story,Ⅰ:束の間のひととき
【登場人物紹介】
*フェリオ・ジェラルディン(19歳)……9年前、故郷を壊滅させられた際、不老の呪いを魔王からかけられる。よって、普段は10歳の子供の姿だが呪いの効果が弱まる魔法札により満月前後の5日間のみ、本来の成人体型に戻れる。子供の時は黒魔法を扱えるが、成人になると白魔法しか使えなくなる代わりに、召喚術が扱えるようになる。ピンク色の髪と目をしているが、成人になると召喚術を扱える証として目の色が金色に変わる。子供の時はショートヘアだが、成人になると腰までのロングヘアになる。半端ないほどの大食い。兄を溺愛している。呼称は「ボク」。
*フィリップ・ジェラルディン(28歳)……故郷が壊滅した時の恐怖心から、一時は女と虫恐怖症だったがトラウマで己の中に生まれた冷酷無比な人格により、何とか克服する。攻撃的な召喚霊を扱う。やがて人格は一つに淘汰されたものの、普段は温和な性格でもバトルなどになると冷酷無比な性格に変わる。本来の碧眼から裏人格は赫眼だった為、一つになってもオッドアイとなる。青色をした腰までの長髪。妹を溺愛している。
*レオノール・クイン(18歳)……勝気で男勝りな性格のレアアイテムハンター。ひょんなことでジェラルディン兄妹を助けたのきっかけに、仲間になる。武道格闘術が専門で、普段からの筋トレは彼女の日課。しかし彼女には、前魔王の血が流れている為、一度死んだ事により魔人の力が目覚めるが、死に直面するとベルセルク化して暴走してしまう。普段は隠しているが悪魔の羽と尾を持っている。物凄い酒豪。黒髪のショートだが左側面だけは赤髪で紫色の瞳。呼称は「俺」。
*ガルシア・アリストテレス(100歳)……人間年齢で推定17歳くらい。闇のエルフで本来は王子なのだが、前魔王により王族は滅亡されたが一人生き延びて、森を彷徨っていた。片手剣と二丁拳銃の使い手で、勇者に抜擢された。それもあり、普段レオノールから厳しくしごかれている。褐色肌に銀髪ショートだが瞳は緑と紫のオッドアイ。
*マリエラ・マグノリア(180歳)……人間年齢で推定22歳くらい。光のエルフである精霊王の孫娘だが、森を彷徨っていたガルシアを拾った事により親ともめて、エルフの村を飛び出し祈祷師及び薬師となる。祈祷術により動物等と会話が出来る。戦力は皆無だが、フィリップにより強引に仲間にさせられた。ガルシアとは元々師弟関係だったが、今はどうやらそれ以上の関係。右だけはセミロングのストレートだが後はウェーブのロングヘアスタイルで瞳は金色。
*アングラード=フォン・ドラキュラトゥ(年齢不詳だがおじさん)……名前の通り、元々はヴァンパイアで敵として登場したが魔人であるレオノールを吸血した事により、魔人の呪いを受け今では彼女の使い魔。更には、エルフマジックにより属性も闇から光に転換させられ、昼間でも活動出来るようになった。風、白隼、人狼に変身でき、人狼の時だけは死人を操る事が出来る。紫色のショートヘアだが前髪はウェーブで長めの赫眼。
*ショーン・ギルフォード(28歳)……元々富豪の執事をしていた元勇者だが、前世でも勇者をしていて魔王の呪いにより、新たな魔王にさせられる。しかし異世界転生により本来は他世界でフランス人として生きていたが、ジェラルディン兄妹の父親による召喚にてこちらの世界へ転移させられた事により、魔王の魂が目覚めた。レオノールとは恋仲。金髪碧眼。ジェラルディン兄妹の故郷を滅亡させた張本人で、前世ではフィリップの本当の父親。
*赤猫ルルガ……彷徨える幽霊船だった時の今現在の船に潜んでいた猫。フェリオに最も懐いている。しかし、その正体は召喚霊ケット・スラウローで、召喚される度に相手のモンスターを喰らい進化する。普段は三又の尾を持つ猫。
