67話 メイドオブメイドへの道4
もう少しだけララ視点が続きます。
まぁ、男視点よりも女の子視点の方が皆さんも良い……ですよね?
67話 メイドオブメイドへの道4
やはり私の考え、というか勘は正しかった様です。
訓練を始めて数十分、現在私は師匠に森の中を追いかけ回されています。
「はぁはぁ、ここまでくれば師匠も巻いたでしょうか。」
「誰を巻いたって?」
何の前触れもなく私の後ろから声が聞こえる。
私は飛び跳ねる様に距離を取り、その際に作った即席の投擲用の木の棘を声の主の目と影に1本ずつ放つ。本命は影の方だ。
そしてそれと同時に撹乱様に風魔法で作った刃を3つ放つ。
……詠唱?その様なもの師匠がさせてくれるはずが無いじゃないですか。地下室での稽古の時に無詠唱を叩き込まれましたよ。
「あらあら。」
師匠は私の攻撃を物ともせず木の枝を風魔法で突風を起こして弾き、風の刃を土魔法で土の壁を目の前に作る事で防いでさらに姿を隠した。
私はその瞬間、ぞわりと言い知れない悪寒が背中に走った。その直感に任せるままに左後ろに向けて左足で蹴りを放つ。しかしそれは師匠の右腕によってしっかりと防がれてしまった。
「おっと。中々の反応速度ね。」
「……師匠こそどんな移動速度してるんですか。私、目を離したりはしてませんよ?」
「あら?女の子には秘密の5つや6つはあるものよ?」
「多すぎです。師匠。」
「ふむ、私の攻撃前にあなたが攻撃出来たし良しとしますか。では今度はあなたが追跡側ね。私が今から逃げるから5分くらいしたら追いかけて頂戴。1撃入れる事が出来れば攻守交代ね。」
「分かりました。」
現在、私と師匠はブレストの街から東に馬で3時間ほど走ったところにある森で実戦訓練をしています。この森はそれなりに強い魔物が出るらしいですが、それなりらしいです。
師匠曰く今の私なら眠っていても倒せると言っていましたが……師匠の言う事ですからね。話半分位に聞いておく方がいいでしょう。
ブレストの街は西へ行けば私たちが来た皇国があり、北の方には農村が集まりこの辺り周辺の食料を大きく賄っているとか。
南の方には岩石地帯がありそこを超えると森が広がっている様です。
そこの森は今いる森よりも出る魔物は弱いらしいですが、何か様子がおかしいとの事で現在調査中みたいです。ご主人様なら『あまり関わりたくないなぁ』と仰いそうです。
そして東の方面は今私たちがいる森がある他、さらにずっと東へと行くとこの国の王都があります。つまり王都へと行くならこの森を抜けないと行けないのですが今はあまり関係ないですね。この先王都に行くこともあるでしょうから、この辺りの地形を覚えておくことはしますが。
……少し話が逸れましたね。
私たちはそんな場所で実戦訓練をしているのですが内容はマンハントの形式です。攻撃側と防御側に分かれて、この森の中を追いかけっこしながら攻撃側が防御側を攻撃するというものです。
攻撃方法は何でもありで、暗殺、不意打ち、魔物を使った陽動作戦と、どの様な手を使っても良いと言われています。その際に『本気で私を殺しに来なさい。でないと意味が無いわ。』とも言われました。
稽古をつけてもらう時に最初に言われた言葉と同じですが今改めて言われると言葉の重みがまるで違います。
それだけ師匠に近付けたという事でしょうか?ただ、あの時とは少しニュアンスが違った気が……。考えすぎでしょうか?
