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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第二十二章:ゼラニウム国救出編
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story,Ⅹ:決着




 こんなにも、この世に生まれ落ちて受けた恥は今までに、一度もない。

 白面(ホワイトフェイス)はこの上ない屈辱に満ち溢れていた。

 そして、怒り。


「こうなったらここの国民共全て一人残らず喰ろうて、魔力の糧にしてくれようぞ……喜べ青髪の小僧。記念すべき第一号は、貴様からだ!!」


「それは嬉しい限りだ!! ならば俺もその礼をせねばな!!」


 ホワイトフェイスとフィリップ・ジェラルディンは改めて、向かい合う。

 しかしながら、距離がある。

 それぞれの間合いに入るのは、どちらが先か。

 全長6mもあるホワイトフェイスが、その手を伸ばせばその場から離れる事無くフィリップを捕らえる事が出来る。

 そういう意味では、圧倒的にフィリップの方が不利である。


「リオ。俺の召喚だ」


「了解!!」


 兄の掛け声に、即座に意味を理解したフェリオ・ジェラルディンが身構える。

 睨みあうフィリップとホワイトフェイス。

 先に動いた──と言うよりも口を──のは、フィリップだった。

 これにホワイトフェイスも手を伸ばす。

 同時にフェリオも、口を動かした。


「ミシュカレレンタ!!」


 直後、まるで古い埃のような臭いと共に、澱んだ空気がホワイトフェイスを包み込んだ。

 するとホワイトフェイスの動きが、鈍くなったではないか。

 フェリオが、スローの魔法をかけたのだ。

 その間に、口早にフィリップが呪文を唱える。


「その邪視にて与えし動かざる者よ。今こそここに導かん。カトプレパス!!」

 

 彼の呪文に応え、石張りの床が盛り上がり、バッファロー程の大きさをした三つ目の獣がオレンジの光と共に、出現した。

 その姿は、猪と牛が合体したような姿で、全身の半分を占める巨大な頭を、重そうに地に垂らしている。

 これに気付いたホワイトフェイスは、やむを得ず標的をカトプレパスに変更し、その手を伸ばす。

 しかし、その時カトプレパスの額にある目が紫色の光を放った。

 この光を浴びたホワイトフェイスが、声を上げる。


「この無念……っっ、晴らさざるをおくべきかぁー……っ!! いつぞやか必ず……! 必ずや貴様、を──」


 最後まで言い終わる事無く、ホワイトフェイスは足元から徐々に石化していき、とうとう全身が石と化した。

 切断されて床に散乱している、尻尾までも。

 そうしてすっかり石化したホワイトフェイスに向けて、フィリップは開いた手の平で拳を握った。


「──ブレイク!!」


 これにより、石化したホワイトフェイスは粉々に砕け散る。

 それを確認してからカトプレパスは、フイと空気に溶け込むように姿を消した。

 静まり返る謁見の間。

 改めて見ると、屍累々、血みどろ、盛り上がって穴の開いている石張りの床等で、酷い有様だった。

 しかし、ひとまず今回のボスは倒した。


「街の方が心配だよ。急いで見に戻ろう!!」


 フェリオの言葉に、皆はその場を後にした。




 皆がレプレプに乗って、街の方へ駆けつけてみると。

 大半の獣系モンスターは、騎士達と何よりも心強い存在である、グラディエーターの手によって倒されていた。

 無論、勇気のある住人達の手にもよって。

 残すは猪系、猿系、羊系、兎系、鼠系などの小物ばかりだった。


「これは勇者ご一行達! こちらはご覧の通り、ある程度片付きつつあります。そちらはいかがでしたか!? 偽王子の方……」


「しっかり倒してきたよ。ボスはもういない」


 太陽の騎士団長、クルーニーが皆に気付いて駆け寄ってきたのに、フィリップが温和な笑みを浮かべて答えた。


「ただ、謁見の間は惨劇になってるから、覚悟の上で気を付けて確認してね」

 

