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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第十一章:動き始めた魔王軍編
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story,ⅩⅢ:哀れな犠牲の元に



 人狼に変化したアングラード=フォン・ドラキュラトゥは、ゆうに3mはあった。

 フランケンよりも大きい。


「俺とリオはこのフランケンを! フィルとガルはそのモスキート野郎を相手しろ!」


 言うとレオノール・クインは、フェリオ・ジェラルディンと一緒にフランケンへと向かい合う。


「てめぇ、俺の奈落おとしでよく意識を取り戻せたなぁ!?」


 レオノールはニヒルな笑みを浮かべる。


「リオ。こいつは傷つけるな。血液が酸性になってる」


「了解!」


 フェリオはレオノールの言葉に、杖を構える。


「ガル。こいつはさっきみたいに切断の着脱可能だから、さっさと頭を落とすぞ!!」


「はいっ!!」


 ガルシア・アリストテレスも、フィリップ・ジェラルディンの言葉に“破壊者”と“勝利の剣”の二刀流になって、剣を構える。


「グゥウ……ガァウッ!!」


 アングラードが威嚇の咆哮を上げる。

 これにガクリと、二人は一瞬脱力する。


「こいつ……こちらの防御力を落としてきたか。甘いわ!! 身の程を知れ!!」


 するとまた力が漲る。

 フィリップが防御力を上げたのだ。


「切り裂き!!」


 アングラードは言ったかと思うと、鋭い爪をガルシアへと振り下ろしてきた。

 咄嗟にガルシアは、二本の剣を交えて防御する。

 ギギギン!! ──甲高い音を立てて、剣は爪からの攻撃を防ぐ。


「よーっし! じゃあこっちも行くよ~!」


 ガルシアの様子に感化されたかのように、フェリオも改めてフランケンへと向き直る。


「生ける者へ死の裁きを──怨獄惨死(インフェルノ)!!」


 すると目に見える、紅い衝撃が五つ、フランケンの体躯へ撃ち放たれる。

 フェリオは即死魔法を発動したのだ。


「グオォウ!!」


 これにより、フランケンは後ろへと吹っ飛んだが、しばらくしてゆっくりとした動きで起き上がる。


「あれ!? 死なない! まだそこまでのレベルに──」


「違うぞリオ。こいつは元々死んでるんだよ」


「ええぇっ!? そうなの!?」


 レオノールに指摘され、驚愕するフェリオ。


「まぁでも、ダメージは与えられたよね」


 フェリオは前向きに捉えることにした。


「先程はどうも、ご主人様。よくぞこの私めを傀儡化してくれた……礼をせねばな! 人狼になっても光は受け付けんのか、試してやろう! ──光よ、我に力を!!」


「よせバカ! 受け付けぬわぁっ!!」


 アングラードは口走ったが既に遅く、直線状の太くて黄色の光が真っ直ぐ放たれて、腹部に穴を開けた。


「ぐふぅ……っ!!」


 土手っ腹に穴を開けられ、アングラードはよろめくのだった。




「リオ、次は俺の番だ」


 レオノールは言ってフランケンの前へと飛び出すと、彼を正面から突如抱え込みつつ後ろへと倒れこんだ。


「地獄車!!」


 これによりフランケンは、正面へと回転し吹っ飛ばされたかと思うと、アングラードめがけて突っ込んだ。


「ゲハッ!!」


 この衝撃に更にアングラードもダメージを受け、二人揃って倒れ込む。


「くっ! は、早くどけ! この木偶の坊!!」


 アングラードは、フランケンを蹴り飛ばす。

 それによりフランケンは、勢い良く元いた場所に転がった。


「グウゥ……」


「酷い! 主なら手下にもう少し、優しくしてやりなさいよ!!」


 フェリオは言うと、咄嗟に倒れこんでいるフランケンへと歩み寄り、頭を優しく撫でてやった。


 「リオ、一体何を……!!」


 レオノールが声をかけるのを受け流し、フェリオは優しくフランケンへと声をかける。


「よしよし。嫌な主だね。せっかく頑張ってるのに……」


 すると、フランケンの脳裏に電流が走った。

 ハッとするフランケン。

 そして、無意識に涙がポロポロと雨の様に、零れ落ちた。


「な……こいつ、泣いてる……?」


 レオノールが驚愕する。


「何だこのバカ! こんな時に泣き出すとか正気か!? さっさとこいつらを片付けろこのバカ!!」