「そろそろですかね。」
師匠に言われた時間になり私は思考を打ち切って、どうやって師匠を探し出すかという事に考えを巡らせる。
正直まともにやって師匠を見つけ出してそこから攻撃するなんて何年かかるか分かりませんし、少々ズルをさせてもらいましょう。師匠は存在自体がズルしてる様なものですから大丈夫です。それに……そのズルですら師匠にはバレてそうなんですよね。
私は森に落ちている影全域に意識を巡らせてそこから師匠の居場所を特定する。
これは<影魔法>と<空間把握>を併用した技術で、私が触れている影に存在するものの情報を得るというものです。森の木々の影はいくつもに重なり一つになっているためこの技術と相性が凄く良いのです。
本来これの魔力の消費はかなりきついですが、そこは得る情報を絞る事で解決しました。
「見つけました。」
師匠は今私が居る位置から南へ1キロと少し行ったところを歩いている。……鼻歌交じりで。
「……流石師匠、余裕ですね。でも。」
私は今の装備を確認する。
戦闘用の短剣が2本、採取用のナイフが1本、今回の訓練で即席で作った投擲用の木の棘が残り4本。……少ないでしょうか?
万全を喫するなら投擲用の武器をもう少し調達したいですが、準備をすればその分師匠にも迎え撃つ準備時間を与える事になります。兵は早速を尊ぶ?と師匠も言ってましたし、この装備で仕掛けます。
まぁ師匠が私相手に入念に準備をする姿は全く想像できないですが……今だって鼻歌を歌ってますし。
私は影魔法の『影渡り』を使い師匠の背後まで一瞬で移動する。
この魔法は私の影と繋がっている影の中を自由に移動出来るというものです。
私の影と繋がっていないと駄目という、制約があるにはありますが、夜になるとそれは無いのと同じです。
何より移動の速度が尋常じゃなく速いので、恐ろしく使い勝手が良いです。
その分燃費も悪いですが、今の私の魔力量ならそれも微々たる問題です。
背後まで移動したものの私はまだ仕掛けないでいる。仕掛けるなら、仕掛けた際の事を想定をして退路を用意してからにしたいですから。
……よし。
私は意を決して背後から強襲を掛けた。短剣を握り急所へと攻撃したが、それが届く事は無かった。
師匠はまるで私が見えているかの如く、右足で後ろ蹴りに私の腹部を蹴りつけた。
「……ぐうっっ!?」
私は完全に想定外のことで防御出来なかったが、ギリギリ魔力を腹部に集中させることができ、生身のまま攻撃を痛打されるという最悪の事態だけは防いだ。
しかし私は踏ん張りが利かずそのまま後方へ吹き飛ばされてしまった。……いえ、寧ろ派手に飛んだことで、衝撃が抜けて私の内部を破壊するという事は無かったので良かったと言えます。
私は吹き飛ばされながら、投擲用の棘を2本師匠の目と影に向けて投げる。
バレにくく投げたそれらだったが、師匠には飛んでくる位置までしっかりとバレていた様で突風で簡単に薙ぎ払われた。
「あら、もう捕捉したのね。反撃を受けてもタダじゃ済まさない事も私の言いつけ通り本当に全力で殺しに来るその姿勢も素晴らしいわ。だけど攻撃の時に殺気を漏らしすぎよ。せっかく気配を消せても、それじゃ相手の不意を突く意味がないわ。」
私は吹き飛ばされ、木に衝突するというところで受け身を取る。
「……そこまで殺気が漏れた気はしなかったんですが。」
「いーえ♪ダダ漏れだったわ♪」
やはり師匠は一筋縄ではいきませんね。奇襲も失敗しましたしここは一旦引きます。
私は目眩しに残り2本となった即席の投擲武器を投げた。
「あら、芸がないわね。」
「それはどうでしょう……かっ!」
師匠が突風で弾く瞬間、を狙ってこちらも風魔法を使い師匠の突風を相殺する。その上で投擲武器を同じく風魔法で加速させる。
「んー♪なるほどね!」
師匠は迫る投擲武器を手刀で叩き折り私に追撃を仕掛けようとしていたが、私は既にその場にはいない。
私は師匠の注意が武器に向かっている間に影渡りで退却していたのだ。
「……なるほど♪引き際は完璧ね♪次はどう来るかな〜♪」
師匠から一度距離を取り態勢を立て直している私は大きく息をついた。
「はぁぁ。流石師匠ですね。アレではダメですか。上手く殺気は隠していたと思うのですが……。次は上手くやります。」
私は即席の投擲武器を作りながら、この修行中何度目か分からない敗北を噛み締めた。
ご視聴ありがとうございます。
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