33話 一騎打ち
「な――ッ!?」
突然に障壁に弾かれたファラーシャはその衝撃でもんどり打ち、地面に転がった。
「くっ……なんだ。急にこんな上級魔法がなぜ……」
「おひい様……」
二人は何が起こったのか分からないまま、様子を窺った。
「……はぁっ……はぁっ……」
「シルヴィエ!!」
そしてペンブルク軍の後方には大きく息を荒げているシルヴィエがいた。
「カイ……間に合わなかった……」
悔しそうに唇を噛むシルヴィエに、カイは首を振った。
「いいや、まだ兵は沢山残ってる! 一人でも多く救うぞ!」
カイは背中の大剣を下ろし、前方を見据え構える。
「逸るな、二人とも。まずはペンブルク軍を安心させねば」
そんな二人の後ろから現われたユリウスはさっと白馬に跨がった。
「ペンブルク国境軍の皆! 同盟国ルベルニアの援軍が到着した! あとは我らに任せよ!」
「おお……」
「援軍だ!」
数日間の日夜を問わない戦い、そして正体不明の魔族の登場に疲れ切り、士気を失い命の覚悟を決めていたペンブルク軍の面々はその言葉に沸き上がった。
「ペンブルク軍は後方に撤退! ルベルニア軍は前進せよ!」
「はっ!」
シルヴィエの張った障壁魔法の中で、ぼろぼろになったペンブルク軍とルベルニア軍が入れ替わる。
それと同時に、魔法兵達が上官の指揮に従い、シルヴィエの作った障壁を補強していく。
「障壁完了しました!」
かつてそれぞれがシルヴィエの教えを受け、練りに練られた魔法兵の動きは迅速だった。
ルベルニア軍が他国から抜きんでて強いその理由の一つである。
「では、行くぞ。カイ!」
「ああ!」
兵達の指揮をユリウスと上官達に任せ、二人は最前線に出た。
そこにはうようよいる、オークやゴブリンの雑兵と黒いドレスの女魔族が居るのが見えた。
「あれが……」
シルヴィエが遠見の魔法で見た鎌を振っていた女だ。
あれの所為で沢山の兵の首が飛んでいくのをシルヴィエは見た。
「カイ、あの魔族に注意しろ!」
「ああ!」
カイが大剣を構える。神剣ラグナロスがそれに応えるように鈍く光った。
「おひい様……なにやら援軍が来たようですな」
「まったく……面倒くさい……ん?」
ファラーシャをもはじき出す障壁が出来たかと思えば……軍勢の中から男と小さな子供がやってきた。
「あれは! 勇者カイです、おひい様!」
「それは分かる。しかしあの子供はなんだ?」
ファラーシャは戦場には不釣り合いな小さな子供の姿に首を傾げた。
「貴様がこの魔族の群れの大将か?」
カイは鋭くファラーシャを睨めつけながら、そう問いかけた。
「そうだなぁ……一応そうかな」
まともに会話が出来る。これはかなり高位の魔族だ、とカイは警戒心を強めた。
「何が目的だ? ここは人間領だということは分かっているよな?」
「あはは……人間なぞに分かるものか」
一見、可憐な少女にしか見えないファラーシャだがその笑みには、底知れぬ不気味さがあった。
「分かった」
カイはそう短く答えると、いきなり大剣を振り上げた。
どんな見た目であっても魔族は魔族。
一瞬に鎌を振るい、フファラーシャはその大剣を受け止めた。
「……は! 猿め」
「ぐぐ……」
カイの鍛えぬかれた膂力を持ってしても剣はびくともしない。
ファラーシャの細い腕からは考えられない力が、徐々にカイの大剣を押し返す。
「勇者ね……こんなものかしら」
「舐めるな!」
カイは渾身の力を籠め、ファラーシャの力を押し返す。
「ふふふ」
しかしファラーシャは余裕たっぷりに微笑んだ。
が、そこに聞こえてきたのはシルヴィエの声だった。
「この剣を振るものに、神は咎人を滅する力を与えん……聖断」
その途端、白い光がカイを包み、神剣ラグナロスが光り輝いた。
「うおおおっ!」
「何!?」
ラグナロスがファラーシャの鎌を弾く、と同時にファラーシャめがけてさらに襲いかかる。
それをすんでの所で躱し、ファラーシャは二人から距離を取った。
「おひい様、大丈夫ですか?」
「バフの魔法か……しかし、ここまでの効果とは……」
ファラーシャの視線がカイの後ろにいる幼女に移る。
「まさかあの餓鬼が……?」
そう、カイに施した魔法こそ、大聖女シルヴィエの得意中の得意な魔法だった。
この魔法により、カイの肉体、そして精神力は常人をはるかに超えたものになっていた。
「さあ、カイ。この魔族女を仕留めろ!」
「おお!」
カイは、今までの動きとは比較にならない早さでファラーシャち距離を詰めると、まるでレイピアでも扱うかのように軽々と大剣を振った。
――ガン! ガン!
――キン! キン!
火花と金属音が響き、目にも止まらぬ早さの大剣と鎌の攻防が続く。
「……」
「せい!」
カイの剣がファラーシャの鎌を弾き飛ばす。
そしてとうとう、カイの一閃がファラーシャを貫いた。
「ぐっ……」
「――覚悟!」
カイがとどめの一突きを繰り出そうとしたその時だった。
ファラーシャの手から離れた鎌が、シルヴィエに襲いかかった。
「な……!」
いきなりの攻撃にシルヴィエは慌てて防護障壁を出す。
しかし無詠唱の障壁では鎌の攻撃を防ぎきれない。
勝手に生き物のように動くその鎌の先端が障壁に食い込んでいく。
「聖壁……」
シルヴィエがさらに重ねがけをしようとしたところ、くらりと眩暈がした。
それは大規模障壁魔法に、カイへのバフを連続で使ったことによる魔力不足による眩暈だった。
「シルヴィエ!」
「おやおや、お前の相手は私よ」
腹を引き裂いたはずのファラーシャはもうすでに傷もふさがり、ピンピンしてカイの前に立ちふさがった。
「どうしたら……」
シルヴィエは昔のように力を振るえない己のふがいなさに唇を噛んだ。
明日はおそらく更新おやすみします。