 アングラードは苛立たしげに、フランケンへと怒鳴った。


「本当はこんな事、したくないんじゃないの……? したくなければしなくても、いいんだよ……?」


 フェリオは更に、フランケンの頭を撫でる。


「ぉ……で……(おで)……」


「ん? こいつ、喋ろうとしてるのか?」


「……こいつは使えるかも知れんぞ。その調子だリオ!」


 レオノールの反応に、フィリップが妹へと声をかける。


「そうはいくか! 早くやれこのバカ!!」


「貴様は黙らせる必要がありそうだな」


 改めてフィリップは、アングラードへと向き直ると。

 何と土手っ腹に開けた風穴が、塞がっているではないか。


「チッ! しまった。こいつ再生するのか!? 時間を与えすぎた!」


「いえ、正確には再生ではなく、回復です。切断した腕もくっ付けて回復させたのだから」


 ガルシアが訂正する。


「成る程……じゃあ、四肢を同時に切断したらどうなるのか……試してみよう。クックック……」


「フィリップさん、魔王化してます」


“魔王”の言葉にビクリとする、アングラード。


「同じ手は食わん! ──闇の烙印!!」


 アングラードは言うや、フィリップに向けて片手を突き出した。

 しかしガルシアが飛び出してきて、フィリップを突き飛ばす。

 黒い光が、ガルシアを包む。


「む……!?」


 これにアングラードは、眉宇を寄せる。


「!? ガル!! 大丈夫か!!」


「……」


 無言のままのガルシア。


「クックック……今のは、貴様にかけた“凝視”よりも更に強力な支配魔力だ。決して死ぬまで私に逆らわない……」


 人狼姿のアングラードが優越感に浸っていると。


「誰がてめぇの支配下だって……?」


 その声は、ガルシアだった。


「何っ!?」


「てめぇはさっきまで、何を見ていたんだ……俺はデックアールヴ……つまり闇の精霊王なんだよ。闇魔法が俺に効くかよ」


「は……っ! しまった!!」


 アングラードは思い出したように、目を見張る。


「そういえば……ルルガがいないね」


「またどっかで何か余計な物でも喰ってんだろう。すぐフラリと戻ってくるさ」


 このバトルの最中、フェリオははたと思い出して口にしたのを、レオノールが軽い口調で返答する。

 その間、フランケンの脳裏には生前の思い出が、走馬灯のように駆け巡っていた。


(おで)は生ぎでだ頃……木こりだっだだ……」


「ん……?」


「え?」


 レオノールとフェリオは、フランケンへと顔を向けた。


「ある日倒れでぎだ木で(おで)は下敷ぎになっで(おで)は死んでしもだだ……」


「身の上話か」


「聞いてあげようよ」


 レオノールの言葉に、フェリオが答える。

 背後では、人狼姿のアングラードとフィリップ、ガルシアが戦っていた。


「闇の精霊王が何だと言うのだ! 私には魔王様がいる!!」


「フン。やはり、背景にはショーンがいたか」


 フィリップが口角を引き上げる。


「まぁ、正確にはウォルフガンク様だがな。我々を動かしているのは……」


「ウォルフガンク……?」


 眉宇を寄せるガルシアに、アングラードは自慢げに言う。


「魔王様の側近だ」


「まさか……ショーンさんは魔界のお飾りでしかないのでは……」


 ガルシアが小声で、フィリップへと尋ねる。


「それは一理あるかも知れんが……魔王には変わりない」


 刹那、黙考してからフィリップは、そう締め括った。


「喰らえ! 八つ裂き!!」


 アングラードは叫ぶや、横から両腕を振るった。

 それをガルシアが腕をクロスさせ、二刀流で防御する。

 ギィンと甲高い音が響く。


「ならば、これはどうだ! 炎を生みし爪!!」

 

 振り下ろされた爪をガルシアは弾き返すと、その瞬間、炎が発生した。

 だがガルシアは、焼ける事無く平然としている。

 彼には、魔法攻撃無効の指輪が、装備されているので平気なのだ。


「では、お次はどうかな……? ──氷を生みし爪!!」


 アングラードは再度、ガルシアへと爪を振り下ろした。




(おで)は頭悪ぐでみんながおでを、バカにしだだ……でも、動物や植物はおでをバカにしない……んだからおでは、動物や植物が大好きだっだだ……そんなおでが木こりなんがになっだがら……木は怒っで……おでの上に倒れて殺しぢまっだだ……だからおでは仕方ないと思っで、悔いはない中で死ねるで、思っだだ……唯一の心残りは家で飼っでだ犬ど猫ど小鳥達だ……あいづら、今も元気しでっがなぁ……」