──朝。
一足早く目を覚ましたフィリップ・ジェラルディンは、物音と何者かの話し声に気付き、部屋を出た。
どうやらレオノール・クインの、部屋からのようだ。
不思議に思い、フィリップは彼女の部屋を訪ね、ドアをノックする。
「レオノール? もう起きてるの?」
「おお、フィルか。どうぞ入んな」
部屋の中からの返答に、フィリップはドアを開けて、硬直した。
何とそこには、見覚えのある懐かしい人物が、優雅に椅子へ腰掛け紅茶を飲んでいたからだ。
「……ショ、ショーン……!?」
「やぁフィル。おはようございます。お久し振りですね。元気そうで何よりです」
「いや、まぁ、えと、は、はい……」
フィリップは、戸惑いを隠せない。
「そんな所で突っ立ってないで、中に入れよ。お前の分のお茶も淹れてやる」
レオノールは、すっかり軽い足取りである。
「う、うん……」
首肯して、そろそろと中へと入り静かにドアを閉める。
「これは一体……」
「どう言う事か、ですか? ご覧の通りですよ」
ショーンはケロッとした様子で言うと、愉快げにクスクス笑う。
「でも確か……魔王となってラナンキュラス城にいる筈じゃあ……??」
「その通りですが、たまには私も息抜きがしたいものです」
「魔王の息抜きって……どんなだ!」
フィリップは裏人格口調になって、思わず面白がって笑ってしまった。
ショーンの容姿は、魔王ヴァージョンから人間ヴァージョンに変化されていた。
つまりは、元々の姿だ。
てっきり、敵意むき出してくるのではと思われていたフィリップが、珍しくあんまり愉快そうに腹を抱えて笑うので、ついレオノールとショーンも顔を見合わせてから同時に吹きだし、一緒に笑い合うのだった。
やがて次々と、フェリオ・ジェラルディンとガルシア・アリストテレスが起き出し、まずフェリオが部屋を訪ねてきた。
「おはようレオノー、ル……!? ──ショーン!? どうして君がここにいるの!? しかも人間の姿で……!!」
フェリオの大声に気付き、ガルシアも飛んで来た。
「ショーンさん!? ここにいて大丈夫なんですか!? だってあなたは、ま、ま、まま……!!」
「それ以上そんな大声で言うな。周囲に聞かれる」
「まー……」
フィリップに指摘され、ガルシアはこれ以上の言葉の続きを、飲み込んだ。
「皆さんを驚かせてしまい、申し訳ありません」
ショーンはクスクス笑いながら、口にする。
ガルシアはハタと気付くと、慌てるようにドアを閉めてから、口にする。
「もしかして、魔王直々にこの国を乗っ取りに……!?」
「いえいえ。ただの息抜きですよ」
にこやかな表情で言うと、ショーンは紅茶を一口飲む。
「でも、ショーンのせいで、たくさんの人が……!!」
フェリオは口を荒げる。
「それは大変申し訳ないと思っていますよ。ですが実際のところ、私の側近や配下が張り切っているだけで、今のところ私はただの飾りです」
「お飾り!!」
思わずフェリオとガルシアが、声を揃えて言い放つ。
「はい。私は今はまだ、何一つやっていません」
「そ……そうなんだ……」
ガルシアは呆ける。
「その側近や配下に、世界征服をやめるよう、言えないかな?」
フェリオがおずおずと尋ねる。
「それが出来たらいいのですが、私の中の代々の魔王の魂がそれを赦さないし、何よりその側近に至っては、前魔王ファラリスの代から仕えているみたいですのでね。もっぱらモンスターを操っている……指令を出しているのは、その側近です」
「そうなのかー……」
再度、フェリオとガルシアが口を揃える。
