表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/172

story,Ⅴ:決着




 一瞬よろめき、後ろへ倒れ掛かったヒュドラだったが、素早くケット・スラウローの手首を掴んで己の身を引き寄せ、体勢を立て直した。

 そしてそのままの流れで、ヒュドラはその掴んだケット・スラウローの腕を捻じりこんだ。

 直後、ゴキリと鈍い音がしたかと思うと、ケット・スラウローが短い悲鳴を上げた。


「ギャウッ!!」


 その片腕が、力なくブラリと垂れ下がる。

 引き続きヒュドラは、もう片方の腕も捻じり折った。


「グギャッ!!」


 再度ケット・スラウローは短い悲鳴を上げて、もう片腕も力なく垂れ下がる。

 これでケット・スラウローの両腕は役に立たなくなった。

 それを良しとし、ヒュドラは次に両腕でケット・スラウローの首に掴みかかった。

 そして、渾身の力を込めて、ケット・スラウローの首を締め上げる。


「ルルガ!!」


 咄嗟にフェリオ・ジェラルディンが、ケット・スラウローの名前を叫ぶ。

 すると、ケット・スラウローの全身が白い光に輝いた。

 二番目の頭から得た、回復を使用したのだ。

 こうして復活した両腕で、自分の首を絞め続けるヒュドラの両腕を、掴んだ。

 そして自分がされたのと同様に、ヒュドラの両腕を同時に捻り上げた。


「グオゥッ!!」


 ヒュドラは鳴き声を上げて、必死に抵抗する。

 だが抵抗虚しく、鈍い音が二度重なる。


「グギャアアアァァァァーッ!!」


 ヒュドラの両腕は、絶叫と共にダラリと垂れ下がる。

 形勢逆転。

 ケット・スラウローは鋭い爪で二度、ヒュドラの腹部を切り裂いた。

 これにより、ヒュドラの内臓が海中に零れ出る。

 それを確認するように、自分の腹部を見下ろすヒュドラだったが、束の間。

 ケット・スラウローによって首を切断され、ついにヒュドラは事切れた。

 ヒュドラの体が海中へ沈む中、ケット・スラウローはその頭を喰らっていた。


「あれ……俺は一体、何を……」


 このタイミングで、レオノール・クインが本来の意識を取り戻したようだった。


「レオノール! 戻ってきたんだね!? 良かったー!!」


 フェリオの言葉に、キョトンとするレオノール。

 

「レオノールは猛毒で一度死んで、魔人として蘇り更に狂戦士(ベルセルク)化して、ルルガと一緒にヒュドラと戦っていたんだよ。すっごく強かった!!」


「俺が一度死んで、魔人化……?」


「うん。その証拠にほら、背中に羽が生えてるでしょう?」


「え……?」


 フェリオからの指摘に、レオノールは背後へ顔を向ける。


「あ、マジだ……」


 レオノールは言って、軽く羽を動かす。


「父親が魔王ファラリスだったから、“死”によって魔人の力が覚醒したのだろう」


 フィリップ・ジェラルディンも、声をかけてきた。


「参ったな。これじゃあ、人間の敵になっちまうじゃねぇか……」


 レオノールは苦笑いを浮かべる。

 

