69話 メイドオブメイドへの道6
なんと5万PVを突破しました!
さらにユニークPVも7000を突破しました!
本当にありがとうございます!
これからも応援して頂けると嬉しいですm(_ _)m
初めはララ視点ですが、途中から三人称になっています。
11月30日に一部改稿してます。
69話 メイドオブメイドへの道6
師匠の殺気を身に受けて大雑把にですが、師匠がこの2週間、私に本当に伝えたかった事がわかった気がします。
私は今まで気配や殺気などを隠していましたがどうやら違う気がします。
説明が難しいのですが、師匠は日常の中に常に殺気を侍らせているとでも言えばいいのでしょうか?
普通、殺意なんてものは日常には存在しないものです。
そんなものを無理に隠そうとすれば粗が出てバレるのは当然と言えると思います。だから私の攻撃は一切通じなかったのではないかと納得もできます。
しかし、そうなると不自然なのは師匠の殺気の在り方です。
日常生活の中に殺意を同居させるなんて普通は出来ません。……いえ、正確に言えば普通の生活は出来なくなると言った方が正しいでしょうか。
誰かに殺意を向けるという事は『誰かに殺される覚悟をする』という事です。
つまり、自身の日常に殺意を迎え入れるという事は『いつ、誰に殺されてもいい』という事を受け入れる事と同義です。
冒険者という、いつ死んでもおかしく無い様な仕事をしている人たちでもそこまでの覚悟がある方は一体どれほどいるでしょうか?
私は思わずゾッとしました。
師匠はそれを受け入れています。狂気をその身に宿してなお、笑っています。
理由は一つでしょう。何かあっても勇者様が守ってくれると信じているから。勇者様が亡くなった今も何があっても愛し、愛されると疑っていないから。だから師匠はその命を晒すことが出来るんでしょう。
それがたとえ、自分の主人に迷惑がかかるかもしれない事だとしても。
私に危険が迫ればご主人様は守ってくださると思います。ご主人様はお優しいですから。ですが、私がその優しさに甘えていいのかと言われると頷けない私がいます。
私はご主人様を愛しています。それは何が起ころうと変わる事はありません。
ですが、私はご主人様の奴隷です。奴隷だからこそ愛するご主人様の側に居る事が出来ます。そんな奴隷がご主人様に迷惑をかける?ご冗談を。そうなればご主人様に捨てられるでしょう。
私には師匠の力を受け継ぐ素質も資格もある。
だけど、狂気をその身に宿してでも主人と一緒にいたいという覚悟はあるのか?主人を守り、守られる。迷惑をかけるその『覚悟』が本当にあるのか?
師匠は私にそう伝えたいのだと思います。
師匠は初めて会った時に言いました。『主人を守る力が欲しくないのか、一緒に居たいとは思わないのか』と。
皮肉なものです。
私はご主人様の足手纏いになりたく無くて師匠の下で修行をする事にしたというのに、師匠が教えてくれた事が『守られる覚悟を持て』ですから。
私は今はいないご主人様の姿を思い浮かべる。
私を気遣ってくれる優しいご主人様。
私の何でも無い話を楽しそうに聞いてくれるご主人様。
普段は凛々しいけど寝顔は少しだけあどけないご主人様。
私に返しきれないような恩を下さったご主人様。
私が好きになったそんな彼。
彼を想えば想う程に心が暖かくなり、キュッと締め付けられる。
彼の側に居られるだけで満足な私がいる。
彼に私の全てを愛して欲しい、彼の全てを愛したいと思う強欲な私がいる。
どちらも私だし、私の本心だ。
……あぁそういう事だったのか。私は難しく考え過ぎだったんだ。
私は『覚悟』はとうに出来ていたんだ。たとえ彼に拒絶されようとも、彼に嫌われようとも、私が彼を思う気持ちは変わる事は無いのだから。
私は『ご主人様』への想いを抱きしめて駆けた。
「あそこまで言ったのだからあの子なら気がつくでしょうけど……。どうかしらね。」
今はこの場には居ない一人の弟子に対してオフィーリアは一人愚痴る。
オフィーリアから見たラナンキュラスは才能の塊という他ない。
実際、わずか2週間という期間でラナンキュラスがオフィーリアから盗んだ技術は数知れない。それもただ真似をするだけでは無くて、自分が使い易いようにアレンジをしているのだから師匠の面目もあったものじゃない。
まぁ、それもオフィーリアの『普通ではない稽古』があってこその話なのでオフィーリア自身が自信を無くすという事はあり得ないが……。
そんな光り方を知らない宝石の原石にオフィーリアが教えた事は一つだけ。
『覚悟』を持て。
それだけだ。
色々と細かい技術や心得を教えたりもしたが、結局のところはそこへ行き着く。
オフィーリアは元奴隷だ。
だからラナンキュラスの主人への愛も、愛するがゆえに『愛する主人の力になり、尽くす。けれど主人の力に甘える訳にはいかない。それが義務であり愛だから』という考えは非常に共感出来るものだ。むしろオフィーリア自身も昔はそう考えていた。
しかし、オフィーリアの主人たる勇者に求婚され、諭された事で考えを改めた。『愛する彼に尽くし、尽くされる。これこそが愛』なのだと。
そしてその考えに行き着くと彼女は呆然とした。
今までの愛がひどく独善的で、歪んだものだったかを思い知らされたから。
オフィーリアは後悔こそしなかったが、もっと早く考えを変えていればもっと楽しい時間を主人と過ごせたのではないかと考える事がある。それは今でもそうだ。
だからこそ、自身の可愛い愛弟子に同じ気持ちを味わって欲しく無いという気持ちが強い。だからこそ、今のラナンキュラスには厳しいであろう事を叩きつけた。
「彼女ももっと彼を信じれば……って、来たわね。さて、彼女の答えはどっちかしら?」
オフィーリアは先ほどラナンキュラスがやっていた風魔法を使った敵の感知を行なっていたのだが、その索敵範囲に反応があった。
オフィーリアは何処から攻撃が来てもいいように神経を集中させる。
(方向は2方向かな?)
反応があった方向は正面と左側面の2つ。ただ、この二つは陽動だろうとオフィーリアは判断する。反応があまりにも小さ過ぎたからだ。
迫って来る投擲武器を視認し、オフィーリアは内心この攻撃の考察を始める。
(ここまでは予想の範囲内、さてどう来るのかしら♪)
オフィーリアはこの攻撃は読んでいた。何度もラナンキュラスと手合わせをしているのだ、彼女が何の策も無く無謀な特攻をするような馬鹿でない事は知っている。
実際にオフィーリアは何度もこの手の誘導を受けている。だからオフィーリアは飛んで来た木の棘をいつも通り風魔法で起こした突風で弾き飛ばした。それがラナンキュラスに誘われた事だと知らずに。
「………っ!?」
オフィーリアは急に眼前へと迫った凶刃を身を仰け反るようにして躱した。
(感知の外から?……もしかして誘われた?)
オフィーリアは攻撃を躱したところでようやく先ほどの攻防がラナンキュラスに誘われた事に気がついた。
殺傷力の低い攻撃を風魔法で防いだ事、攻撃が来ていない2方向に敢えて隙を作っていた事、そして突風のせいで一時的に魔法の探知が効かなくなった事。
その全てがラナンキュラスの掌の上だったのだ。
ラナンキュラスの攻撃を躱したオフィーリアは体勢を立て直すために直ぐさま一度下がった。
そして目にした彼女は今までの愛という義務に駆られた『奴隷』では無く、自身のため、愛する『主人』のためにその身を、その心を焦がす一人の『メイド』だった。
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!




