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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第二十二章:ゼラニウム国救出編
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story,Ⅸ:九尾の最大なる弱点




「お・の・れええぇえぇぇぇーっ!! よくもっ! よくもあたしの尻尾を!!」


 白面(ホワイトフェイス)の怒声が轟いたかと思うと、ムクムクとホワイトフェイスの全身が大きくなり始めた。


「なぁリオ。どうしてモンスターってのは、どいつもこいつもデカくなろうとするんだろうな。最近の流行り? これ」


「んー……、かも?」


 背後へ床に両手を突いて座っている状態でのガルシア・アリストテレスが、その隣で女の子座りしているフェリオ・ジェラルディンへ話しかける。


「おいそこ。レオノール任せでだらけて油断してないで、いつでも戦えるよう気構えしておけよ」


 フィリップ・ジェラルディンがそんな二人へ、声をかける。

 彼は腕を組んで、仁王立ちで状況を見ている。


「覚悟しろ貴様等!! ノミのように潰してくれる!!」


 結果的に全長6m程まで大きくなった、ホワイトフェイス。


「あ、あいつノミいた事あるんだ」


「だろうねぇ~。獣だし」


 その脅し文句へ、相変わらずガルシアとフェリオが呑気に言葉を交わし合う。

 そんな仲間達の状況など、まるで意識下にないレオノール・クインは、ホワイトフェイスの真正面に肉薄すると、その鼻面に開いた手の平を当ててぼやくように口ずさんだ。


「衝撃波」


 その声は、男声のようなボイスと二重になっていた。

 直後、目に視えない巨大な衝撃を鼻先から九尾──一尾もがれたので八尾──の先端まで響く、強烈な破壊力が伝達した。

 これに全身を仰け反らせるホワイトフェイスを、レオノールはこの上ない悦面を顔に張り付かせていた。


「ゲフ……ッ!!」


 早々に、ホワイトフェイスは吐血する。

 全身の内数箇所は、骨折して内臓破裂も起こしていた。

 ホワイトフェイスは早速、回復呪文を口にする。


「ビーストヒーリ──……ッ!?」


 途中で、その口はレオノールから容赦なく鷲掴みされて、言葉を発する事を遮断させられる。

 そして彼女はそのまま、背負い投げ宜しく石張りの床へ豪快にホワイトフェイスを、叩き付けた。


「ゲフゥッ!!」


 レオノールは相変わらず、喜色の表情を浮かべたままだ。

 レオノールは引き続き、仰向けで倒れているホワイトフェイスの巨体へ、ジャンピングエルボーをお見舞いしようとした直前だった。


「あまり調子に乗るなよ小娘!!」


 ホワイトフェイスの怒号と共に、八尾のうち一尾が、レオノールの腹部を貫いた。


「ぐが……っ!!」


 レオノールの体はそのまま宙に持ち上げられると、床へ激しく振り落とされた。


「ギャッ!!」


 レオノールは、まるで叩き潰された蚊に等しいまでに、石張りの床へと無残にも張り付く。

 すっかり意識を失ったレオノールの眼球は、反転してしまい肉体もヒクヒクと神経が痙攣していた。

 

