story,Ⅱ:双子の配下
「ヤ……ヤダお兄ちゃん……恥ずかしいよぉ……」
「大丈夫だよ、これくらい……まだまだ序の口。それとももっと、どうせなら恥ずかしい事、してみる……?」
「ヤン! まだしない……!」
フェリオ・ジェラルディンは、フィリップ・ジェラルディンから胸を揉みしだかれながら、兄の言葉を断る。
「ふーん、そう……? でもリオ、お前の胸はとても柔らかいね……」
「そんなの、ボクには分かんないよ……」
「揉んでて、凄く感触が気持ちいい」
「ヤ、アァ……フィルお兄ちゃぁん……キスして……」
「そんな事したら……僕が我慢出来なくなっちゃうでしょ」
「だって……」
「全くリオは、我が侭だな……じゃあ、一回だけだよ……」
フィリップは言うと、人差し指の関節でクイと、フェリオの顔を上げてからフェリオの口唇にゆっくりと口唇を近付けてから、寸前で止めた。
「……?」
フェリオはフィリップの瞳を、覗き込む。
「舌、出して」
「……ん?」
フィリップに言われた通り、フェリオはチョロリと舌を出す。
「……もっとだ」
「んーっ」
これに、フェリオは更に舌を伸ばす。
すると、その妹の舌をフィリップは、パクリと口内に含んでしゃぶりついた。
「ん、んむ……」
声を洩らすフェリオ。
チュッチュと囀りながら、互いにキスを交わし合う中で、フィリップは妹の豊満な胸を揉みしだいていく。
「ハフ……ア、アン……」
攻められる側のフェリオは、次第に感度が昂っていく。
フェリオは次に舌先で妹の歯茎をゆっくりと、なぞっていく。
これが思いがけず、フェリオの全身をゾクゾクと性感帯が、駆け巡った。
子供体型の上着のままだが、その衣類は胸だけを隠すくらいの丈になっていてその上から、兄に胸を揉まれていたが指圧や揉み上げ方で充分、フェリオへ性感を与えられる。
「ンハ……アァン」
だがしかし、ここでフィリップはカリッとフェリオの下唇に軽く歯を立てた。
「んっ、痛……」
その言葉を洩らしたフェリオの口唇から、口唇を離すフィリップ。
そして悪戯な笑みを浮かべてフィリップは言った。
「今回は、ここまでだ」
「ハ、ハァ……」
フェリオは耽溺した表情で、熱い息を洩らした。
「ズルいよお兄ちゃん……ボクをその気にさせておいて、そんな事……」
「俺は、苛めてみようかと、言った筈だが?」
「ええーっ! 酷いや!!」
「そう慌てるな。こういう事は、少しずつ時間をかけた方が、楽しみは倍増すると言うものだ」
「ブー……」
フィリップに諭され、フェリオはついいじけてしまった。
「まぁ、文句があるのなら、ショーンにもそう伝えろ。お前に不老の呪いをかけたのは、奴だからな。万が一、最中に子供体型に戻られるのも困る。俺はガキを抱く趣味はない。魔法の実験の協力、ご苦労」
フィリップはそう言い残してから、部屋を出て行ってしまった。
部屋に一人、残されたフェリオは。
「おのれショーン!! 覚えてろよーっ!!」
そう叫喚するのであった。
もっとも、ショーンのおかげでフィリップとは血の繋がりがなく、こうした事も出来るようになったのだが。
──「ハックション!!」
「おや。くしゃみですか魔王様」
「ああ……何やら噂をされている気がな……」
側近のウォルフガンクに訊ねられ、そう答えるショーンは鼻をすすった。
「魔王様復活は、世界中に知ら示ておりますので、噂も限がないでしょうな。モンスター達も凶暴化しておりますし」
ウォルフガンクは言うと、チェスの駒を動かした。
「私は役目を努めねばならない……──チェックメイトだ」
ショーンは言うと、駒を動かしウォルフガンクのキングを追い詰めた。
「さすがは魔王様。チェスでも容赦ありませんね」
「チェスは頭脳戦だ。単純に貴様の知識が低いだけの事」
「それは恐れ入りました」
冷ややかなショーンの発言に、ウォルフガンクは胸に手を当てて、軽く頭を下げた。