 フランケンは、もつれる言葉で一生懸命に話した。

 その話に耳を傾けていた、フェリオとレオノール。

 その時だった。


「ワン! ワンワン!!」


「ミャウ! ミャオゥ~ン!!」


「チチチチ! チュンチュン!!」


「!?」


 これにフランケンは起き上がった。

 そこには、一匹の犬と猫、小鳥の姿があった。

 その後ろから、ルルガがゆっくりと歩いて来た。


「ルルガ!? お前がみんなをここへ連れて来てくれたの!?」


「ニャン♪」


 フェリオの掛け声に、機嫌良くルルガは鳴いて応えた。


「ムギ、ココ、ピーちゃん! おでが死んでも元気しでだがが!? 会いだがっだ! 会いだがっだだよお前達!!」


 フランケンは改めて涙を流しながら笑顔を見せると、それらを優しく腕に包み込んだ。

 すると何やら気配を感じて、ルルガを抱き上げていたフェリオがふと横を見ると、レオノールが深く俯き小刻みに震えているではないか。


「レオ……ノール……?」


 フェリオがそっと、彼女の顔を覗き込むと、目から光る粒が滴り落ちていた。

 そして急に立ち上がると、レオノールは涙目で人狼姿のアングラードを指差し、がなり立てた。


「こいつをこうしたのはお前かああぁぁぁーっ!!」


「……だから、そう言ったではないか」


 アングラードがキョトンとする。


「赦せねぇ……赦さねぇ……!! てめぇだけは、絶対にだ!!」


 レオノールは声を荒げると、アングラードへ向かって駆け出した。


「フハハハハッ!! 飛んで火にいる夏の虫だ!! 掛かってくるが良い!!」


 勝ち誇ったように、アングラードは両手を広げてみせる。


「操る奴に利口は不要! バカな奴の方が都合が良いものだよ!!」


「てめぇーっ!!」


 レオノールが殴りかかろうとした時。


「いけない!! モンスターでも命は大事だだ!!」


 フランケンは言うや、レオノールとアングラードの間に立ち塞がった。


「お前……」


 そんな彼に、レオノールは拳を治める。しかし。


「自我を取り戻した貴様にはもう、用はない!!」


 アングラードは声高に叫ぶと、フランケンの背中へと爪を振り下ろした。


「雷を生みし爪!!」


 その攻撃を受けフランケンは、全身に激しい雷が流れると口から煙を出し、白目になってゆっくりと前のめりに倒れた。


「おい! お前! 大丈夫かしっかりしろ!!」


 レオノールがフランケンへと駆け寄る。


「最後に……友達に会えで……良がっだ、だ──」


 フランケンは擦れた声で言うと、涙を流しながら絶命した。

 彼が飼っていた犬と猫と小鳥が彼の元に寄り添い、悲しそうに鳴いた……。


「貴様……自分を庇ってくれたこいつを、よくも……!!」


 涙目でレオノールは、キッとアングラードを睥睨する。


「正義など要らぬ! 必要なのは残酷さよ!!」


「貴様ァァアァアァァーッ!!」


「やはり粋の良い女は悪くない! 先にお前の血を頂いてやろう!」


 自分へ立ち向かってくるレオノールを、アングラードは歓迎するように振りかぶってきた彼女の手を掴み、牙を剥いた。


「ブラッディーファング!!」


 そうしてレオノールの腕に噛みついた。


「ぅぐっ!! クソ……ッ!!」


 アングラードは、そこから吸血する。

 そして手を離すと、満足そうに述べた。


「やはり粋の良い女の血は美味……」


 すると、レオノールが肩を揺らし始めた。


「クックック……俺の血を、吸ったな? このモスキート野郎……」


「ああ、如何にもだが?」


「これが俺の狙いだった……もう貴様は俺に逆らえねぇ……」


 これにアングラードだけでなく、みんなが疑問の表情を浮かべる。


「俺は魔人だ。その血を毒にも薬にも変化出来る……さぁ、選べ! 生か死かを!!」


「な……っ!?」


 直後、アングラードの心臓が大きく脈打つ。


「う……っ!? く、苦、しい……っ!!」


 アングラードは喉に手を当てて、床に跪く。


「どうする? 早く選ばねぇと、死ぬぜ?」


 彼女の言葉に、アングラードはブルブルと大きく震え始めた。


「こ、こんな、はずじゃあ……!! 死に、たくない……!! 死にたくない!!」


「今まで何人が同じ懇願を、貴様にした……?」


「助、けて……助けてくれぇぇ……っ!!」


「ククク……良いだろう。ではこれにて、バトル終了だ」


 こうして皆が唖然とする中、実に呆気なくアングラードとのバトルに幕が下りるのだった。




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