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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第十二章:ゲッケイジュ大陸編
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story,Ⅹ:太陽と空海の騎士




「よくぞ我が出した条件をクリアしたな。称賛に値するぞ」


 フェリオ・ジェラルディンの目の前には、ベヌウ鳥が佇んでいた。

 ここは、このコロシアムの地下空間。

 団体戦が終了するやフェリオは、再度ここへと向かってベヌウ鳥へ、結果報告をしたのだ。


「良かろう。では改めて、主の力となろうぞ」


 ベヌウ鳥がそう言って、翼を大きく広げると青色の魔法陣がフェリオの足元に出現し、頭上へ向けてフェリオを通過した。


「これにて、我との契約は終了だ。必要な時、いつでもこの我を求めるが良い」


「はい。ありがとうございます」


 そう述べたフェリオの外見は、成人体型だった。

 そうでないと、召喚霊との契約が出来ないからだ。

 ちなみに今回、成人体型になれたのは、30分のみの“ムーンライト”の魔法によるものだ。

 コロシアムの地下から出て来ると、すっかり勇者一行のみんなは群集の人気者になっていて、周辺を取り囲まれていた。


「サインくれ!」


「一緒に写真を撮らせて頂戴!」


「握手してくれ!」


「あの強さ、だてに勇者を名乗ってないのね!」


 みんな、フェリオには気付かない。

 それもそうだ。

 闘獣戦の時、フェリオは子供体型だったのだから。

 するとそれから逃れるように、赤猫ルルガと白隼に変化しているアングラード=フォン・ドラキュラスがそれぞれ、フェリオの肩に乗ってきた。


「危うく、記念にと私の羽根がむしり取られる所であった」


 白隼姿のアングラードが、人間に悟られぬよう彼女の耳元で、コソリと述べた。


「でもどうしようこの群集……とてもみんなに近付けないよ」


 フェリオは困惑する。

 そんな中で、聞き覚えのある声が響き渡った。


「よぅし皆の者!! 歓迎に感謝する!! ここでは何だから、食事処へ移動して宴をしよう!!」


 レオノール・クインだ。


「全くレオノールったら……また勝手な事を……」


 フェリオは片手で顔を覆ったが。


「思う存分呑んで食べよう!!」


 この言葉に、しっかり大歓迎に打って変わる、フェリオなのであった。




「小僧、よく食うなぁ~!」


「食いっぷりがせいぜいするぜおチビちゃん!!」


「見ていて気持ちいいよ!!」


 国民達がフェリオの食事シーンに驚愕する中、当人は食べるのに夢中で世間の感想など、耳に入っていないのが幸いだった。

 フェリオはもう30分経過した為に、成人体型から解除され子供体型に戻っていた。


「こっちの姉ちゃんも大した飲みっぷりだぜ!!」


「もうかれこれジョッキ40杯は麦酒(エール)を呑んでるぞ!?」


「勇者一行恐るべしだ……!!」


 ノーマルであるフィリップ・ジェラルディンとガルシア・アリストテレスとマリエラ・マグノリアの3人までもが、異常者扱いにもれなく組み込まれていた。

 それだけフェリオとレオノールの暴飲暴食が凄すぎるのだ。


「レオノールさんはアルコール、大丈夫なの? あの量……いくら公認の18歳になっているとは言え……」


 マリエラが心配する。


「気にしなくていいさ。いつもの事だし」


「そうそう。アル中になる前に、店の酒が先になくなる」


 あっさりと言うガルシアの言葉に、フィリップも賛同する。


「まぁ……そうなの……」

 

