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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第二十二章:ゼラニウム国救出編
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story,Ⅰ:一触即発



 ゼラニウム国──元々はハルジオン国と共に、このゲッケイジュ大陸を治めていたのだが、百年前の大陸内紛争でゼラニウム国がハルジオン国を打ち負かし吸収。

 ハルジオン国は滅亡し、このゲッケイジュ大陸丸ごと一つがゼラニウム国の、領土となった。

 それにより、太陽の騎士にゼラニウム国、空海(そらうみ)の騎士にハルジオン国が任命する事となった。

 王室も、ハルジオン国王族の姫をゼラニウム国王の妃として、嫁がされた。

 初めの内から差別などなかったと言うと、嘘になるが年月と共に徐々に血が混ざっていく内、そうした人種差別も次第に薄れていった。

 こうして意気投合してきた矢先にこれだ。

 またもや国内紛争の火種が燻り始める事を、太陽の騎士達は恐れたのだった。

 そのタイミングで、勇者を名乗る一行が出現したので、わらをも縋る思いで相談に訪れたと言う訳だ。


「臭うね……」


「臭いまくりだな……」


「魔王の征服の臭いプンプンだな……」


「そうだね」


 フェリオ・ジェラルディン、ガルシア・アリストテレス、レオノール・クイン、フィリップ・ジェラルディンの順で述べる。


「そうなのね?」


 マリエラ・マグノリアのみが、キョトンとしていた。


「まぁ、師匠には後に追い追いと」


 ガルシアが付け加える。


「しかし、光のエルフならともかく、闇のエルフがまさかの勇者だとは……」


「基本、モンスター扱いされる立場が勇者とか、意外だよな」


 クルーニーの言葉に、ガルシアは言って小さく口角を引き上げる。


「彼は両親を魔王に殺された、はぐれダークエルフで私が見つけて育てましたの。なので決して野蛮な所為などございませんわ」


 ガルシアの隣へと、マリエラが進み出る。


「そうでしょうとも。明らかにいがみ合ったりもせず、勇者ガルシアも礼儀正しく落ち着いておられる」


「それでは、私からも自己紹介を」


 フィリップの肩に止まっていた白隼姿のアングラードが、(くちばし)を開いた。

 これにギョッとするクルーニー。


「その白隼……言葉を喋れるのか!?」


「まぁ、この鳥は俺の使い魔でね。ラード、そのままの姿で頼むぜ」


 レオノールが言葉を付け加えた。


「我が名はアングラード=フォン・ドラキュラトゥ。いざとなった時に戦力となっている。以後宜しく頼もう」


「白隼の割りには、また随分立派な名前を……よもや、こちらの赤猫も喋られるのかな?」


 クルーニーはフェリオの肩に乗っているルルガに、視線を送る。

 これにフェリオがスパンと答えた。


「いや、それはない」


「じゃあこの情報だと、どうやら空海の騎士が怪しいと言う事だね」


 フィリップが本題に入り始める。


「いざとなったらこの私めにお任せを。人と魔族の見分けは、私が付けられる」


 ここに来てアングラードの発言に、皆が感嘆の声を洩らす。


「今頃になってようやく役に立つ時が来たか」


 レオノールの辛辣な発言に、アングラードは嘆息を吐くのだった。

 



