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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第二十二章:ゼラニウム国救出編
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story,Ⅴ:霊薬の効果──実現



 あらかたタイガーラビットとシカ熊退治が終わった頃、マリエラ・マグノリアの方もすっかり霊薬の入っていた瓶を空にした。


「ご協力ありがとう、ウンディーネ。そしてレオとシンバも。感謝するわ」


『いいえ。我等、精霊達の王である光のエルフ王(リョースアールヴ)フレイ様の孫娘の頼みとあらば、喜んで協力致します姫君』


「おそらくは、国へ戻った頃には人間に化けていたモンスターが次々と、正体を現している事だろうね」


 フィリップ・ジェラルディンがあっけらかんと述べた。


「本番はこれからだ」


 レオノール・クインも言うや己の手の平に拳を打ちつける。


『主等は、これまで以上に姫君をそれ等モンスターから守り抜くのですよ。髪の毛一本でも傷を負わせる事は許しません』


「手厳しいなぁ。もっとも、そのつもりだけれど」


 ガルシア・アリストテレスが口にする。


「さぁ、早く戻らないときっと国内は今頃、大混乱だよ」


 フェリオ・ジェラルディンの言葉に、そうだねとフィリップが答えてからレプレプに跨る。

 これを合図のように、皆も次々とレプレプに跨った。


「それじゃあね。ウンディーネ」


『どうぞお気を付けて。姫君』


 こうしてウンディーネとレオとシンバに見送られ、勇者一行はその場を後にした。

 水は、あらゆる生き物が摂取する、云わば必要不可欠なものだ。

 どんな液体でも必ず水が要る。

 マリエラが作った霊薬は飲むだけでなく、浴びただけでも化けの皮が剥がれる代物だった。

 皆がゼラニウム国に戻ってくると、最早あちらこちらで大混乱となっており、太陽の騎士達が大勢、空海(そらうみ)の騎士の制服を着ている獣系モンスターと戦っていた。

 無論、それ以外の格好をしたモンスターも含まれている。

 そんな中で、空海の騎士団長であるアラムが、愕然とした様子で佇んでいる姿を見つけた。


「アラムさん! みんなが戦っている中で、一体どうしたんです!?」


 フィリップに声をかけられて、ゆっくりと振り返ったアラムの表情が強張っていた。

 そして、声を震わせる。


「……我が騎士団の八割が……モンスターになっていた……」


「ああ……」


 これにはフィリップも、同情する。

 騎士だけでは足りない為、国民達も一緒になってモンスターと、戦っている。


「大変な時に申し訳ないのですが、我々はお城の方へ急いでも構いませんか!?」


 フィリップは、アラムへ声をかける。


「はい。勿論です! ここのモンスター共の親玉である、化け王子を倒してきてください!!」


「ご理解頂き感謝します。それでは我々は行ってきますので、どうか踏ん張ってください!!」


 こうして勇者一行は、九尾の狐王子が居座っている城へと、レプレプを走らせた。

 城を守っている兵士達も皆、獣系モンスターに成り果てていた。

 しかしそれらとも、人間の兵士が相手にしていた。


「勇者様だ!!」


「どうか我々の国をお守りください!!」


「任せといて!!」


 これに答えたフェリオ・ジェラルディンを乗せたレプレプは、人々の間を縫うように駆け抜けて行った。

 その背後を見送りながら、ふと一人の人間兵士が呟いた。


「あんな子供までいて、本当に勇者一行は大丈夫なのだろうか……」


 門を抜け、正面庭園を抜け、城の入り口を目前にして、フィリップが大声で言った。


「このままレプレプごと城に突入する!!」


 すると、出入口を長槍を持って守っていた獣系モンスターが、槍をクロスして入場を阻む。

 が、レプレプはそんな物等蹴散らして場内へと、飛び込んで行った。

 さすがは恐竜系の二足歩行騎竜だ。

 この程度の妨げなど、まるで怯みもしない。

 こうして王謁見室のドアを蹴破って中へ突入すると、十段程の階段の上にある玉座の傍には軽鎧姿の化け猫の姿と王子に化けている、尻尾のみを露わにしている九尾の狐の姿があった。