「申し訳ありません。故に魔城内は殺伐としていましてね。正直息苦しさを覚えて束の間ではありますが、こうして息抜きにやって来たのです」
「なるほど……」
ガルシアは納得する。
「ひとまず、こうして皆さんも揃ったところで、朝食に致しましょう。さぁ、食堂へ向かいますよ」
「ヤッタ! ご飯~!!」
食べる事に関したフェリオは、もうショーンの事よりも颯爽と、考えを切り替えた。
「相変わらずの食欲は、懐かしさで思わず微笑ましくなりますね」
ショーンは、ニコニコと笑顔を浮かべた。
その日の朝食は、ジビエ料理だった。
何せあれだけ大量の、モンスターの死骸が残ったのだ。
処理に困るくらいで、よってジビエに出来そうなモンスターは食肉として、国中に出回った。
朝から肉を大量消費するフェリオを見て、みんな半ば胃もたれを起こしていた。
「朝からよくもまぁ、そんだけ重いもん食えるなお前……」
レオノールは今更ながら、呆れる。
「朝は一日の始まりだからね。しっかり食べないと元気でないもん」
フェリオは咀嚼しながら答える。
「そういう問題かよ、この量は……」
ガルシアも、積み上がっている皿を見て、述べた。
「しかも今は、成人体型だから余計、数倍は食べる量が増してるからね」
フィリップは平然と、生ハムサラダを口に運びながら言った。
「ひとまず食事が済んだら、買い物を済ませてマリエラを訪ねよう」
「師匠はもう用は済んだから、プルメリアに戻ると言っていたよ」
ガルシアは、トマトのスクランブルエッグを食べている。
「何だったら、どうせ同じ船だし、乗せてやったらどうだ?」
レオノールがかぼちゃと卵のココットを食べながら、フィリップへ訊ねる。
「うん、そうだね。そうしよう」
フィリップは穏和に答えた。
「じゃあ、買い物を分散しよう。レオノールはショーンと一緒に、食糧を買ってきてくれる?」
「構いませんよ」
「ショーンは調理係だったしな♡」
ショーンとレオノールは答える。
これに横目で見るガルシアが、吐き捨てる。
「リア充爆発しろ」
これにすぐさま、レオノールが反応した。
「もう爆発しまくっとるわ!!ꐦ」
「確かに」
ショーンも愉快そうに、クスクス笑った。
「そして僕等はアイテム屋だね。武具・防具は必要な人が各自、それぞれ買いに行く事でいいね?」
「うん! いいよ!!」
「はーい、了解ですリーダー」
フェリオとガルシアが首肯する。
「勇者はガルなのに、リーダーはフィルなのですね」
「まとめ役は、フィルが適してるからな」
相変わらず愉快がるショーンに、レオノールが答えた。
「僕以外、みんなお子様ばかりだからね。ガルはダークエルフだから長生きはしてるけど、人間年齢で見たらまだまだ10代だし」
その通り。
改めて確認すると、レオノール18歳、フェリオ19歳、そしてガルシアは生存年数100年の、人間年齢で換算すると17歳辺りと言うべきか。
少なくとも、まだレオノールみたいに酒を呑んで良い年齢ではないのは、確かである。
最後にフィリップ28歳。
ちなみにショーンも彼と同じ、28歳だ。
魔王ではあるが。
もっとも、魔王ヴァージョンのショーンだと、40代~50代前半辺りか。
何せフィリップの実父だった勇者の頃に、魔王の魂に体を乗っ取られたのだから。
一度死んで転生したとは言え、記憶は継承されている。
「では、買い物を終えたらマリエラのいる、ウィークリー住宅に集合って事でよろしくね」
「はーい、了解しましたー!!」
フィリップの笑顔に、レオノールが手を上げて答えるのを、ショーンは面白がってクスクス笑うのだった。
こうして各々、買い物先へ向かうと、必要な物を買い揃えてからレンタル用のレプレプの両脇に荷物を引っ掛けて、マリエラの元へ向かった。
