27話 茶会
「茶会?」
「ああ。そこで選りすぐりのご令嬢にユリウス王子には会って貰う。気に入った令嬢がそこにいれば万々歳だ」
「ああそうだな」
授業の後、シルヴィエはカイから訳を聞きだした。
「パーシヴァルの話では夜会でも取り巻きの貴族と話すくらいで、ほとんどそのご令嬢たちと交流はないらしい」
「年頃だというのに」
「だからだろうな。自分の娘を売り込みたい貴族間で牽制しあっている状態らしい。そんな彼らからしたらこの茶会はチャンスに思えるだろう」
ユリウス自身から招待された茶会なら王子と話す機会に恵まれる。
その機を逃す有力貴族はいないだろう、とシルヴィエにも分かった。
「だからシルヴィエはただ待っていればいい」
「……うまくいくといいが。期待しないで待ってる」
「ああ」
そう言い残してシルヴィエが帰って行くのを見送りながら、カイはパーシヴァルと話し合った時のことを思い出していた。
「茶会? ユリウスの目を覚まさせるのにそんなものでいいのか?」
「そもそも、女性との交流の少なかった殿下ですから。まずはそこからと考えています」
「うーむ」
「……シルヴィエ様のことが王の耳に入れば、もっと強硬な手段を取られるかと思いますが」
「強硬な手段?」
「例えば隣国の姫君を迎えるとか……そうなると国と国との政治になります。今のままのユリウス殿下がその方を妻と扱うかどうか……そんな不幸の前に、まずは殿下の気持ちを惹く女性が他にいないのか、私は見定めたいのです」
側近であり、乳兄弟のパーシヴァルもまたユリウスの幸福を強く願っているのであった。
「わかった。とりあえずやってみよう」
カイはその思いを受けて、その提案に乗ることにしたのだ。
――一週間後、ユリウス主催の茶会が開かれることになった。
しかし、ちっともパーシヴァルから招待客のリストが出て来ない。
不審に思ったユリウスは彼を呼んですぐに提出するように言いつけた。
すると、パーシヴァルは観念したようにすぐにリストを出して来た。
「こちらが招待リストです」
「……これは。どこぞのご令嬢ばかりではないか」
「はい」
「謀ったな、パーシヴァル。これではまるで見合いじゃないか」
「私に任せると仰せでしたので。どのご令嬢も素晴らしい方々ばかりです」
「……しかたない。お前の顔を立てるという約束だったものな」
パーシヴァルの気持ちも分かる。それに直前になって中止となればまた痛くもない腹を探られるばかりだ。
「一応出席するがな、それだけだ。パーシヴァル」
「かしこまりました」
こうして茶会の当日となった。
「ごきげんよう、ユリウス王太子殿下」
「ごきげんよう、今日はお天気も麗しく……」
王宮のサロンに集まったのは、有力貴族の令嬢に、社交界で人気の美しい令嬢……と様々だった
「ああ、ごきげんよう」
ユリウスがいつもの優しげな微笑みを返すと、どの令嬢もぽっと頬を染めた。
そして彼ががソファに腰掛けると、わっと令嬢とその母親や付き添い人がその周りを囲んだ。
「殿下、この度はご招待をありがとうございます。わたくしはヘイワード公爵の妻、この子は長女のフランシアと申します」
「これはどうも」
「ほ、ほら……! フランシア、殿下とお話なさいな」
「あっ、あの……でも……」
金髪の、フランシアという名らしい少女は顔を赤らめてもじもじしている。
可愛らしい顔をしているが、主体性がないな、とユリウスは思った。
「すみません、この子は恥ずかしがり屋で……奥ゆかしいのです」
「そうですか」
ユリウスはそう返事をしながら、母親とは大違いだと思った。
「あの、ユリウス殿下」
今度は栗色の髪をした令嬢がユリウスに話しかける。
「ごきげんよう。素敵なグリーンのドレスですね」
ユリウスは話のきっかけに、とそうドレスのことを褒めた。
すると、彼女はぱっと笑顔になると、ペラペラと話し出した。
「ええ、そうなのです。この日の為に大急ぎでマダム・ラッソーのメゾンに頼みましたの。知ってらして? その仕立て屋は普通なら半年待ちですのよ」
それからもレースがどうとか、香水はこれが流行りだとかを次々と語り出す。
「はあ、そうですか」
ユリウスはそんな話ばかりする彼女にうんざりした。
シルヴィエは見苦しい格好でなければかまわないと言うだろうな、とつい思ってしまう。
すると、そんなユリウスの表情を察したか、別の令嬢がユリウスに近づいた。
「殿下、この本は読みましたか?」
「ああ、今話題の詩集だね」
「ええ、とても美しくて……私大好きなんです」
「それでは原語で読んだほうがいい。もっと流麗な言葉の律動が感じられる」
「原語……ですか」
「あ……そうだな。前作は? あれもとてもいいよ」
「前作……」
恐らく知性をアピールしようとしたのだろうその令嬢は、ユリウスの返しにしおしおと勢いを無くしていった。
「はぁ……知らないことは悪いことではないのに……」
知らなければ知ればいい。シルヴィエならそう言うだろう。
ユリウスはまたシルヴィエのことを考えている自分に気が付いて憂鬱な気分になった。




