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僕らは


「最悪、」



読んだメールが思わず口をついて出た。

休み時間近くにいた亮太が、何が?と尋ねてきたのを軽く流し、再び携帯に視線を落とす。


クラス替え最悪だったんだ、と少し心配しながらも、頑張れよと短い返信をして携帯を閉じる。



「あー。今日大和も行くよなぁカラオケ」


「あ、うん」



今日はHRだけで学校が早く終わる。

そういう日はいつもの4人でゲーセンやらカラオケやらで、ぶらぶらと時間を潰すのが暗黙の了解になっていた。



「亮太、お前彼女は?」


「あー。何か今日塾あるらしい」


「あ、それ浮気だ浮気」


「ちげーよ馬鹿」



俺がからかうと、敦や義信も便乗して亮太をつつく。終始幸せそうな亮太も少し鬱陶しい顔を見せたが特に反抗はしなかった。



いつものように俺は亮太の後ろに跨り、チャリが三台並んで校門を抜ける。

とりあえず飯だな、と言った敦の提案に全員が頷く。

駅の近くにあり、何かとよく行く小さなラーメン屋に入った。


丁度昼時だからか、店はいつになく賑わいを見せていた。忙しそうに店内を駆け回るバイトの女子大生。名前はりかこちゃん。常にTシャツにジーンズというラフな服装からか、女っ気はまるでない。

俺たちが行くと、いつも通り笑顔で迎えてくれた。


我が物顔で座席に座り、メニューを広げる俺達のもとにりかこちゃんがやってくる。


「おばちゃん、俺いつもの。チャーハン大盛ね!」


敦が、りかこちゃんに向かって言った。


「おばちゃんって呼ぶな、ガキ」


りかこちゃんも笑いながら応える。


りかこちゃんは敦が好きだ。直接聞いたわけじゃないけど見てれば分かる。多分、敦以外の全員が気付いてる。

女子大生まで虜にするとはさすが敦だ。



「りかこちゃん、亮太彼女出来たんだぜ。ひでーだろ」


「へぇー。良かったやん。亮太くん男前やもんなぁ」


「うっそ!俺の方が男前じゃん!」


「じゃあ敦くんも彼女作ればええやん」


「いらねーよ。そんなもん」


素っ気なく顔を背けた敦に、りかこちゃんの表情に微かに影が落ちた。

義信と亮太を見ると、2人も気付いたのか何ともいえない苦笑いを零した。



メニューを注文し、りかこちゃんが去ってからすぐに口を開いたのは亮太だった。


「敦、お前もうちょっと空気読めよ」


「は?何が」


敦は、何のことか分からないという様子で熱心にメールを打っている。


「てか気付いてねぇの?」


「だから、なにが」


「りかこちゃん絶対お前のこと好きだべ」



亮太が言った。

てっきり敦はいつも通り余裕の笑みを浮かべ、俺っていい男だもんなぁなんて調子乗ったことを言うかと思った。


でも違った。

メールを打つのをやめたかと思うと、信じられないとでもいうように目を丸くした。

その反応に俺達も戸惑う。一瞬沈黙が流れたあと、まじで気付いてなかったんだと思わず呟いた。


敦の顔がみるみるうちに赤くなる。女のことで照れている敦を見たのは初めてだった。これはもしや、


「お前まさか、りかこちゃんのこと」


最後まで言うまえに全力で否定された。


「んなわけねーだろ!つまんねぇこと言ってんなよ」


言いながら再び携帯の画面に視線を落とす敦。ただそこに彼独特のいつもの余裕っぷりはなかった。


すると今度は義信が、だよなぁと話を続ける。


「まぁ敦のタイプではないしな。りかこちゃんて」


「当たり前だ。全然タイプじゃねぇ」


「りかこちゃん男っぽいしな」


「あぁ」


「服装も地味だしな」


「まぁ……それはここでしか会ったことねぇから仕方ないんじゃね」


「いや絶対普段も地味だって。顔も地味だし」


「言い過ぎだろ!そんなことねぇよ!」



は、と敦が我に返った時にはもう遅かった。

俺達はニヤニヤ顔を隠せずに敦をからかう。


「お〜敦くん必死だね」


「へぇ、敦がりかこちゃんをねぇ」


するとタイミングよくラーメンを運んできたりかこちゃんが頭の上にハテナを浮かべて、何の話?と首を傾げた。

焦った敦は途端に不機嫌な顔になり、てめぇには関係ねぇよ!とキツい口調で怒鳴りつけた。

おいおい敦……それはないだろ。


「そう……」


りかこちゃんが予想通り、寂しそうな声で呟くから、亮太を筆頭にからかっていた俺達まで申し訳なくなる。


その日はそれ以降、俺達がりかこちゃんと喋ることはなかった。







敦が不機嫌になり、何となく沈んだ空気のままボーリングに行くのも何なので、今日はさっさと帰ることになった。

亮太と義信と別れた俺は敦のチャリのケツに乗って真っ昼間の街中を進んでいく。


さっきまで一言も喋らなかった敦が急に口を開いたのは、人通りの少ない路地にさしかかった時だった。


「……初めてだったんだよ」


独り言のようにぽつりと呟く敦。

顔が見えないから、どんな表情をしているのかよく分からない。

なにが、と尋ねた。


「誰かを本気で好きになったの」


「りかこちゃんのことか」


「あぁ」


「でもお前が普段遊んでるような子達と全然違うタイプじゃん」



そう言えばすかさず、そこがいいんだよと返された。

敦もチャラチャラしてるけど、本当はりかこちゃんみたいに素朴な子が好きなんだろう。

それは俺でも初めて知る敦の情報だった。


「でもりかこちゃん年上だし、あの店でしか会えねぇし、鈍感だし……」


それはお前もな、と心の中で返す。

いつも自信満々で女の扱いに関してはエキスパートとも言える敦がまさかこんなに気弱になってるなんて……りかこちゃん、すごいよアンタ。


敦がさっきよりも自転車を漕ぐスピードを緩めた。


「大和さ、前に俺に聞いてきたじゃん。『彼女作らねえのか』って」


「あぁ」


そういえばそんなことも聞いたような……



「本当はさ、」


少し間を置いて敦は言った。


「こわいんだ。単純に」



何が?という俺の質問に対して敦は曖昧に言葉を濁す。

そして無理矢理、話題を変えるかのように声を上げてチャリのスピードを速めた。


「大和こそどうなんだよ。お前から女の話あんま聞いたことねーぞ」


「あぁ……俺は」


「好きな奴とかいねぇわけ?」


「うん……まぁ」


「そっか」


「あぁ」



なぁ敦、俺は言った。



「頑張れよ」



短い沈黙のあと、彼は頷いた。








僕らはいつも迷ってる

(正しい答えを知りたくて)




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