表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第十一章:動き始めた魔王軍編
69/172

story,Ⅳ:新たなる召喚霊



 アイテム屋に到着すると、丁度店じまいをしているところだった。


「すみません! 買い物したいのですが、まだ時間いいですか!?」


「何さ? いくら勇者一行でも、もう店閉めないと、こっちも夕飯の支度があるんでねぇ」


 中年の女性が、迷惑そうに振り返る。


「そこを何とか! どうしても必要なんです!!」


 ガルシア・アリストテレスが、その女店主へと詰め寄る。

 彼の剣幕に、女店主は嘆息を吐く。


「安い買い物したら、承知しないよ。で、何が欲しいんだい」


 投げやりに言うと、女店主は腕組みをした。


「ここに、“仙人の種”があると聞いて──」


「えっ!? まさかそれが目的かい!?」


「は、はい……」


 驚愕する女店主に、ガルシアは戸惑う。


「あんな物、本当に買う気かい!?」


「あんな物って……?」


「“仙人の種”は高額だけど、そのせいかなかなか買い手がなくてねぇ。レアアイテムと言うから仕入れてみたものの、もうかれこれ10年は売れないものだから……」


 するとこれに、フィリップ・ジェラルディンが進み出てきて、言った。


「それはこれまでその必要がないほど、平和だったからです。魔王が復活した今、どうしてもその種が欲しいのです」


「あんな種、一体何の役に立つんだい?」


 今度はガルシアが答える。


「調合に必要なんです。今手元に、いくつありますか?」


 その言葉に、女店主は顎に手をやり、首を捻った。


「確か……五つだったかしら?」


「それっ! 全部ください!!」


「ええっ!?」


 ガルシアの発言に、女店主は更に驚愕する。


「本当に全部買うのかい!? 1つ10万ラメーはする代物だよ!?」


「50万ラメーか……フィルさん、支払えますか?」


 ガルシアは、おずおずとフィリップに尋ねる。


「うん。大丈夫だよ」


 幽霊船かと思って乗り込んだら、そこにたんまり金銀財宝があってそれが実は、ショーンの前世であるルートヴィヒの物だったわけだしと、内心思いながらフィリップは微笑んで見せた。

 よって、金には困らないのだ。


「じゃあ、ちょっと待っててちょうだい。今、奥から取り出して来るから」


 女店主はそう言い残して、店の中へと入って行った。


「何か、すみません。こんな高い買い物させちゃって」


「気にしないで。仲間じゃない」


 改めて頭を下げてきたガルシアに、フィリップは柔和な口調で答える。


「でもその“仙人の種”は、マリエラさんに頼まれていた素材でしょう? どうやって彼女に渡すの?」


「はい。もし見つけたら、手紙を送ってくれればそちらへ出向くって、言われているんです」


「そっか。じゃあ、次の目的のゲッケイジュ大陸に向かうから、そこへ来るように伝えれば、僕らは彼女の到着を待つよ」


「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 ガルシアは顔を輝かせると、改めてフィリップへと頭を下げた。