 こうして一旦、一行はクルーニーと別れると、宿屋に戻って一夜を過ごした。

 朝食を済ませて外へ出ると、何やら空気が殺伐としている事に気付く。


「何事だ?」


 僅かに眉宇を寄せるレオノール。


「あっちの方みたいだね」


 ガルシアが指を差す。


「行ってみよう」


 フィリップの言葉に、皆はそちらへと足を運んだ。

 何やら不穏な様子が段々濃くなっていく中心に辿り着くと、三人の空海の騎士がボロボロになって倒れており、一般人が物足りなさそうな勢いでいきり立っていた。


「おい。全然その“黒い犬”とやらにならねぇじゃねぇか」


「意地でも正体を隠してやがるんだ!! 昨夜は確かにそうなった!!」


「まさかお前ら……俺達に濡れ衣を着せようって魂胆じゃねぇだろうなぁ……!?」


「俺達!? おいおいまさかハルジオン人の事を言ってんのか? ぞりゃねぇぜ! もう百年以上経ってんだぞ!?」


「それにしちゃあ、この空海の騎士さんに対するこの行為は酷過ぎる」


 レオノールは、フィリップの肩に止まっているアングラードへ振り返ると、尋ねた。


「おい。あそこで倒れている三人の正体は魔族じゃなさそうだよな?」


 これにアングラードは数秒黙してから、言葉を発した。


「あの三人は純粋な人間だ」


 これにレオノールは、フィリップと目を合わせて一つ首肯すると、騒然としている輪の中心へと足を踏み入れた。


「皆落ち着け、よすんだ」


 レオノールが口を開く。


「この者は生粋の人間だ」


 フィリップは地面に伏してる三人へ、治癒魔法をかける。


「でも、しかしっ……昨夜は確かに……! あんたらも見たじゃないか!!」


 一人の市民が顔を青褪めながら、動揺を露わにする。


「ああ、見たさ。でもだからこいつらもそうだとは限らねぇ。確かに魔族がこの“空海の騎士”に入り込んでいるのは確かだ。だがあくまでも“入り混じっている”ってだけだ。全てが全て、魔族じゃねぇ。こうした普通の人間も残っていて、彼等も騙されている被害者なんだ」


 レオノールの言葉を聞いて、治癒魔法により傷も体力も癒された空海の騎士の一人が、口を震わせながら開いた。


「そ、そりゃ一体どういうこった……!? 俺等の中に、魔族が入り込んでいるってぇのか……!?」


「ああ。残念ながら」


「そんな……っ!!」


 受け答えするレオノールの発言に、三人の空海の騎士達は愕然となる。

 その時だった。


「おいコラ貴様達!! 一体何を騒いでいるんだ!!」


 レプレプに騎乗した空海の騎士が五人やって来た。


「よもやこの空海の騎士に暴力を振るっていたわけではあるまいな!?」


「お前達! そこの所はどうなんだ!?」


 一人のレプレプに乗っている騎士が、中央にいる三人の“人間”の仲間へと尋ねる。


「それは……」


「その……」

 

 言い淀んでいる彼等の様子に、レプレプに乗った彼等は怪訝な表情を浮かべる。


「だとしたら、どうする」


 レオノールが勝気な笑みを浮かべて、尋ねた。

 これに一般人達が小さくざわめき、息を呑む。


「ひっ捕らえて牢獄行きだ!!」


「いいご身分だな! このクソワン公が!!」


 レオノールは怒鳴るや否や、一番身近にいた騎士へ大きくジャンプし足の外側をその顔面に、叩き込んだではないか。

 蹴られた騎士はレプレプから落下したかと思うと、地面に倒れこんだ時には黒い犬の姿になっていた。

 これに一般人達がどよめく。


「魔族臭ぇんだよこの雑魚が!!」


「きっ……! 貴様よくも……!! 覚悟しろ!!」


「覚悟するのは貴様等だ」


 フィリップが落ち着き払った声で述べる。

 それを合図としたように、フェリオとガルシアも中央へと飛び込んで来た。

 マリエラは無論、見学に回る。

 これを確認して空海の騎士達はレプレプから降りると、正体を現して黒い犬と化した。

 それを目の前にして、一般人達は大きくざわめいた。


「こういうこった! 人類達よ!!」


 レオノールは叫んで、戦闘態勢へと入る。

 一般人達は中央から遠ざかってから、黒い犬五頭と勇者一行──もれなく白隼も一緒の──バトルに注視する。

 勇者一行は武器や魔法を駆使して、これらの黒い犬達をたちまち倒してしまった。

 これに周囲から、拍手喝采が起きる。

 だがしかし、その内の一頭が余力を振り絞るように頭をもたげた。


「これ、で、勝ったと、思うなよ……!」


 その一頭は犬の姿のまま喋った。

 するとメリメリと、レザーを引っ張るような音が聞こえたかと思うと、その一頭の首が伸び更にそこから人の形をした両腕が左右二本ずつ計四本生え、止まる事無く進化は続き筋肉質な人の形をした上半身となった。