「レオノール!! 待ってて! 今ボクが回復魔法を……!!」


「ククク……残念ながら、あたしが与えたダメージは普通の回復魔法では不可能だよ」


 ホワイトフェイスは血痰で、喉をゼロゼロ言わせながら述べると、改めて自分の回復を始める。


「普通が無理なら……!!」


 フェリオは言うと刹那、脳内を思い巡らせて口ずさんだ。


「薬剤を扱いし仏よ。その御技にて瀕死の者にあらゆる治癒を与えよ。温厚なる労りを持ってして癒せ。この地にて降臨致せ、薬師如来!!」


 初めて召喚する呪文は、入手した際に自然と脳内に刻まれるので、こうして呪文を唱えられるのだ。

 これにより天井が神々しく輝き始め、そこから片手に丸い薬壺を持ち黄金に全身を光らせた、薬師如来が出現する。

 一足早く治癒したホワイトフェイスだったが、その輝きの眩しさに邪魔する事も出来ず、目を逸らす事しか出来なかった。

 その間、如来は瀕死状態のレオノールへ、薬壺の中身を指先に付けるとスイと彼女の全身を優しく撫でるように、塗りつける。

 そして何も語る事なく再度、天井の白い光の中へと戻って姿を消した。


「ぅ……く……」


 レオノールが声を洩らす。


「レオノール!! 大丈夫!? しっかりして!!」


 フェリオが横たわったままの彼女の元へ、駆け寄る。

 気付くと彼女の羽と尻尾が、消えていた。

 完全治癒されたおかげで、彼女の魔人化が解けたのだ。

 無論、ベルセルク化も解除されていた。


「あ、れ……? 俺は一体……」


 レオノールは呟きながら、上半身を起こす。

 しかし感動の再会の暇なく、ホワイトフェイスの怒声が響く。


「回復したから何だと言うのだ!! また同様に殺してやるまでよ!!」

 

 しかし次は、レオノールも負けじと怒声を発した。


「やぁかましぃこのクソ狐がああぁぁぁーっ!!」


 そうしてむんずとホワイトフェイスの尻尾を一本掴んだかと思いきや、それを乱暴に引きちぎったではないか。


「き……っ! 貴様!! 一度ならずも二度までも!!」


 ホワイトフェイスは怒りと恥で、両眼を吊り上げた。


「二日酔いは頭に響くんだから、いい加減黙ってろっ!!」


 そうして再び手を尻尾へ伸ばしてきたレオノールから、三本目までちぎられまいと大慌てでホワイトフェイスは尻尾を避けつつ、バックジャンプで数m程彼女から距離を取った。


「尻尾の数は、あいつの力の大きさの現れだからな。三本目となると、あいつもさすがに焦るだろうよ」


 フィリップの発言に、彼の側で座っていたガルシアが顔を上げる。


「じゃあ100%から少しは弱くなったって事ですか!?」


「それでも余りある力を持っている。油断しない事だ」


 思わず期待に口元を(ほころ)ばせるガルシアへ、フィリップは厳しい口調で述べた。

 そんな中フェリオが、レオノールへと指摘した。


「いやいや、レオノール。別にお酒を呑んで酔い潰れて寝込んでいた訳じゃないよ。ただ単純に、あいつに……と言うより、アダンダラの攻撃の副作用で死にかけたところで、またベルセルク化して魔人になりあいつをフルボッコにしていただけで」