──魔城の廻廊にて。
手前から、奥へ向かって一人の巻き毛に金髪の女が歩いていると、その奥の方から金髪ショートの男が手前へと、歩いて来た。
これにお互い目が合う。
しかしその視線は、嫌悪感に満ち溢れている。
「俺の前を歩くなルナール」
すると、“ルナール”と呼ばれた女も反論する。
「それはこちらのセリフだ。私の名を図々しく呼ぶな。虫唾が走る。クソ男」
「黙れビッチ姉」
「ああん!? 誰がビッチだ! ヤリチン野郎!!」
ルナールは男──弟に対して、怒りを露わにする。
「あ~あ、そうだとも。俺は男だからな。好みの女をとっかえひっかえだ」
「フン! 汚らわしい!! 貴様のような下衆、弟とも思いたくないわ!!」
「フン。俺も同意だ」
言うと男は、再度歩き始めて姉の横を、通過する。
「いつか貴様を殺してやるクラーク! 首を洗って待っていろ!!」
「あ~あ、いつでも。返り討ちにされるのが関の山だがな。アッハッハッハッハ!!」
そう言い残して男は、その場から去って行った。
「チッ……クラークの奴……」
ルナールは少し、悲しげな表情を浮かべると、その気持ちを振り切って奥の方へと歩き去って行くのだった。
ルナールとクラーク。
二人は一卵性双生児の姉と弟だった。
種族は人間だが、非常に魔力が高い。
レベルも高いので、モンスターなど相手にならない程の、強さだった。
そのおかげで、今や二人とも魔王の配下の立場だ。
幼き頃は、とても仲の良い姉弟だった。
しかしいつからか、目を合わせればいがみ合う関係になってしまっていた。
そうして姉弟は、互いへの敵意を胸に、魔王への忠誠を誓うのだった。
「イクトミ! イクトミはいるか!!」
クラークはそう叫びながら、部下の居館通路を大股で足を踏み入れる。
すると、四番目のドアがゆっくりと開き、一人の黒髪の少年が顔を覗かせた。
「何スかクラーク様……」
少年は、酷く気だるそうな目をしている。
「イクトミ。お前の軍を率いて、下界で一暴れしてこい」
クラークは少年──イクトミの前で立ち止まると、言った。
「え……?」
トロンとした目で、イクトミは自分より高身長のクラークを見上げる。
「何なら村や町一つ、滅ぼしてもいい。その暁には、その土地をお前にくれてやる」
すると、イクトミの虚ろな双眸に、徐々に光が宿る。
「マジっスかクラーク様!?」
「ああ。本当だ」
「やるっス! オイラ頑張るっス!!」
そうして嬉々として部屋から飛び出してきたイクトミの髪型は独特で、まるでサイドに広がる髪は蜘蛛の足を彷彿とさせた。
「どこでもいいんスか!?」
「ああ。どこでもいい」
「ヤリィ!!」
イクトミは飛び上がると、颯爽とクラークを横切って走り去って行った。
「オイラに任せといてくださいっス! クラーク様ァ~!!」
その言葉を、言い残しながら。
──「セイレーン」
「ハッ! ここに」
バルコニーにて、ルナールがそう静かに口にすると。
カラフルな翼と鳥尾を持った女が、瞬時に姿を現した。
片膝を突き、頭を下げている。
「どういうわけか、まだ現魔王様が出現してから間もないにも関わらず、“勇者一行”を名乗る連中までもが出現したらしい。登場があまりにも早すぎる。そいつらを探し出して、見つけたら消し炭にして頂戴」
「ハッ! ルナール様の御命令のままに。それでは、早速。失礼致します」
セイレーンは言うと、素早くその場から飛び立って行った。
──「よし。じゃあスクワットの次は、背面腕立て伏せだ」
「マジですかレオノールさん……ちょっと休憩をくださいよ」
レオノールの言葉に、ガルシアは立った姿勢に膝に両手を突いた格好で、ゼィハァと全身で息をしながら言った。
「たかだかスクワット五十回で、惰弱な。俺は1セット百回だぞ」
「それはレオノールさんが化け──いや、逞しいからですよ」