 皆一斉に、玉座に続く階段の前で、レプレプから降り立った。


「よくぞやってくれたな。勇者どもよ」


 王子の姿のままで、九本の尾を出しっぱなしの九尾の狐は、吐き捨てるように言い放った。

 

「これで窮屈感あった尻尾が解放されて、少しは楽になっただろうよ」


 ガルシアが、嫌味を述べた。


「ほぉ。よもやダークエルフが勇者だとはな。皮肉なものだ」


 化け猫騎士総長が腕組みで、口角を引き上げる。


「貴様こそ、所詮ただのアダンダラの分際で、随分待遇の良いご身分だよな」


 これにガルシアも、余裕で言い返す。

 彼の言葉に、それまで冷静沈着だった女化け猫騎士団総長が、怒りを露わにした。


ただの(・・・)アダンダラの分際で、だと……!? 貴様如きダークエルフがアダンダラの高貴なプライドを、理解出来るものか!!」


 怒声を上げた化け猫騎士総長の両目が、真紅の光を帯びる。

 ──アダンダラ──それは密林に住まう化け猫で、主に人間に化けるのが得意、もしくは“化けさせる(・・・・・)”力を持つ魔物である。

 自分より力が劣る低級モンスターを、多く人間に化けさせたのはこの、アダンダラである。


「プライド? お前等下級魔族であるアダンダラ如きの? フン。我々光と闇のエルフにとってはてめぇら如きプライドなんざ、笑止千万だぜ!!」


 ガルシアは言うや、笑い飛ばした。

 その隣にいたマリエラは寧ろ、慌てふためいている。


「ちょっ、ガル! 私まで引き合いに出さないで頂戴! 私には戦力なんてないのだから……!!」


「軽い挑発だよ師匠。大丈夫。師匠はこの俺が守るからさ」


 ガルシアは言うと、マリエラへウインクして見せた。


「貴様は何も分かっていない……私はアダンダラ族の中でも、王家の血を汲む者だ。能力も格段に高いのだぞ!!」


 しかしそれは、ガルシアに至っても同じ事だ。


「そうだろうな。でなくては、この国内規模の獣系モンスターを人間に化けさせるのは、容易ではないだろうよ。さて。では、その残された魔力で果たして一体、どこまで俺達とやりあえるかな?」


「いい挑発だ。少しずつだがあいつも成長していってるな」


 レオノールは一人、うんうんと頷いていた。


「じゃあ、始める前にどうしようか。こちらは四人。そっちは二人。このままやる? それとも対等な方がいい?」


 フィリップが九尾の狐へ尋ねた。


「この私の名は白面(ホワイトフェイス)。しかと覚えよ。例えそっちが百人であれ、あたしは一人でも問題はないわ」


「そう。よろしくホワイトフェイス。それだけ余裕があるのなら、こちらは一気に行くよ? 覚悟はいい?」


「覚悟なんぞ、要らぬ!!」


「言ったね。後悔を──するなよ?」


 最後にそう告げたフィリップの瞳は、穏和なものから怜悧な光へと変化した。

 フィリップは妹へ向き直ると、口早に呪文を唱えた。


「宵闇の中で煌き輝く月光よ。時選ばずにして優しく対象に降り注ぎたまえ──月煌輝優(シャイニングムーン)


 そうして自分の白マントを外すと、成人体型へと変化したフェリオへ被せてから、小さな布袋を渡した。


「その中に着替えを詰めてある。さっさと着替えてお前はレオノール側に付け。俺はガル側に付く」


「そんじゃま、俺はこの猫女の方に付くぜ」


 レオノールの発言に、アダンダラは答えた。


「ふざけるな。私はダークエルフをこの手で……!!」


「そいつはこの俺を倒してからにしな」


 レオノールはそう軽く、挑発した。


「フン。貴様如き人間から簡単にやられるような(タマ)じゃあ……──」


 アダンダラはレオノールの目を覗き込みつつ、恐怖の概念を植えつけようとしたが。


「……その眼……まさか、お前も魔族か!?」


「そのようだな。実に残念な事に」


 レオノールは答えると、ニタリと不気味な笑みをアダンダラへ向けた。

 深紅の瞳孔に紫色の虹彩をしたその双眸に、アダンダラは衝撃を受ける。


「しかも、レベルはとても崇高な……!?」


「御託はいいからさっさと始めようぜ。バトルを。もしくは“殺し合い”か……?」


 言いながらレオノールは、ゆっくりとした動きで格闘の構えを取る。

 一方でアダンダラは、脳内で焦っていた。

 