「じゃあ、どうして俺は……」


「ああ。それは今度は、あいつに殺されかけたところをボクが召喚霊呼んで回復させたから。そしたらついでに、ベルセルク化も魔人化も一緒に解除されただけ」


「そっか。俺は二度死にかけてたのか。って事は、アダンダラも含めてこいつら俺よか強ぇんだな」


「うーん……単純に、レオノールが無鉄砲なだけだと思うよ?」


 言うとフェリオは、レオノールへニコッと笑顔を見せた。


「しかしだけど、あいつ回復魔法を使用しても尻尾だけは、回復しないですね」


「……」


 ガルシアの発言に、フィリップは黙考すると顔を上げた。


「それだ。お前等全員、こいつの尻尾を狙え!! 尻尾を全て引きちぎれ!!」


 ガルシアの何気ない一言からヒントを得たフィリップは、皆に号令をかける。

 これにマリエラ・マグノリアを除いた勇者一行の皆は、即座に察知しホワイトフェイスの尻尾めがけてその間合いに飛び込む。

 無論、ホワイトフェイスも彼等の狙いに気付き、慌てて己の尾の守りに徹し始めた。

 ひとまず、ホワイトフェイスは尾の毛を鋼化させて素手では触れられないよう、ガードする。

 だが、唯一魔人であるレオノールのみは、この手段は無意味だった。

 彼女は平然と且つ、素早く一尾を掴むや尋常ではない力にて、引きちぎった。


「ギャウッ!!」


 ホワイトフェイスは短い悲鳴を上げる。

 これでホワイトフェイスの尾は、六尾となった。


「おのれ……おのれおのれおのれっっ!! 貴様等ああぁぁあぁあぁぁーっ!!」


 ホワイトフェイスは四肢をふんばり、身を低くすると衝撃波を放った。

 これに皆一斉に2~3m程吹っ飛ばされる。

 しかしそれでも懲りずにそれぞれ立ち上がると、めげずに再び尻尾を狙う。


「おのれ小癪な!! ちょこまかと鬱陶しいっ!!」


 ホワイトフェイスは吠えると、次は鋼化した毛を四方八方へと飛散させる。

 これへ咄嗟に皆、動きを止めてそれぞれ腕でガードするが、同時にマリエラが遠い位置から防御魔法をかけてくれた。

 だがしかし。


「キャウッ!!」


 そう短く悲鳴を上げたのは、フェリオだった。

 どうやら彼女だけ、マリエラの防御魔法が到達するよりも早く、まるで銛のような約40cm程ある鋼の毛が刺さったようだった。

 見ると、両太(もも)とクロスされた両腕にも、毛が突き刺さっていて、しばらく耐えていたがついに痛みで足に力が入らなくなりフェリオは、その場に立ち崩れてしまった。


「リオ!!」


 咄嗟にフィリップの声が大きくなる。


「出たぞ妹溺愛お兄ちゃんの心配性が」


 レオノールのこの発言が終わる頃には、既にフィリップはフェリオの元へと駆けつけていた。


「大丈夫かリオ」


「大丈夫だよお兄ちゃん……これくらいなら、ボク自分で回復出来るから」


 寄り添い、支えあう兄妹。


「兄妹ってあんなもん? 俺は一人っ子だから分かんねぇけど、とても兄妹らしさよりも恋人同士にしか見えねぇ」


 ガルシアが、鋭い指摘を口にする。

 そんな彼へ、後方から声が飛んできた。


「ガル! 私に剣を構えて!!」


 マリエラだ。

 ガルシアは彼女に言われるまま、内心不思議に思いながらも剣を構えてみせる。

 するとマリエラは口走った。


「エルフマジック・ウィンドゥ!!」

 

 すると、ガルシアの剣に風が渦巻きながら、出現した。


「魔法剣よ! それで更に剣の切れ味がだんとつに上がるわ!!」


「おおぉ……さすが師匠! 助かります!!」


 感動を露わにするガルシア。


「あの女、余計な真似を」


「あの女、使えるな……」


 ふと、ホワイトフェイスと冷静になったフィリップの言葉が、重なったが互いに呟き程度だったので、両方ともそれに気付かなかった。


「え? 何か言った? お兄ちゃん」


 もう自分で傷を回復させた妹に尋ねられ、フィリップははたと現実に戻るとスックと立ち上がった。


「貴様。俺の妹を傷付けた代償は大きいぞ。しっかり払ってもらおう!!」


「覚悟しろ化け狐!!」


 フィリップの発言の後に、こちらへ魔法剣を向けて言ったガルシアの言葉に、ホワイトフェイスはビキッと血管を浮き立たせる。


「誰が化け狐だ!! この高貴なるあたしに!! あんな三下共と一緒にするなっっ!!」


 ホワイトフェイスは怒鳴るや、ガルシアへ牙を向けた。

 だがガルシアは素早い動きで移動すると、掛け声と共に渾身の力でホワイトフェイスの尻尾へ、斬りかかった。


「ぬぅおぉりゃあぁーっ!!」


 これにホワイトフェイスは咄嗟に尻尾を避ける。

 しかし、風の魔法の影響もあり、ホワイトフェイスの尻尾は二本まとめて切断された。

 これで残っていた六尾から、四尾まで尻尾の数が減った。


「おのれ小僧、よくも……っ!!」


 ホワイトフェイスはギリィッと歯軋りする。

 しかし同時に、フィリップの声がこの謁見の間中に響き渡った。


断斬風神刃(ギロチンエアロオン)!!」


 すると屋内中に強力な風が吹き荒れたかと思うと、今度はホワイトフェイスの悲鳴が響き渡った。


「ギャアアアァアァァアァーッ!!」


 風が収まって見てみると、最早ホワイトフェイスの尾は一本も残っていなかった。

 その姿が滑稽で、レオノールとガルシアが爆笑する。

 だがフィリップは冷静だった。


「これで終わりではないぞ。死ぬ覚悟は出来たか」


 フィリップは残忍な笑みを浮かべた。




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