70話 メイドオブメイドへの道7
この話まで試験的にですが三人称です。
次話からはララ視点に戻ります。
一応次話でララ視点は終了の予定です。
11月30日に一部改稿してます。
70話 メイドオブメイドへの道7
「ふふふ。その様子だと覚悟は決めたようね。」
オフィーリアは目の前に立つ彼女を目にして感嘆の言葉を漏らす。
彼女の目にはしっかりとした攻撃の意思があるというのに、目の前に立つ彼女の存在は朧げで敵意を一切感じさせない。それは彼女が非日常を受け入れた証拠に他ならない。
オフィーリアは自身の弟子の成長に頬を緩ませる。
「まるで別人ね。」
「……?そうでしょうか?」
技術的には数分前と変わらないだろう。だが、彼女を突き動かすその根源は全くの別物だ。
前は自身の身分のこともあり表へは出していなかったが、今はありありとその態度で語っている。「私は『ご主人様』が好きなのだ」と。
「人間、何を思うかで全く違う人生を歩むものなのよ?」
「……師匠がそれを言うと説得力がありすぎますね。」
「ふふふ。そうでしょう?……どうするの?まだ続ける?」
オフィーリアからすれば当初の目的はすでに達せられている。別にここでやめてもいいのだが……。
「はい、まだ師匠から1本取っていませんから。」
「いいわね♪好きよ、そう言うの♪」
二人は口端を吊り上げ対峙する。
常人から見ればただ立っているようにしか見えない二人だが、彼女たちは体の僅かな動きで牽制し合い、主導権を握ろうとしている。
時間にして僅か数秒、ラナンキュラスが動いた。
地面すれすれをまるで滑空するようにして距離を詰め、オフィーリアの死角から左の短剣を薙ぎ払い彼女の喉、急所をピンポイントで狙う。
そんなラナンキュラスの対し、オフィーリアはまるでラナンキュラスが来るのが分かっていたかの様に前へ出て攻撃を仕掛けて来る腕を取る。
ラナンキュラスはそのまま背負い投げの様に投げられる。……いや、投げると言うよりも落とすと言った方が近い投げ技を貰い、そのまま地面へと叩きつけられるかの様に見えた。
しかし、あと数瞬の間ラナンキュラスの腕を握っていれば彼女は受け身を取れずそれで決着してたはずなのに、オフィーリアは突然バックステップで距離をとった。
理由は地面に刺さった1本の短剣だ。
彼女は二刀流のため左右で剣を持っているのだが、右手で持っていた短剣をオフィーリア目掛けて投げたのだ。
自分の武器を投げると言う普通であればありえない行動だが、今回はそのおかげでラナンキュラスは助かった。
オフィーリアもまさか即席の投擲用の武器でなく、自身の獲物を投げて来るとは思っていなかったため対応が後手に回った事も要因として挙げられるだろう。
難を逃れたラナンキュラスはそのまま影渡りを使用し身を潜め、静寂が場を支配する。しかし、それも一瞬の出来事だった。
お互いが一息をついた瞬間、ラナンキュラスは再び仕掛けた。
今度は正面ではなく背後からの攻撃。常人であれば察知する事も出来ず事切れているだろうが、そこは人外の中の人外。
難なく躱しラナンキュラスへ手刀を叩き込む。
ラナンキュラスは首筋へと叩き込まれるその攻撃を躱さなかった。躱せなかったではなく、躱さなかった。
彼女はオフィーリアの攻撃を首筋に魔力を集中させる事で耐えたのだ。
「影結び。」
「……っ!」
攻撃が当たった瞬間、ラナッキュラスは防御用に使っていた魔力とは別の攻撃用に温存していた魔力を使い魔法を使った。
彼女が使った魔法は影魔法の中にある『影結び』と呼ばれるもので、自身が触れているものの影と自分の影を一つにするものだ。
これは魔法を使っている間影を繋いだものを動けなくする魔法だ。影縛りと違う点は自身が触れていないと発動出来ないという事だ。
通常なら影縛りの方が優秀なのだろうが、飛び道具が当たらなければ意味がないためオフィーリア相手にはこちらが有効だったという事だ。
「……ふっ!」
相手の動きを縛るといっても相手はオフィーリアだ。力技で一瞬の間に、無理やり拘束を解いた。
しかし、自身の魔法が破られたというのにラナンキュラスは不敵に笑う。
『一瞬の間』それこそが彼女がこの戦闘で何よりも欲しかったものだからだ。
「……シッ!」
ラナンキュラスは振り向く要領で右回し蹴りを放つ。
先ほどの無茶が尾を引いているのか、オフィーリアの動きがいつもより鈍い。
「がっっ!?」
完璧には避けきれずに顎先をかすめてしまう。
もっとも彼女でなければあの蹴りをもろに受けてしまい、もっと悲惨な事になっていたのは言うまでも無い。
脳が揺れてふらつく中、オフィーリアは次の攻撃を許さなかった。
追撃をかけようとするラナンキュラスだが、突如衝撃を受けて後退する。
それはオフィーリアが風魔法で放った空気弾だった。
「……くっ!」
ダメージが残るようなものでは無かったが、その一瞬の間はラナンキュラスの追撃を寸断するには十分すぎるものだった。
お互いに距離が空き息をつく。
「ふふふ。これは1本取られたわね。」
オフィーリアは自身に回復魔法をかけながら声をかける。その姿に戦闘を継続する意思は伺えない。
「……結局仕切り直しにされてしまいましたし、微妙なラインではないですか?」
「そんな事無いわ、正直あそこまで捨て身の攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったもの。私が首筋以外を攻撃したらどうするつもりだったの?」
「その時はそこで稽古終了です。……あの状況を作れば師匠ならきっと首を狙ってくるだろうと山を張っていましたから。」
「ふふふ。怖いわね〜♪全てあなたの掌の上だったと言う事かしら?」
「いえ、今回は上手くいっただけですよ。……師匠相手に普通にやって隙が出来る筈がありませんから。」
実際、オフィーリアという規格外のバケモノ相手でなければ、ここまで博打に博打を重ねるような駆け引きは求められないだろう。
「ふふふ、そういう事にしておくわね。さて、それじゃ遅いけれどご飯にしましょうか。外で食べるご飯も中々に乙なものなのよぉ〜。」
「はい、私も手伝います。」
二人で仲良く食事をする中、森の夜は明けていった。
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