魔王城の天使メイド(ラファエル)
あけましておめでとうございます。今年も頑張って投稿していきたいと思います。新年一発目の魔王様は他愛もない小噺です。本編というより、人物紹介的なものになります。
ーーーーーー
【慈愛の天使】ラファエル。
ツインテール、つり目、貧乳と、ツンデレの三大要素すべてを兼ね備えたツンデレ天使である。他人に対しては素っ気なくあしらい、機嫌が悪いとつい言葉が強くなってしまう。
これだけ聞くと、なぜ彼女が【慈愛の天使】を務めているのか疑問に思うだろう。しかし、一度心を開けば彼女が本来持つ優しさが現れる。母は子を愛するが、ときにきつく当たることもあるーー母という存在を体現するような存在ゆえに、ラファエルは【慈愛の天使】を務めているのだ。
なお、母性の象徴がまな板状態になっていることは彼女の前では禁句である。
熾天使の一体として活躍していたラファエルだったが、とある女神の不始末に巻き込まれて地上に降りることとなった。彼女の経歴からすれば、汚点以外の何物でもない。しかも、使えているのは若い神。格こそ最高神に次ぐものの、職場としては左遷もいいところだ。
そんなわけで、プライドの高いラファエルはやさぐれていた。昼間はメイドとして置き物を演じ、夜になると城下町の酒場に繰り出して自棄酒を飲む。たまに絡んでくる酔っ払いを憂さ晴らしに叩きのめすーーそれが彼女のルーティンとなっていた。
「終わったわ!」
ゴーン、ゴーンと重々しい音を立てて鐘が鳴る。終業を報せる鐘だ。これで魔王城のーーというより、魔界の昼と夜(つまり、昼のシフトと夜のシフト)が入れ替わる。ラファエルは昼のシフトであるため、これで仕事は終わりだ。
さて、今日はどこへ行こう? 美味しいお酒が出るお店? それともゴロツキの多いスラム近くの酒場? などと考えながら歩く。気分は上々で、スキップしている。ところが、そんな楽しみを邪魔する者がいた。
「ラファエル。ちょっと来るのじゃ」
メイド天使長・ルシファーである。合法のじゃロリ娘だが、幼い見た目に反して戦闘能力は熾天使の誰よりも高い。彼女には逆らえなかった。
「はい」
と、刑場に向かう囚人のような重い足どりで彼女の許に向かった。
「……何? 仕事は終わったわよ?」
昔はルシファーの呼び出しが仕事の合図たったが、今は決まった時間に仕事が与えられている。加えて今の主人は自分たちが助けるまでもなく国を回していた。だからこそひとりで国ひとつ滅ぼせるだけの戦闘力を持つ熾天使が、城でメイドをしているのだ。
(あたしたちに仕事があるとすれば、世界の危機くらいよ)
想定される最悪の事態だが、まず滅多に起こらない。その上、ジンならば難なく処理してしまいそうだった。現代兵器のエッセンスを取り入れた魔法は、とても厄介なものだ。純粋な戦闘力であれば、神のなかでもかなりの上位に入るだろう。
そんな状況なので、ラファエルは呼ばれた理由がさっぱりわからなかった。だが、彼女の本能がけたたましく警鐘を鳴らしていた。よくわからないがヤバい、と。そして、それは正しかった。
「ふぎゃっ!」
冒頭でルシファーがラファエルの頭を叩く。完全に隙を突かれたために躱せず、まともに一撃を食らう。
「ちょっと。何するのよ!?」
「腑抜けておるからそのようなことになるのじゃ。そもそも、最近のお主は何をしておる? 昼間はろくに働かず、夜は酒場で騒いぎおって!」
「いいじゃない、別に!」
「いいわけあるか!」
瞬く間に喧嘩に発展する。元々、単純な戦闘力はルシファーの方が高い。さらに今回は大義も彼女にあった。ルシファーはラファエルをボコりつつ、悪い点を指摘していく。
日中はメイドとしての仕事を放棄して、ただ立っているだけ。夜は酒場で酒を飲み、酔った勢いで絡んでくる男を殴打する。そして夜遅くに部屋に戻って寝るーーだから朝寝坊をする。
「完全なダメな輩の生活じゃな」
ルシファーはそう締めた。物理的にも精神的にも打ちのめされ、這いつくばるラファエル。そんな彼女に、ルシファーは優しく声をかけた。
「安心せい。妾が真っ当な生活に戻してやるのじゃ」
「い……いや〜っ!」
ラファエルは逃れようと精一杯もがくが、天使長からは逃げられなかった。部屋に連れ戻され、メイド服を剝かれるとベッドに投げ込まれる。さらに逃走防止、と縛りつけられた上に催眠をかけられて眠らされた。
翌朝。ラファエルはベッドから叩き出される形で起こされた。犯人はもちろんルシファーである。
「むにゃ……」
「いつまで寝ておるつもりじゃ!」
起き抜けで頭が働かないラファエルに喝を入れるルシファー。それでも頭が回り始めるまで一時間かかったのだから、ある意味で大物といえる。ようやく目覚めると、ルシファーから早々に仕事が与えられた。それはアンネリーゼの補佐である。ジンの補佐として日々膨大な書類を捌くアンネリーゼ。本人は無論のこと、周囲も忙しい。メイドの仕事は書類の山を運び、手紙の封をするーーなどなど、本人でなくともできることは、できるだけ他人が行い、省力化していた。
「ラファエル。遅れておるぞ」
「なんであたしが……」
ルシファーに急かされて、手を動かすスピードを早める。だが、まったく仕事が減らない。というより、むしろ増えていた。季節は冬。年末にかけて忙しくなってくる時期であり、様々な仕事が一斉に押し寄せてくる時期でもある。人手がまったく足りていない。人員を増やそうにも、下手な人間を雇って情報が漏洩すると色々と拙いので、限界があった。ルシファーたち天使メイド軍団は、安全な者たちということで動員がかけられている。なお、彼女たちが普段お世話をしているディオーネは、ジンのところで面倒を見ていた。彼はまだ忙しくないからだ。
(すぐこの場を離れたいんだけど……)
もちろん、ルシファーが常に目を光らせているためそんなことはできない。さらに辛いのは、ラファエルの仕事がほとんど単純作業だということだ。机に座って折られた便箋を封筒に入れ、右隣に置くーーこれだけ。ずっと同じ姿勢でいるため腰が痛くなる上、飽きる。ラファエルには耐えられなかった。
ーーゴーン、ゴーン。
夕方が過ぎて終業の鐘が鳴った。
「やった! これで終わりね!」
元気よく立ち上がるラファエル。これで今日の仕事はおしまい。久しぶりにガッツリ働いたから、今日のお酒は美味しそうーーなんてことを考えていると、その肩をガシッと掴む者がいた。誰あろう、ルシファーである。
「何よ。ちゃんと仕事はしたじゃない」
だから帰ると主張する。しかし、ルシファーはそんな抗議は無視して言う。
「終わった者から帰っていいのじゃ」
「なっ!?」
絶句するラファエル。なぜなら、この場で最も仕事の進捗がよろしくないのが彼女だからである。ビリ確定。というより、今日中に終わるのかすら怪しい。
(部屋に帰れるといいな……)
ラファエルは悟りを開いた高僧のような澄んだ目で作業を続ける。無心で作業をした結果、なんとか日付が変わる前に仕事を終わらせることができた。
これに懲りたらしく、以後、ラファエルは真面目に仕事をするようになる。なお、ルシファー恐怖症を発症し、その姿を見るたびに怯えるようになった。