 ──五分後。


「あったあったよ。戸棚の奥に入れていたから、取り出すのに時間かかってね。待たせてごめんよ」


 女店主がようやく戻って来た。


「それじゃあ、50万ラメーね」


 女店主に要求され、フィリップはポケットから財布を取り出すと、50万ラメーを支払った。


「確かに。それじゃあこれ、仙人の種5個ね」


 女店主から袋に入った品物を、ガルシアは受け取る。

 中身を確認すると、桃の種くらいの大きさをした丸い赤茶色の種が入っていた。


「うん。間違いなくこれだ。マリエラさんから見せてもらった本に載っていたのと、同じだから」


「それじゃあ、お時間頂きありがとうございます」


 フィリップは女店主へ、軽く頭を下げる。


「ああ、そう言えば」


 はたとフィリップは思い出したような表情をする。


「この島には、パワースポットとかありますか?」


「パワースポットかい? ああ、あるよ。渓谷の先にある洞窟さ。せっかくここに来たのだから、行ってみるといいさ」


「分かりました」


「じゃあ、毎度あり」


 そうして二人は、アイテム屋を後にした。



 食事処へ戻ると、すっかり酔っ払ってるレオノール・クインと、まだ食事中のフェリオ・ジェラルディンの姿があった。


「じゃあ俺、宿屋に戻って、早速マリエラさんへの手紙を書きます」


「了解」


 フィリップがそう一言口にすると、ガルシアは宿屋へと戻って行った。


「リオ。今から召喚霊を入手しに行くよ」


「ええ!? 明日じゃダメなの!?」


「今お前は成人体型だから、今でないとダメだ。言ったろう。魔法の効果は24時間だけだと。つまり明日の朝には、子供体型に戻るという事だ。召喚霊入手は、これまで通り成人体型でなくてはいけない」


「でもボク、まだ食べて──」


「腹八分だ。行くぞ」


 フィリップは言うと、まだ食べているフェリオの腕を掴んで半ば強引に、食事処から連れ出した。


「何だ何だぁ~!? 俺も連れてけよー」


 食事処から、酔っ払ったレオノールが追いかけてきた。


「それは構わんが、目的地に到着する頃には、その酔いも醒めるぞ」


「平気平気ィ~! それじゃあ早速、出発だぁ~!」


 こうして三人は、渓谷へと向かった。

 空はもう、紺碧色に染まっていた。


「ライトボール」


 フィリップが口にすると、光の球体が頭の高さに出現し、浮かび上がった。

 渓谷に到着すると、吊り橋がかかっていた。

 渡り始めた三人だったが、中盤まで差しかかった時、レオノールが呻き声を洩らした。


「ヤベェ。吊り橋の揺れで、吐き気が……」


「下に向かって勝手に吐いてろ。俺達は先に行く」


「レロロロロローッ!!」


 フィリップの言葉が終わらない内に、レオノールは吊り橋から頭を出して、嘔吐していた。


「ったく。汚らわしい」


 フィリップは呆れ果てる。

 彼女の嘔吐が済んだところで、改めて三人は前進する。

 時々レベルの低いモンスターが出現したが、その度に酔いの醒めたレオノールが一撃で倒していった。


「大したボディーガードだな」


 尚もフィリップは、相変わらず呆れ果てていた。

 先を進むと、夜の帳が下りている中ポッカリと黒々しく口を開けたような、洞窟が現れた。


「お兄ちゃんボク……この中を一人で行くの……?」


 フェリオが不安げに、フィリップの腕にしがみつく。


「ライトボールを付ける。頑張って行って来い」


 フィリップに背中を押され、フェリオはビクビクしながら中へと入って行った。


「一体どこまで進めばいいんだよぉ……」


 中は、鍾乳洞になっていた。

 静寂に包まれる鍾乳洞の中、フェリオの言葉が小さく響く。


「あの……っ、誰かいますか……?」


 フェリオが小声で洞窟内に、言葉をかける。

 しかし、相変わらず静寂が漂う。


「何もなかったって、フィルお兄ちゃんに嘘言って、戻ろうかな……」


 思わず心の声が、言葉に出てしまう。

 そうして歩いた先は、突き当たりになっていた。


「ほら! やっぱり何もなかった! 帰ろ帰ろっ!!」


 その時だった。


「──シー……ッ」


「え?」


 これにフェリオはギョッとして、周囲を見回す。

 するとすぐ目の前に、白く透明な姿の女が唇に人差し指を当てて、立っていた。


「ギ……ッッ!!」


 思わず、大絶叫を上げそうになった自分の口を、慌てて両手で塞ぐ。

 するとその女は、腰まで長いゆるやかなウェーブヘアを揺らしながら、手話で語りかけてきた。

 そのまさかのコンタクト手段に、フェリオはギョッとしたが、魔法使いは手話も必要なので解読出来た。


“私ノ名ハ、イヴ。貴方ハ?”


 これに、フェリオも手話で返した。


“初めまして。ボクはフェリオ・ジェラルディンと申します”


“ソウデスカ。フェリオ、貴方ニハコノ私ガ見エテイテ、手話ガ可能ト言ウ事ハ、召喚術士デスネ?”