 つまりケンタウロスの犬ヴァージョンである。


「成る程。リーダー格は、この手段を秘めているわけか」


 レオノールは感心しながら腕を組んだ姿勢で、顎を撫でる。


「それでどうする。モンスターの十八番の、口から火でも吐くか?」


 フィリップが悠然と言ってのける。


「戦力はさっきの三倍と思ってかかって来るがいい!!」


 黒犬リーダーは、勝ち誇った様子で述べた。


「ラード。お前が相手をしろ」


「承知!!」


 レオノールからの命令に、白隼のアングラードは黒犬リーダーへ飛び掛って行ったかと思うと、その周囲を物凄いスピードで円を描き始め、人間の目では白隼の姿を目で捉えきれなくなってしまった。

 黒犬リーダーを中心に竜巻が発生し、直後には白隼のアングラードはフィリップの肩へと戻って来た。


「どうした。もう倒したのか?」


 フィリップの問いに、アングラードは余裕たっぷりに答える。


「この三流モンスターなど、私の敵ではない」


 周辺の人々がワァキャアと大騒ぎしていたが、竜巻が収まった時には誰もが驚愕で活目した。

 黒犬リーダーの全身が竜巻と同じ向きに捻り巻かれていたのだ。

 少なくとも、全身の骨は粉々だろう。


「ガ……ッ、ゴワ……!」


 これにフェリオが歩み寄ると、その捻り巻かれている黒犬リーダーを足蹴した。

 その細長い肉塊は呆気なく倒れ、地面にドシャリと叩き付けられる。

 衝撃で、まるで赤い花が咲いたかのように、真っ赤な鮮血が地面に広がった。


「ひとまずただの黒犬とリーダーが、人の姿を真似ているわけだな」


 ガルシアの発言に、人間の空海の騎士が声を震わせる。


「こ、こいつらが我々騎士団の中に……!?」


「早速この事を騎士団長に……!!」


 彼等の言葉に、フィリップが手で制した。


「やめておけ。万が一と言う事がある。お前達は知らない振りをして今まで通りに過ごすんだ。その代わり、そのお前らの団長と太陽の騎士団長クルーニーを、我々の宿泊先の宿屋に呼び出せ」


 フィリップの命令に、三人の人間の騎士達はそれぞれ顔を見合わせて首肯すると、勇者一行に頭を下げてからレプレプに飛び乗り、その場を立ち去った。

 そしてそこには、先程黒犬騎士達が乗ってきたレプレプ五頭が残った。


「……ねぇ。このレプレプ、ボクらが貰っちゃダメかな?」


「この国──大陸を移動する分では、しばらく拝借しても構わんだろう」


 国の住民でも何でもないフィリップが、勝手に許可をする。

 それをカバーするように、人々の中にいたマリエラがその場にいるみんなへ、意見を求めて振り返る。

 これをすぐに察した国民達は、満面の笑顔で許可の首肯をして五頭のレプレプを、みんなへと差し与えた。


「じゃあ、ここにいる間は是非よろしくね」


 フェリオは言って頭上にあるレプレプの顔へと、手を伸ばす。

 レプレプは、頭を下げてきてフェリオの小さな手の平に、頬を寄せた。

 

「クルクッククルクック……!」


 そう鳥のような鳴き声を洩らしながら。




 一時間後。

 ガルシアの宿泊部屋に太陽の騎士団長クルーニーと、空海の騎士団長アラムがやって来た。


「フム。見たところ、黒犬が化けているわけではなさそうだな」


 フィリップがそう述べる。


「はい。アラム殿からは人間の臭いしかしません」


 アングラードが窓枠から、フィリップへと答える。


「同じく」


 レオノールも答える。


「簡単ですが、この太陽の騎士団長クルーニーから聞き及んでおります。何でも、うちの空海騎士団の中に、魔族が入り込んで外で悪さをしているのだとか」


 二人掛けのソファーにクルーニーと共に座り、アラムが口を開く。


「そのせいで徐々に人間……国民達から、空海の騎士団の信頼が失われつつあるようです」


 ガルシアの言葉に、アラムは驚きで一瞬小さくヒュッと息を吸ったかと思うと、重々しく嘆息吐くのだった。




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