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お約束破りの魔王様  作者: 親交の日
対人間戦争編

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32/95

魔王の目的

 



 ーーーーーー


 フローラが降伏交渉の使者として魔王軍の陣地へやってきたのとほぼ同じ時刻、ジンは勇者が目を覚ましたとの報告を受けていた。彼はアンネリーゼだけを伴って、麗奈のいる幕舎へと入った。入った途端、柱に後ろ手に縛られた状態の麗奈がジンを睨む。


「無礼な」


 これに反応したのがアンネリーゼ。彼女はジンに向けられる敵意を許容しない。


「ひっ!」


 麗奈が思わず悲鳴を零すほどの殺気が飛んだ。恋する乙女の気迫である。それに臆せず、宥めすかすのがジンの役目であった。


「こら。落ち着け、アンネリーゼ」


「はい」


 頭をポンポンされただけで、アンネリーゼの顔が蕩けた。とてもだらしのない表情をしている。さっきまでとはまるで別人。そんな掌返しにジンは毎度のことだと苦笑し、麗奈は目を点にした。


「ほら、誰も来ないように見張っててくれ」


「はぁい」


 トロトロに溶けた甘ったるい声でアンネリーゼは応じる。


「っ!」


 出て行く直前に麗奈と目が合う。瞬間、先ほどまでの蕩けぶりはどこへやら。獲物を狙う肉食獣のような鋭い目になりーーご丁寧に目を赤く光らせていたーー再び麗奈を怯えさせる。なお、その際に込めたメッセージは、


(分を弁えろ、人間)


 であった。そこまで正確にメッセージを受信できたわけではなかったが、なんとなく見下されているというニュアンスは感じ取った麗奈だった。


(今さら逆らおうなんて思ってないわよ)


 ジンが来る前、麗奈は脱出を試みていた。しかし頼みの魔法は使えずーーこの場所には魔法が使えないように結界が張られている。もちろんジンは例外ーー諦めていたのである。手が縛られていては何もできない。


 そんなわけで反抗の意思はまったくない。そしてこれから自分はどうなるのだろうかという不安はある。麗奈はかなり緊張していたのだが、


「あー、妻がすまない。俺はジン。魔王をやっている」


 などと、ヘラヘラした態度を崩さない。麗奈はとてもイライラしていた。


(なによこいつ。王都じゃ散々私を痛めつけておいて……っ!)


 異世界最強チートを得ていい気になっていた彼女にとって魔王ーージンはそれに冷水を浴びせた人物だ。恨み骨髄である。


 だが、それ以上に気になることがあった。それは麗奈が気絶させられる直前に聞いたジンの言葉。


「……原爆」


 ポツリと漏らしたその言葉に、ジンがピクリと反応した。そして困ったような表情になる。


「あ〜、聞かれてたか」


「あなた、日本人なの?」


 それが正解だと確信しつつも、訊ねる。かくして帰ってきた返答は、


「ご名答」


 という肯定であった。


「俺はジン。この世界では魔王だが、前世では一坂仁ひとさかじんって名前だった」


「へえ。そうなんだ」


 麗奈は興味なさげである。異世界で同郷の人間に出会えた嬉しさはあるものの、言ってみればそれだけだった。なにせジンは家族でも友達でもないのだ。


 まあ、麗奈の反応が鈍いのも無理はない。なぜならジンは地球での姿とこの世界での姿はまったく異なるからだ。旧知の仲である友人を連れてきても、揃って『こいつ誰?』と言うことは必定である。


 ジンの地球での姿は背丈や顔、能力などは平凡だった。本当に、ブサイクでもなけれぼイケメンでもないザ・フツメン。ゆえについたあだ名は名前をもじった『一般人』。


 対して異世界ではどうだ。高身長で少女漫画に出てくるイケメンを凌駕するイケメンぶり。さらに戦闘力は魔族最強。頭はあまり変わっていないが、それは地球での話。この世界のレベル的には天才。


 ビフォーアフターがあまりにも激しすぎたのだ。これでは麗奈が思い出せないのも無理はない。だからジンは少しばかりヒントを与えた。


「『あの、これ、落としましたよ』」


 それはいつかの再現。あまりにもギャップが激しい女子高生(麗奈)との邂逅が印象的であり、そのきっかけとなったその言葉をジンはよく覚えていた。


「ーーえ?」


 ポカンとなるのは麗奈。彼女もまた、その言葉はよく覚えている。落としたハンカチは転校した友達から別れ際に受け取ったもので、実用品というよりもお守りとして持ち運んでいたものだ。あれを落としたことに気づかなかったら間違いなく後悔していたーーゆえに感謝の気持ちを込めて精一杯愛想を振りまいて対応した。その後、わけのわからない女神との出会いと異世界へやってくることになった発端であったことも相まって、覚えていたのである。


