58話 冒険者ノルン
ノルン視点でのお話です。
ぶっちゃけ話自体は進んでません。
ただ、主人公の強さを別視点で見たらどうなのかな?ってことで今回の話を書きました。
11月7日に改稿してます
58話 冒険者ノルン
ーーーノルン視点ーーー
俺はブレストの街が好きだ。冒険者たちが競って己の力を技術を知恵を研鑽していくこの街が好きだ。
王国の特色とも言える多種族が多く住むこの街で最高の仲間にも巡り会えた。
無愛想に見えるがとても仲間思いで熱い奴のゲイル。
口数は少ないが冷静でパーティーを支えてくれるリーン。
真面目で叱られることもあるがみんなに優しいセーラ。
みんな最高の仲間だ。
そんな最高の奴らに巡り会えたからか、俺たちはブレストの街を拠点にして早数年、この街では異例の速さでCランクに昇格した。
そりゃ、最初のうちは苦い経験もしたがそれも今ではいい経験になっている。
そのおかげかCランクに昇格してからも俺たちは自分を高めることはやめなかったし、今ではBランクも間近なんじゃないかと噂されていると以前ギルドで飲んでいるときに仲のいい冒険者から聞いた。
正直Bランク冒険者と聞いても俺にはピンとこなかった。なんせBランクから上は滅多にいない。努力だけではなれない、それこそ雲の上の存在のようなものだ。
そんな俺たちはある日、受付嬢のアリアから依頼の話を持ちかけられた。
彼女曰く、『最近、岩石地帯の先にあるタスレットの森の様子がおかしいとの報告が上がっている。原因がわからないため調査をしたいがかなりの難度になるかもしれないため頼める冒険者がいない。』とのこと。報酬は金貨2枚、Cランクの依頼としてはそこそこいい方だ。
俺はこの依頼を受けた。
この街のことは好きだし、困っていることがあるなら力になりたい。そしてなにより俺たちならやれるという自信があった。
念には念を入れて1日かけて準備をし出発した。
アリアの話ではもう1パーティーくる予定だったが、メンバーが体調を崩してしまったため急遽俺たちだけになってしまった。
リーンはそのことに対し怪訝そうにしていたが、アリアの説得もあって最終的には折れた。その時のやり取りで報酬が金貨1枚増えたりもした。本当によくやるよ。
俺たちは時間はかかるが馬車を使わずに歩きで移動することにした。理由は長期の偵察になるため馬の管理が難しくなるからだ。
移動をしていると日が暮れて来たため一度野営をすることになった。
岩石地帯は魔物もなかなか出てこないし、かなりひらけた場所なので盗賊なんかの奇襲にも対応しやすいため一度ここで野営をしてから森へ向かうことになった。
交代で夜の番をしていたが特に異常はなく朝が来た。
移動を開始するべくみんなを起こし片付けを始めていると、黒づくめの格好の人物がこちらへと近づいてくることに気がついた。
敵襲か?と思って警戒するが相手はどうやら一人だけのようだし盗賊というわけではなさそうだった。みんなを呼んで少し警戒しながら声をかける。
「やぁ、こんなところに一人でどうしたんだい?」
黒づくめの人物はこの辺りでは珍しい黒髪に黒い目をした男だった。
「どうも、俺は冒険者をやってるんだがこの辺は人目がつきにくいと聞いてね……。少し自分を鍛えようと。」
そういって彼は肩をすくめ両手を挙げた。
少し自重気味に笑う彼につられたのか、何故か彼は悪い奴ではないように感じた。
俺は簡単に自己紹介をすると黒づくめの彼も返してくれた。どうやら彼はハヅキというらしい。
彼の装備や話から察するにおそらく新人なんだろうと思っていたがリーンが言うにはBランクの冒険者みたいだ。
思わず大声を出してしまったのをハヅキになだめられて落ち着いたがにわかには信じがたい。なんせ見た目はいかにも駆け出しの装備なんだ。特に魔法が込められた一品と言うわけでもなさそうだし、そう思っているとギルドカードを見せられた。
本物だ。彼のカードは本当にBランクのものだった。俺は憧れた。まさに雲の上の存在が目の前にいるんだ。
俺は思わず今回の依頼に協力してくれないか頼んだ。
普通なら無理な話だろうがハヅキはいくつかの確認をとって協力してくれることになった。やっぱりハヅキはいい奴だ。
森の調査を始めて何度と戦闘をこなしたがハヅキの戦闘は流石、いや化け物の一言だった。