 これにマリエラは、唖然とするしかなかった。

 今日の飲食代は、ここに来て一緒に盛り上がっている客達の奢りだ。

 闘獣戦で連勝した勇者一行を皆で、大歓迎しているのだ。


「彼らがいてくれたなら、魔王軍が襲撃に来ても安心だ!!」


 客の一人が述べる。

 この言葉に、もう既に魔王軍が潜り込んでいる事は、敢えて言わないでいた。


「こんだけ食やぁ、明日にゃあ今以上に成長してらぁな! おチビちゃん!」


 別の客がフェリオに言ったが、食べるのを優先にしているフェリオは聞き流した。

 プライドよりも、食欲の方が勝っていた。

 その時だった。


「ああ~ん!? 何だと!? 食い物も酒も、もう終いだと!?」


「こちとらてめぇら国民の為に国内を見回って、問題があれば守ってやっているのによぉ!!」


「おい兄貴あいつら、昼間コロッセオで闘獣戦を団体参加して連勝したって言う、勇者一行ですぜ!?」


 二人組みの柄の悪い男二人が、暴言を吐いてきた。


「こいつら……悪徳騎士だ」


「自分達の立場を悪用している……」


 客達がざわつく。

 この国では騎士に対して、一般国民は逆らえないのだ。


「勇者様ってかー!? 勇者様なら我々騎士に与える分の食糧をたいらげてもいいってぇのかぁ~!?」


 ディープブルーカラーのラインが入った、白地の制服を着ている悪徳騎士は立ち上がると、勇者一行の元へと威嚇するような足取りでやって来た。

 これにフィリップ、ガルシアが椅子から立ち上がる。


「おお!? 何だこの俺達とやりあおうってか!?」


「騎士に逆らうと、公務執行妨害で牢屋行きだぜぇ~!?」


 中腰姿勢で下から、二人を睨み上げてくる二人の騎士。


「いえいえ。何も存ぜずにこの店の食糧を食べ尽くした事への謝罪を」


「何も知らない事だったとは言え、大変申し訳ありませんでした」


 フィリップとガルシアが、それぞれ頭を下げる。


「礼儀を弁えているたぁ、出来の良い勇者一行だ。関心関心」


 一人の騎士が、へらへら笑いながら述べる。

 しかし。


「てめぇらも、飲み食いをやめて俺達に謝罪しやがれぃっ!!」


 もう一人の騎士は我鳴り上げると、テーブルを蹴り倒したではないか。

 テーブルの上の皿やジョッキが全て、床に散らばる。


「……」


「……!?」


 フェリオとレオノールの飲食の手が、ここに来てようやく止まる。

 マリエラはこの状況に怯んで、客達の中に身を隠す。

 それに気付いた数人の客達が、マリエラを背後へと隠してくれた。


「よぉ小童~! その図体でよくもそんだけ食いやがったもんだ!!」


「ネーちゃんの方もそんだけガブガブ呑みやがってよぉ~!!」


 椅子に座ったままの姿勢のフェリオとレオノールへ目の高さを合わせ、因縁を付けてくる悪徳騎士の二人。


「リオ、レオノール、ここはおとなしく──」


 フィリップが二人へと声をかけていた時。


「食べ物と酒を粗末にするたぁ、何事だぁあぁぁあぁぁーっ!!」


 フェリオとレオノールは怒鳴るや否や、それぞれの悪徳騎士の顔面に容赦ない一発を、お見舞いしてしまった。


「あ……!!」


 愕然とするガルシア。


「やった……!!」


 顔を手で覆い隠すフィリップ。

 二人の悪徳騎士は鼻血や歯を折っての口から出血していた。


「てめぇら……女子供の分際でよくも……!!」


「牢屋にぶち込んでやる……っ!!」


 しかし。


「おいてめぇら。ケツから尻尾出てんぞ」


「耳もケモ耳になってるよ!!」


 レオノールとフェリオは言うと、椅子から立ち上がってそれぞれ、指の関節を鳴らした。

 彼女ら二人の言葉に、ギョッとする二人の悪徳騎士。

 これにざわつく客達。


「昼間の王子の会話と言い、今のお前らの姿と言い、一体どうなってんだ?」


 レオノールが尋ねる。


「事の次第では、討伐するから覚悟はいいね!?」


 フェリオも平然と、そう述べる。


「チッ……! こうなったらぁ……っっ!!」


 開き直った様子で二人の悪徳騎士は、姿が変貌したかと思うと黒い犬の姿になっていた。

 これに即座に、戦闘態勢に入る四人。

 しかし。


「そこまでだ」


 突然遮られ、そちらへ向くとオレンジ色のラインの入った白い生地の制服を着ている騎士が五人、姿を現したではないか。


「ようやく正体を現したな。この時を待っていたんだ」


 一人の緑色の髪をした男が、背後の四人の騎士へと、顎をしゃくる。

 これを合図に四人の騎士達は、この黒い犬二人──二匹を、捕縛した。


「都合良く、勇者一行がこの国に来たと聞いて、おそらく一行に今のモンスターが接触してくるだろうと踏んで、見張らせて頂きました。勇者一行様、良ければ場所を変えて、相談を聞いて頂けないだろうか」