「今お前、俺を化け物と言いかけたか!?」
ただでさえ魔人化して気にしている中で、危うくタブーを言いかけたガルシアへレオノールは、詰め寄った。
「いやいやいやいや! そんな事は! と、とりあえず、休憩のお茶淹れて来まっす!!」
ガルシアは逃れるように、船室内へと姿を消した。
「チッ……俺もいちいち気にしすぎだな……」
レオノールは自分自身へと言い聞かせるように、ワシャと髪を掻き上げた。
その時、微かに何かが聞こえた。
軽やかな、弦を弾く音。
ポロロン──ポロロン……。
「こ、れは……」
やがて弦の音色に合わせた、透き通る女の歌声。
「マズイ!!」
レオノールは覚ると、急いで船室内へと駆け込んだ。
「みんな! 耳を塞げ!!」
「ん? なぁに? どうかした?」
部屋から成人体型のままのフェリオが出てくる。
もう成人用の衣装に着替えている。
「早く耳を塞げ! 今すぐにだ!!」
「??」
意味も分からぬまま、フェリオは耳を塞ぐ。
それを確認して、レオノールはフィリップの部屋のドアを開けたが、当の本人はいなかった。
これにフェリオが、耳を塞いだまま言った。
「フィルお兄ちゃんなら、多分図書室だよ」
この言葉に従いレオノールは、階下の図書室へ急ぐ。
ドアを開け放つなり、叫ぶ。
「今すぐ耳を塞げ! 早く!!」
「……何か知らんが、了解した」
フィリップは本を机に伏せると、両耳を塞ぐ。
次に厨房へ向かう。
「ガル! 今すぐ耳を塞げ! 絶対に耳から手を離すな!!」
「はい! 何でも言う事聞きます!!」
先程デッキで詰め寄られた後もあり、ガルシアは慌てて耳を塞ぐ。
不思議な歌声は、船室内にまで聴こえ始めた。
「このまま黙って、船が通過してくれれば……」
しかし、歌声はますます近付いてくる。
「……おかしい」
レオノールは呟くと、急いでデッキへと駆け上がる。
「……船の針路が変わっている!?」
船は、運行途中の外れにある、小島へ引き寄せられるように進んでいた。
レオノールが操縦室に向かうと、そこにセットされていたタブレットには、“目的地──カサブランカ”とあるではないか。
本来の目的地は、ゲッケイジュ大陸だ。
「どうしてカサブランカに……」
今、船が進行している小島こそ、カサブランカ島だった。
「クスクスクス……」
衝撃を受けているレオノールの耳に、女の笑い声が届いた。
「妾の術に掛かれば、生物だけでなくあらゆる代物さえも、妾の歌に引き寄せられる……」
それは女の囁き声ではあったが、魔人化しているレオノールの耳には、はっきりと聞こえた。
「このままじゃ……バトルさえままならねぇ……おのれセイレーンめ……」
言うとレオノールは悩んだ挙句。
「俺一人で奴をぶち殺すっきゃねぇな……」
言うとレオノールは、背中に意識を集中させた。
メリ、ミシと骨や筋肉の軋み音と共に、皮膚を裂く音が続く。
「ク……ッ、収納はともかく、出す時は痛みを伴うのな、これ……」
顔を顰めるレオノールだったが、リンパ液を撒き散らしながら一気に蝙蝠と同じ羽を引きずり出した。
「ハフ……!!」
レオノールは大きく嘆息吐くと、カサブランカ島の波打ち際でハープを奏でているセイレーンめがけて、船のデッキを蹴った。
「さぁ、妾の美声で海に身を投げ溺死するが良い……もしくは妾の血肉となるか……ホホホホホ」
セイレーンは、愉快げに笑う。
船は真っ直ぐ、彼女の元へと進んでくる。
しかし、それにしては静かなものだ。
「人は……乗っておらんのかの? そんな筈は……」
すると太陽の逆光から、一つの影が猛烈なスピードで迫って来た。
「セーイーレーンンンンーッ!!」
「何っ!?」
思わずセイレーンは、ハープを奏でる手を止める。
そして目に飛び込んできたレオノールの存在に気付いた時には、同時にセイレーンが見ていた景色が大きく変わっていた……。




