42話 ファラーシャとの再戦
「シルヴィエ……シルヴィエ!」
「ん……」
いつの間にかシルヴィエはうたた寝をしていたらしい。
「ごめんな、もう少し寝かせてあげたかったんだけど……」
「どうした?」
「急に鳥の声がしてきた。何かが起きている」
確かにシンと静まり返っていた森が妙に騒がしい。
『そなたの言う通り、来たようだな』
あたりを窺うシルヴィエにイフリートがポツリと呟いた。
「カイ!」
「ああ……」
カイは背中からラグナロスを引き抜き構えた。
「この剣を振るものに、神は咎人を滅する力を与えん……聖断」
シルヴィエの付与魔法がカイを包み込む。
「よし、準備はばっちりだ!」
カイが勢い良く返事したその時だった。
青黒い炎の塊が突然に目の前に飛び込んで来た。
「ふんっ!」
カイはそれを真っ二つに切り裂いた。
「……すっげえ。まるでケーキでも切ってるみたいだ。あのノームのオッサンに感謝だな」
カイは本来の切れ味を取り戻したラグナロスの切れ味に驚き、思わず声を漏らした。
「油断するな、カイ! また来るぞ! 聖壁」
シルヴィエが障壁を展開すると、炎は四散する。
その炎の向こう側から、見た事のある影が現われた。
「ふーん、ここで待ってたんだぁ。本当にしつこいね」
「ファラーシャ!」
「どいて。あんた達に用はないの。私はそこの精霊竜に用がある」
「そう言われて、『はいそうですか』と言うとでも?」
シルヴィエとファラーシャは睨み合った。
二人の間にはまるで見えない火花が散っているようだ。
「どうやってここまで来た? 精霊の試しを通過したとでも……」
「あー、あれ? 無視したに決まってるじゃなーい」
ファラーシャはそう言って腹を叩いた。
「おえっ……」
するとゴロゴロと卵大の宝玉のようなものが転がり出てくる。
「ほーら、こうしちゃえば静かなもんでしょ」
「貴様……どうやって」
「教えてあげなーい、あははは」
シルヴィエは四大精霊をあっという間に片付けたファラーシャと対峙し、冷たいものが背筋を走るのを感じた。
「決して消えぬ地の底の火よ、全てを焼き尽くす炎となれ――煉獄の炎」
そしてファラーシャの詠唱とともに、青黒い炎が彼女を取り巻いた。
「お前は丸焼きにしてあげる」
すると次々と冷たく、そして焼け付くような炎がシルヴィエを襲った。
「くっ……聖壁」
「大人しくしてなさい。いい子でね」
ファラーシャはシルヴィエの動きを封じると、くるりとカイの方を向いた。
「お前は生でいこうかな」
「ふざけるな!」
カイは上段に神剣ラグナロスを構え一気にファラーシャに振り下ろした。
「何度も単純な攻撃だこと」
ファラーシャは鎖鎌を操り、その剣筋を断とうとする。しかし力を取り戻したラグナロスはその鎖鎌を粉砕した。
「な……」
ファラーシャの表情に焦りの色が浮かぶ。
「くそ!」
ファラーシャは鎖鎌を投げ捨てると、一足飛びに後方で退いた。
「そのナマクラ……どうしたんだ」
「教えねーよ、馬鹿」
カイは大地を踏みしめ、ファラーシャに向かい攻撃を繰り出す。
ファラーシャはなんとかその攻撃を躱す。
「逃がさねぇ!」
カイの放った攻撃の切っ先がついにファラーシャの腕を切りさいた。
「ぐっ……」
「覚悟しろ!」
カイはとどめを刺す為に、重い大剣を大きく振りかぶった。
「天候! くっ……水じゃこの火は消えない……」
その頃、シルヴィエは自身を取り囲む炎に手を焼いていた。
障壁さえもかいくぐって伝わってくるこの不思議な炎。
このままでは蒸し焼きになってしまう。
「これは地獄の炎……ということは聖属性の魔法か……いと慈悲深き神よ、我らに光を与えたまえ。聖光」
その途端、まばゆい光が辺りに満ちる。
すると、青黒い炎がようやく消失した。
「カイ!」
シルヴィエはすぐに障壁から出ると、カイの姿を探した。
「あらぁ? 意外と早かったわね」
そこには地面に倒れているカイと、顔から体にかけて真っ赤に染まったファラーシャがそこに居た。
「シルヴィエ……気をつけろ……こいつ、肉体を変化させる」
「そうよ。他人の姿形を変えることが出来るってことは自分もそうできるってことよ」
カイの一太刀がファラーシャを捉えた途端、彼女は体を二股に分けてその攻撃を防いだのだった。
そして硬質化させたその腕でカイの腹を突いたのだ。
「カイ……! 今すぐ回復させる!」
「きゃはははは! させないわよ!」
ファラーシャがパチンと手を叩く。
すると黒い鎖がとてつもない早さで地面を這い、シルヴィエの足を捉えた。
「あっ!」
「だからいい子でいなさいっていったでしょう?」
その黒い鎖はシルヴィエとカイを絡め取ると近くの大木にくくりつけた。
「いけませんよぉ、おひい様の邪魔をしては」
黒い鎖からぷくりとナミラの頭が生えてきて、シルヴィエとカイを睨み付けている。
「ナミラ! そのままその二人を括っておけ!」
「はい、おひい様」
「ぐ……」
口も鎖で覆われたシルヴィエとカイは呻くことしか出来なかった。




