなかった。彼女の耳は自分の鼓動の音しか捉えられなかった。

 彼女の乱れた鼓動に気づいているのかいないのか、エドワードは熱を帯びた唇で彼女に触れていく。

 彼の唇に触れられた場所は血が集まるような心地がし、彼の熱以上に熱くなり、リズは呼吸まで乱れ始めていた。


 エドワードの唇がリズの首筋をたどったとき、リズの強い脈がはっきりと彼の唇に伝わった。

 彼の動きが止まる。

 脈は強まり、彼の唇を動かすほどだった。

 彼は止まったままだった。

 リズが疑問を覚えたとき、彼女の首に雫が伝った。雫は後から後から伝い続け、リズの首を濡らす。

 驚き、目を瞠ったリズの首筋で、小さな囁きが零れた。


「貴女の鼓動だ。…貴女が生きている」


 リズの瞳からも涙が零れた。


――私はどれだけこの方を傷つけてしまったのだろう。


 彼の抱える闇を感じ、リズの胸は痛んだ。

 彼の渡した毒で、彼が薬と思い込んでいた毒で、彼の目の前で昔の自分は彼を置いて逝ってしまった。

 彼が囚われてしまった闇を、命ある限り、彼との笑顔で塗り替えていきたいと、祈りにも似た切なる願いが込み上がる。


 彼の髪を撫で、彼女は口を開いた。

 

「エドワード。高直様」


 彼の身体がピクリと動き、唇はようやく首筋から離れた。リズがそっと彼の頭を両手で包み込みながら、上体を起こそうとすると、彼女の動きを察して彼が腕を背に回し、助け起こしてくれた。

 彼と寝台で向かい合うと、リズは、ほのかな明かりの中でも美しい、濡れたサファイアの瞳を見つめた。


「お願いがあるのです」


 微笑と共に返された彼の答えは、やはりいつもと変わらぬものだった。

 

「貴女の願いなら、何なりと」


 微笑を返しながら、リズは彼の長い指に自分の指を絡めた。


「私たちは、今日、多くの人の前で、神に夫婦となることを誓いました」


 彼はゆっくりと頷き、リズの言葉を待ってくれる。

 リズは想いを込めてサファイアの瞳を見つめた。


「それでも私は誓いが欲しいのです」


 彼女の願いの真意をつかめず、彼は美しい眉を微かに寄せた。

 リズは額に口づけて、眉間のしわを無くした。

 そして、彼の額に自分の額を合わせて、目を閉じた。触れ合わせた額と、絡め合わせた指から伝わる温もりだけが、彼女の全てになった。

 その温もりの中、彼女は魂が求める想いを紡いだ。


「私たちは今度こそ、比翼の鳥―」


 彼は息を呑んだ。

 彼女が紡いだ言葉は、遠い昔、夢のような幸せの中で、切なる願いを込めて彼女に誓った言葉だった。

 彼の長い指がしっかりとリズの指に絡まる。


「「連理の枝と」」


 二人の言葉は重なった。


「なろう」

「なりましょう」


 彼は力の限り彼女を抱きしめ、彼女も彼の背に手を回す。

 お互いの身体の熱が重なったとき、彼は腕の中にある自分の命に口づけた。

 何度もその存在を確かめるように、彼は口づけを重ねる。

 彼の愛しい存在は、彼の想いを受け止め、想いを返してくれていたが、やがて、くたりと体から力が抜け、彼の胸にもたれかかった。

 彼は柔らかく彼女を抱き止め、その髪に口づけを落とし、囁いた。


「前世は短すぎた。来世も加えてほしい。いや、未来永劫に」


 腕の中で彼女がくすりと優しく笑いを零す。

 彼女は体を起こし、いつまでも覗き込みたい紫の瞳に彼を映し、ふわりと微笑んだ。

 彼がその笑顔に見惚れていると、彼女は優しい口づけと共に、彼の願いに答えを返す。


「この魂が続く限り、永遠に」


 二人は誓いと笑顔を交わし合い、やがて寝台に沈み込むと、

  

 夜の帳の中、遠い昔からの想いを重ね合った。


 


お読み下さりありがとうございました。

完結いたしました。


今回、別タイトルの第1部を好んで下さった方には、

私の至らなさで本当に申し訳ないことをいたしました。

心からお詫びいたします。


そのような中で、最終話までお付き合いくださった方、

ブックマークや評価を下さった方、

誠にありがとうございました。

サブタイトルに◆をつける度に、罪悪感と自己嫌悪に沈んでおりましたが、

お立ち寄り続けて下さった方がいらっしゃること、ブックマークや評価を頂いたことで、

勝手なことではありますが、

励みに、素直に白状いたしますと、救っていただいていました。

心より感謝を申し上げます。


感謝の気持ちを込めまして、

心から皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。

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