「大丈夫だよ! ボクはどうなったって、レオノールの味方だもん!!」


 フェリオは半泣きで言うと、レオノールに抱きついた。


「俺もです! レオノールさん!!」


 ガルシア・アリストテレスも同意する。


「その羽は、出し入れ可能にならないのか」


 フィリップが冷静に訊ねてきた。


「分からない……やってみる」


 レオノールは答えると、背中と羽に全集中させた。

 その時、ケット・スラウローが猫の姿に戻って、フェリオの元へと擦り寄ってきた。


「ルルガ!!」


「ニャン♡」


 フェリオは、レオノールから体を離すとルルガを迎え入れる。


「凄かったよルルガ! 正直摂食シーンはグロかったけど、本当に強かった!! ボクらを助けてくれてありがとうね。ルルガ♡」


「ウニャ~ン♪」


 フェリオの言葉にルルガは喜びを露わに、フェリオの肩へ飛び乗った。

 その間、グシュグシュと音が聞こえ、そちらを見るとレオノールの羽が、彼女の背中へ収納されていく所だった。


「おお! 出来た!!」


「良し。これで人間は誤魔化せるな」


 レオノールの言葉に、フィリップも首肯した。


「ベルセルク化か。これは魔法にもあるから、今後の為に学習しておこう」


 フィリップはそう言い残して、船室内へと戻って行った。


「正直、魔人化は反発心があるが、血は争えねぇな……」


 レオノールがぼやく。


「レオノールさんは、レオノールさんだよ! ノープロブレムですって!!」


 ガルシアは言って、ニカッと歯を見せて笑う。


「ああ。お前から言われると、多少は救いだよ」


 レオノールは、ふと微笑んだ。




 自分の部屋で、魔法獲得本ノウハウを読み耽っていた兄の元へと、フェリオが訪ねた。


「フィルお兄ちゃん……今、ちょっといいかな……?」


「ん? なぁに?? リオ」


 フィリップは回転椅子と一緒に振り返り、優しく妹を出迎える。


「バトルの時……ボクがレオノールで戦力にならなかった時なんだけど……どうしてフィルお兄ちゃん、白と黒の魔法両方を使用出来たの?」


 するとこれに、フィリップは優しく微笑んで見せる。


「それはね。僕、主人格と裏人格の融合によるものだよ。今の僕はもう、白も黒も両方が扱えるようになったんだよ」


 その説明に、フェリオは驚愕する。


「じゃあ、フィルお兄ちゃん最強じゃん!?」


「それは違うよリオ。召喚霊だけは、それぞれが契約した御魂でなくては、召喚出来ない。ルルガが実際に、フェリオじゃなきゃケット・スラウローにはならなかったでしょ?」


「う、うん……」


 兄からの発言に、フェリオは少し拗ね気味に首肯する。


「どうかした?」


「だって、お兄ちゃんばかり……ボクだって、白と黒両方の魔法が使えるようになりたいよ……」


 するとフィリップは、少しだけ困った顔をした。


「リオが、完全に成人体型になれば、白黒両方の魔法を使えるようになるんだろうけど……不老のうちは、無理かな……」


「ショーンはどうして、ボクにこんな呪いをかけたんだろう」


「予測はつくけど……今はただ、彼を目指して前進あるのみ、だよ」


「だね……」


 フェリオは言うと、大きな嘆息を吐いた。


「ところでリオ。丁度良い所に来たね。少し、僕の魔法の実験体になってくれないかな?」


「え? 何?」


「これはリオでしか、出来ない魔法なんだ」


「わ、分かった……」


 フェリオは釈然としない様子で、改めてフィリップの前に立った。

 それを確認して、フィリップは妹へ魔法の呪文を唱え始める。


「闇を照らし光よ。今も構わずかの者に光を──月下照光(ムーンライト)