こんな時、こうした乗り物があるのは楽で良かった。
するとそこに、空海の騎士団長アラムと、太陽の騎士団長クルーニーが、お洒落に着飾っている四頭のレプレプが引く、豪華な装飾の施されたレプレプ車の前に立っていた。
「先程、宿屋の方へ向かったのですが、もうチェックアウトされたそうだったので、こちらでお待ちしておりました」
「よく僕等がここに来るって分かったね?」
「光のエルフ嬢が、こちらで宿泊している情報を得たものですから」
「勇者一行のお仲間なのでしょう?」
「仲間と言うより、ただ待ち合わせした俺の師匠ってだけ」
「おや。そうだったのですか!」
フィリップとガルシアの問答に、両名は驚いたが。
「驚きたいのはこっちだぜ。一体何だよこれは?」
レオノールが訊ねる。
「はい。化け狐が倒されてから、病気で臥せっていた国王の体調が良好となり、是非あなた方にお礼をと」
アラムの言葉に合わせるように、レプレプ車のドアが開いて、一人の初老が降りてきた。
これにショーンとフィリップは片膝を突いてかしこまったのを見て、三人も慌ててそれに倣う。
「やぁやぁ、そんな、堅苦しいのはなしだ。楽にしてくれ」
「では、お言葉に甘えて」
フィリップはそう言って立ち上がるのを合図のように、皆も立ち上がる。
「今回の件。我が妃と息子は実に残念だったが、我も九尾から病の呪いをかけられていてな。今となっては、こうして王族が一人でも生き残った意味では、逆に良かったのかも知れん」
国王は言ってから、フィリップの肩に乗っている白隼のアングラードを見つめる。
「やはり世界を救う勇者であるのは、確かだろうな。白隼はその気品と気高さから、世界が混沌に陥った時、その革命者の元に現れると聞く」
これに思わず、レオノールの目が泳ぐ。
まさか正体がヴァンパイアとは、口が裂けても言えない。
「実は我がこうしてわざわざ、そなた達を訪ねたのはこの国を立ち去る前に、是非我が王族者のみにしか与えられないものを、そなたらに礼として恵贈したくて参ったのだ。今呼び出すから、少しだけ待ってくれたまえ」
国王は言うと、首に下げていた小さな笛──それはまるで一見、サンポーニャと呼ばれる楽器に似ていて、手の平サイズの一列のみ象牙のような素材で作られた物を手に取り、唇に当てると短い音を奏でた。
途端、空から水飛沫が降って来たかと思うと、まるで笛に応える様に美しく幻想的な鳴き声を上げながら、巨大な生き物が天乃海から飛び出してきた。
見る限り、それは竜の翼を持つ鯨だった。
それは静かに、その場にいる皆を気遣うようにして少しだけ離れた位置に、下り立った。
「この生き物はホエゴンと言う。空を飛行するが基本、海の生き物だから海のある場所でなら、どこからでも呼び出せる。きっと今後の旅の、良き存在となろう。使ってやってくれ」
国王は言うと、その笛をガルシアへと渡した。
「ちなみにくれぐれも長時間の利用は禁止だ。しつこいが、あくまで海の生き物ゆえ、短時間を念頭に利用して欲しい」
するとこれに反応したのは、ショーンだった。
皆が驚愕している中で、彼のみが目を輝かせる。
「これは素晴らしい! 触っても?」
「ああ。構わん。ちなみに温厚な性格ゆえ、戦いには不向きだ」
国王の言葉もそこそこに、ショーンは嬉々としてホエゴンへ歩み寄って行った。
「あいつが生き物好きだったのを、忘れていたぜ……」
レオノールは呆気に取られつつ、苦笑いをする。
「一体何の騒ぎ……キャアアァァーッ!!」
この巨大生物を前にして、建物から出て来たマリエラ・マグノリアは悲鳴を上げると、卒倒するのを慌ててガルシアが受け止める。
これに共鳴して、ホエゴンは再度、鳴き声を上げるのだった。