 どうする? どうする!? 相手は崇高な魔物。まともに相手をしても勝てそうにない。しかし、必ずしも崇高な立場だからと言って、バトルも相応に強いとは限らない……──万が一の時はホワイトフェイス様を裏切って勇者側へ付くか!? いやいや、ホワイトフェイス様も崇高な存在。裏切ったとしてこの勇者一行が私を受け入れなかった場合、両方を敵に回す事になる。どうしたら良いか!? 圧倒的強者と分かっていて相手をする程、馬鹿馬鹿しい事はない。死にたくない! まだ私は死にたくない──!!


「おいおい。戦う前からもう顔が青いぞ。その調子で大丈夫か!?」


 レオノールが半ば呆れ気味に口にする。


「どうしたアダンダラ。相手の立場を知ったから、よもや怖気付いたわけではあるまいな!?」


 ホワイトフェイスが、アダンダラへ鋭利な睥睨をよこす。


「俺への恐怖心を抱いたと言うのなら、別の奴に代わってやってもいいんだぜ?」


 レオノールが愉快そうに笑うのを見て、アダンダラはクッと屈辱感で奥歯を噛み締める。

 しかしそれは、事実だ。

 否定は出来ない。

 アダンダラが黙っていると、レオノールは嘆息を吐いた。


「どうやら図星らしいな。同情するぜ? しょうがねぇ。ラード。お前が相手をしろ」


「この私で、よろしいので?」


「ああ。俺を前にして竦んでいる奴を相手にする程、俺は落魄(おちぶ)れちゃいねぇ。後はお前に任せる」


「ボクはどうすればいいのー?」


 戸惑っている成人体型になったフェリオに、レオノールは気軽な口調で答えた。


「俺と一緒に見学してようぜ。誰かがピンチになったら、助っ人すりゃあいい」


「そんなんでいいの?」


「いいのいいの」


 困惑するフェリオへ、レオノールはあっけらかんと答えた。

 その時だった。

 突然、玉座の脇にあるドアが激しく開いたかと思うと、一人の豪華絢爛な衣装を身にまとった女が、九尾へと駆け寄った。

 一目見てすぐに、その女が女王である事が分かる。

 その後から、五~六人の兵士達がその女王を、追いかけて来た。


「坊や! 国の中で無数のモンスターが暴れているわ! こちらに被害が及ぶ前に、早く私と一緒に逃げましょう!!」


「クス。あら、それは、国を捨てると言う事かしら?」


「命以上に大切な物など、あるものですか!!」


 女王は叫ぶように言いながら、ホワイトフェイスの手を取る。


「クックック……愚かな女王だ。国が一大事だと言うのに己だけは助かろうとは」


「何をうだうだ言ってるの! さぁ、早く国外へ逃げるのよ坊や!!」


 女王は言いながら、ホワイトフェイスの手を引いたが。


「残念。貴様の可愛い王子(ぼうや)はこのあたしが真っ先に、喰ろうてやったわ!!」


 そうしてホワイトフェイスは九本の尾を、これ見よがしに逆立てた。


「ヒッ! ヒイィィイィィイィィー!!」


 兵士達が腰を抜かす女王を守りながら、ホワイトフェイスへ長槍を向ける。

 しかしホワイトフェイスは、その尾を鋼のように堅くして全ての兵士を一気にまとめて、その尾で体を貫いた。

 呆気なく兵士達は、殺されてしまった。

 腰が抜けて動けずに、顔を青褪め震えている女王も、ホワイトフェイスはもったいぶる事なくあっさりと、同様に殺してしまった。

 そしてホワイトフェイスは勇者一行に向き直ると、言った。


「さぁ。邪魔者は消し去った。本番はこれからよ」



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