「まさか、あのときの……」


 ワナワナと震える麗奈。そして、


「あんたのせいで!」


 怒りに任せてジンに飛びかかろうとした麗奈だったが、彼女は縛られている。少し浮いた瞬間に鎖に引き戻され、顔から地面にダイブした。


「うきゅ!」


「だ、大丈夫?」


「痛い……」


 とだけ言って動かない。心配になったジンは麗奈の拘束を解いた。


「う〜っ、う〜っ」


 自由の身となった麗奈は両手で鼻を押さえ、ゴロゴロと地面を転がる。


「ーーチャンス!」


 と思いきや、立ち上がってダッシュした。逃げようというらしい。麗奈としては、身体の拘束さえ解ければこちらのものーーと思っていたのだが。


「へぶっ!?」


 あまり花の女子高生には似合わない声とともに、麗奈は仰向けに倒れた。そこへアンネリーゼが登場。彼女は麗奈を足蹴にしてうつ伏せにし、その首根っこを掴んで幕舎中央まで運搬した。そしてどこからともなく縄を取り出し、両手を拘束。さらに天井の梁に通して、上へと持ち上げる。結果、麗奈は天井から吊るされることとなった。脚がかろうじてつく程度の高さである。拷問一歩手前。準備が終わったという程度だろう。


「ジン様。この小娘をどうしてくれましょう。ジン様のお慈悲で生きながらえながら、それを理解せずに逃げ出そうとするこの恥知らずを」


 アンネリーゼは酷薄な笑みを浮かべる。その顔には『ただでは済まさない』と大きく書いてあった。


「あー、まあ逃げないでくれ。じゃないとこういうことになるから」


「そうね。とても勝てそうにないわ。あなたにも、そこの人にも」


 捕虜の逃走を防ぐ仕掛けがあるのは、考えてみれば当然のことであった。捕縛装置がいささか強力すぎる気がしないでもなかったが、そんなことを言ったら何をされるかわからない。麗奈はバカではない。その辺りの危ないラインを見極めるのは得意だった。


「で、私を痛めつけて楽しんでいた魔王様は、これからどうするつもりなの?」


 などと皮肉げに言う。アンネリーゼはすぐさま怒気を露わにしたが、それをすぐさまジンが抑える。ジンはその辺りの沸点が高いーーと麗奈は見た。それは大当たりで、今回のことは悪かったとジンも思っている。だからこそ言いたいように言わせているのだった。


「それについてはすまない。でも勇者に優しい魔王なんておかしいだろ」


「それはそうだけど、サクッと倒して気絶させてお持ち帰りすればよかったじゃない」


「お持ち帰りって……」


 言葉がとても卑猥である。特にジンは麗奈が女子高生だったことを知っているためなおさら。


「あれ、そんなことで動揺して。もしかして魔王様はどーー」


「ストップだ。それ以上言うとアンネリーゼがヤバい」


 危険なワードが飛び出す前にジンが麗奈の口を押さえた。麗奈はもがいていたが、すぐにアンネリーゼがブツブツと何かを呟いているのを見て口を噤んだ。


 ちなみにアンネリーゼが呟いていたのは魔法の詠唱だった。魔法に高い適性がある吸血種でも最高クラスの彼女をして長大な詠唱を必要とさせる魔法はそれほど多くない。そして残る魔法は、ジンが知る限りどれもヤバいものばかりだ。麗奈に魔界独特の魔法の知識はなかったが、魔力の高まり度合いから危険を察知していた。


(というかあの子ヤバいんだけど)


 麗奈は戦慄した。少しおちょくっただけでこれである。もし彼女がキレたらーー想像したくもない。アンネリーゼの前では言葉を選ぼうーーアンネリーゼのヤンデレ具合は勇者をして恐怖させた。


