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冬の音


「なぁ。女って何あげたら喜ぶのかな」


その日の放課後。

委員会のある義信を抜いた3人で、学校帰りにコンビニで買った肉まんを食べながらだらだらと歩いているとふいに亮太がそう呟いた。



「そりゃー……あれだろ。指輪とかピアスとか、とりあえずキラキラしてるもんだろ」


敦はそう答えながらつま先で小石を蹴った。

それは路上に止まってあった車のボディにコツンと当たる。やべ、と敦は顔を歪める。



どうやら亮太の彼女はもうすぐ誕生日を向かえるらしく、そのプレゼントを何にするか決めかねているようだった。


俺は亮太の話を聞きながら、そういや水香も来月誕生日だとふと考える。


「俺の彼女さぁ、普段からアクセサリーとか付けないんだよな」



水香に何あげようかな。クリスマスは香水あげたし、次はピアスかな。あいつ好きだし。



「何が欲しい?って聞いても、何でも嬉しいって答えるし」



あぁでも、ピアスなんてあいつ腐るほど持ってるもんな……。じゃあ指輪……は重いか。



「何でもいいっていうのが一番困るよなー、ほんと」



亮太が白いため息を吐く。それを見ると余計に寒くなった気がして、思わず肩をすくめてマフラーに顎を埋めた。


敦は食べ終わった肉まんの袋を道端に捨て、少しだけ咳をして言った。



「俺だったら、ネックレスだな。指輪ほど重くねぇし」


「やっぱそうだよな」


つい同意してしまった。はっと気付いた時にはもう遅い。

え?と敦が俺を見る。続けて亮太も。やばい。

言い訳する間もなく予想通り食いついてきた。


「大和、お前彼女いんの?」


「いるわけねーだろ。いたらお前らなんかと帰るかよ」


「でも今、」


「だから、亮太の気持ちになって考えてただけだよ」


「……ふぅん」



無理やり納得させて俺は最後のひと切れを口に入れる。

まぁ、そうだよな。なんて亮太が言った。お前女の影無さ過ぎだし、と。


「てか、童貞?」


「違ぇよ馬鹿!なめんな!」


ふと、中学の時初めて付き合った女の子に言われた言葉が頭をよぎった。



―大和って、私のこと好きじゃないでしょ―



お互い初めてのセックスをした直後の話だった。

まさかそんな事を言われるなんて思っていなかった俺は否定も肯定もせずに彼女を見た。

決して悪い子じゃなかった。大人しい良い子だった。

特に好きとかではなかったけどある日告白されて何となく付き合った。

俺なりに好きになろうとした。好きになるつもりだった。でも、



「あ。今日俺こっちから帰るわ」



敦の言葉にふと現実に引き戻される。

おう、と手を上げれば、またな、と言うと同時に反対方向へ一歩を踏み出し敦は歩いて行った。


残された俺と亮太は他愛もない話をしながらいつもの帰り道を行く。


「大和、進路どうするよ」


「あー……お前は?」


「俺は多分、地元で就職する。姉ちゃんが大学院まで行ったせいで、俺の大学行く金なんてねーだろうし。俺も別に大学なんて行きたくねーし」


「俺は……」


完全にノープランだった。まだ一年あるし、三年になってから考えようと。


「まぁ、大和ならどこの大学も行けるだろう。東京とか」


「何で東京?」


「地元にいんのは勿体ねぇよ、俺と違って頭良いんだから」


「大学行ってる奴らの中にも馬鹿はいっぱいいるよ」



まぁな、と亮太が笑う。

考えれば急に不安になってきた。

しかし話を振ってきたはずの亮太はもう別の話題に移っている。昨日のテレビがどうだったとか何とか。

ペラペラ喋り続ける亮太の隣りで、自分の吐く白い息を見つめながらこの先の将来を思った。


「なぁ大和、聞いてる?」


「聞いてない」


「何だよ聞けよ〜」



がはは、と亮太が下品に笑う。

俺も釣られて笑った。


こんな毎日がずっと続くわけないって分かってる。

でもいつか終わるなんてことも、今は信じられない。



それでも終わるんだ。

確実に、1日1日。

そしてやがて、みんな大人になる。






冬の音

(吹いては去っていく)




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