ゲイルが言うにはハヅキの持つ武器は珍しいものらしく、よく貴族たちが観賞用に購入するものだといっていた。そんなものを何故?と言う気持ちはあったがあの戦闘を見れば次の言葉は紡げないだろう。
彼の振るう剣は見えないのだ。冗談とか比喩ではなく本当に見えない。
彼が剣を抜いたと思った時にはすでに鞘にしまっていて、チンッと気持ちよくゲイルが言う鍔?が鳴り、静かに魔物がその体から血を吹き出し倒れていくだけ。
俺も自慢ではないがCランクになったこともあり、それなりにやれるようになったと思っていたが甘かった。
ハヅキと戦闘すれば数秒と持たず俺の首と胴体は二つに分かれるだろう。
もうすぐBランクなのでは?何て言われたが俺とハヅキの間には天と地ほどの差がある。
それくらいハヅキの強さは人外じみていた。それこそ英雄と語り継がれるSランク冒険者並みに……。
そんな頼もしい助っ人の助けもあり森の調査はとても順調だった。でも、森の異様な空気を感んじているせいか素直に喜べない。むしろ嵐の前兆なのではと疑う自分がいる。
そんな中思わず、どうするかハヅキに聞いてしまった。返ってくる答えはわかっている。
「……この状況じゃなんとも。判断しようにも情報が少なすぎる、森の中心に行ってみるしかないと思う。」
「そうだよな。」
そう、ハヅキの言う通り奥へと進むしかないんだ。俺たちは意を決して中心へと進むことにした。
奥へと進んでいるとリーンから待ったがかかる。何事かと聞いてみるとこの先から強い血の匂いがするらしい。正確な数は分からないが10体程度じゃすまない規模だと言う。
……どうする?引き返すべきか?いや、このまま帰ったんじゃ何も分かっていないのと変わらない、進もう。
ハヅキはどことなく反対そうだったがみんなが賛成だと知るとすぐに納得してくれた。
ただこの時の俺はハヅキの判断の方が正しかった、と言うことを知らなかった。
リーンの先導の元再び調査を進めていくと、俺たちでもわかるくらいに血の匂いが充満してきた。確かにこれは10体じゃすまないな。
するとリーンが立ち止まり彼女の視線の先を促してくる。
ランパートグリズリーだ。
あの魔物は名前の通り要塞のように硬い。ただの毛皮に見えるがそれは剣を弾くどころか並みの剣なら逆に刃こぼれさせるほど強靭だ。
正直分が悪い。この森にはCランクまでの魔物しかいないため、Bランクの魔物である奴が原因なのは一目瞭然だ。
……撤退だ。いくらハヅキがBランク冒険者だとしても無理だ、相性が悪すぎる。まともな有効手段がゲイルのハンマーだけなんてとてもじゃないが相手にできない。
撤退しようと動いたその時、パキッと小枝を踏みしめた音が響いた。
「「「「「……あっ!」」」」」
まずい!気づかれた!どうする?逃げるか?いや、奴の足なら逃げたところで追いつかれる。迎え撃つしかない!
ゲイルがランパートグリズリーの攻撃を受けようと前に出た時ハヅキが叫んだ。
ゲイルはその声に従って咄嗟に下がるとゲイルの侵攻方向にバーナナゴリウスが2体も現れた。
これは、まずいなんてもんじゃない!ランパートグリズリーだけでも手一杯なのにそこにバーナナゴリウスが2体も現れるなんて!
どうにか潰しあってくれることを願うがそうはいかず、まずは邪魔者である俺たちを排除するために動きそうだ。
どうやら本当に覚悟を決めないといけないようだ。
みんなが死を覚悟する中、不意にハヅキが言った。
「ノルン、ランパートグリズリーは俺がやる。他は任せた。」
「ハヅキ!?」
俺の制止も聞かないままハヅキはまるで散歩にでもいくかのようにランパートグリズリーへと歩いて行った。
なにを馬鹿な!?と思った時には、バーナナゴリウスたちがハヅキめがけて腕を振り下ろしていた。
俺にはそう見えた。だが実際にはすでに2本の腕が宙を舞っていた。
目を離した覚えはないが気がつけば目の前にいるバーナナゴリウスたちの腕が1本ずつ無くなっていて苦しそうに雄叫びをあげている。
一体何が起こったんだ?ハヅキが攻撃したのか?だが今まで以上に疾い!?
分からないことだらけだが、その雄叫びで我に帰る。そうだ、今はこの場を切り抜けないと!俺は気合いを入れるとともに仲間に指示を出す。
ランパートグリズリーはハヅキが抑えてくれている。早くこいつらを倒して加勢しないと!
俺は雄叫びとともに死地へと駆けた。
ご視聴ありがとうございました。
ブクマ、評価ありがとうございます!