「で、チェリーなの?」


「お前は懲りないな……。その質問には否と言っておこう」


 だが聞こえなければいいとばかりに会話を引っ張る麗奈も、なかなかに肝が据わっているといえる。


 とにかくヤバいアンネリーゼはジンが魔法ーー相手の魔力を吸収するもの。イメージは掃除機ーーで制圧した。


「んで、話を戻すとあれは魔王らしく振舞った結果でだなーー」


「おかげで私は身も心もボロボロに……」


 ジンが言い訳を続けると、麗奈はポロポロと涙を零す。しかしあまりにもわざとらしすぎるため、ジンはその涙が偽りであると看破した。そして呆れた様子で言う。


「お前もしぶといな」


「これくらいできないと女子の世界じゃ生きていけないからね」


 麗奈もサッと涙を引っ込める。ジンは女子の世界怖ぇ、と恐怖した。


「それでお前はーー」


「ちょっと。お前じゃなくて名前で呼んでよ」


「いや、知らないから……」


 ジンは困惑したように答えた。あ、と麗奈は気づく。自分が名乗っていなかったことに。


「麗奈よ。湊麗奈。よろしくね、ジン」


「呼び捨て?」


「その方が親し気でしょ?」


「まあそれもそう……か?」


 ジンは頭の上に大量の『?』を浮かべていたが、とりあえず納得することにしたようである。


「ところで、私を傷物にしてまでどうして人間と講和しようとするの? サクッと滅ぼせばいいのに」


「おい。今サラッと問題発言をーー」


「私の目的は地球に帰ることだから。そのためなら何だってするわ」


 国会答弁なら大炎上間違いなしである。アンネリーゼも大概だが、麗奈もまたどこか壊れている。人間性とか。


「はぁ……」


 ため息をひとつ。ジンはそれで意識を整えた。


「俺の目的も同じだ。地球に帰る方法を見つけることだな」


 と言った瞬間、ジンの服をアンネリーゼが掴んだ。言葉にしなくても何を言わんとしているのかはわかった。彼女はジンに帰ってほしくないのだ。


 ジンは彼女の不安を拭おうと、そっと肩を抱き寄せた。


「あ……。ふふっ」


 その効果は抜群で、アンネリーゼの表情が緩む。


「ただ、俺が麗奈と違うところはあくまでも方法を見つけるだけで、実際に帰るかどうかは決めていないことだな」


「そうなのですか?」


「ああ。だからある日突然いなくなったりはしないから安心してくれ」


「はい!」


 嬉しそうに返事をしたアンネリーゼは、ジンの胸板におでこすりすり。ジンもそんな彼女の頭をなでなで。


「うえぇ……」


 そんな二人を、麗奈は顔をしかめて見ていた。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


「別に大丈夫だけど、ジンたちはいつもそんな感じなの?」


「そんな感じって?」


「無自覚か……」


 アンネリーゼは脱力感に見舞われる。本当にあちこち力が入らないのだが、なんとか言葉を発した。


「そんな感じっていうのは、要するに、いつも今みたいなバカップルをやってるのか、っていうことよ」


「バカップル? 俺が? はははっ。まさか。ーーえ? マジ?」


 ジンは冗談だろうと笑い飛ばそうとしたのだが、思いのほか麗奈が真剣なので素で訊き返した。


「うん」


 返ってきたのは肯定。ジンは愕然となった。日ごろ、いたるところでいちゃついているバカップルを見てムカついていたのだが、まさか自分がそうなっているとは夢にも思っていなかった。


「これが、バカップルなのか……」


「なに? ちょっとイタイ自分を反省した?」


 麗奈は少しだけと思いつつ、ジンをおちょくる。だがそれに対するリアクションは、彼女の予想の斜め上をいく。


「黙りたまえ、非リア充」


「へ?」


 思わぬ返答に、麗奈は間抜けな声を上げる。彼女の予想では、ジンが『からかうなよ』と返して終わるはずだった。しかし現実には、思いっきり非リアであることをバカにされた。


「非リアの分際で『バカップル』などと……俺たちへの嫉妬か?」


「は? 違うし」


「いやいや、別に否定することはないさ。人間、他者に嫉妬することもあるだろうさ。存分に嫉妬したまえ、非リア」


「こ、こいつ……。いい加減にしなさいよ!」


 ここでついに麗奈はキレた。ある意味、恋人の問題は彼女のウィークポイントである。仲のいい友達は星の数ほどいるが、不思議なことに恋人はひとりもいなかった。それは彼女の演技が完璧で、あまりにも高嶺の花すぎたためなのだが、そんなことを麗奈が知る由もない。ただ事実として彼女には恋人がおらず、そこが弱点になっていた。


「一発殴らせなさい!」


「ご自由にどうぞ。ーー殴れるのならな!」


「このっ!」


 麗奈はジンに殴りかかった。ーーが、彼女は未だに拘束されたままなので動けない。しばらく暴れていたが、体力の無駄使いだと諦めた。


「はぁ。はぁ……」


 息を荒くする麗奈。そこに風で作られた刃が撃ち込まれた。それらは彼女を拘束していた縄を切る。急なことに対応できず、麗奈は膝から倒れた。


(誰が……)


 と思ったが、もはやわかりきっている。やったのはジンではない。アンネリーゼだ。麗奈は彼女を憎々し気に睨むが、本人はどこ吹く風とばかりに平然としていた。


「それで、地球に帰る方法を見つけるって話だったわよね」


 アンネリーゼが釣られないため、麗奈は渋々だが話を本題に戻した。


「ああ。だから人間との争いはさっさと終わらせたかったんだ」


「目的が同じなら協力できそうね。でも、どうして帰る方法を見つけるだけなの?」


「だってこの姿で帰っても、誰もわからないだろ」


「あ、そっか」


 麗奈は納得した。だがジンの目的はそれだけではない。正直、話そうかどうか迷っていた。しかし麗奈の『協力できそう』という発言を聞いて、ジンは話そうと決めた。


「あと、あのバカ女神を探し出してぶん殴る」


「え?」


「理不尽な目に遭ったんだ。同じようにしても問題ないだろ?」


 ジンにとって、女神への報復は絶対事項である。命の危機にさらされたのだからこれくらいは許されるだろうーーと思っていた。同じように、麗奈も女神のことをよく思っていない。ジンと同じように、女神を殴りたいと思う心は同じであった。


「そうね。神様なんだし、帰る方法も知ってそうだし」


「だろ?」


 ーーというような経緯があり、勇者と魔王の関係は『仇敵』から同じ思いを抱く『盟友』となった。もちろん史上初、前代未聞の珍事である。




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