「分かりました」


 リーダーらしき騎士の、その緑色の髪の男の頼みに、フィリップが首肯した。


「では、私はお先に──」


「いえ。マリエラさんもどうぞ一緒に来てください」


 客の集団からおずおずと姿を現したマリエラへ、フィリップは賺さず声をかけた。


「もし良ければ、奥に個室があるので、そちらをご利用ください」


 店主に勧められて、みんなはそちらへと移動した。

 ちなみに黒犬に変化──いや、本性に戻ったであろう二頭は両脇を騎士に押さえつけられたまま、客達にボカスカ殴られて、店を出る頃にはグッタリしていた……。




「最近──王族の様子に変化があるのに気付いた頃……我々騎士の中にも突如様子の変わった者達が現れ始めて……我々はあやしいと睨んだ者達を監視する事にしたのです」


 個室にて、四角いテーブルを囲む形で、みんなは座っていた。

 騎士を上座にして。

 騎士の話の内容を聞いていると、変化はショーン・ギルフォードが魔王になってからだった。

 それは仕方のない事だろう。

 だからショーンは、魔王になったのだから。

 だがそうなると、この世界各地に、凶暴化したモンスターが出現したであろう事が、解かってくる。

 それもそうだろう。

 相手がショーンだからと言って、こちら側の都合に合わせてくれるわけがないのだ。

 魔王になったからには。

 彼は、太陽の騎士団長の、クルーニーと名乗った。

 騎士の制服は、ディープブルーとオレンジの二色あって、白の生地にそれらのカラーのラインが入っている。

 オレンジは太陽の騎士。

 ブルーは空海(そらうみ)の騎士として王家を、そして国民を守っているのだが。

 空海の騎士達の様子がおかしい事に気付き、城に出向き王に謁見を申し出た時だった。

 王は病で臥せっており、代わりにその一人息子である王子が執行を引き受けるとの報告を受けた。

 心優しく、息子を溺愛している女王がその時、度を越して王子の足元で媚びへつらっていたではないか。

 王子にしたって、母に似てやはり心優しい筈が、どうにも彼らしくなく口調に変化があり、行動も乱暴になっていた言う。


「ここだからと言うか、騎士団長の貴方にだから申し上げますが、この国は魔王軍に乗っ取られています」


 フィリップの発言に、クルーニーは大きな嘆息を吐いた。

 フィリップは魔王との最終決戦に備えて、各国で必要な“あるもの”を入手する為に今は旅をしている事を告げた。

 更にもしその時、魔王軍に乗っ取りの気配があったら、救出している事も告げた。

 ちなみに、太陽と空海の両騎士総団長が、王子にくっ付いている女騎士らしい。

 丁度この国の様子が変わり始めた頃、前総団長が事故死し、それを受け継いだのがその女騎士総団長なのだそうだ。


「この国が内部崩壊する前に、どうかお力をお貸しくださいませ……!!」


 クルーニーからの申し出に、フィリップが口を開けた時だった。


「おう! 当たり前だ!! 俺らに任せておけぃっ!!」


 先に答えたのは、レオノールだった。


「それはありがたい!! 我々も手助け致しますゆえ!!」


 クルーニーは立ち上がると、左二番目に座っていたレオノールの元へと歩を進め、手を取って堅く握手した。


「……ちなみに勇者は、その隣に座っているダークエルフ君ね。名前はガルシア・アリストテレス」


 レオノールの前に座っていたフェリオが、クルーニーへと伝える。


「何と!! そ、それは失礼した!!」


 クルーニーは慌てて背後を振り返ると、ガルシアの両手をがっしりと掴む。


「いやー、はい、こちらこそ、今後ともよろしく……」


 ガルシアはクルーニーの熱血ぶりに口元を引き攣らせるのだった。

 そんな中で、皆はそれぞれクルーニーへと自己紹介をした……。



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