第16話 違和感
「おかしいことがあるんですね、さすがは名探偵ね。もう気づいたの!?」
彼女は嬉々とした様子で声を弾ませる。
やっぱり、同じ穴のムジナね。私たちは……
「いくつかおかしいんですよ。執事長さん、時計塔の扉を開けて、中の様子を少しだけ確認してもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。この館の権利者はもういないので、誰も止めませんよ」
一応の許可を得ると、私はゆっくり扉を開ける。
中は大理石が敷き詰められていた。風も入ってこない場所だ。窓もないから明かりもない。
「やっぱり」
そうつぶやくと、ミステリーオタクは「何がやっぱり何ですか?」ときょとんとした言葉で確認する。
「ここに誰も入っていないのよ。誰かがここに入ったら足跡がついたり、砂や泥の汚れがあるはずなのに」
「そうですね。ここの塔の床は汚れが目立つはず。でも、それは当たり前じゃない? だって、侵入するはずのあのおじさんは、ここの入口で倒れていたんだから。みんなを出し抜いてここに入ろうとして殺されちゃった。カギはうまく開けたのに、残念だったね。っていうことでしょう?」
「たしかに普通に見ればそうでしょうね。でも、あの遺体はおかしいんですよ」
「だから、何がおかしいの? 早く教えてよ」
不思議。ミステリーマニアなら自分で謎を解きたいはずなのに。
「松明ですよ」
「たいまつ?」
「被害者の手には、灯りのための松明が握られていました。このくらい塔に入るためには必要ですからね。灯りの確保は」
「そうね。たしか、秘宝は地下にあるみたいだし」
「そして、犯人はおそらく被害者の手に握られていた松明の火を使って、凶器を隠ぺいした。つまり、被害者の手にあった松明に火がともされていたということ」
「まぁ、犯人が火の魔力の使い手という可能性もあると思うけど」
「それは可能性が低いと思います。無理に魔力を使えば、容疑者が絞り込まれてしまいますからね。私は、光魔力。グレースさんは、闇魔力に適性がありますから。それにメイドさんは氷魔力ですよね」
「なぜそれを?」
執事長さんは驚いたように語る。
「だって、こんな陸の孤島のような場所で生鮮食品が豊富すぎるんですもの。数少ない氷魔力の使い手がいるのは簡単にわかる。執事長さんかメイドさんだと思いましたが、彼女の方が台所の仕事が多いようでしたので」
「すごいわ。やっぱり名探偵ね。じゃあ、犯人は自分から正体を明かすリスクを避けたいから、松明を使ったとして、それのどこがおかしいの?」
「遺体の手に松明が握られていたとすれば、倒れた後、そんなに長く火は残らないはずです。地面は砂ですからね。でも、あの松明燃えすぎているんですよ。まるで、闇夜に自分を見つけて欲しいと言っているみたいに。それに普通なら、中庭で灯りをつけるでしょうか。見つかる危険性が増えるだけですし。普通なら塔の中に入ってから点火するでしょう?」
「あっ」
短く反応した彼女を無視して、私は遺体の身体を確認する。不思議なことに、彼の身体から松明に火をともすことができるアイテムは見つからなかった。