 すると室内にも関わらず、フェリオの頭上に優しい金色の光が降り注いだ。

 途端、パキポキと関節音を鳴らしながら、フェリオの体が大きくなり始めた。


「あっと……しまった」


 フィリップは途中、呟くとぺロリと舌を出した。


「成人用の衣装を用意させておくべきだったね……」


 彼がそう発言した時には、目の前のフェリオはすっかり成人体型になっていた。


「分かってたんだったら、もっと早めにそう言ってよぉっ!!」


 フェリオが子供服からはみ出て露出している箇所を、それぞれ手で隠しながら言った。


「いや、今の僕の魔法レベルで成功するのかどうか、試したかっただけだったから、まさか一発で成功するとは思わなくてね」


 フィリップは半裸の妹を前にして、悠然とクスクス笑う。


「……」


「……ん?」


 突如、無言になるフェリオに、フィリップはキョトンとする。


「……」


「何? どうかしたのリオ??」


 変わらず無言で見つめてくる妹に、フィリップは少し狼狽を覚える。


「フィルお兄ちゃん……だよね?」


「うん。そうだよ?」


「え、何で? どうしてお兄ちゃん、絶叫したりしないわけ!?」


「そりゃあ、裏人格になろうにも、もう融合しちゃってるからね。主人格である僕も、おかげで“女体”を克服出来たんだよ」


「そう、なんだ……」


 そうと分かると、何故か急にフェリオは、心臓がドキドキ早鐘を打ち始めた。


「と、ととと、とにかく、この格好を隠せる何かを──」


 するとフィリップが立ち上がって、自分の羽織っているマントのスナップをパチン、パチンと指で弾くようにして外すと、妹へそっと優しく覆ってやる。


「お、おに、おに、お兄ちゃん……!」


 思わず胸が、キュンとなるフェリオ。


「んー? なぁに? どうか、した?」


 徐々に、フェリオは顔を赤らめる。


「フィルお兄ちゃん──好き♡」


「フ……ああ、知っている」


 フィリップが、ニヒルな笑みを浮かべる。


「違う。そんなんじゃなくて、ボク、フィルお兄ちゃんを男とし──」


 気付くと、フェリオはフィリップからキスをされていた。


「ん……」


 つい、フェリオも兄からの口づけに身を任せる。

 顔の角度を変えながら、何度も何度もキスを繰り返す。

 まるで、小鳥の(さえず)りのような音を立てながら。

 そしてフィリップの方から、口唇を離す。

 フェリオの口唇がそれを追い縋ろうとするが、フィリップは人差し指で妹の口唇を止める。


「続きはまた今度だリオ。このムーンライトの魔法の効果は、30分のみ。もうワンランク上の魔法があるが、時間を置いてまたお前で、実験する」


「もっと、もっといっぱいボクで実験して……」

 

 これに、フィリップは苦笑いする。


「エロいなリオ。そう慌てなくても俺は逃げやしない。ずっと一緒だ。今までもずっと、そうだっただろう?」


「うん……」


 フィリップから諭されて、フェリオは火照った体を何とか沈める。


「しかし皮肉なものだな。ショーンの魔王覚醒によって、俺らが血の繋がりのない兄妹だと知らされるとは……」


「でも、ボクは嬉しいよ?」


「そうだろうとも。お前はいつだって、俺の事が大好きだからな」


「フィルお兄ちゃんは?」


「無論だ」


「はー……主人格と融合したからか、裏人格タイプのお兄ちゃんが凄く素直になってる♡」


「嬉しいだろう?」


「うん! すっごく♡」




 ──「まぁ、そんなこったろうとは思っちゃいたがな」


 夕食時。

 突如レオノールが片手に持ったフォークを揺らしながら、言ってきた。


「ええっ!? 何が!?」


 大食いの最中、突然のレオノールからの指摘に、珍しく激しい動揺を見せるフェリオは、もう子供体型に戻っていた。


「俺ァそのつもりはねぇが、どうにもこの魔人ヴァージョンの肉体に覚醒してからは、六感が鋭くなっちまっていけねぇぜ。お前ら兄妹の会話、丸聞こえだった。まさかとは思っちゃいたが、マジでその通りになったな。おめでとう。俺は祝福するぜ?」


「え? 何? 何が何??」


 レオノールの言葉に、ガルシアのみが意味不明だった。


「あのな……」


 そんな彼へ口を開くレオノールを、フェリオは食事をする手を止めてまで、慌てふためいた。


「ヤーッ!! レオノール!! そこまでは、まだ言わないで!!」


「ん? あ、ああ。そうか?」


 テーブルに身を乗り出し、必死に両手をブンブン横に振りながら止めるフェリオの反応に、レオノールは悪戯な笑みを浮かべる。


「分かってるって。わざとだよ。わ・ざ・と」


 レオノールの反応に、フェリオは顔を紅潮させる。


「えー!? 何さ! 超気になるじゃん!!」


「ま、お子のお前にゃあ、まだ知るのは早ぇってこったよ」


 一人騒ぎ立てるガルシアの肩に手を置いて、レオノールはそう言った。


「夕飯が終わったら、次の実験してみる? どうする?」


 フィリップが柔和な笑みを浮かべて、ワインの入ったゴブレットをぺロリと舌先で舐めてから、訊ねる。

 これにフェリオは、羞恥心で目が回りそうになりながら、答えた。


「あっ、明日にするっ!!」


 そうしてその場を誤魔化すように、フェリオは食事を貪るのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