 そう付け加えるとフィリップは、更にニコニコと笑って見せた。

 街の様子を見て、レオノール・クインが口ずさむ。


「一種の大乱闘だな。まぁ、そうなんだが」


「はい。大物はほぼ駆逐したしたんですが、何せ小物は強い以前にちょこまかとすばしっこいのが、難儀でして……苦労しているところです」


 そう答えてクルーニーは、額の汗を腕で拭う。


「ボク達も手伝うよ」


 フェリオが進み出る。


「え? でも大丈夫ですか? 先程ボスを倒して疲労もあるでしょうに……」


「延長戦だと思えば、そのつもりで温存していた体力でまた、頑張れるさ!」


 そう述べてガルシア・アリストテレスは、張り切って胸を叩いて、──むせた。


「おいおい本当に大丈夫かよ。しっかりよろしく頼むぜぇ~、勇者さんよ」


 レオノールが半ば呆れる。


「ところで……こちらのお嬢さんは?」


 クルーニーが、成人体型姿のフェリオの存在を尋ねる。

 これに、フェリオが口元を緩める。


「ボクだよ。フェリオ・ジェラルディン。一時期だけ、子供化の呪いを解いててね。こっちが本来のボクの姿なんだ」


「……それはそれは……しかしこれまた、何と愛らし……」


 クルーニーの語尾に至る時、突然フェリオの胸元に何かが突っ込んできた。


「キャア!!」


 その勢いで、フェリオが後ろに倒れる。


「リオ!!」


 フィリップが敏感に反応する。

 見ると、ドブネズミより一回り大きいスカイマウス──背にトンボのような羽がある──が、フェリオに襲い掛かっているではないか。

 これに先程の九尾戦の時と同様、フィリップの様子が一変する。


「貴様ネズ公の分際がぁ……っっ!! よくもこの俺様の妹の胸元(・・)に飛び込み押し倒しやがったな!!」


「え? 怒りの沸点、そこ!?」


「ま、いろいろこの兄妹には事情があってな……今はまだ探らずに気にするな」


 驚愕するガルシアに、レオノールが諭すように静かに彼へ、言葉をかけた。


「吹き抜けろ砲風(エアロムア)!!」


 フィリップは口ずさむと、中規模の風魔法をスカイマウスに放った。

 これにより、風の砲弾を受けてスカイマウスは絶命する。


「残っているのは雑魚ばかりだが、数があるな……一体一体を倒していたらさすがに体力が持たねぇ。ここは魔法札の出番だな」


「了解です」


 レオノールの言葉に、同じく物理攻撃しか出来ないガルシアも、承知した。

 ひとまず近くにいるモンスターにレオノールは、氷魔法の札を使用した。


「喰らえ! 雪姫のわがまま!」


 そうして札をモンスター達の頭上へ放る。

 対象全体、2000のダメージを受けてモンスター達は降り注ぐ(ひょう)にて、軽く20体近くが倒される。


「行け! 炎神の咆哮!」


 対象全体、3800のダメージを受け30体前後のモンスターが、炎の中で消滅した。


「よし。行けるな。じゃあみんなバラけて後片付けだ。終わったら宿屋に集合だ」


 フィリップの号令と共に、みんなそれぞれ散らばった。

 マリエラ・マグノリアだけが、ポツンと残される。


「私はどうすれば……」


「多分、お先に宿屋に戻っていても問題ないでしょう」


 側にいたクルーニーが、そう答えた。

 あちらこちらに、モンスターの屍が転がっているこの地は、殺伐としていた……。


 


 そんな中で、約二時間かけて雑魚モンスターを片付けた、このゼラニウム国にこの地が轟く程の歓声が上がり、今宵の宴は大いに賑わった。




 占い師の前に置かれている、水瓶から映し出された水鏡の光景にて。


「ホワイトフェイスが負けただと……!? そんな馬鹿な! クソッ! だてに勇者を語ってはいないと言う事か……」


 水鏡を覗き込んでいた魔王の配下であるクラークは苛立ちを露わに、その美しいショートの金髪を掻き乱す。

 そこへ、不敵な笑い声が彼の耳に届いた。


「クックックック……」


「……何だ。貴様か」


 クラークは不愉快そうに、その笑いの主へと睥睨する。

 クラークの双子の姉であり、同じく魔王の配下であるルナールだ。


「その様子だと、あの狐は倒されたようだな」


 ホワイトフェイスは、クラークの部下だった。


「貴様の方は、連敗ではないか」


「フン。次こそは勝つさ」


 ルナールは答えると、長い金色の巻き毛を背後へと、振り払う。


「そうやって気取っていられるのも、今のうちだ。せいぜい努力する事だな。最早、無駄であろうが」


 吐き捨てるように言うとクラークは、姉から背を向けて白いマントをたなびかせ、颯爽とその場から歩き出す。


「貴様の方こそ今回の失態の反省を込めて、頭を丸刈りにしろ。大いに笑ってやろう!!」


 ルナールも負けじと弟の背中へ、吐き捨てると同じく、こちらは黒いマントをたなびかせ彼とは反対方向へ、歩き去るのだった。

 クラークは全身を白できめているが、逆にルナールは全身を黒であしらっていた。




 散々食って呑んで、酔い潰れたレオノールをフィリップとガルシアの二人がかりで彼女の部屋へ運ぶと、ベッドへ横にして部屋を後にした。

 宴はまだ続いており、フェリオはまるで底なし胃袋のように食べ続ける様子を、改めてマリエラは呆然と眺めていた。


「ブラックホールとは……きっとあなたの食欲を差すのよリオ……」


 そう呟く中、こうして賑わっているせいで誰も気付かなかった黒い影が、天乃海を掻い潜って忍び寄るように宿屋へと、近付いて来た。

 そして一つの部屋の窓辺へ降り立つと、翼を肉体の中へと吸収して室内へ、入り込んだ。

 静かにベッドへと、歩み寄る。


「……ノール……」


 その影は室内の暗がりの中で、呟く。

 ベッドで寝入る彼女──レオノールの頬に、そっと優しく手を当てる。


「呑み助は相変わらずだな。元気そうで何よりだ。逢いたかった、ノール……」


 影は囁きかけると、親指でレオノールの下唇をスィと撫でる。


「ん……」


 小さく声を洩らすレオノールだったが、まだ眠りの中だ。


「どれだけお前の肉体を求め、焦がれた事だろう。ノール……」


 影は語りかけると、彼女に覆い被さり己の口唇で、レオノールの口唇を塞いだ。

 クチュ、チュパと響く口唇の(さえず)り。


「ふ……ぁふ……」


 口唇同士の合間合間に、声を洩らすレオノール。


「ああノール……ノール……!」


 口づけによって、影の感情が昂ぶる。

 ここでようやく、レオノールの目が開く。


「……──ショーン……?」


「そうだノール。私だ。ショーンだ」


「ショーン……! 逢いたかったショーン……!!」


「私もだノール。今も変わらずお前を愛している。この気持ちは募るばかりだ……!!」


「お願いショーン。また俺を抱いて……!!」


「無論。その為に私はここに来た」


 言うとショーンは、レオノールの首筋に口づけをする。


「ああショーン……愛してる……!!」


 レオノールはショーンの背中に、両腕を回して抱きしめた……。




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