“はい。そうです。この度は、貴女の力をお借りしたくて、参りました”


“私ハ、大シタ力ハ持ッテイマセンヨ? 貴方ノオ役ニ立テルトハ、思イマセンガ……”


“それでもボクは、貴女の力が必要なのです。ボクにとっては貴女の力が役に立つと、思っているから……”


 すると、突然イヴがポロポロと涙を零し始めたではないか。


“ど、どうかしたのですか!?”


“本当ニ? 本当ニ信ジテモヨロシイノデスカ? コ、コンナ私デモ役立ツト……”


 イヴは手話で述べると、その場に泣き崩れた。


“私ハ確カニ召喚霊デスガ、利用価値ガ無イト、使用ハ愚カ、フェリオノ様ニ契約ニスラ来テモラエナクテ……”


“利用価値がないとは……それは酷いですね。ちなみに効果能力を尋ねても構いませんか?”


 途端、イヴは涙を拭うと、そっぽ向いた。


“言イタクナイ!!”


“え?”


 彼女の反応に、キョトンとするフェリオ。


“契約ガ済ムマデ、言イタクアリマセン!!”


“では、契約しても良いですか?”


“勿論デストモ!”


 イヴは喜び勇む。


“デハ、代償ニ声ト音ヲ頂キマス”


 イヴは告げると共に、指で三角を作ってフェリオへ向けた。

 すると三角形の魔法陣が出現し、フェリオの全身を通過した。


“コレデ貴女ハ私トノ契約ガ成サレマシタ……私ハ静寂ヲ司リシ者。今後トモヨロシクネ”


“はい。こちらこそ!”


 するとイヴは微笑を見せてから、その場から姿を消した。




 一方、洞窟の外では襲い来るゴブリンや、コボルトなどの低級モンスターと、フィリップとレオノールは戦っていた。


「すっかりモンスターが凶暴化してるな」


「やはりショーンの魔王復活と関係しているのだろう」


 モンスターを殴り倒していくレオノールの言葉に、フィリップも答えながら魔法石のはまった杖で、軽々と低級モンスターを倒していく。

 そこへ、洞窟内からフェリオが出てきた。


「リオ! 召喚霊は無事入手出来たのか!?」


 レオノールが笑顔で出迎える。


「うん! 入手出来た☆」


「うむ、良し」


 フィリップも、背後から飛びかかってきたゴブリンを、見もせずに肩越しに杖で一発撃破しながら、首肯した。


「どんな召喚霊だった?」


 三人は元来た道を戻りながら、レオノールが訊ねてきた。


「それがビックリなんだけど、泣き虫な召喚霊だったんだよ」


「泣き虫~?」


「うん。自分はあまり必要とされていない召喚霊なんだって!」


 するとフィリップが述べる。


「確かに属性によっては、使用しない存在もあるからな。俺みたいな、攻撃タイプだとかは」


「じゃあ、ボクはなるべく意識して、召喚するようにしなきゃだね」


「へぇ~。召喚霊の中にも面白ぇタイプなのがいるんだな。しかも積極的に召喚を望むとか、珍しいぜ」


「だけど、夜の洞窟は本気で怖かった……召喚霊が出現した時、悲鳴上げそうになったもん」


 フェリオは言うと、嘆息吐く。


「よし! じゃあ戻ったらまた呑み直しだ!!」


 レオノールが拳を天へと突き上げる。


「来る時に戻したのに、また呑むの?」


「ああ。おかげで酔いが醒めちまったからな」


 フェリオに問われ、レオノールはケロリと答える。


「そんじゃあ、ボクも食べ直そうっと!!」


「俺はそっちの方が驚きだぜ……」


 便乗するフェリオに、改めてレオノールが口にする。

 そんな女二人の会話に、フィリップこそが呆れ果てるのだった。


「やれやれだな……」


 

 

 こうして人里に戻ると、食事処で呑み食べを再開を始めたフェリオとレオノールを置き去りにして、フィリップは宿屋に戻り魔法書を開いた。

 妹の呪い一時解除が可能となったところで、今度はレオノールの“ベルセルク化”の魔法を入手する為だった。

 体力が減って死にかけたら、ベルセルク化暴走されると、味方の区別もつかなくなる危険を避ける為の、解除方法も入手するのが最大の目的でもあるからであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